◇ 寺沢憲重の10のラッキー名言 ◇      
:幸福だから笑うわけではない。 むしろ、笑っているから幸福になれるのだと言いたい。       
:笑いのあるところには活気もある。よく笑う人は不機嫌な顔をした人より長生きする。
:叶えるのが夢だけど、叶わなくても夢は夢さ、泣いて笑ってそれが人生、平凡がいい。
:人生いろ色あらァな、それを頑張って乗り越えたら喜びや楽しみが待ってるんやでぇ。
:人生に於いて全ての壁が、自分を高める壁だと前向きに思える人は壁を超えられる。
:ネガティブフィードバックの時こそ、得難い学びのチャンスそのものなのである。
:大切だと思うのは世に名を博した偉い人や大作家とはなるべく謦咳に接することである。
:たった百人の中の、私という自意識や誇りや自尊心や見栄や保身や奢りや愚かさの孤独。
:他人と比較するのは無意味だ理想の自分と比較せよ。何歳でも自分を変える努力をせよ。
:人生のターニングポイントの決断には。やり始める勇気とあきらめる勇気が必要である。 

2019年11月20日

 『デカメロンより話の数は少ない』と言う題名の小説!。


 『デカメロンより話の数は少ない』

 私小説ですが、よろしかったら読んで見てください!。



   「デカメロンより話の数は少ない.rtf 縦書きです。


   デカメロンより話の数は少ない.rtf 横書きです。


  面白いと思った方は、感想をお気軽にコメント欄でお願い致します!。


  短編「野良猫のサプライズ」


    野良猫のサプライズ.rtf 横書きです。


    『野良猫のサプライズ』.rtf 縦書きです。


   『野良猫のサプライズ』 寺沢憲重

   秋の日の夕暮れ間近、西日が低く屋根や道路を照らし
  てた。帰宅途中の男が真っ直ぐな陽射しが眩しくてひた
  いに手をかざし西日を遮りながら自転車を漕いでいた。
   その男の前方に猫が姿を現し、男の自転車の横に近寄
  って来ると、下から男を見上げて、一際高い声で鳴い
  た。初対面なのに何て人懐っこい可愛い猫なんだと男は
  思い、自転車に股がったまま猫の額に手を伸ばした。
  するとその手をかわし、今度は自転車の前に廻り、また
  高い声で何度も鳴いた。男が自転車を進めると水路に沿
  って並走しながら追ってきた。
   男は、餌が欲しいと鳴いているのか? それとも愛想
  のいい猫なのか? と思いつつ、
  「あげる物は何にも無いんだよ、ゴメンね」
   と猫に話しかけ、去り難い思いに駆られた。猫はふれ
  あいセンターの前までついてきた。そこまでついて来て
  止まるとお座りをした。男はサヨナラのバイバーイを言
  った。――
   その日の晩、――食事をしながら妻に話した。
  「今日さ、帰り道に人懐っこい猫がいたんだよ、学校の
  門の前を通り過ぎて直ぐの十字路を渡って二軒目の家の
  辺から飛び出して来て、自転車に乗っている僕の足元に
  近づきニャーニャー鳴くんだよ、触ろうとすると触らせ
  てくれなかったけど、『ふれあいセンター』まで鳴きな
  がら尻尾を高く上げついてきたよ」
  「飼い猫なの? 野良猫なの?」
  「首輪が無かったから、きっと野良猫だよ、いつどこか
  らきたか? 家に連れて帰ろうかと思ったけど、生まれ
  て何ヶ月なのか? かなり大きくなっていたから、もう
  躾けるのは無理だと思って、連れて帰るのを諦めたよ」
  「猫はもういいわ、私たちの先に死なれても、後に死な
  れても、どっちにしても辛いもの」
  「そうか、――そうだよね」
   男は、妻が〈猫はもういいわ〉と言ったのを聞いて、
  ペットロスと言われる喪失体験の影響は根深いものがあ
  るんだなぁと思った。
  「このカツオのたたきを残して、あの猫に食べさせてあ
  げたいんだけど、いいかな?」
  「いいわよ、野良猫に餌付けをするのは良くないって言
  うけど、あなたの好きにすれば」
   翌朝、ナイロン袋に入れたカツオのたたきを自転車の
  前かごに入れて家を出た。
  ふれあいセンターを過ぎたあたりから、舌を鳴らして呼
  んでみると、左手の家の車の下から飛び出して来た。
  鳴きながら自転車の前を横切り用水路の柵の間から下に
  飛び降り、溝の一段高くなったところを自転車と並走し
  ながらついて来た。男は誰もいないことを確かめると、
  用水路に向かってビニール袋を逆さにしてカツオのたた
  きを振り落とした。
   猫は一切れをくわえると水路の南側の家の入り口の橋
  の下に逃げ隠れ、かぶりついた。
  「やっぱり、野生なんだなぁ」と思った。
   男の頭の上にバサッバサッと言う音がしたかと思うと
  直ぐ傍の柵の上にカラスが止まった。わっと驚いて身を
  屈めた一瞬の隙に! カラスは下に舞い降り、あっとい
  う間に溝に落としたカツオのたたきをくわえ飛び去っ
  た。
   庭の植木の隙間から警戒心の強そうな三毛猫が現れ、
  食べているカツオのたたきに近づこうとした。先の野良
  猫が睨んで唸り声をあげ威嚇した。三毛猫は怖れて後ず
  さりした。
  「そっか、他にもまだ猫が居たのかぁ」
   三毛猫を見て可哀想に思い、人間の勝手な気まぐれ
  で、野良猫に餌をあげるのは人間のエゴ以外のなにもの
  でもないと男は思った。
   男は次の日から、駅に向かう時も家に帰る時も、違う
  道を通ることにした。 
   そして、一週間が過ぎたころの帰り道で、帰巣本能の
  習性のせいか? うっかりと学校の前を通り過ぎ、十字
  路に差し掛かかったところでハッと気付いた。〈あの猫
  はどうしているかなぁ?〉見たいけど、見ると辛いよう
  な……、そんな気持ちになった。
   十字路を過ぎて五メートルほどの場所に立っている左
  側の電柱の手前に高校生の男女ら五、六人がたむろをし
  ていた。
  「ミーちゃん、ミーちゃん」と言いながら、電柱の下で
  高校生二人がしゃがんで電柱と水路の柵の間に手を伸ば
  し、電柱の反対側にいる猫を撫でようとしていた。手を
  差し出している先にあの野良猫がいた。その場からは逃
  げようとはしないんだが、触ろうとすると身をかわし触
  らせようとはしなかった。
   野良猫は自転車に股がったまま、その様子を見ている
  男に気づくと「ミャア〜〜〜」と一際高い声で鳴いた。
  高校生らもこのおっちゃんと猫は知り合いか?! みた
  いな顔で男を見た。
   男は自転車のペダルを漕いでその場から去ろうとし
  た。野良猫は「ミャア〜ミャア〜」と鳴きながら男の後
  を追って来た。
  「ミーちゃんミーちゃん」
   高校生らが呼んだ。
  野良猫が自転車の横で男を見上げて鳴いた。高校生たち
  は男について行く猫を見ていた。
   ふれあいセンターに近くなる頃、――
  「ただいまぁ、待ってたの、ありがとう」と、野良猫に
  話かけた。
  野良猫は柵に頭を擦り、甘えた仕草で「ミャア〜ミャア
  〜」と鳴いた。ふれあいセンターの前で野良猫は止まっ
  た。ここまでがこの猫のテリトリーなのかな? と思い
  ながら野良猫に、
  「ミーちゃん、またねぇ、バイバ〜イ」と言ってさよな
  らをした。
  野良猫は去って行く男をずっと見ていた。

   その夜、晩ご飯を食べながら男は言った。
  今日の帰りに、久しぶりにあそこを通ったらあの野良猫
  がいたよ、高校生らがちょっかいを出していた。人間を
  怖がらない猫なんだね、でもかまおうとするとかまわし
  てくれない、あの野良猫は媚を売って鳴いてるんじゃな
  いような気がする。どことなく高貴な感じがするんだよ
  なぁ、食事が済んだらこのイワシの煮付けを持ってお前
  も一緒に行ってみない」
  「その煮付けは辛いわよ、塩気の多い物を猫に食べさせ
  るのはよくないのよ」
  「じゃぁ、湯通しをして塩分を減らそうよ」
  「そうしましょうか、ボールにお湯を入れて、そこにし
  ばらく浸して塩抜きしたらいいわ」
   食事中なのに、妻はすぐに立って、瞬間湯沸かし器で
  熱めのお湯を出しボールに貯めるとイワシの煮付け二匹
  をお湯に浸けた。
  食事を済ませ、シンクにある食器類の洗い物を済ませ、
  水で冷ましたイワシをナイロン袋に入れて夫婦ふたりは
  玄関を出た。
  「どうする、自転車で行く? 歩いて行く?」
  「散歩がてらに歩いて行こうか」
   夫婦ふたりは、月夜の明るさと街路灯に照らされた道
  を、ときおり影を重ねて歩いた。
  「いつからか?あの野良猫にミーちゃんって高校生らが
  呼んでいたから、ミーちゃんって名前に決めちゃった。
  学校を通り過ぎた十字路から、ふれあいセンターの横の
  公園の十字路まで『ミーちゃん通り』ってことにする
  よ」
  「うふっ『ミーちゃん通り』ね、面白いわね」
  「ミーちゃんは、果たして出て来るかなぁ」
   ふたりは、ふれあいセンターを過ぎた辺りから、前方
  に目を凝らしながら歩いた。男は〈ツッツッツッツッ〉
  と舌を鳴らしミーちゃんと小声で呼んだ。
   男の妻も小声でミーちゃんと呼んだ。
  ふたりはゆっくりと歩き、辺りに注意を払いながら、小
  さな声でミーちゃんを呼んだ。
   すると! 十字路の手前二軒目の駐車場の白いライト
  バンの下から猫が飛び出して来た。
   尻尾を立てて鳴きながら近づいて来た。
  しゃがんで手を出しても、手が届く範囲には近寄っては
  来ない。ミーちゃんは柵の間から水のない側溝へ飛び降
  り、川底から一段高いところで鳴いている。男の妻は、
  ――「ミーちゃん、はいどうぞ」――と、言って、
  持って来たイワシを溝に落とした。
  ミーちゃんはイワシをくわえると、水路に架かっている
  小さな橋の下に隠れて食べ始めた。
  「毛色と柄から見て、キジトラだね」
  「違うわ、キジ白よ、顔の下やおなか、足先が白いでし
  ょ」――と、男の妻が言った。
  「可愛い猫やろう」――と、男が言った。
  「うん、可愛いわね、でも、ちっとも痩せてないわね、
  誰かが餌を与えてるんじゃない」
  「そうだねっ、ご近所の人で猫好きな人がこっそり与え
  てるのかもしれないなぁ」
   ふたりはその場を離れ、月明かりを左の肩に受けなが
  ら家に帰った。
 
   ――そして数日後――
   男は週に一度行う運動不足解消の散歩に出掛けた。そ
  の日は、市が整備管理している『せせらぎの道』を散歩
  コースに選んだ。散歩コースの中間地点辺りで、ミント
  グリーンのペンキの色が所どころ禿げたベンチの真後ろ
  から、か細い仔猫の鳴き声がした。
   ベンチに上がり、剪定されたツツジの上から覗くと、
  直径一メートルはあろうかという赤松の巨木の根元の窪
  んたところで母猫がすっぽりと横たわり、三匹の子猫に
  お乳を飲ませていた。
   男と母猫と目が合ったが、母猫は動じることもなく、
  横たわったまま男を見ていた。
   巨木の下にはわずかな地表があり周りには低木が生え
  ていた。仔猫の鳴き声がする方を見ると、三メートルほ
  ど離れた低木の間に毛色の違う仔猫がいた。
   また違う方向から鳴き声がした。母親の居場所から五
  メートルほど離れたツツジの木の隙間をおぼつかない足
  取りでどこへ行くのか仔猫が鳴きながら、よちよちと歩
  いていた。 
   巨木の裏側からも、可愛い顔を覗かせ、口を開け泣い
  ている仔猫がもう一匹いた。その光景を見た男は、仔猫
  の離乳期に遭遇したのだなと思った。
   そのうちの一匹を連れて帰りたいと思ったが、完全に
  親離れをしたのかどうか確認できないし、妻は猫を飼う
  ことを望んでいないことをこの前知ったところなので、
  連れて帰ることを断念した。
   母親から離れた仔猫はどうなるんだろう? 
  男は気になりベンチの上から静視していた。
  ひとしきり母親の乳を飲んでいた三匹に対し、母猫はも
  ういいでしょと言った感じでお腹から仔猫を離そうとす
  るような動きを見せた。それでも仔猫は離れようとしな
  い、すると、いきなり牙をむいて威嚇し、ついに仔猫に
  猫パンチが炸裂した。攻撃を受けた仔猫のうちの二匹は
  鳴きながら親猫から離れた。
   初めて親離れの瞬間を目の当たりにした男は、猫が野
  生で生きることの厳しさを突きつけられ、猫の世界の容
  赦のない厳しさにたじろぎ、残酷に思えて胸が締め付け
  られた。
   過酷な野生の世界で生きる宿命とは言え、わが子との
  別れを母猫はどんな気持ちで辛さや悲しさを乗り越えて
  いるのだろう。
   仔猫はこれから野生の掟や本能に従って生きていかな
  ければならない、生まれたこと、生きていくこと、死ん
  でいくこと、猫は人間のように、うだうだ考えたり、問
  うたりしないのか? 
   男は自分と猫とを置き換え、生ききること、死にきる
  こと、寿命を全うすること、それを考えたが、煩わしい
  だけだった。
   猫はある日、突然姿を消すが、それも自然の摂理の中
  の一つの出来事にしかないのだ。
   男はその場から離れるとき、試練とは言え親猫も仔猫
  もエライなぁと思い……、親離れとか子離れがうまくい
  かない人間に、この猫の現実を見せてやりたいものだと
  思った。
  「いい縄張りを見つけて元気に暮らせよぅ」
   男は心のうちでそう呟きベンチを降りた。

   ――数日経って、
   男は出がけにデジカメをポケットに入れて、仕事先に
  向った。〈今日は帰りにミーちゃんの動画を撮るんだ〉
  と、楽しみにしていた。
   その日の仕事が終わり、県道から学校の門の前を通る
  一方通行の道に自転車を走らせた。
  学校の門の前を過ぎたあたりで自転車を停め、上着のポ
  ケットからデジカメを取り出し、撮影モードをオートに
  して電源のスイッチを入れた。
   あとは、被写体の範囲に入ったら動画の赤いボタンを
  押せば撮影がOKなのだ。
   十字路に向かって自転車をゆっくり漕ぎながら近づい
  ていき、〈よし、ここから撮影しよう〉と思って、ミー
  ちゃん通りの十字路の前で赤いビデオボタンを押した。
   すると、撮影の合図を待っていたかのように、十字路
  の右の角辺りから、ミーちゃんが飛び出し、尻尾を立て
  て鳴きながら道路を斜めに跳ねるように走り、自転車の
  前を横切り、男の左足の近くに寄って来た。
  十字路を渡り、一方通行のミーちゃん通りをゆっくりと
  自転車を進めると、ミーちゃんは男の顔を何度も見上げ
  ながら、声高に鳴いてついて来た。
  「ミーちゃん、ありがとう待っててくれたん」
   ――と、男は猫に話しかけた。
  「ミヤァ〜、ミヤァ〜」――と、
   それに答えるかのように猫は鳴いた。

   家に帰るとすぐに、撮った動画をパソコンに移し、そ
  の映像を確かめると、ディスクトップに保存した。
   その日のお夕飯を済ませ、シンクの中の物を片付け、
  妻がゆっくりする時を見計らって、
  「これ見てぇ、今日帰りに撮ったんやでぇ」 ――と言
  って、動画を保存したディスクトップのアイコンをクリ
  ックした。
  「まぁ! 可愛い! 上手に撮れてるじゃない、いい動
  画ね! 感動しちゃったわぁ〜」
  「一分十三秒のドラマだね……、猫の言葉が分からない
  から、切なくて、やるせないね」
   ――その晩、男は夢を見た。
   生後半年ほど経った六匹の仔猫に、母猫がお乳を飲ま
  せていた。母猫が仔猫を前足でなぐり牙をむいて”シャ
  ー”と、威嚇した。三匹は鳴きながら母猫から離れ、巨
  木の根っこに身を寄せうずくまっていた。母猫のお腹か
  ら離れようとしない三匹に対して、尚も威嚇し容赦のな
  い攻撃を加えた。二匹は辛そうにしながらも、しぶしぶ
  離れた。
   残った一匹に対して、母猫は、仲良くなれる善良な人
  間と、危険な人間の見分け方と、人間との付き合い方を
  教えた。
  「あなたは、食べることには困らないでしょう。あなた
  は、人間に可愛がられ、人間の役に立つように、自尊心
  を持って生きなさい」
   そう伝えると母親はその場から消えた。
  「あっ! 子猫がいるわよ」
   学校帰りの女子児童のふたりが見つけて、ひとりが仔
  猫を上着に包んで持ち帰った。ご近所なのか?通りすが
  りのオバさんが、仔猫のうちの一匹を拾って持ち帰った。
   あとの猫はどうなったのか分からないが、最後に親離
  れをした仔猫は、西に傾く夕陽に照らされ、南の方へ南
  の方へと向かっていた。
   「あっ、ミーちゃんだ」――と、
   声を発しようとしたらハッと目が覚めた。

   学校を過ぎて十字路を渡って右の角から、文房具と菓
  子パンを売っている伊藤商店さん、二軒目がサラリーマ
  ンの弘田さん、三軒目が中田さんで、ご夫婦ともに教職
  員で定年退職している。四軒目がカーディーラーのセー
  ルスマンの岡田さん、佐野さん宅は高齢者のお二人がお
  住まいで平屋一戸建てである。あとの四軒は平田さん、
  木戸さん、北村さん、吉竹さんで表札で名前を知った程
  度である。
  ミーちゃん通りの右側に九軒が並んでいた。
   十字路の左側の角から、大きな屋敷の長尾さん、長崎
  さん、山川さん、柴田さん、ふれあいセンターと公園ま
  でがミーちゃん通りだ。ミーちゃん通りと勝手に名付け
  た男は、その道を通って帰るのがいつもの楽しみだっ
  た。


   ――そんなある日、
  十字路の左側角の生垣に囲まれた大きな屋敷の長尾さん
  のお爺さんが、「俺はネコが嫌いなんや」と庭箒と袋ら
  しきものを持って猫を捕まえようとしていた。
  猫は素早く側溝の暗渠(あんきょ)の下へ素早く逃げ
  た。
  「どこにでもクソして、臭いんじゃ」――と、
   お爺さんは怒っていた。
  男が少し先に行って、振り向くと、猫は遠くから男が去
  って行くのを見送っていた。
  「あの猫は、ミーちゃんだったのかな?」
   男は、お爺さんに捕まって、保健所に連れていかなけ
  ればいいがと心配した。
   翌日、そこを通ると、長尾さんの北側の用水路の柵に
  〈猫にエサをやるな〉と書かれた張り紙が吊り下げられ
  ていた。
   可哀想だからと言って野良猫に餌を与える人がいる一
  方で、近隣住民が野良猫の糞害や悪臭などで困ってい
  る。餌やりで飼い主のいない野良猫を増やしてしまうと、
  野良猫にとっても人間にとっても不幸なことで、無責任
  な餌やりは有害であり、慈悲の心は、むしろ身勝手な
  虐待行為と言えるのではないか? 
  人間の生活圏で共存している野良猫は野生動物と言え
  ないかもしれないが、人間から自立して、戸外を自由に
  行動し餌を獲得することのできる野良猫の生態に、人間
  はむやみに関与してはいけないのだと男は改めて思った。
 
   生ごみ収集日に、三軒目の中田さんと四軒目の岡田さ
  んが、ゴミ出しに来て、ゴミ置場で立ち話を始めた。
  「お早うさん、可哀想だからってノラ猫にエサを与える
  のは迷惑よねぇ、増えても困るし、ゴミをあさるし、ろ
  くなことがない」
  「公園の砂場や家庭菜園が糞尿で困っているのに、エサ
  やりは自己満足で偽善で無責任よね、飼って世話をする
  気もないくせにねぇ」
  「あの人懐っこい猫は太っているよね、伊藤さんか弘田
  さんとこで、キャットフードをあげてるんじゃない?……」
  「あの猫、伊藤さんとこの店の入り口で高校生らが通る
  と、ミャーミャー鳴くんだって」
  「愛想がいいから、猫好きの高校生らがいつの頃からか
  ミーちゃんて呼んでるんだって」
  「ミーちゃんね、可愛い猫だけど、どこから来たのかし
  ら? 何となく他のノラとは違うわね、向かいの長崎さ
  んのお宅辺りから出没する三毛猫は、私を見るといつも
  おどおどして警戒心が強いから、好きになれないわ」
  「あの人懐っこいキジ柄の猫は、あいさつをするかのよ
  うに鳴いて寄ってくるから、ほだされて飼おうかと思っ
  たことがあったけど、大きくなり過ぎてるから、懐かな
  いだろうし、しつけも難しいだろうと思い飼うの諦めたの」
  「顔の下半分が白いから白キジ猫ね、顔に気品みたいな
  ものを感じるわよねぇ」
  「高校生らがミーちゃんって呼んでるの、! そう言え
  ば、五時頃になるとその猫は、弘田さんとこの白いブロ
  ック塀の上から、誰かを待っている様子で、自転車に乗
  った男の人が通りかかると、塀から飛び降り鳴きながら
  自転車に駆け寄ったの、男の人は〈ミーちゃん待ってた
  んか、ありがとう。ただいま〉って言ってた。
   あの男の人もミーちゃんって呼んでた。あの男の人も
  エサをあげたことがあるんじゃない、猫がすごい懐いて
  いたわ……」
  「あの猫はエサには不自由していないってことね、それ
  で丸々と太っているのね」
  「いやぁ、猫は生後六ヶ月位で妊娠が可能になると言う
  から、赤ちゃんがいるのかもよ」
  「あらぁ! ノラ猫が増えるのは困るわぁ」
   とご近所の奥様同士が猫の話をしていた。

   世に招き猫の由来の伝説が数々あるように、繁盛する
  お店には看板猫がいたりする。
   御多分に洩れず伊藤商店もミーちゃんが入り口付近で
  居つくようになってから、ミーちゃんは店の看板猫にな
  り、店の前を通る学生たちが「可愛いと言って」ミーち
  ゃんに招かれたように店内に入り何かしら買い求めるよ
  うになり、ミーちゃんは売り上げに貢献していた。
   伊藤さんご夫婦はいつの頃からか、首輪を着けずに、
  野良猫のまま外飼いをしていた。
  というのも、奥様はそんなに猫が好きではなくて、保護
  してあげたいけど家の中では飼えない、何度も店の裏の
  勝手口に来ては鳴く野良猫の可愛いらしさに、人間なら
  誰しも備わっている慈悲の心が引き出されてしまった。
   最初は、勝手口のドアを開け、モルタルのステップの
  ところで餌を与えていたが、奥様の方も野良猫に懐いた
  ころ、ドアを開け中に入れ、勝手口の中に入れ、土間の
  コンクリートのところで餌を与えるようになった。
   食べ終わると、外に出してと鳴くのでドアを開けてや
  ると、お礼を言って出て行き、店の入り口に周り、ドア
  の端っこで毛づくろいをしながら、看板猫をするように
  なった。 
   子供が独立して二人きりになった夫婦は会話も少なく
  なり、夫婦関係が冷めきっている感じだったが、ミーち
  ゃんを通して会話をするようになり、夫婦が気付かない
  うちに、優しさ、気づかい、思いやり、心に温もりが自
  然と戻り、会話も増え笑いも増えた。
   野良猫を飼う場合、動物病院へ連れて行き、感染症に
  かかっていないかノミやダニがついていないか、異常繁
  殖を防ぐために不妊手術もしなければなりません、しか
  し、伊藤さん夫婦はそこまでの知識も無く、考えが及ば
  ないまま、ミーちゃんを外飼いしていたのです。
   男がミーちゃん通りと称した地域猫としても皆さんか
  ら可愛がられるようになった。

   ――男が仕事帰りにミーちゃんに会いたいなぁと思っ
  て通っても見かけなくなった。「ミーちゃん、ミーちゃ
  ん」と小声で呼び続けても、どこからも現れることはな
  かった。ひょっとして保健所にでも連れて行かれたのか
  なと心配をしていた。
   野良猫の生態を調べてみると、過酷で毎日がサバイバ
  ルである。ペットして飼われている猫は十五歳前後まで
  生きるが野良猫は五歳までにほとんどが亡くなってしま
  う。子猫が成猫になれるまでの生存率が五十%以下でと
  ても低いことが分かった。
   テレビで犬や猫の殺処分ゼロを目指す自治体の収容施
  設や民間の動物愛護団体や行政が抱えている問題が取り
  上げられていた。地域の住環境が悪くならないように、
  猫と人が幸せに優しく共存できる社会を目指す活動を、
  自治体と民間の動物愛護団体とが協力し合って、野良猫
  の繁殖を抑制し、殺処分ゼロをめざし「TNR」活動を
  していると言う。 
   野良猫を捕獲して不妊と去勢手術を施し手術後は目印
  になるよう耳を少しカットする活動に取り組んでいる。
  そう言った活動支援の予算は民間からの寄付による『ど
  うぶつ基金』ですべてをまかなっているという。
   ある地域では、動物愛護管理センターを設け、獣医師
  を常駐させ、犬猫の救命や飼養管理の強化を図っている
  と言う。 
   男は、殺処分ゼロを目指している行政や、取り組んで
  いる自治体や民間団体が増えて来ていることを知り。
   ――胸を撫で下ろした。

   ――そんな頃に、
   伊藤さんの勝手口の通路の少し奥の軒下の、エアコン
  の室外機やビールの空き箱の並びに、屋根付きのペット
  ハウスが作られていた。
   猫がまたいで入れる箱の中には小さな座布団が敷かれ
  た段ボール箱がすっぽりと入れられ、人目につかないよ
  うに母猫が安心できる出産場所がこしらえてあった。
  その箱の中でミーちゃんは六匹の子猫を産んでいた。

   男がミーちゃんのことを忘れたころ、二軒目の弘田さ
  ん家の白い塀の上にミーちゃんが現れ、男が近づくと塀
  から飛び降りて、自転車に近寄って来て鳴いたり、柵に
  体をこすって、甘えるような仕草を見せた。
   男はミーちゃんに会えて嬉しかった。
  「久しぶりだね、どうしていたの、元気だったかい」
   ――と、話しかけた。
   久しぶりに見たミーちゃんの左耳の先が、ちょん切ら
  れたようになっていた。
   家に帰って男がその話をすると、男の妻は、
  「それは避妊手術をしてある印で、桜の花びらに形が似
  ていることから『さくらねこ』と呼ばれているわよ」
   ――と、教えてくれた。
  「そうなんだ、何だか痛そうだなっ」
  「これ以上不幸な猫を増やさない、不妊と去勢手術が何
  よりも大切なんだってさ」
  「不妊と去勢手術か、自然の生態系に反した人間のエゴ
  かも知れないけど……野良猫が増えるのもその地域にと
  っては問題だよねぇ」
   メスの出産後の手術は、出産後四十五日以降が目安
  で、仔猫が親と同じ食事ができるようになり哺乳が終
  われば可能だと言う。
   伊藤さんご夫妻は、仔猫が乳首を吸うのを親猫が嫌が
  り離乳を促し、哺乳を完全にしなくなるのを待って避妊
  手術を済ませていた。
   ――そして、里親探しを始めた。
  段ボール箱に入っている子猫を店の入り口に置いて、
  〈誰かもらって下さい、可愛い猫ちゃんたちです〉と書
  いて張り紙をした。
   自治会長さんに回覧板で猫の里親探しができませんか
  と相談したが回して貰えなかった。
   それで、伊藤商店です。《誰かもらって下さい、可愛
  い猫ちゃんたちです》と書いて、子猫たちの写真を載
  せ、ノラ猫の餌やりの問題や、地域猫の不妊去勢手術
  (TNR)について書いたリーフレットをご近所の十三軒
  の各家にポスティングした。

   六匹の子猫のうちの二匹は店の入り口に置いたその日
  の夕方に、高校生の男の子と女の子のふたりに貰われて
  行った。
   ――数日のうちに残りの四匹も里親が決まった。
  そのうちの一軒の里親は伊藤さんも予想外の驚きだっ
  た。猫が大嫌いだと薄々知っていた大きな屋敷の長尾家
  のお爺さんが小学一年の孫娘と一緒に伊藤商店にやって
  きた。
  「孫が写真で見た子猫が可愛いから欲しいといって駄々
  をこねて困ってるんですわ、その猫はまだおりますか? 
  ちょっと見せてくれませんか、見たい言うてきかないん
  ですわ」
   伊藤さんは店の片隅から子猫が入っている段ボール箱
  を抱えて来て入り口付近に置いた。
  長尾のお爺さんはしゃがんでどの猫かいなと孫娘に聞い
  た。
  すると孫娘は指を差して、
  「じいちゃん、写真で見たのは! この子や頭と背中と
  尻尾が黒い、この子や!」
   この子かとお爺さんが手を出すと、鼻をこすりつけて
  きた。お爺さんが両手を出したらその子猫は足を載せて
  きたのだ。子猫の下にそっと両手を入れるとお爺さんの
  手のひらに乗ってきた。子猫を両手で包み込むように持
  ち上げると、嬉しそうにミャァミャァと鳴いた。子猫の
  可愛さにお爺さんはイチコロで、お爺さんの猫嫌いはど
  こかへ行ってしまった。
   孫娘と話し合って家飼いすることにした。
  孫娘と一緒に可愛がりしつけをしているうちに猫への気
  持ちはがらりと変わっていった。

   あとの三匹は母猫がミーちゃんであることをあらかじ
  め知っていたご近所の会社勤めの弘田さんと三軒目の教
  職員をしていた中田さんのお家へ、もう一匹は平屋一戸
  建てにお住いの佐野さん宅にもらわれて行った。高齢者
  のお二人がお住まいの佐野さんの奥様が腰が思わしくな
  く、バリヤフリーにリフォームされたお家の中で車椅子
  生活をしていた。
   猫を飼えば幸せなことが多くあります。飼い主と猫が
  癒し癒され、寂しいときや嫌なことがあったとき、猫を
  撫でたり、猫に甘えられたり、ゴロゴロとノドを鳴らさ
  れたりすると落ち着きを取り戻します。

   里親に貰われていった子猫ちゃんたちは、どの家も外
  で飼わない室内飼いをしていた。
  室内飼いにした理由は、どの家もほとんど同じで、外で
  汚れた足で家にあがられのが汚い感じがして嫌だから、
  野良猫とのケンカや車による事故に遭う危険性を避けた
  い。ご近所のお庭や花壇で排泄し、ご近所に迷惑をかけ
  トラブルの原因になるから、他には外飼いは病気や寄生
  虫に感染するリスクが高いから、などが理由に挙げられ
  ていた。
   猫にとっては外に出られないストレスや運動不足で肥
  満になりやすいなどがあると言われていますが、室内外
  には事故や様々な病気から猫を守り、長生きするという
  メリットがあります。猫が運動不足にならないように遊
  べる環境を積極的に作りましょう。
 
   イギリス王立協会の専門誌が、健康の観点から、猫は
  室内飼いを推奨するとの研究結果を発表したという。
   その一方では、家の中でネコを飼うのは嫌だという意
  見もあります。
   柱や戸のさんや家具などで爪をとぎキズだらけにした
  り、物を倒したり壊したり、外に出せと夜鳴きをした
  り、噛みついたり、引っ掻いたり、走り回ったり、ニヤ
  ァ〜ニヤァ〜うるさく鳴いたり、排泄の粗相をしたり、
  毛玉を嘔吐をしたりして、家が汚れ臭い匂いがして、毛
  が抜け落ち不潔なのでとても飼えないという。
   何はともあれ、命あるものを飼うのですから、猫が本
  当に好きなら家族の一員として愛情を注ぎ、生涯お世話
  ができるか真剣に考えて、室内飼いの覚悟をすることが
  大切です。
   猫を飼えば大変に思うこともあります。猫の習性だか
  ら、動物だから仕方ないと寛容になれる人でないと生涯
  の面倒は見れません、飼った以上は、ご近所迷惑になら
  ないよう、マナーを守って飼わなければいけません。

   ――子猫が里親さんに貰われて行ってから、一ヶ月経
  ち、二ヶ月経ち、三ヶ月が過ぎた。

   長尾家のお爺さんは、孫娘とどんな名前をつけようか
  と相談した結果!「チロ」と名付け、お爺さんはすっか
  り子猫に懐かれ膝の上で甘えるから可愛くてしょうがな
  い、孫娘が学校から帰るまで、何かと世話をやいたり相
  手をするのが楽しみになっていた。

   バリヤフリーの佐野さん宅では、メイちゃんと名付
  け、ご夫婦は可愛がっていた。
   腰の具合悪くて車椅子生活だったご高齢の奥様に奇跡
  が起き初めていた。
  「あなた、この子ったら、私の足の甲の上に乗って来る
  のよ、ですからね、こうやってかかとをつけたままだけ
  ど、動かしてやるの、そしたらメイちゃんが喜ぶのよ、
  そのうち落っこちるでしょ、そしたら今度は左足に乗っ
  て来るの、足の上に乗って遊んでってせがむのよ、
  だから、こうやって動かしてやるの」
  「ふうん、お前のことがよっぽど好きなんだね、メイち
  ゃんの方がお前の遊び相手になってくれてるんじゃない
  の! 可愛いねぇ」
   と嬉しそうなご主人日に何度も猫にせがまれ足で遊び
  相手をしていた。
   ――猫が少し大きくなり、足首にしがみつくようにな
  った。
  「あら! メイちゃん重いわよ、こうしてほしいの、ぶ
  らーん、ぶらーん、ぶらーん」
   車椅子に乗ったまま、膝から下をゆらしながらメイち
  ゃんと遊んだ。しんどくなって休むと、今度は左足に抱
  きついてきて動かせと顔を見ながらミヤァ〜ミヤァ〜と
  鳴いた。
  「あら! ダッコちゃん見たいね、今度はこっち、ぶら
  ーん、ぶらーん、ぶらーん」
   膝から下を揺らしたり、太ももの上に乗ってきたのを
  あやしたり、そうこうしているうちに、猫を相手に足を
  動かしていたことが軽いリハビリ運動になり効果が現れ
  た。
   奥様が車椅子から立ち上がるとベッドに手をつき体を
  支えながらも歩くことができた。それから積極的に車椅
  子に座ったまま、足を上げたり伸ばしたりして膝から下
  を上げ下げし、軽い運動をしながらメイちゃんと遊ん
  だ。
   そしてついに、車椅子生活をしていた奥様が歩行器を
  使って立って歩けるようになり、気分や体調が良くな
  り、天気の良い日は歩行補助杖をついてバランスを保ち
  ながら、庭を歩けるようにまでなった。

   伊藤商店から二軒目の弘田さんのお家では、子猫の室
  内飼いに必要なものを揃えたり、トイレのしつけなど全
  般を一人息子の克也くん『カッちゃん』がすべてやって
  いた。
   弘田さんご夫妻が里親にならせて下さいと、伊藤商店
  に子猫をもらいに行ったのは、弘田さんのご主人が会社
  の休憩時間にパソコンを触っていて、『猫は発達障害に
  も効果がある』と言う記事を目にしたからだった。
   発達障害を持った人は、対人コミュニケーションが上
  手に取れず悩んでいるケースが多く孤立してしまいま
  す。そんなときに猫は発達障害の言葉の壁も関係なく信
  頼関係を築いてくれます。と言う記事を読んで、弘田さ
  んは、猫を飼おうと決心したのだった。
   そのためには、何よりもカッちゃんが猫に愛情を持っ
  て接することができるかが一番の心配事でした。
   もらって来た日の朝はカッちゃんが登校した後だった
  ので、子猫が家にいることなど知りません、弘田さんご
  夫妻は、子猫をリビングに置こうか、廊下に置こうか、
  カッちゃんの部屋の前におこうか外が見える窓辺はどう
  かと、作戦をいろいろと考えた。
   その結果、さりげない作戦でいこうと言うことにな
  り、カッちゃんが下校する時間に合わせ段ボール箱にタ
  オルを敷いて玄関の上がりがまちの上に置いた。
   弘田さんご夫婦は妙な期待感が溢れ、胸がドキドキす
  るのを抑えながら、今か今かとリビングで耳を凝らして
  待っていた。
   ――ガチャと玄関の方で音がした。子猫が、
  「ミヤァ〜ミヤー」――と鳴いた!
  「おおおおおお母さ〜ん」
   驚いてカッちゃんはお母さんを呼んだ!
  ご夫婦はリビングから飛び出し玄関へ! 
   カッちゃんは、玄関で立ったまま、子猫をそっと両手
  で抱え胸に抱いていた。
  「このネコ……どうしたの?」
   と言っているカッちゃんの顔が、幼児期に欲しがるも
  のを与えた時に嬉しそうに喜んだときと同じ、あの顔に
  なっていた。
  「その子猫なぁ、《誰かもらって下さい、可愛い猫ちゃ
  んたちです》
  と書いてあったチラシの子やねん、ウチで飼ってもいい
  かなぁ」
  「ぼぼぼぼボクが飼う」
  「えっ! カッちゃんが世話してくれるのん」
  「ボクが飼い方を調べて、チャンとする」
  「じぁ、全面的にカッちゃんがお世話をするのよ、カッ
  ちゃんが学校に行っている間は、お母さんが面倒を見て
  あげるからね」
  「うん、分かった」
   すぐに、お父さんが運転する車でホームセンターに行
  き、猫を室内飼いするための必須アイテムを店員に聴き
  ながら買い揃えた。
   ホームセンターの帰り、猫を室内飼いをするための知
  識を勉強するために本も買った。
  「お父さん、おカネがずいぶんかかったね」
  「そんなことはないよ、これから何年間か、家族の一員
  として、カッちゃんとお父さんとお母さんの三人の癒し
  相手になってくれるんだから、お金がかかったうちに入
  らないよ、お金に換算できない福が来るかもな」
  「そっかぁ! ……福か! お父さん、ネコの名前『フ
  ク』にしようよ。フクがいいなぁ」
  「フクか! いいね! カッちゃんが名付け親だ! お
  母さんもいいと言うよきっと!」
   家に帰りつき、購入したものを玄関に運び終わると、
  段ボール箱に入っている子猫を大事そうに抱え上げ胸に
  抱きすくめると、
  「お母さん、ネコの名前『フク』にしたよ」
  「ふく、……幸福の福ね、いいじゃない」
  「フクくん、フクちゃん、どっちがいい?」
  「まだ小さいから、フクちゃんがいいんじゃないの、福
  を呼ぶアメージングキャットね」
   お母さんのジョークが分かってか? カッちゃんは珍
  しく声を出して笑った。
  「フクちゃん、可愛いなぁ、ヨチヨチ」
   と言ってフクちゃんの頭をそっと撫でているカッちゃ
  んの顔に生気がみなぎっていた。
   そんなカッちゃんの顔を見てお母さんは、フクちゃん
  にうちの子になってくれてありがとうねと呟くように心
  のうちで感謝をした。
   カッちゃんが小学校入学後に、発達障害の自閉症『ア
  スペルガー症候群』が発見された。
  知的発達に明らかな遅れはなく、言語も知能も特に遅れ
  ているとは思わなかった。
   自閉症の特徴を有しているという点に於いても、手が
  かからず一人遊びを飽きずに続けるおとなしい子やなぁ
  と思って居たくらいで、顕著な問題は感じられなかった
  ため、幼児期にご両親は自閉症とは気づきませんでし
  た。
   だが小学生になって、友人関係が上手くいかない、会
  話が出来ない、他の子に興味がない、団体行動ができな
  い、皆んなと一緒に遊ばないなどの特徴が見られるよう
  になった。
   自閉症の傾向がありますと診断された後に、幼児期に
  みられた自閉症の傾向がわかった。人といっしょに遊ば
  ない。同じ遊びばかりしていた。公園に連れて言っても
  砂場でごっこ遊びをしなかった。他の子に興味を示さな
  かったなど……、思い当たる兆候があった。
   発達障害といっても、一人ひとりの症状は多様で、そ
  の子の個性や状態像は多様。また、同じ診断名でも、子
  どもの個性や人格があり、知的障害を持たない高機能の
  子も多く、障害という一般的なイメージとは異なり、発
  達障害がという言葉でひとくくりにするのは間違いで、
  一人ひとりの知能や個性をちゃんと理解して支援するこ
  とが大切である。

   ――「日本自閉症協会」のパンフレット、自閉症を知
  っていますか? 望むのはあなたの「心のバリアフリー」
  からの引用だが、―― 
  1.自閉症って何だろう
 自閉症のある人は自ら閉じこ
  もっているのではありません。
  また、乳幼児期に適切な養育がなされなかったために、
  心を閉ざしてしまったというような状態でもありませ
  ん。
 自閉症の原因は、まだ確定されていません。
  「親の養育態度が一次的な原因ではない」ことは明らか
  になってきました。
 
   現在のところ、「先天的に中枢神経系の働き(主とし
  て認知の機能)に問題があり、そのために情報伝達がス
  ムーズにいかないことによる社会的・対人的な認知やコ
  ミュニケーション能力など広汎な領域における発達の偏
  りや遅れ」と考えられています。
  「いくつかの遺伝子の配列異常と、何らかの他の原因が
  複雑に絡み合って、中枢神経系の働きに障害が起きてい
  るのではないか」と考えられています。
 近年、自閉症
  の特徴の表れ方は多様であることがわかってきました。
  知的障害のない自閉症は「高機能自閉症」と呼ばれます。
  言葉の遅れがないタイプは、「アスペルガー症候群」と
  呼ばれます。……と書かれてあり、
  日本自閉症協会監修『自閉症とともに』自閉症の理解と
  支援に役立つDVDが作られている。――

   自閉症の原因は、まだ確定されていないとしながら
  も、親の育て方が原因ではないことが明らかにされたこ
  とが、カッちゃんのご両親にとって嬉しいことで胸を撫
  でおろした。

   カッちゃんはフクちゃんが待っているのが嬉しくて、
  学校から走って帰って来ると、「ただいまぁ〜」と元気
  に言うようになった。 
   また、フクちゃんのエサが切れそうになるとボクが買
  って来るといい、フクちゃんに話しかけていた。
   ――そんなある日、奇跡が起こった! 
   カッちゃんがフクちゃんを見せたいからと、級友をふ
  たり家に連れて来たのだ! フクちゃんは級友のふたり
  に対しても怖がらず、ニャァ〜ニヤァ〜と愛想良く鳴い
  た。
  「可愛いなぁ〜、フクちゃん、フクちゃん」
   もう一人も可愛い可愛いと言って嬉んだ。それを見て
  いたカッちゃんは、フクちゃんが褒められたことが嬉し
  くて大はしゃぎをした。
  そして、級友と喋り合い大笑いをしていた。
   自閉症の傾向があると診断されたカッちゃんのライフ
  スタイルがフクちゃんによって、心が開き障害の進展が
  見られるようになった。
  「フクちゃんが来てから大きく変わったのよ」
   とおかあさんは目を潤ませた。
  「カッちゃんの不安な気持ちを無くし、日々の活力を生
  み会話も多くなり明るくなった。自分の気持ちを表現出
  来るようになり、他人とのコミュニケーション能力も向
  上して来たのは、他でもないフクちゃんのおかげです。
   将来はカッちゃんの才能を活かして生きて行って欲し
  いと願うばかりです」
   ――とお父さんは涙ながらに言った。

   三軒目のご夫婦ともに教職員をしていた中田さんのお
  家では、子供ふたりは独立し、お婆ちゃんがアルツハイ
  マー型認知症を発症して三年目になり家庭介護をしてい
  た。
   子猫の里親になった動機は『アニマルセラピー』とい
  って、介護施設などで動物による介護療法の効果を知っ
  たからだった。
   中田さんのお家では、レイちゃんと呼んで、可愛がっ
  ていた。認知症のお婆ちゃんのケアやあらゆる面でお婆
  ちゃんを癒してくれるセラピーキャットだと言って喜ん
  でいた。
   人間の表情や体を撫でたりさすったりする触れ合いか
  ら猫は人間の愛情を感じている。
   お婆ちゃんがベッドで横になっていると、お布団の上
  でゴロゴロ音を鳴らしてくれる。お婆ちゃんが椅子に座
  っていると膝に上がり、甘えたりかまって欲しそうに鳴
  いたり、ゴロゴロとノドを鳴らして癒される。
   レイちゃんと一緒に過ごすようになってから、中田さ
  んご夫妻は可愛い孫を得たようにレイちゃんを可愛が
  り、ご夫婦の円満度も上がった。レイちゃんの世話をし
  たり話しかけたり遊び相手になったり、自発的な行動を
  するようになり、レイちゃんによって、お婆さんはリラ
  ックスし癒し効果を得られ、認知症の自然治癒力が高ま
  り、良い変化が現れた。それまでは暗い顔になりがちだ
  ったお婆ちゃんがにこやかな表情で穏やかな時間を過ご
  せるようになった。
   そこには、アニマルセラピーと言われる人間と動物の
  関わりを超えた愛情を感じた。

   男は仕事帰りにミーちゃんをあまり見かけなくなっ
  た。初めて出会った日から丸々一年が過ぎて、あの日と
  同じように、西日が低く屋根や道路を照らしている秋の
  日の夕暮れ間近、学校を通り過ぎて十字路を渡った前方
  の右側二軒目の弘田さん家の白い塀に向かって高校生の
  男女が二人立っていた。
   よく見ると塀の上にミーちゃんが箱座りをしていた。
  男の自転車が近づくと同時に高校生たち二人はゆっくり
  とその場から離れた。ミーちゃんは塀から飛び降りニャ
  ーニャー鳴きながら斜めに駆け寄り男の自転車の前や横
  にすり寄って来た。
   男はかまって欲しいと鳴いているミーちゃんの顔に左
  手を伸ばし指先で撫でようとすると、その指先に鼻を近
  づけ体をすりすりと寄せてきた。
  「ミーちゃん、ただいまぁ、待っててくれたん、ありが
  とう。何も持ってないねん、ごめんね、またね、元気で
  ね、ばいば〜い」
   と言いながら、男は初めて少し太り気味のミーちゃん
  の体に触れることができた。――
   ミーちゃんはミヤァ〜ミヤァ〜言いながらゆっくりと
  動く自転車に束の間ついてきたが、ふれあいセンターの
  手前で前足を揃えて止まりお座りをして男を見送っていた。
   六甲山系に沈む夕日が空と雲を赤く染め、家に帰る男の
  顔を真正面から照らしていた。

                     「完」











  
posted by てらけん at 11:18| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする
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