◇ 寺沢憲重の10のラッキー名言 ◇      
:幸福だから笑うわけではない。 むしろ、笑っているから幸福になれるのだと言いたい。       
:笑いのあるところには活気もある。よく笑う人は不機嫌な顔をした人より長生きする。
:叶えるのが夢だけど、叶わなくても夢は夢さ、泣いて笑ってそれが人生、平凡がいい。
:人生いろ色あらァな、それを頑張って乗り越えたら喜びや楽しみが待ってるんやでぇ。
:人生に於いて全ての壁が、自分を高める壁だと前向きに思える人は壁を超えられる。
:ネガティブフィードバックの時こそ、得難い学びのチャンスそのものなのである。
:大切だと思うのは世に名を博した偉い人や大作家とはなるべく謦咳に接することである。
:たった百人の中の、私という自意識や誇りや自尊心や見栄や保身や奢りや愚かさの孤独。
:他人と比較するのは無意味だ理想の自分と比較せよ。何歳でも自分を変える努力をせよ。
:人生のターニングポイントの決断には。やり始める勇気とあきらめる勇気が必要である。 

2020年02月06日

てらけんこと寺沢憲重の小説の講評!。


      幻冬社から戴いた講評

  画像になっておりますので二度のクリックでオリジナルサイズになり読みやすくなります。

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      文芸社から戴いた講評

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      講評の内容が腑に落ち、とても参考になりました!。





posted by てらけん at 09:41| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

2020年01月08日

俳句が面白い!。俳句を作ろう!。夏井いつき先生のプレバト俳句コーナーが好き!。


「俳句は難しいなぁ^^」でも、だんだん、楽しくなって来た(^^)/

俳号は「寺門梵太(てらかどぼんた)」です!。俳句を真剣に作り初めたのは2015年06月からです。

駄作ばかりですが、せっかくだから勉強し推敲しながら書き残していますのでよろしくです^^)。

俳句、俳句、俳句を沢山作ってみよう!!!(*・ω・)/。駄作も凡人も才能なしも楽しい俳句!^^)。

「五月雨の静けき音の遣る瀬無き」(さみだれのしずけきおとのやるせなき) 寺門梵太 


1○ この夏は橋の上から肝試し 
2○ 橋の下遡上探るやサクラマス  aimotobasi-teraken.jpg
3○ 橋の下魚影の光サクラマス
4○ 橋の上蚊に刺されつつ月仰ぐ  
5○ 日暮橋蛍見るには早過ぎた

6○ 春まだき橋の上にて身が震え
7○ かたつむりお前この橋渡る気か
8○ 春風に乗ってスキップ渡る橋
9○ 冬迎え橋のたもとで逢いましょう
10○ 吊り橋のつるにも似たりあけびの木

11○ ミニベロで橋を渡るか春の夢
12○ メール来た花火見に行く橋で待つ
13○ 橋の上打ち上げ花火顔照らす
14○ 照明ぞ花火の明かり橋も映え
15○ 橋の上そうめん流し想像す

16○ 川床や三条橋から数えけり
17○ 橋の上鵜飼の景色長良川
18○ 鵜飼の火水面に揺れる趣や
19○ おにやんま飛翔目で追う橋の上
20○ 橋の上待ち構えるかとんぼ捕り aimoto01.jpg

21○ 丸木橋ツルッと滑って川に落ち
22○ 君と見た愛本橋の星月夜
23○ 川遊び腰が立たない丸太橋
24○ 螢川雪見橋から川上を
25○ 堰堤(えんてい)や激流の音橋揺する

26○ 春風や烈しい流れ岩に散る
27○ 黒部川雪解け白波橋くぐる
28○ 遡上する鮎が跳ねたと橋の人
29○ 素手で捕る鮎捕り名人橋で見る
30○ ほたるよりネオンが恋しい戎橋

31○ 暮れなずむ愛本橋の星月夜
32○ 夏休暇ミニベロ漕いで愛本橋
33○ 初夏の夢愛本橋までミニベロで
34○ 春風に背中押されて渡る橋
35○ 五月晴れ宇奈月行こう橋越えて

36○ 扇状地愛本橋から黄金色
37○ 扇状地愛本橋から秋眺め
38○ 黒部川橋わたる風稲穂波
39○ 橋景色ゴッホの絵と燗冷まし koyagawa.jpg
40○ 吊り橋にからまるあけび取り難し

41○ 橋の上バッタが逃げてダイビング
42○ 星が降る撮影スポット赤い橋
43○ 愛本橋小説の舞台巡る春
44○ 菜種梅雨愛本橋から麦畑
45○ あじさいの咲く頃偲ぶ赤い橋
 
46○ 新緑や谷間に映える赤い橋
47○ 青りんご橋から川へ投げ遊ぶ
48○ 青りんご橋から投げて奪い合う
49○ 影法師瀬田の唐橋積もる雪
50○ 橋渡り西へ向かうか影法師

51○ 橋わたり西から東へ影法師
52○ 山吹や懐かしきかな武田橋
53○ 白山吹高い橋から見つけたり
54○ 山吹を採って帰った武田橋
55○ 吊り橋を山菜担いでお婆渡る 

56○ 学無くて橋の句詠めぬ春の宵
57○ 春一番黒髪なびく橋の上
58○ 春霞遠くで橋がおぼろげに aDSC_4299.jpg
59○ 春霞赤いアーチの橋見ゆる
60○ ゆらゆらと愛本橋に蜃気楼

61○ 夏休み橋から飛び込む水の音
62○ 麦畑腰を伸ばして橋を見ゆ
63○ 手をつなぎ橋を渡れば春薫る
64○ 注意してあの橋わたれアイスバーン
65○ 橋の句に振り回されて夏に入り

66○ 橋の上秋風聞くやよもすがら
67○ 蝉見つけ橋げたで鳴き届かぬ手
68○ 蜃気楼橋から下流揺らいでる
69○ 桟橋に雪降る別れ身をすくめ
70○ 桟橋でマフラー散って惜別の

71○ 急流の石の飛沫の先に橋
72○ 五月雨橋の路面が光ってる aimotobasi.jpg
73○ 時流れ愛本橋で春を待つ
74○ 時流れ愛本橋に春が来た
75○ 十五夜を愛本橋の立ち見席

76○ 月見橋ほほ引き寄せて淡いキス
77○ 橋の句に推敲及ばずよもすがら
78○ 歩道橋渡る子供のランドセル
79○ 橋の上日傘の君のワンショット
80○ 紫陽花の花に託す愛の橋

81○ 新緑に赤いアーチがよく似合う
82○ 青い鳥幸せ運ぶ愛本橋
83○ 赤とんぼ追いまわすうち橋わたる
84○ ぶらり旅渡った橋の数知れず
85○ 雪見橋数ある橋の中の橋
 
86○ 橋の数いくつも越えて螢川
87○ 黒部川愛本橋に春の風
88○ 下流から愛本橋を望む冬
89○ 遠望の渓谷の青赤い橋
90○ 麦畑遠望の先に赤い橋
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91○ 観光で夏に賑わうかずら橋
92○ かずら橋揺れる二人の夏の恋
93○ かずら橋手を握り合う夏の恋
94○ かずら橋愛を確かめ夏にキス
95○ 新緑の谷間に浮かぶかずら橋

96○ おにやんま網持ちかまえる橋の上
97○ ぎんやんま橋の欄干行き来する
98○ カタツムリ橋の欄干のろのろと
99○ 360度見渡す紅葉ループ橋
100○ ループ橋新緑の中降りて行く

101○ 甘柿の種を橋から吹き飛ばす
102○ 干し柿の種をプッと飛ばしっこ
103○ 浴衣着てそぞろ歩きの月見橋
104○ 川下り渡月橋を見上げたり
105○ 沈下橋錦秋の候川下り

106○ からころと下駄を鳴らして橋わたる
107○ ほたる狩り橋のたもとで身構える
108○ ほたる狩り小川の橋で一休み
109○ 野の橋に平家と源氏が乱舞する
110○ こっちの土手あっちの橋でほたる飛ぶmimoza20001.jpg

111○ あの橋を渡れば見えるミモザかな
112○ ふるさとの橋を渡れば香る稲
113○ フナ釣りが橋の上からぞうり釣る
114○ 彷徨す傷心の旅悲恋ゆえ   
115○ 悲恋ゆえ傷心癒しに能登の旅

116○ あの橋は行ったら戻れぬ冥土かな  
117○ 冬枯れの一本道には橋も無し  
118○ 学無くて橋の句読むのに夜長過ぎ
119○ 紫陽花は何度撮っても飽き足らず
120○ 十六夜橋でデイトを月照らす

121○ 月に雲相合橋の影消える
122○ 早まるな断崖に立つ日傘かな
123○ はやるなよ人生この先楽しめよ
124○ 鮎よりもあゆ獲り名人手が早い
125○ 橋の上タモ持ち身構え子らが待つ

126○ 川流れ浮かぶ南京橋で待つ
127○ 川下へプカリプカリと橋に瓜(うり)
128○ カナブンも可愛い姿でワルよのう
129○ 赤とんぼ青空稲穂畦の道
130○ 田園をドヴォルザークで聞いた春
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131○ そこからは天国行ける橋は無い
132○ 寒ブリと熱燗あれば文句無し
133○ 今年こそ行こうと決めた風の盆
134○ 星宿海橋から橋へと彷徨って
135○ 貝掘りの姿なき浜平成の

136○ 夕立に追われ追われて軒下へ
137○ どんぶらこ大きなかぼちゃが橋くぐる 
138○ プカプカとカボチャが橋に子らが獲る
139○ 橋の上カボチャが来たぞ子ら騒ぐ
140○ 孫に手の螢の光もLED?

141○ ホタルの火熱くないかと尻触る 
142○ 省エネかホタルのヒカリもLED
143○ ほたるにも源氏と平家の格差有り
144○ うちわ振る手もだるくなり眠りつく
145○ うたたねをゴールゴールで起こされた

146○ 血糖値犬の散歩で低くなる
147○ 検診で冬は寒くて医者に言う
148○ 踏切で鈴虫の声空耳か
149○ 蜜に蝶花の装い知らぬげに
150○ ユリカモメ橋の欄干そろい踏み    
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151○ 星月夜晴れて見せてやてる坊主
152○ 星月夜見れます様に願かける
153○ 朝顔に早起き勝ったと独り言   
154○ 目が覚めて朝顔の咲くをじっと待つ  
155○ 朝顔に窓辺の陽除け任せけり 

156○ 朝顔やまだ寝てるのかポンと咲け 
157○ 遺された道行羽織り母偲ぶ  
158○ 土用干し友禅眺め手が止まる  
159○ 桐箪笥着物の虫干し母偲ぶ
160○ 梅雨の朝雨打つ音に起こされた
   
161○ 激しさや洪水心配梅雨の雨
162○ どしゃ降りで視界届かぬ男梅雨  
163○ 男梅雨太鼓の連打思わせる     
164○ 降水や地との喧嘩か男梅雨    
165○ 流れ着くかぼちゃすくって川に落ち

166○ のどかなるぼら待ちやぐら春うらら
167○ 春の海ぼら待ちやぐらのどかなり
168○ とと楽やぼら待ちやぐら春の漁
169○ ぼらを待つ櫓の上で春眠か
170○ 面白やぼら待ち櫓フクロ網 

171○ 長閑な海ぼら待ちやぐら面白や
172○ デカくなりとどのつまりとボラが言う          
173○ ボラ曰くとどのつまりが俺さまよ
174○ 能登路来てぼら待ち櫓旅情話
175○ 能登の海ぼら待ちやぐら旅景色

176○ 朝立ちやぼら待ち櫓ほら見えた! 
177○ ロックの巣ぼら待ちやぐら黒い影
178○ 春の河流れに見とれ日が沈む
179○ 春の河水面キラメキ滔々(とうとう)と
180○ 湧水や冷たさうれし汗も引く

181○ 紅(くれない)に頬染めし君15の春
182○ 紅に頬染めし君初心(うぶ)だった
183○ 頬染めし林檎のような初心な恋
184○ 垣根越え垂れて華やぐ凌霄花
185○ つる伸ばし朱色のラッパ凌霄花

186○ フェンス越しラッパが並んだ凌霄花
187○ 朝顔や緑のカーテンありがたし
188○ 朝顔のつるが織りなす日覆いや
189○ 朝顔や昼寝も隠す日除けかな
190○ 朝顔のつるに覆われ空見えず          toyama-2015-5-31 127.JPG

191○ 星月夜見るも奇跡の物語
192○ 星月夜ラフマニノフと愛本橋 
193○ 蓮の葉に銀の水玉踊ってる
194○ 蓮の葉が雨耐えきれず裏返る
195○ 雨粒や蓮葉に遊び転げ落ち

196○ 蓮の上走り回る銀の粒
197○ 蓮の葉や雨傘替わりガキどもの
198○ 子供らが蓮の葉かぶり雨しのぐ
199○ 蓮の葉に目と口を開け燥ぐ子ら
200○ 蓮の葉に隠れて潜む影二つ

201○ 蓮の影身を隠したるかえるかな  
202○ 未央柳針山刺したる雄しべかな
203○ 未央柳長い雄しべやまち針か
204○ 未央柳針山飾る雄しべかな
205○ 針山に見えし雄しべや未央柳

206○ ヒペリカム針山に似て母偲ぶ
207○ 白壁や乗り出して咲く凌霄花
208○ 塀越しに垂れて目を惹く凌霄花
209○ 誰か住む白壁越しの凌霄花
210○ 大らかさポジティブなのか立葵

211○ 背比べ大人も勝てない立葵
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212○ 立葵視線高く咲きにけり
213○ 立葵夕焼けを背に咲き上り
214○ 見上げれば首がだるくて立葵
215○ 大人より背丈が高いタチアオイ

216○ カンカンと踏切の脇タチアオイ
217○ 散歩道川辺彩る立葵
218○ 白壁や人目惹きつけ凌霄花
219○ 白壁や朱色が目を惹く凌霄花
220○ 白壁を覆いて目立つ凌霄花

221○ 綺麗だよ何でひがむか捩じり花
222○ 犬散歩しばし見とれる捩じり花
223○ 捩じり花踏んじゃダメだと犬叱る
224○ 可愛いなズームで撮った捩じり花
225○ しゃがんだよ可愛い君は捩じり花

226○ 身をよじり恥ずかしいのか捩じり花
227○ 花びらが螺旋階段捩じり花
228○ 私ここ振り向き見れば捩じり花
229○ 虎の尾や花序を揺らして我招く
230○ 風に揺れラインダンスや虎尾草

231○ 風の道野に群れ踊る虎尾草       
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232○ 虎尾草や手招きなのか花序揺らし
233○ 竹林に虎尾草揺れて面白や
234○ 虎尾草や猫と間違え藪の中
235○ 虎尾草や猫のしっぽにさも似たり

236○ 無我夢中太鼓の練習暮れる秋
237○ 手にはマメ太鼓が響く初秋かな
238○ 集会所初秋に響くばちさばき
239○ 代々の祭りのしきたり習いけり
240○ 秋祭り里帰り組担ぎ手ぞ

241○ 秋祭り昔の喧騒なかりけり
242○ 風蘭の芳香漂う宵の風
243○ 風蘭やバニラの香り漂わせ
244○ 風蘭の生命力や根の不思議
245○ 風蘭や早く咲けよと急かすまい

246○ 風蘭の香り立つ宵だれを待つ
247○ 風蘭のバニラの香り虜かな
248○ 甘い香を放って風蘭誘いけり
249○ 闇を待ちゆかしい香り風蘭よ
250○ 風蘭の夜密やかに立つ香り
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251○ 根を出して風を呼ぶのか風蘭よ
252○ 夜を待ち香りで誘う風蘭か
253○ 風蘭の生きる術だよ風と友
254○ 風蘭やそこがいいかと風が訊く
255○ 風蘭や太い根を出し涼をとる

256○ 教科書の露草しおり懐かしや
257○ 露草や花びら閉じて朝を待つ
258○ 露草を集めて青に染めにけり
259○ 露草を栞にしてた日記帳
260○ 愛読書露草しおりはらり落ち

261○ 露草を見る度インク思い出す
262○ インク瓶露草見る度思い出す
263○ 露草やインクの色を思い出す
264○ 露草を忍ばせ送ったラブレター
265○ 露草やみずみずしさを漂わせ

266○ 露草や藍も愛も知らぬげに
267○ 露草やお早うさんと朝の顔
268○ 露草や朝見る顔が愛しい
269○ 露草や草と言わずに花がいい
270○ 露草の淡い青で絞り染め
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271○ かたつむり東洋で名を変えエスカルゴ
272○ かたつむり東洋料理でエスカルゴ
273○ かたつむりゲテモノ料理かエスカルゴ
274○ エスカルゴ名は変われどもうまいのか
275○ 雨しのぐ葉裏に急ぐかたつむり

276○ せわしなく角は指示器かかたつむり
277○ どこ行くの声を気にせずかたつむり
278○ かたつむり身を殻に入れ転げ落ち
279○ 長靴や学童通るぞかたつむり
280○ 雨合羽顔だけ出してかたつむり

281○ お出かけかいつ戻るのかかたつむり
282○ ひたすらに夢を追うのかかたつむり
283○ 止まりては角はアンテナかたつむり
284○ デイトかな葉の道急ぐかたつむり
285○ 見るだけよ触らないでねかたつむり

286○ 手招きすここにいたぞとアワビ獲り
287○ 手招きす鬼さんこちらと麦わら帽
288○ 夕立や軒下来いと手招きす
289○ 手招きす夕飯できたと茜空   2016y08m20d_091443417.jpg
290○ 手招きすスイカ食べよう母が呼ぶ

291○ 手招きす浴衣選びや着物店
292○ 手招きすヨォーヨォー釣りと金魚すくい
293○ 手招きす早く来い来いオニヤンマ
294○ 手招きすタケノコ見つけ鍬を打つ
295○ 手招きす静かに見やるつばめの巣

296○ 日々過ぎて今年も来たか半夏生
297○ 白む空しらけちゃったか半夏生
298○ 白む空陽を待たれるか半夏生
299○ 五日後の七夕待つや半夏生
300○ 半夏生約三年後閏秒(うるうびょう)

301○ 蓮の花悟らされたり因果倶時
302○ 蓮の花釈迦の教えか因果倶時
303○ 蓮の花娑婆にあるぞよ因果倶時
304○ 除夜の鐘蓮を揺らすか因果倶時
305○ 因果倶時仏の教え蓮の花

306○ 因果倶時意味深くして蓮の花
307○ 因果倶時己の責任蓮華なり
308○ 蓮華こそ因果倶時なるたとえなり 2016y08m20d_091500402.jpg 
309○ 因果倶時その答えは蓮の中
310○ 蓮の花釈迦が座禅や因果倶時

311○ 半夏雨風習通り畑休む
312○ ほんまやな降水激し半夏雨
313○ 傘あれど児童びしょ濡れ半夏雨
314○ 半夏雨傘役立たず濡れ鼠
315○ 半夏生節目の日かな畑仕事

316○ 半夏生神のお告げか休みなさい
317○ 半夏生白い化粧がよく似合う
318○ 白む空しらけちゃったか半夏生
319○ 道の駅地産池消の夏野菜
320○ 里帰り甚平の父駅で待つ

321○ さくら駅枝越しに海キラキラと
322○ 帰省する駅で待つ母変わりなく
323○ 盆休み無人の駅の侘しさよ    
324○ 盆休み帰って来たかと父笑う
325○ 無人駅懐かしきまま夾竹桃

326○ 向日葵や駅の花壇で日暮れ待つ
327○ 向日葵や駅のホームの隅で咲く
328○ 夏の駅ホームで思案の一人旅      kasimaeki.jpg
329○ 駅に降り夏雲見やる一人旅
330○ 過ぎし日の駅に咲きたるダリアかな

331○ 在りし日のダリア咲く駅帰ろうか
332○ 定番か駅の花壇にダリア咲く
333○ あの頃の駅に咲いてたダリアかな
334○ 里帰り駅の階段軽やかに
335○ 懐かしやふるさとの駅香り立つ

336○ この暑さ待っていたのか立葵
337○ 知らぬ間に今年も咲いたか立葵
338○ 我が庭の住み人なりし立葵
339○ 蛙かな?孫が寝たるは団扇かな? 
340○ 野鳩鳴き孫を寝付けし団扇かな

341○ 寝付いたか腕だるくなる団扇かな
342○ 立葵屋根を越したか九頭身 
343○ 睡蓮やパッチワークで池飾る
344○ 睡蓮やモネの画風を想わせる
345○ 睡蓮やまどろむ水面ミズスマシ

346○ 睡蓮や水面に空と白い花
347○ 睡蓮や蛙の波紋葉を揺らす
348○ 睡蓮や池一面の白い花       11887919_1621899181423691_1406965066584191412_n.jpg
349○ 睡蓮やパワースポット池の主
350○ 睡蓮やパワースポットまどろめり

351○ 睡蓮の花ぞ咲きたる静寂や
352○ 睡蓮やポチャンとカエル花揺らぐ
353○ 七夕や大人びた願いおませさん
354○ 七夕やたんざく筆持ちしかめっ面
355○ 短冊に何を願うか迷う孫

356○ 燕の子甘えてないで巣立ちなさい
357○ 親ツバメ巣作り子作り餌はこび
358○ 燕の子パンでいいならあげるのに
359○ ピィピィとかぼそく鳴くや雛つばめ
360○ 燕の子重なり合って餌せがむ

361○ つばくろや寒さは嫌だと長の旅
362○ 燕の子巣立ちの無事に手を合わせ
363○ 親つばめ次はどの子に餌やろか
364○ 青葉木菟闇夜の恋はおてのもの
365○ 青葉木菟明日は天気とボーと鳴く

366○ 青葉木菟うろを見張りてボーボーと   
367○ 青葉木菟夜間にボッボと鳴く声ぞ
368○ 青葉木菟夜間警備かボッボーと   11251724_1609585955988347_5609966014062062764_n.jpg
369○ 夜得意日盛り苦手青葉木菟
370○ 風蘭や足が上がらぬバレリーナ―

371○ 妖艶さ牡丹の花より君の肌
372○ 俯せの白き柔肌牡丹かな
373○ 美しや座れば牡丹白き肌
374○ 艶やかさ座れば牡丹さもありぬ
375○ 華麗なる牡丹も花なら君も華

376○ 夜嵐に耐えて咲きたる白牡丹
377○ 惜しむらく盛者必衰牡丹かな
378○ 白牡丹盛者必衰塵となり
379○ 愛でようぞひときわ大輪白牡丹  
380○ 太古から世は定め無き秋の空

381○ 帰り道夕餉の香りもどり梅雨
382○ 蓮花やつぼみに種あり因果倶時
383○ 時雨道うまし匂いで急ぎたる
384○ 帰途につく夕餉の香りしぐれ雨
385○ メダカ飼い癒されるより手間かかる

386○ メダカ飼い小さな命に教え乞う
387○ 水甕(みずがめ)に小さな目高育ちをり
388○ メダカ買い天眼鏡も買いにけり
389○ 孫の指メダカの孵化を教えたり
390○ 緋目高や餌やる人の気配知る
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391○ メダカ増え貰い手探しご近所へ
392○ やると言う目高難儀や死にゃせんか
393○ 日盛りの光に透けるメダカかな
394○ 朝陽さしメダカのおなかスケルトン
395○ 湧き水や冷やっと美味しい夏の雲

396○ 空梅雨や湧き水飲んでさざめきぬ
397○ 月の宴おうまん丸やまん丸や
398○ 十五夜に雲よどけよと空睨む
399○ でっかいぞこれぞまさしく名月ぞ 
400○ 枯れ蓮や朽ち果ててなお田に残す

401○ 通り道枯葉一枚いとしけれ
402○ 蓮池や鏡のごとし月冴えて
403○ 白鷺やくっきり映るどぶ川に
404○ 残り鷺地球温暖惑わされ
405○ 白鷺や羽音しずかに茜空

406○ どこだろうかささぎの橋首だるし
407○ かささぎの橋はどこぞと空睨む
408○ 眉に唾かささぎの橋逸話かな
409○ 二人にもかささぎの橋がきっとある
410○ 待っててねかささぎの橋探すから
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411○ 叶うともかささぎの橋今宵こそ  
412○ かささぎの橋を渡って来るといふ
413○ 天の川かささぎの橋幾万羽
414○ うたかたのかささぎの橋儚きや
415○ 愚痴話聞けば卯の花腐しかな

416○ 恋病(やまい)卯の花腐し世の常ぞ
417○ 父親に叱られ卯の花腐しかな
418○ 遠距離や卯の花腐しままならず
419○ 飲兵衛の晩酌卯の花腐しかな
420○ 指折って卯の花腐し侘しさよ

421○ ぐんないと言って卯の花腐しかな
422○ 玉響(たまゆら)の線香花火儚きや
423○ 玉響の恋を見たよな夕月夜
424○ 玉響や夢か現(うつつ)か幻か
425○ 寄る辺無き玉響の愛月見草

426○ 鮎焼きていそいそと待つ夕餉かな
427○ 若鮎や跳ねたる堰(せき)に投網うつ
428○ 若鮎や遡上の難所堰(せき)挑む
429○ 解禁日稚鮎の天ぷら食べれるぞ
430○ 解禁日七輪出して鮎を待つ

431○ 若鮎のほろ苦さこそ旬の味
432○ 幸せやああ幸せや夏よ来い
433○ 夏が好きああ幸せだ燃える愛
434○ 梅雨晴れや逢瀬を隠す傘は無し
435○ にわか雨傘に隠れて紅をひく

436○ 富山にて夢を見たよな夏の宵
437○ 八尾町たたずむ町並み風の盆
438○ 風の盆おわらおわらで暮らしけり
439○ 盆踊りおわらおわらで暮れにけり
440○ 越中やおわらで暮れる秋の宵

441○ 風の盆行って見たいな八尾町
442○ 石積みと坂とおわらと風の盆
443○ 草いきれあの日の午後の褥かな
444○ 初夏の海うねりゆらゆら褥かな aburasemi.jpg
445○ 花野来てしとねとなりて君想う

446○ 里山や千の野草の褥(しとね)かな
447○ 百日紅風ありがたや褥かな
448○ 水彩画画題は高貴な白牡丹
449○ 白牡丹ドレスに勝るその白さ
450○ 水彩の筆を惑わす白牡丹

451○ 誘蛾灯青く灯りたる日暮れかな
452○ 夜が明けて任務完了誘蛾灯
453○ 青い灯に蛾が乱れ飛ぶ誘蛾灯
454○ 誘蛾灯これから出番田んぼ哉
455○ 誘蛾灯闇夜を見張る田んぼ哉

456○ 風蘭や暗香(あんこう)放ち揺れる夜
457○ 暗闇に愛成就する蛍かな
458○ ヒメボタル時代にめげず生息す
459○ 明滅し愛を育む姫蛍(ヒメボタル)
460○ 明滅や愛のシグナル姫蛍(ヒメボタル)

461○ 明滅のイルミネーション蛍かな 11828810_1620575031556106_2434849234876029142_n.jpg
462○ 明滅のシグナル恋し姫蛍(ヒメボタル)
463○ 暗闇に明滅の愛姫蛍(ヒメボタル)
464○ 台風やすさまじい雨蝉鳴かず
465○ 雨風やどこに隠れた蝉鳴かず

466○ 蝉しぐれ野分去るまで出番待ち
467○ 蝉鳴かず台風に耐え木の裏か
468○ 静まりし台風一過蝉何処
469○ 啼きもせず雨あがり待つ蝉いずこ
470○ 大合唱ピタリと静まる野分かな

471○ 啼けよ啼け何で騒ぐか蝉時雨
472○ なぜ急ぐ疲れはせぬか蝉の声
473○ 地上に出喜び啼くかセミ達よ
474○ ジャージャーとシャワーの如し蝉時雨
475○ 同じ歌蝉の合唱やかましや

476○ 音階が一本調子の蝉の声
477○ 蝉無常命の限りしきり啼く
478○ 止まずして蝉の無く声悲壮感
479○ 啼く蝉も人の気配で静まるや
480○ 蝉時雨うるさいけれど安堵する
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481○ 蝉なくやたった七日の愛情話
482○ 蝉時雨泣くだけ泣いて憂さ晴らせ
483○ 啼けや鳴け啼くだけ鳴いて落蝉か
484○ 蝉時雨鳴いて七日の奉仕かな
485○ 蝉の声子孫繁栄七日間

486○ 木々に群れ忙しい蝉や婚活か
487○ クマゼミや昼寝の時間か鳴き止んだ
488○ 落蝉や天寿全う 安らかに
489○ 地から出て天で七日の蝉の愛
490○ アブラゼミ熱愛叶いハート型

491○ 朝顔や時知らずとも午睡かな
492○ かたつむり時を気にせず行くがいい
493○ かたつむり明日は何処へ行くのやら
494○ 蓮枯れて泥に恵と種遺す
495○ 雨上がり銀の道筋かたつむり

496○ マイマイが這った足跡銀の筋
497○ 紅葉葵ハイビスカスじゃないからね momijiaoi.jpg
498○ 紅葉葵ハイビスカスと呼ばないで
499○ 紅葉葵ハイビスカスと似て非なり
500○ 夕暮れに役目が終わる紅葉葵

1○ 夕を待ち演は終わりし紅葉葵
2○ 夕日見ず花しぼみけり紅葉葵
3○ 夕方に紅葉葵の宴終わり
4○ 紅葉葵たった一日惜しむらく
5○ 朝に咲き夕にしぼむか紅葉葵

6○ 明日咲くかとんがり帽子紅葉葵
7○ 紅葉葵空に飛べ飛べ風車
8○ 紅葉葵真っ赤な花弁の風車
9○ 万緑(ばんりょく)に白球追ってウサ忘れ
10○ 万緑(ばんりょく)のゴルフ楽しや玉の汗

11○ 揚々と万緑(ばんりょく)の中や独歩かな
12○ 万緑(ばんりょく)やみなぎる力青々と
13○ 万緑(ばんりょく)や天地青々命沸く
14○ 万緑(ばんりょく)の山中独歩の里帰り
15○ 万緑や天も地もあを海もあを

16○ 白鷺か万緑のてっぺん羽休め
17○ 万緑(ばんりょく)や水面に垂れる柳かな
18○ 夏休み万緑の中やれ遊べ
19○ 万緑のかわらけ投げや厄落とし
20○ 万緑やかわらけ投げの谷深し

21○ わんわんと響いてくるや蝉の声
22○ やかましやああやかましや蝉の声
23○ 鳳仙花 (ほうせんか)石で囲った花壇かな
24○ 鳳仙花 (ほうせんか)学びの庭で弾け飛ぶ
25○ 触れるなよダメよダメダメ鳳仙花 (ほうせんか)

26○ 鳳仙花 (ほうせんか)くるっと弾けおもしろや
27○ 鳳仙花 (ほうせんか)弾け飛ばして家路かな
28○ 鳳仙花 (ほうせんか)爆(は)ぜるを待てずそっと触れ
29○ じゃんけんに負けて爆ぜかす鳳仙花 (ほうせんか)
30○ うさぎ小屋水やり当番鳳仙花
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31○ 学び舎に残りし記憶鳳仙花
32○ 思い出は弾けて飛んだ鳳仙花
33○ 傘待てど雨に悲しや鳳仙花
34○ 鳳仙花出会いを願って爪を染め
35○ おませな子爪を染めたり鳳仙花

36○ 夏送るとにもかくにもお元気で
37○ 夏送るいたわる想い我もまた
38○ 夏送る等しき願い息災を
39○ 森の海都会離れて夏送る
40○ 夏送る避暑は涼しき書斎かな

41○ 鳴く蝉や遊び相手が欲しいのか
42○ 半分こ肉まん食べた冬の月
43○ 梵鐘(ぼんしょう)や時の終わりを告げるかな
44○ 梵鐘(ぼんしょう)や哀愁漂う秋の風
45○ 梵鐘や仕事帰りの腹も鳴る

46○ 日の暮れや夕餉の支度鐘が鳴る
47○ ありがたやどれもうまいな夏野菜
48○ 万願寺味噌で炒めて酒のあて
49○ 夏野菜暑さ忘れる旬の味
50○ 手早いとサラダのおかず夏野菜

51○ また生った収穫時期の夏野菜
52○ 嬉しいな次々生える夏野菜
53○ 夏野菜自慢げに言う無農薬
54○ 青田波この手で植えた米食べたい
55○ 青田波野球フアンのウエーブかな

56○ 青田波揺れる黒髪乙女たち
57○ 青田波葉音涼しやさわさわと
58○ 青田波お辞儀の練習繰り返し
59○ 黒髪が揺れてる如し青田波
60○ 青田風頭(こうべ)垂れるはまだ早い
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61○ 君待つやジャスミン香る青い屋根
62○ ジャスミンやほんの一日香り立ち
63○ ジャスミンや長いだろうか一日が
64○ ジャスミンや暑い一日長かろう
65○ 山頭火なれやしないが時雨かな

66○ 山頭火酒を煽りて草枯るる
67○ 山頭火行乞(ぎょうこつ)の旅草の絮(わた)
68○ ところてん黒蜜ポン酢ぼく甘酢
69○ 気持いいもっと突かせてところてん
70○ ところてん山のモノではないんだよ

71○ テングサの煮汁を冷やせばところてん
72○ テングサや干されて煮たらところてん
73○ ヂャージャーと蝉のトンネル走り抜け
74○ セミだらけ鳴きわめく中自転車で
75○ 自転車でセミ鳴きわめく中抜ける

76○ 陽が昇りつんざく蝉の鳴き声や
77○ つんざくやテレビの音量蝉に負け
78○ 緑さす窓辺の葉陰書斎かな
79○ 古柿や茅葺屋根に緑さす
80○ 緑さす川面にゆらぐウキ赤し
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81○ 緑さすどこにあっても鮮やかに
82○ 緑さす山里深し夫婦サギ
83○ 街路樹の葉影踏み踏み緑さす
84○ 緑さす木々の葉影透ける空
85○ 緑さす草原の木々青々と

86○ 青々とただ青々と緑さす
87○ 緑さす青春の時取り戻す
88○ 白鷲や降り立ちぬ田に緑さす
89○ 紅色や夢から覚めた合歓の花
90○ 合歓の木や夕べはいかが花に問う

91○ 恋をしてねむの木眠れ淡き夢
92○ 蝉の歌お腹で歌うオペラ歌手
93○ 蝉の声指揮者不在の合唱団
94○ 蝉時雨熱さに負けず鳴けば良い
95○ 蝉の声シャワーの如し家路かな

96○ 恋しさやつんざく蝉の声忘れ
97○ 落蝉やミッション果たして大往生
98○ 猛暑日や亀の甲羅は何度かな
99○ 猛暑日や冷房効いて生き返る
100○ 軒を超えゴーヤのカーテン日照りかな
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101○ 金色や今夜の月はブルームーン
102○ 金色や輝く金色ブルームーン
103○ ブルームーン今宵の月は黄色いぞ
104○ 満月や今宵の月は青くない
105○ ハマナスや色褪せないで富来の浜

106○ 貝拾いハマナスの花海青し
107○ ハマナスや波の音聞きまどろみて
108○ ハマナスや浜のスポットサンセット
109○ ハマナスや何が哀して地を這うか
110○ 海風にさらされ這うか浜茄子よ

111○ 懐かしや浜茄子咲く丘サンセット
112○ 浜茄子や潮風に揺れ花悲し
113○ ハマナスと白い素肌と白い浜
114○ ハマナスの丘に寝そべり空仰ぐ
115○ ハマナスの丘で語った若き日よ

116○ ハマナスや愛を語るか実をつけて
117○ 陽が沈むハマナスの花日本海
118○ 糸蜻蛉愛のかたちはハート型
119○ 糸とんぼブルーのボディ鮮やかね
120○ 糸とんぼ神の使いか翅烏帽子
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121○ 翅閉じて烏帽子の如し糸蜻蛉
122○ 禊萩 (みそはぎ)や咲いて想うは墓参り
123○ ミソハギやお供え禊し霊迎え
124○ 青蘆(あおあし)や鳥や魚の隠れ家か
125○ 青蘆(あおあし)や高くて見えない脱衣場所

126○ 青蘆(あおあし)や水辺を守り風に立つ
127○ 青葦(あおあし)や考える葦人もまた
128○ 灼くる日や球児の声と原爆忌
129○ 千羽鶴平和を願う原爆忌
130○ 灼くる午後瞑目合掌原爆忌

131○ 原爆忌辛くて悲しい記念式
132○ 原爆忌七十年の慰霊祭
133○ 鎮魂の灯籠流し悼む声
134○ 白雨さり緑鮮やか土黒し
135○ 一瞬に激流と化す白雨かな

136○ 渓谷に水音響く白雨かな
137○ 青い空にわかに曇り白雨かな
138○ 水やりの手間がはぶけた白雨かな
139○ 菜園や打ち水かねて水を撒く
140○ 夏の夕水遣り忘れ小言聞く
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141○ カサコソと鴨居づたいの守宮かな
142○ 守宮待つサッシの窓の溝の中
143○ 蜥蜴より可愛く見える守宮かな
144○ 住むところ井守と守宮水と家
145○ 家につく害虫駆除する守宮かな

146○ 守宮さん苦手な人も居るんだよ
147○ 驚くや障子の影の守宮かな
148○ 守宮見てゴキブリも食えと叱咤する
149○ 爬虫類苦手なんだよなぁ守宮
150○ 空青く夏真っ盛り白い雲

151○ 青に白大きな綿あめ夏の雲
152○ 山緑空青くして雲白し
153○ 一時の浜の日影や入道雲
154○ 入道雲ふくれっ面はどうしたの
155○ 入道雲太陽遮り胸を張る

156○ 入道雲お願いだから雨降らせ
157○ もくもくと入道雲がわだかまる
158○ 入道雲水平線にわだかまる
159○ 水平線ひねもす座り盆を待つ
160○ 水平線ひねもすのたり積乱雲
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161○ 汗だくやおにぎり美味し鶏五目
162○ 鶏五目海苔巻きにして夏山へ
163○ 蓮の花泥より出でて慈悲深し
164○ 蓮つぼみ観音様の手に添えて
165○ 拝みけりご先祖供養の蓮活けて

166○ 蓮つぼみ幼子合わす手の如し
167○ 無花果や神前供え甘くなり
168○ 無花果や熟れも熟れたり割れ目星
169○ 無花果や不老長寿と六つ食べ
170○ 無花果や母と姉とで初物食い

171○ 逆光の稲穂の輝きアキアカネ
172○ 西日受け波打つ稲穂赤トンボ
173○ アキアカネ風と戯れ右左
174○ 疲れない飛びっ放しのアキアカネ
175○ アキアカネ編隊組んでどこ向う

176○ 霧晴間しまなみ海道遠望の橋
177○ 海霧ややまなみ展望かすかなり
178○ 移流霧風に願いて眼下見ゆ
179○ 展望台眼下のしまなみ移流霧
180○ 移流霧海峡の橋息を呑む
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181○ 海霧や瀬戸内海の絶景かな
182○ 絶景を阻む海霧それもいい
183○ 宵闇や隠しておくれ忍び合い
184○ 宵闇や道行照らす街路灯
185○ 宵闇や逢いたさつのる月も無し

186○ 宵闇に紛れ片寄せ歩く影
187○ 宵闇や別れて一人尚暗し
188○ 宵闇が怖くてトイレ父と行く
189○ 宵闇や添い寝するのも寝付くまで
190○ 宵闇や添い寝の君が吐息つく

191○ ギンヤンマ君の雄姿に憧れて
192○ ギンヤンマ遭いたい見たい池巡り
193○ ギンヤンマ宝石みたい瑠璃の色
194○ ギンヤンマ優雅に飛んで天国へ
195○ 極楽や華麗に飛んでるギンヤンマ

196○ あの頃も今も素敵なギンヤンマtamasudare.jpg
197○ 青空に雄々しく高くオニヤンマ
198○ 晩夏光鏡の如し池静か
199○ 静かなる池の畔や晩夏光
200○ 涼しさを装い咲くや玉簾

201○ 晩夏光雨後に咲いたる白い花
202○ 木立抜け晩夏の光足下に
203○ 晩夏光歩道の影の薄さかな
204○ 縁に立ち顔で惜しむか晩夏光
205○ パナマ帽役目終わるや晩夏光

206○ 晩夏光木立の陰影錦鯉
207○ くっきりと木々映る池晩夏光
208○ ウマオイを逃がさず撮れた嬉しさや
209○ ウマオイをカメラで撮れてご満悦
210○ 鳴く主はどこに潜むか狭き庭

211○ すばらしいただすばらしい茜空
212○ 好きなんだただ好きなんだ茜空
213○ 好きなんだ茜の空のグラデーション
214○ 晩夏光木立の影と錦鯉 heiyu-karuizawa.jpg
215○ 涼しげな木立と湖畔晩夏光

216○ くっきりと木々映る池晩夏光
217○ 晩夏光鏡の池や景色映え
218○ 軽井沢湖畔の景色晩夏光
219○ 百景かな池の水面の樹々景色
220○ 万緑の水面も緑湖畔かな

221○ 佇めば心静まり池清く
222○ 万緑や静かに佇む池を見ゆ
223○ 絵のように木立を写す池の面
224○ 木々写す池のキャンバス晩夏光
225○ 静水面陽の輝きや晩夏光

226○ スイッチョンと鳴く馬追(うまおい)に耳を貸す
227○ 虫集く(むしすだく)草葉の影で演奏会
228○ 虫の音に耳を傾け床につく
229○ 幾重にも暗夜に鳴くや虫時雨
230○ スイッチョン鳴くな誰かに見つかるぞ umaoi.jpg

231○ ツクツクと移ろう季節告げる蝉
232○ リーリーと鈴虫なのかコオロギか
233○ 鈴虫やリーンリーンと闇を裂く
234○ 床下か暗闇に鳴く虫の声
235○ 虫鳴くや寂しい心動かされ

236○ 虫の音を聞きつメッセで楽し夜
237○ キビタキやさえずりうたえ高らかに
238○ キビタキの美しきかなナルシスト
239○ キビタキのはなやかな色見とれたり
240○ キビタキの囀りの声心地良し

241○ 木漏れ日やキビタキの声冴え渡る
242○ 木々の間にキビタキの声澄み渡る
243○ 黄鶲(キビタキ)や美しきかな囀りも
244○ 黄鶲や何を囀り気を引くか
245○ 黄鶲やオペラ劇場枝の上

246○ 黄鶲や野外舞台で独演会     kibitaki-osu.jpg
247○ キビタキ(黄鶲)の声を頼りに山に入り
248○ キビタキや自意識過剰目立ち過ぎ   
249○ キビタキや美意識過剰アーティスト
250○ キビタキや雑木林に派手な色 

251○ キビタキに遭えて嬉しい美しさ
252○ キビタキをしかと見とどけ山下りる
253○ 黄鶲やとっても素敵なコスチューム
254○ 黄鶲や息を潜めて木々探る
255○ 黄鶲やフレーム内に飛んで来い

256○ 陽が昇るうなだれて待つオキザリス
257○ オキザリスみんな揃ってにこやかに
258○ 起きなさい陽が刺してるよオキザリス
259○ 野火のよう稲田の畦の彼岸花
260○ 母恋し野辺に川辺に彼岸花

261○ 望郷や帰りたくなる彼岸花
262○ 懐かしくふるさと思う彼岸花
263○ 彼岸花何気に寂し母偲ぶ higanbana.jpg
264○ 絵手紙に咲いた咲いたと彼岸花
265○ 彼岸花君紅に野地を染め

266○ 赤く燃えおどろおどろし彼岸花
267○ その姿地獄で咲くよな彼岸花
268○ 触るなと母が言ってた彼岸花
269○ 農道に豪華絢爛彼岸花
270○ 農道や赤い花道曼珠沙華

271○ 彼方此方の野を埋め尽くす曼珠沙華
272○ 赤々と土手埋め尽くす彼岸花
273○ 今頃は畦を縁どる曼珠沙華
274○ 里もまた遊んだ野良に彼岸花
275○ 吉兆や天上の花曼珠沙華

276○ 幻想か地獄で燃える彼岸花
277○ 妖艶な毒々しさや曼珠沙華
278○ 曼珠沙華路傍あぜ道土手飾る
279○ 曼珠沙華そっと手に取り海に投げ
280○ 曼珠沙華巫女さんたちの舞い姿
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281○ 秋分や下校児童の影伸びて
282○ 秋分や運動会のちらし寿司
283○ 秋分の白い雲と青い空
284○ 秋分の日差しに向かい背伸びする
285○ 秋分や自転車漕いで風を切る

286○ 秋分の思いで深い畦の径
287○ 秋分や野草求めて山歩き
288○ 秋分や赤い日付に胸躍る
289○ 秋分や恒例行事で日が暮れる 
290○ テレビから秋分の日を知らされる

291○ 天気予報秋分の日の今日は晴れ
292○ 曼珠沙華花のティアラか巫女の舞
293○ 彼岸花ノスタルジックな里ごころ
294○ 美しさ空とコスモス限りなく
295○ コスモスや幸せそうに揺らいでる

296○ コスモスの風で揺らぐ笑顔かな
297○ コスモスや綺麗なあの子も寂しそう
298○ コスモスや寂しさ堪え美を競う
299○ コスモスや西も東も分らねど
300○ コスモスも揺れて触れ合う観覧車

301○ 秋の夜最終電車カンカンと   
302○ 花の影水面に映す用水路
303○ 黄昏や水面にすすき揺れる影
304○ 秋深しせせらぐ水面絶えずして
305○ 黄昏て白き水面に秋の花

306○ 川流れ煌めく流れ絶えぬ秋
307○ 秋の夕白い川面が影と化す
308○ すすき揺れ光る水面に影落とす
309○ 光さす川面の白波秋の風
310○ 花は花川は流るる絶えずして

311○ 冷ややかに花影映す川面かな
312○ 秋冷えや川の流れは絶えずして  by-sakuo.jpg
313○ 所在無く秋の川面の流れ見ゆ
314○ 行く秋や川面を眺め所在無し
315○ 秋澄むや鱗の輝き水面かな

316○ 秋澄むや波打つ川面煌めいて
317○ 秋色に映る川面や虚無に成る
318○ 諸行とて命散らすな秋明菊
319○ 生滅や咲いて散らせと秋明菊
320○ 諸行とて命散らすな秋明菊

321○ 秋明菊無情と思えぬ可憐さよ
322○ 秋の川流れる水の侘しさや
323○ 秋の川流水の音胸に沁む
324○ 落とし水時も流れもとどまらず
325○ 秋の川水沫のごとし人の世も

326○ 此の秋は無常思しき川面かな
327○ 秋の空おセンチにするや白い雲
328○ 秋うらら流れる雲と旅に行こう
329○ 秋の空あの雲消そう消しゴムで
330○ 行く秋やせせらぐ水音空の青

331○ 秋うららデジカメで撮る風情かな  yousuiro.jpg
332○ 身に染むや人も流れも旅途上
333○ 身に染むや犬との散歩朝と夕 
334○ 見に入むや梵鐘の音暮れる秋
335○ 故郷も過疎化廃村身にしみぬ

336○ 見に入むや過疎集落の高齢化
337○ 身に染むや鐘音揺らぎ稲孫生え
338○ 秋の川陽射し煌めき身に入むや
339○ 秋の川眩しい光波無常
340○ 秋澄むや煌めく川面反射光

341○ 手拭いを肩掛け銭湯秋の暮れ
342○ 腹減った部活帰りの秋の暮れ
343○ 鍬担ぎ畑帰りや秋の暮れ
344○ 残照に照る月白く秋の暮れ
345○ 五時なのに夕餉を急かす秋の暮れ

346○ 秋の暮れ男二人の囲炉裏端
347○ 秋の暮れ鯖の御造り酒二合
348○ 食満たす旬の味覚や秋の暮れ
349○ 読書してうまい物食べ秋の暮れ
350○ 白い月東南東に秋の暮れ

351○ 指にアク干し柿作り秋高し
352○ ゴムで飛ぶ模型飛行機秋高し
353○ 紺碧の空に舞う鳶秋天
354○ 秋高し楓やもみじ衣装替え
355○ 田広く野焼きの煙秋高し

356○ 稲刈りや腰を伸ばせば秋高し
357○ 天日干し稲架がい並び秋高し
358○ 何もかも森羅万象秋や秋
359○ 甘柿や枝もたわわに秋高し
360○ 熟し柿母の好物天高し

361○ 募金の声何故か恥ずかし赤い羽根
362○ 助成金声をそろえて赤い羽根
363○ 秋の日の午後のまどろみ白日夢   kane.jpg
364○ 期せずしてうたかたの恋秋の蝶
365○ 稀に見る名刹訪ね秋の蝶

366○ 翅痛めもう飛ばないで秋の蝶
367○ ヒョウ柄のドレスボロボロ秋の蝶
368○ 銀杏散る落ち葉掃き掃き歳数え
369○ いてふちる栞に一葉拾うなり
370○ いてふちる黄金の歩道ウォーキング

371○ 真っ赤だなカエデやモミジ秋惜しむ
372○ 異常気象葉焼けの雑木秋惜しむ
373○ 解禁日ボジョレーヌーボー秋惜しむ
374○ 花と蝶木々の葉枯れて秋惜しむ
375○ 豚角煮ワインたしなみ秋惜しむ

376○ 金木犀散らした花塵香り失せ
377○ みずあさぎ広い海原秋の空
378○ 水浅黄コスモス映えて秋澄めり
379○ 水浅黄川面に映る秋高し
380○ 浅葱色アサギマダラよまた会おう 

381○ 稲穂垂れ案山子偉そに反り返り CIMG0167.JPG
382○ 緑なす雑木林に萌葱色
383○ 夫婦仲濃い茶のような月見かな
384○ すすきの穂大名行列毛槍かな
385○ ゴマダラ蝶花を求めて人里へ

386○ 落ち芙蓉乙女が抱く恋ごころ
387○ 満月の道行く気分未来志向
388○ 台風やロウソク備え籠城す
389○ じゃんけんぽん負けてしまってカバン持ち
390○ 虫干しや形見の着物手が止まり

391○ 貧乏で昭和のおやつ薩摩芋
392○ 薩摩芋囲炉裏の守りやお婆ちゃん
393○ さつまいも焼き立て旨しホックホク
394○ 持って帰れ畑手伝いさつまいも
395○ 畑仕事焚火の中のさつまいも

396○ さつまいも農林1号蒸して良し
397○ 行く秋の小川に映す顔揺らぎ
398○ 行く秋の人も入らぬ山の道
399○ うら枯れる草木枝葉や川の水
400○ 末枯れの小川の流れ音寂し

401○ 末枯れの(うらがれの)老木も又一景かな sakuo-2015.12.jpg
402○ 末枯れの(うらがれの)老木の柚匂ひけり
403○ 半月や恥ずかしがらずに出ておいで
404○ 半月や雲に覆われ半べそか
405○ 下弦の月名残惜しそに西の空

406○ 下弦の月稲刈り済んだ稲架の上
407○ お地蔵さん活けてあげよう菊の花
408○ ボランティア舗道に咲いた菊薫る
409○ 駅のそば花時計の菊薫る
410○ 絢爛豪華菊菊菊の菊花展

411○ 床の間に今が主役と小菊活け
412○ 店に来て歩道の落ち葉掃除する
413○ 虫食いの穴が父似の落ち葉哉
414○ 掃いたのに憎い落葉さまた落ちて
415○ 枯れ落葉掃除に追われる庭園や

416○ 虫食いの落ち葉の穴が笑ってる
417○ 風情あり庭一面の落ち葉哉
418○ 掃けば散る落ち葉掃除にもう飽きた
419○ ああ落葉落葉だらけの参道を
420○ 幾重にも土に落葉の毛布かな

421○ ハラハラと落ち葉になって地に帰る  12301491_937307916352872_274049372409180548_n.jpg
422○ 枯葉舞い襟元寒し通勤時
423○ 医院前落葉掃除にお早うさん
424○ 三日目にセッタが飛んだ風の盆
425○ 唄われよ誰も歌えぬ風の盆

426○ おわら節アカペラだった盆踊り
427○ 能登の盆母と踊ったおわら節
428○ エンナカや八尾坂道風の盆
429○ 唄われし八尾のおわら風の盆 
430○ 衣笠に乙女がしのぶ風の盆

431○ 黄葉の銀杏仰げば澄んだ青
432○ イチョウの葉栞に一枚拾っちゃお
433○ 黄葉のイチョウ並木に身を隠す
434○ 黄葉や鳥が舞うよに地に降りて
435○ 黄葉や嬉しいような寂しさよ

436○ 描いたよ写生大会銀杏の木
437○ 校門の銀杏黄葉抱きすくめ
438○ 初恋や頬を染めた蔦紅葉
439○ 電柱にひときわ紅く蔦絡み
440○ つたもみじコンクリートのオブジェかなCIMG0405.JPG

441○ 連なってお数珠のような蔦紅葉
442○ 梵鐘の音待たずして暮れる秋
443○ 晩秋の風情を醸すカズラ哉
444○ 頬染めし十五の歳の紅葉狩
445○ 石畳秋雨に濡れし風情かな

446○ 連なってお数珠のような蔦紅葉
447○ 蔦紅葉壁をキャンバスオブジェかな
448○ 柿の葉や役目を終えて地に降りる
449○ 青枝垂極彩色で羽のよう
450○ 雨に会い薔薇の褥か旅の宿

451○ 山茶花の垣根を越してお早うさん
452○ 石灯籠ツワブキの花覗いてる
453○ 火袋に灯した明かりツワブキ哉
454○ 石灯籠火袋通しツワブキや
455○ 手をつなぎ鈴懸の道ウキウキと

456○ 鈴懸の木漏れ日に見る君の微笑(え)み
457○ 黄葉のイチョウ拾ってLOVE(ラブ)と書く
458○ 紅葉狩り流れの先の光芒や
459○ 谷川の紅葉照らすサンピラー
460○ 谷川や日陰と日向秋惜しむ   CIMG0373.jpg

461○ カレンダーちぎってラスト一枚に
462○ 月暦(こよみ)めくれば最後師走かな
463○ 谷川のせせらぐ音に山眠る
464○ 癒されり至福の時の葛湯かな
465○ 冴ゆる夜の炬燵のみかん手も冷たい

466○ 息白し焼けたお芋の湯気白し
467○ 朝帰り冬ざれの道とぼとぼと
468○ 厳寒に勝る噂に身が縮む
469○ 大寒やペチカ燃えろよ雪積もれ
470○ 儚くも過ぎし愛は枯れすすき

471○ 枯れすすき昭和の歌が蘇る
472○ 露天風呂降っては溶けるざらめ雪
473○ 蝋梅や終の棲家で咲けよ咲け
474○ 蝋梅の仄かな香り鼻擦る
475○ 木枯らしに揺れる葉っぱのオーケストラ

476○ ヴィヴァルディ葉っぱが奏でる『四季』の秋
477○ ありつくか幾山超えてそば処
478○ 日本一牡丹鍋なら奥丹波
479○ 鴨鍋や湯気と香りで笑みこぼれ
480○ 忘年会何度も乾杯酔い回る      12642692_1673971466216462_960803230097411114_n.jpg

481○ 花道を行けば紅葉が肩に舞い
482○ 花道やエール送るか紅葉舞う
483○ 寒鴉クレーと鳴いてもやりゃせんぞ
484○ 寒鴉カアーカァー鳴くな子が起きる
485○ 寒鴉羽織袴の一帳羅

486○ 寒鴉いつから都会に馴染んだか
487○ 寒鴉お前の寝床は山じゃろが
488○ 信長の焼き討ちなのか赤もみじ
489○ 織姫の恋の残り火赤もみじ
490○ 赤もみじ社(やしろ)のおもむき艶やかに 

491○ 蔦紅葉ブロック塀を飾り付け
492○ 壁を這いペルシャ絨毯蔦紅葉
493○ 冬霞古都に浮かぶ五重塔
494○ 冬霞池にたなびく浮見堂
495○ 春待って蓑虫そろり動き出す

496○ 春まだか蓑虫そっと顔を出す。
497○ 滝に立ちマイナスイオンで背筋伸び
498○ 物憂げに街の灯映す冬の川
499○ 寒の滝マイナスイオンで背筋伸び
500○ 紅葉狩り加賀友禅の絵の如し     CIMG0375.jpg


1001○ 紅葉背に睨む狛犬神守る
1002○ うたた寝やコタツはいいな猫と寝る 
1003○ 空くんは日本の秋が好きなのか
1004○ 譲葉の坂道歩く親子連れ   
1005○ 冬青 ( そよご ) の実初々しいなイヤリング

1006○ これやこの主婦は忙し年の暮れ   
1007○ 幾重にもほほ染咲くや寒椿
1008○ 冬青 ( そよご ) の実鈴なりに揺れクリスマス
1009○ 手に息を湯気立つおでん熱燗で
1010○ 雪だるまあっちゃこっちゃでクリスマス

1011○ 祈り込め世界平和の聖夜かな
1012○ 門松に赤い実添えて難逃れ
1013○ 狐火や狐の嫁入り月明かり
1014○ 寒椿耐えて見せます深情け
1015○ 紅椿私を見てと誇らしげ

1016○ 春が来た私見てねと紅椿
1017○ 垣根越し人待ち顔の寒椿
1018○ 霜に立つ野辺の草の葉陽を浴びて
1019○ 除夜の鐘すする蕎麦とコラボする
1020○ 大晦日フェイドアウト鐘の音    2016.01-sakuo.jpg

1021○ 福寿草咲いて採られず地に帰る
1022○ 七草のぜんぶを言えずお粥さん
1023○ なでしこやなでなでしとこ寒し朝
1024○ 撫子やワイシャツよりも尚白し
1025○ 天高く鷹飛ぶ雄姿我は鷲

1026○ 虎落笛夜半炬燵に潜り込む
1027○ 虎落笛猫も恐れて逃げ隠れ
1028○ 虎落笛海は時化るし寝て過ごす
1029○ 紅白の正月飾り実千両
1030○ 霜の白下萌えの様生き生きと

1031○ 撫子や孤高を保つその白さ
1032○ 和人かな孤高を保つさくら草
1033○ 凍星が我が道示唆し諭される
1034○ 放哉は孤高の人かホトトギス
1035○ 放哉や清貧極み冬寒し

1036○ 七草のごぎょうはこべら言い難し
1037○ 七草やすすなすずしろほとけのざ
1038○ 咲く姿纏のごとしさくら草
1039○ 冬濤やどてら着込んで頬被り
1040○ 冬の濤北斎描いた怒涛図か

1041○ 左義長や燃える炎で厄を除け
1042○ どんど焼き書き初め高く燃え上がれ
1043○ 冬の雲禍々しさなど何処も無し
1044○ 剪りがたし誉れ高き冬薔薇
1045○ 冬薔薇日向ぼっこの昼下がり

1046○ 家族皆行火布団で添い寝かな
1047○ 行火抱きどてら姿で背を丸め
1048○ 行火こそ日本文化と婆様が
1049○ 婆さんが行火の支度囲炉裏端
1050○ 寝小便行火で干した濡れパンツ 
2016.01-bySakuo.jpg 

1051○ 霜降りて葉物野菜の味が増す
1052○ 日が暮れた月日が経った春が来た
1053○ 蝋梅のゆかしい香り部屋に満ち
1054○ 蝋梅の香りに気づき附近見る
1055○ 霜畑葉物野菜の有り難さ

1056○ 小松菜が肩を寄せ合う霜畑 
1057○ 加茂川の水面に映るほとりの灯
1058○ 咲き集い日向ぼっこのさくら草
1059○ 鍋奉行こだわりすぎて鍋笑う
1060○ 菜箸の長さに不慣れな鍋奉行

1061○ 鍋奉行フグ鍋のとき出番なし
1062○ 鍋奉行蘊蓄たれてはかどらず
1063○ 石積みの隙間で咲いた椿落つ
1064○ 椿落つ真っ赤な姿そのままに
1065○ 鍋仕切る甲斐甲斐しさにほの字かな

1066○ 散財や天然とらふぐフルコース
1067○ ながむれば眼下一面冬ざるる
1068○ 溶けへんで溶けてたまるか雪だるま
1069○ 時を経て雪の富山と人の縁
1070○ 待ち合わせ雪も迎える駅の前

1071○ 時超えて又も雪の日訪れる 2016.01.23-sakuo.jpg
1072○ 時を経て雪の富山と人の縁
1073○ ロータリー雪が舞ってた富山駅
1074○ 念願の雪が迎えた北日本
1075○ 立山や天の夜曲か雪の音

1076○ 絶景かな立山連峰雪の壁
1077○ 吹雪止み立山連峰叶い見ゆ
1078○ 見る望み立山連峰晴れ間待つ
1079○ 冬の海岩に砕けし波の音
1080○ 波荒く暗澹たる海寒怒涛

1081○ 北斎の男波の如し寒怒涛
1082○ 寒怒涛胸も高まる波飛沫
1083○ 寒怒涛ひときわ高くどんと来い
1084○ 寒怒涛白波眺め便り待つ
1085○ 冬暮れや沈む陽よりも早仕舞い

1086○ 日本海逆巻く波の雄々しさよ
1087○ 別れ雪悲喜交々の時候かな
1088○ 入学や卒業間近別れ雪
1089○ ランドセル出会いもあるさ雪の果
1090○ 日も長く鳥のさえずり雪の果て

1091○ かざす手に触れて消え行く雪の華 IMG_1756.JPG
1092○ 空に伸び枝にあふるる風光る
1093○ 紺碧の空にかざすか枝が萌え
1094○ 青空に生気を放ち枝萌ゆる
1095○ 如月やまだまだ鍋が恋しいな

1096○ 春来たるひかりといのちきわみなき
1097○ 春の音生きとし生けるものすべて
1098○ 明日の春今日の春より暖かい
1099○ 春の夢祇園精舎の鐘の聲
1100○ 福寿草君の主張はよくわかる

1101○ 赤い実は愛の情念猟奇的
1102○ 愛執かイイギリの赤猟奇的
1103○ 光る春タップダンスのハクセキレイ
1104○ 寒稽古竹刀の当たる音高し
1105○ 寒稽古防具の下で汗をかく

1106○ 寒稽古床に裸足の音響く
1107○ くさめして水鳥岸から遠ざかる
1108○ くさめして鳥撮り逃がしくやしがる
1109○ くっさめや口に手を当てあたり見る
1110○ けなげさとあわき思いで雪割草

1111○ 一叢(ひとむら)の希望に満ちた連翹(レンギョウ)花
1112○ 昆陽池の冬の木漏れ日息づかい IMG_1747.jpg
1113○ 冬枯れの昆陽池公園人を待つ
1114○ 誰座るベンチ虚しく春を待つ
1115○ 寒戻り座る人なし空きベンチ

1116○ 冬枯れの藤棚に思う入園式
1117○ 昆陽池の来歴語るケヤキかな
1118○ オフ会か水鳥の群れガアガアと
1119○ 春に向けアヒルガアガア婚活中
1120○ 水温み池のアヒルも求愛期

1121○ 風に舞う葉擦れの音やカサコソと
1122○ 春風に舞う落ち葉追い子が転ぶ
1123○ かさこそとうわさ話か落葉たち
1124○ かさこそと囁きかける落ち葉かな
1125○ 足もとにまとわりついて舞う落葉

1126○ 風光る川波白く輝きて
1127○ 羽衣の絹が舞うよな雪迎え
1128○ 雪迎え追えばふわりと風に乗り
1129○ 雪迎え飛んで新たな地を目指す
1130○ ねこやなぎ一枝折りて持ち帰る

1131○ 過去と今風と光とねこ柳
1132○ 風誘う振り向く過去と猫柳 sakura-k20003.jpg
1133○ 川べりで日向ぼっこの猫柳
1134○ 思春期の夢ふくらんだねこ柳
1135○ 風戯る落ち葉のワルツ足もとに

1136○ 足もとにからみつく落ち葉のワルツ
1137○ 足もとにからむよに舞う落ち葉哉
1138○ 公園に積もる落ち葉の舞踏会
1139○ 来るんだねさくら咲く日が来るともさ
1140○ 人々にさくら咲く日が来るんだね

1141○ タンポポや何故か目に付く惹かれ花
1142○ タンポポかそれがどうした浮世花
1143○ 足音に気付いてくれた雪割草
1144○ 会いに来た山に咲く君雪割草
1145○ カサコソと春の足音聞こえそう

1146○ カタコトと裏木戸揺する春の風
1147○ 頬に手を添えてうっとりさくら草
1148○ 綿入れと銭湯帰りのどら焼きと
1149○ 今日が行き明日の春を待ち望む
1150○ 当たり前どう足掻いても春は来る

1151○ 福寿草あやかりたいなその名前 nahanahata.jpg
1152○ 森羅万象花鳥風月春爛漫
1153○ 酒の宴飲んで騒いで春が来た
1154○ 啓蟄や蝶々も喜びヒラヒラリ
1155○ 逃げ水やかざす手の先揺らめきて

1156○ 学び舎に別れの朝の花吹雪
1157○ 学び舎の桜に別れ惜しむ哉
1158○ 別れの日溢れる涙桜散る
1159○ 時を経て窓より高し名残り花
1160○ 春の色あちらこちらに花便り

1161○ 病床で桜見たいと祖母が笑む
1162○ 介護中さくらまだかと祖母が問ふ
1163○ お祖母ちゃん楽しみだよね吉野桜
1164○ 介護中桜見たいと祖母の笑み 
1165○ 快復へ桜まだかと気を高め

1166○ 老いて尚虎尾桜の気高さよ
1167○ 回復を待って桜見吉野山
1168○ カゴ一杯つくし採るぞと吾子はしゃぐ
1169○ ニョキニョキと出た出たつくし採るまいぞ
1170○ 雪柳(ゆきやなぎ)道行く人の足を止め suzume.jpg

1171○ その昔武士も好んだサクラソウ
1172○ ギャル雀読者モデルよ三月号
1173○ 花菜畑隠れたつもり子の頭
1174○ 花菜畑頭が見えるかくれんぼ
1175○ 花菜風昭和に戻る匂い哉

1176○ 花菜風昭和の頃のかぐわしさ
1177○ 酔っ払い帰巣本能おぼろ月
1178○ おぼろ月記憶おぼろげ酔っ払い
1179○ 巣立ち鳥枝から枝へと羽慣らし
1180○ 春かすみ車窓遥かに富士の山

1181○ 東京へ向かう景色に霞富士
1182○ ほろ酔いで最終電車おぼろ月
1183○ 春愁や有為転変は世の習い
1184○ 春愁や別れと出逢い世の常ぞ
1185○ 春愁や夢かうつつか幻か

1186○ 春愁や夢と現実紙一重
1187○ 春分やあんばいのええ暖かさ
1188○ 春分の日寒さゆるみ気もそぞろ
1189○ 5輪咲き開花宣言東京も2016.03.20-sakura.jpg
1190○ かたつむり濡れてまいろう菜種梅雨

1191○ 菜種梅雨田植え喜び蛙鳴く
1192○ 何処からか鶯の声澄み渡る
1193○ 鶯の鳴き声耳に通勤す
1194○ 鶯やオーハヨと鳴く通勤時
1195○ 頬染めしうぶな初恋紅椿

1196○ 春霞遥かに霊峰富士の山 
1197○ 新幹線撮影チャンス霞む富士
1198○ 春光やおもむきがある雨の苔
1199○ 春雨や木下に緑苔むして
1200○ 七日経ちやっと逢えたね八重椿

1201○ 五輪咲き桜便りが北上中
1202○ 思春期に恥じらう仕草紅椿
1203○ おませな子椿一輪髪飾り
1204○ ポツポツと池の水面に春時雨
1205○ 春時雨けぶる山並み五月山

1206○ 見分け方ツバキさざんか散って知る
1207○ 春の鵜や巣作りの枝大きすぎ 
1208○ 春の鵜や翼を広げ巣を測る
1209○ 忙しなく湖面飛び交う春の鵜や  IMG_1835.JPG
1210○ 春や春風も光も野の花も

1211○ ランドセル桜満開もう間近
1212○ 懐かしみ源氏語るかすみれ草
1213○ 桜見やさぞ美しや吉野山   
1214○ さぞやさぞ美しかろう山桜
1215○ すみれ草そこはかとない息吹かな

1216○ 満開の桜透かして空仰ぐ
1217○ 霊園に桜花散る玉響に
1218○ まだ咲かぬ桜眺めて懐古する
1219○ 命日や桜まだかと物思い
1220○ 幻夢かな御霊舞うよな花吹雪

1221○ 幻想か御霊を散らす花吹雪
1222○ 一会去り玉響に散る桜かな
1223○ 世の常ぞたまゆらの夢散る桜
1224○ 通勤時ホーホケキョと送られて
1225○ 町中のどの庭どの木鴬よ

1226○ 春の花鳥人智を超えた美しさ
1227○ 水を跳ね足ばたつかせ飛ぶ白鳥
1228○ 恒例の届きし釘煮姉の味
1229○ 解禁日釘煮の匂い立ち込めて
1230○ 格別だ今年のくぎ煮褒め倒し

1231○ 綺麗でしょあんこ椿は恋の花
1232○ 熟女なのあんこ椿と違うわよ
1233○ 雨風に負けるなさくら野点まで
1234○ 幹事なの無駄に散るなよ花見まで
1235○ 急ぐなよしばしとどめよなァ花よ

1236○ ニュースでは今週見ごろ花嵐
1237○ 何故急ぐ闇に散るなよ花の雨
1238○ 八分咲き頬ほんのりとピンク色
1239○ 誇らしげ枝の先まで花咲かせ
1240○ 亡き母の歌が聞こえる花の雨

1241○ 花散らし妄想ばかりの下心   IMG_6335.JPG
1242○ この宴を逃すまいぞと花散らし
1243○ 黒髪に花びらひとつ花嵐
1244○ 髪乱し川沿い走る花嵐
1245○ 春雨や写実極めた水たまり

1246○ 水たまり自転車通過さくら揺れ
1247○ 水たまりどこから来たのかアメンボ
1248○ 水たまりのぞいた拍子に帽子ポチャ
1249○ 水たまり下たくしあげ遊ぶ子ら
1250○ かたかごや家持詠みし万葉に

1251○ この生気(せいき)古木の幹に花が咲く
1252○ 御霊にも時空を超えて桜舞う
1253○ 雲海のごとき桜を愛でる君
1254○ さくら舞い乱れた髪をかきあげる
1255○ 雨が止み名残り桜がはらはらと

1256○ やるせない名残り桜に魅かれたの
1257○ やるせなさ名残り桜と好きな人
1258○ 山吹や歌道の明かり灯す花
1259○ うたかたの時空を超えし春望かな
1260○ 春夕焼け休まず供給ライフライン 2016.ajisai.jpg

1261○ 新緑をめでてしばしの安らぎや 
1262○ 新緑をめでてしばしの至福かな
1263○ 新緑をめでて心に優しさを 
1264○ 春の日に瓜坊ウロウロどこへ行く
1265○ オオルリの囀り高く空青し

1266○ ありがたや春の陽射しが届く朝
1267○ 庭ひかり花に新緑そよそよと
1268○ まほろばか香箱座りの春の暮れ 
1269○ 箱座り野良のまほろば五月かな
1270○ 少子化に負けじと泳ぐ鯉のぼり

1271○ 京の里竿をしならせ鯉幟
1272○ 五月雨の音が奏でる恋の歌
1273○ 睡蓮や夜に誰待つ雨の音
1274○ 稲の苗アジサイカエル嬉し雨
1275○ 五月雨の音寂しくあり誰も来ず

1276○ 週明けに雨雨雨でツツジ冷え
1277○ 藤を見て藤壺の宮語りけり
1278○ 藤の花悪霊祓う香りかな
1279○ 藤垂れて長閑なりや田植え時期
1280○ 初夏に照る石段見上げ腰伸ばす  

1281○ 新緑の本山歩む段の数
1282○ 子雀が小枝に止まって恋遊び
1283○ 雀の子枝から枝へと嬉しそう
1284○ 雀の子右往左往と忙しなや
1285○ 雀の子ちょこまか飛んで忙しなや

1286○ ヘタレなの元気出せよとバラが言う
1287○ バラが好き君は何色ボク黄色
1288○ 紫陽花や雨雨雨で変わる色
1289○ 紫陽花や雨が降るたび艶やかに
1290○ 積年の思い咲かせた飛燕草

1291○ 苔むした石の窪みの水鏡
1292○ 紫陽花や移り気なのか色変化
1293○ アジサイを移り気なんて言わないで
1294○ 棘を持つアザミの花もお年頃
1295○ アザミ草針さえ無けりゃ好かれよう

1296○ 人もまたアザミの花のたとえあり
1297○ 断捨離で店内スッキリころもがえ
1298○ ハンミョウや山道を行くガイドさん
1299○ 道をしえ頼みもしない山のナビ
1300○ 斑猫に恋の道行き分からない

1301○ 緑蔭のベンチで読んだ青が散る
1302○ 城跡のユリ咲きそろい夏兆す
1303○ 百合の花十頭身の超美形
1304○ ササユリや初恋の君ふと思う
1305○ カミナリとゲリラ豪雨で梅雨明けか

1306○ 梅雨明けを待って向かうは軽井沢
1307○ 熱帯夜軽井沢では十七度
1308○ 藍空や見上げる花火ファンタスティック
1309○ 花火師の込めた思いが華になる
1310○ バッタくん鳴かないのかい秋なのに

1311○ 流転の海 書き継ぐ意志ぞ 野の春よ
1312○ 流転の海 辿る野の春 古稀迎え
1313○ 流転の海 何があろうと 野の春へ
1314○ ひまわりと約束したよバテないぞ
1315○ フヨウの花一日だけとはつれないね

1316○ カタツムリでんでん虫と指さされ
1317○ ツノ出せとでんでん虫を歌う子ら
1318○ 向日葵や鳥にゆだねる未来かな
1319○ 戯れに恋はすまじとアゲハ蝶
1320○ 口づけがディープすぎるぜアゲハ蝶

1321○ 蝉時雨大阪弁で鳴きなはれ
1322○ 平和の鐘心に刻み黙祷す
1323○ 赤とんぼ軒下貸そか雨降るぞ
1324○ 八月や核なき世界誓い合う
1325○ 今日の空あの日の空も夏の空

1326○ 蝶とんぼ複葉機みたい格好良さ
1327○ 前世で精霊蜻蛉何を見た
1328○ 勝ち虫や精霊となり世を見据え
1329○ お月見や詩人のような面持ちに
1330○ 満月や照らされ照らす慈しみ

1331○ 生きる術しとやかに咲く芙蓉花
1332○ 次々と咲く演出家芙蓉花
1333○ 宵の雲龍が吠えたか小望月
1334○ 羽衣藻(ハゴロモモ)自然が織ったタペストリー
1335○ 羽衣藻(ハゴロモモ)水面に咲いたタペストリー

1336○ 空写す池に浮かぶはハゴロモ藻
1337○ 年とれど蓮の実飛ぶを未だ見ず
1338○ 秋天や自転車飛ばす河川敷
1339○ 愛唱歌大人の秋の子守唄
1340○ 藍空や花火に見とれあんぐりと

1341○ 気まぐれに形を変える秋の雲
1342○ 青空に気持ち良さそな秋の雲
1343○ 青い空白い雲湧き稲穂立つ
1344○ ハゴロモ藻花の清らに安らぎを
1345○ 秋冷や過しやすいと猫が鳴く

1346○ 秋冷や月クッキリと風呂上り
1347○ 苔むした古木に宿る精霊哉
1348○ 青鷺や微動だにせず池見張る 
1349○ 青鷺や時を知ってか何を待つ
1350○ 芙蓉と陽9月9日良き日哉

1351○ 畦道を妖しく悲し彼岸花
1352○ 曼珠沙華コンときつねが鳴きゃせぬか
1353○ 月々に月みる月は幾月か
1354○ 月影や二つの影が寄り添いて
1355○ 秋蝉や遠く近くに鳴きほそり

1356○ 昆陽池や鴻雁来(こうがんきたる)まだ数羽
1357○ 台風に恐れおののき虫静か
1358○ 台風の接近察して庭静か
1359○ 妖艶な女盛りや彼岸花
1360○ どんぐりでノスタルジック思い馳せ

1361○ ランタナととっても似合うよヒョウモン蝶
1362○ 毒キノコ手出しはダメよ見るだけよ
1363○ すすきの穂道行く人を大祓い
1364○ ひまわりや異常気象で変じゃない
1365○ ひまわりに辛くないかと愚問する

1366○ 行楽や各駅停車鎧まで
1367○ 秋の蝶時と時間の違い知る
1368○ 秋薔薇恋をした君はにかみぬ
1369○ 秋だ秋錦繍の秋ドッコ沼
1370○ 野分去り天仰ぎ見る白いバラ

1371○ 人恋し秋の夕陽が切なくて
1372○ 独り身のさみしさ漂う渡り鳥
1373○ 秋の雲ヘヴンまでつづくカーペット
1374○ 寒いから抱いてとせがむ落ち葉かな
1375○ 紅葉の詩を集めてアンソロジー

1376○ もみぢ葉を栞にしてたアンソロジー
1377○ 星月夜行ってみようよ愛本橋
1378○ 長流の畔に立ちて秋寂し
1379○ アオサギやお前分かるか悲しみを
1380○ 秋惜むミツバチ羽音フォルテシモ

1381○ 紅葉やこっちキレイと招く枝
1382○ 秋の日の水面キラキラ人誘う
1383○ やや寒やカラス実を食べカァーと鳴く
1384○ 冬の朝ひかりうれしや影障子
1385○ 今みてよ盛りなのよとよぶ紅葉

1386○ 枝曲り寒さしのぐか冬桜
1387○ 青い空ただ青々と天高し
1388○ 橙や最後の一個誰のため
1389○ まあ綺麗風とコラボの落ち葉かな
1390○ 思春期に疼きおぼえた枯れすすき

1391○ 寒い朝うまく焼けたよ目玉焼き
1392○ 紅葉ってどうよハウチワカエデだぞ
1393○ 遊ぶ子らついた足跡覆う落葉
1394○ ふるさとの道行く人や冬ぬくし
1395○ まほろばの終の棲家の冬ぬくし

1396○ 冬枯れのビオラに秘めた片思い
1397○ 熟し柿漂う憂い過疎の里
1398○ 紅葉の紅(べに)色君の恋の色
1399○ 美しや風とコラボの落ち葉かな
1400○ 枯尾花昭和を惜しむ風情かな

1401○ 猛禽の見つめる先や冬日燦
1402○ 我一人落ち葉踏む音ガサゴソと 
1403○ カーカーと愛を叫ぶか寒鴉
1404○ おっ母ーと鳴いているよな寒鴉
1405○ ぽつねんと古希を迎えて冬麦酒

1406○ 満月や忘年帰りのおまじない
1407○ 酉年や運気を上げて羽ばたくぞ
1408○ 水鳥やただひたすらに生きており
1409○ 大晦日ゆるり過ごせよ何もせず
1410○ 年の瀬や我が子の帰り猫と待つ

1411○ 佇めば冬枯れの木々水鏡
1412○ 流行り歌白い山茶花そぐわねど
1413○ 玉響の丸いカプセル小宇宙
1414○ 玉響や内に秘めたる息吹かな
1415○ ふられてもいつかつかむぞわが春を

1416○ 水鳥やただひたむきに生きており
1417○ センター試験飛んでる鳥に願かける
1418○ 何もかも見透かされそう冬満月
1419○ 願わくば愛も満ちてと冬満月
1420○ 人はみな冬満月に何思う

1421○ 自然界カモメ群れ飛びテロは無し
1422○ 演歌だねいつも群れ飛ぶゆりかもめ
1423○ アオサギよ渡世人かよその身なり
1424○ 木守柿蔕だけとなり役終える
1425○ 老爺柿渋いばかりだ鳥にやろう

1426○ 今雪に閉ざされし木々風も無し
1427○ 店の番降る雪を見て里ごころ
1428○ 青空に梅に鶯我に鰤
1429○ 冬晴れやただ青空にこころ萌え
1430○ 冬晴れやカリフォルニアにまさる青

1431○ 雪化粧日の本の山水墨画
1432○ 雲隔て冠雪の山絵の如し
1433○ 霜夜開け柿食うエナガ渋かろに
1434○ 風物や茶筅の里の寒ざらし
1435○ 俳句向き和歌に不向きな寒がらす

1436○ 寂しげに左右見わたす寒がらす
1437○ ジョウビタキここだここだと春隣
1438○ ジョウビタキピピピッピピピッと春隣
1439○ 寄り添えばこころも温し日向ぼこ
1440○ 水仙花香りが好きと言った人

1441○ 古希迎え麗らかな日々延びる道
1442○ 春うらら百賀の道はまだ遠し
1443○ 春うらら古希から白寿遥かなり
1444○ 春うらら古希より先はまだ長い
1445○ 古希迎えほんにめでたい野の春や

1446○ 血脈の火春待つ枝の辿る空
1447○ ヒラガ鳴く春が来たりて婚活中
1448○ 朝日差し春の靴音障子越し
1449○ 春立つや古希の歓びしみじみと
1450○ 春寒し苦労が何じゃ古希迎え

1451○ 春の雨ドット模様の滴かな
1452○ 春よ来い艱難辛苦古希祝い
1453○ 野の春やほんにうれしや古希迎え
1454○ ミモザ咲き錦繍想うテルニスト
1455○ たんぽぽや風を待ってか背伸びして

1456○ 春昼やうとりうとりと読書かな
1457○ 節分草逢瀬楽しや山歩き
1458○ 川鵜飛び言葉遊びさ迂回せよ
1459○ 淑やかに枝垂れ枝垂れて枝垂れ梅
1460○ 和三盆木型で干菓子梅の花

1461○ 春まだき野に咲く花に惹かれ居り  IMG_8643.JPG
1462○ 四月馬鹿おまえ蛙だ亀じゃない
1463○ 甲羅干し春の下池ワンショット
1464○ 春だよね亀も伸びするこの陽気
1465○ 亀鳴くや居心地よかろう狭くとも

1466○ 亀いわく亀へん撮りなこのポーズ
1467○ 主老いて看取るが如し庭桜
1468○ 梅でなし桜でもなし木瓜なのだ
1469○ 春日射すきらめく空に奮い立つ
1470○ そこここに春の装い花の色

1471○ 雪柳風よ揺らすな散らせるな
1472○ 川に落ち流れに浮かぶ紅椿
1473○ 川に落つ身を委ねたる紅椿
1474○ 桜咲け十七歳をこの胸に
1475○ タンポポや君の主張は立派だよ

1476○ ミモザ咲き鳥のさえずり愛の歌
1477○ 小説でミモザ咲く春知りました
1478○ ミモザ咲き春が来た来た夙川に
1479○ 雪割草今年も逢えたはにかみ屋
1480○ 沈丁花愛のセラピー女神かな

1481○ 長閑なる 風も緑も 野も花も
1482○ 春の夢いつかの道で迷ってる
1483○ 行く春や頬に風うけ背に陽ざし
1484○ 散る桜使命感じる潔良さ
1485○ こぶし咲きなの花 さくら春はゆく

1486○ 山ざくら天女の衣なびくよう
1487○ 素晴らしや桜回廊しみじみと
1488○ 花冷えや蜜を今ぞと小鳥たち
1489○ あざみより優しい痛み 恋の棘
1490○ ああ桜いくら詠んでもこと足りぬ

1491○ 花を愛で一句献上語彙不足
1492○ ああさくら桜よさくら花に酔う
1493○ 徒桜(あだざくら)入学式に悪天候
1494○ 競い合い出番が来たぜチューリップ
1495○ 風光る花の命のすこやかさ

1496○ 野の春や紫色が似合う古希
1497○ 幸せそう路傍に群れるすみれ草
1498○ 絵手紙に入学祝し桜描く
1499○ 和紙原料みつまたこうぞうがんぴかな
1500○ 散る桜使命感じる潔良さ

1501○ さくら歌いろはにほへとちりぬるを
1502○ 愛し愛し林檎の花の白無垢や
1503○ 白無垢で実を結びたるりんご花
1504○ 睡蓮のまどろむ頃にねむる孫」
1505○ バラ公園ママチャリ親子通り行く

1506 ○ 蜜求め命を継なぐ蝶々かな   IMG_9438.JPG
1507 ○ ひらひらと花から花へ蝶が舞う
1508 ○ 余花の美や綸子絞りの小紋かな
1509 ○ 初孫や嬉しい知らせ立夏かな
1510 ○ 新緑や希望に満ちた光り浴び

1511 ○ 来年の逢瀬を願う残り花
1512 ○ 花を見て精気みなぎることもある
1513 ○ 春疾風迷わず生きよう花のよに
1514 ○ 行く春や花それぞれに想い寄せ
1515 ○ もの云わぬ花から気付く生きる術

1516 ○ 青空に桜も気取り美しや
1517 ○ 君行けば石楠花咲いたか勝尾寺
1518 ○ 春草や名は知らねども今がいい
1519 ○ ひとり静か誰を偲んで佇むか
1520 ○ ハナミズキ二階の女性(ひと)に恋をした

1521 ○ アゲハチョウ笑って迎えるゼラニューム
1522 ○ 若葉雨乙女チックな脳恋愛
1523 ○ 花あふち手垢のお数珠形見分け 
1524 ○ 花あうち形見の数珠の珠の艶
1525 ○ 青鷺(アオサギ)や時空を超えて飛んで行け

1526 ○ 糸とんぼつかまえ放し笑った子
1527 ○ バラの園カップルたちの愛の園
1528 ○ 新緑や見上げる空に幾重にも 18670991_1349874568429536_717613220341623148_n.jpg
1529 ○ 孫産まれ阪神連勝薔薇見ごろ
1530 ○ バラの園カップルたちも見染め会い

1531 ○ シロツメグサ冠できた君にやる 
1532 ○ 暑い日は木陰がいいね花もまた
1533 ○ 君摘んだシロツメクサがキューピット
1534 ○ 縁台に犬が居場所と涼しげに
1535 ○ アカシアの流行り歌など口ずさむ

1536 ○ せせらぎの音も涼しやこの小道
1537 ○ せせらぎや木陰涼風安堵感
1538 ○ 夏来たる海山街が華やぐや  18766537_1064490743651061_7899704638923059209_o.jpg
1539 ○ 口紅をバラ色に変え待ち合わせ
1540 ○ 風の振り付け踊りだす

1541 ○ 水の都船からも又景勝かな
1542 ○ 見たかった霊峰富士に夏の雲
1543 ○ ヒメジョオン風の振り付け踊ってる
1544 ○ 待ってるの誰を待つのか薔薇よ薔薇
1545 ○ アジサイはオシャレなキミのスイムキャップ

1546 ○ みずすまし見るだけだよ逃げるなよ
1547 ○ 庫裏の縁紫陽花愛でる一等席
1548 ○ ふわふわと気まぐれなのさ夏の雲
1549 ○ 花菖蒲見るばなつかし菖蒲の湯
1550 ○ 立葵青い空とコラボして

1551 ○ かき氷富士の山肌すくいとる
1552 ○ タモ振って追いかける子の蝶の歌
1553 ○ 一仕事天の計らい慈雨の音
1554 ○ 夏至の雨裾拭く女の足袋の白
1555 ○ ホッホホッホー鎮守の森のアオバズク 

1556 ○ アオバズク梅雨明けを待ちヒナ孵る
1557 ○ カメラマントンボ撮ろうとどこへやら
1558 ○ 夕焼けや部活帰りの君の頬
1559 ○ 釈迦座る香りゆかしき白き蓮
1560 ○ 銀色に揺れる白蓮野辺送り 

1561 ○ 過ぎた恋こころ変わりは紫陽花か
1562 ○ ひまわりや百葉箱を見下ろして
1563 ○ 白鷲と梅雨空一緒に飛びたいな
1564 ○ 風蘭や風上に向きだれ誘う
1565 ○ この花もあの花もいい梅雨の空   IMG_9361.JPG

1566 ○ ひまわりや飛び込む姿見ていてね
1567 ○ ひまわりに見とれつまづく園児かな
1568 ○ 老夫婦アジサイを愛で手を添える
1569 ○ 綺麗でしょあじさいの道通りゃんせ
1570 ○ 夏の蝶死して不朽の見込み無し

1571 ○ 夏バテやかば焼き食べてたちつてと
1572 ○ バス停の名前が嵐夏の宇和
1573 ○ 若者とタンクトップと夏の空
1574 ○ おしゃれ着を愛が脱がせる盛夏かな
1575 ○ 婚活中しきりに鳴くや法師蝉

1576 ○ 出勤時蝉の声無し穏やかさ
1577 ○ 旅に出てプランが頓挫野分かな 
1578 ○ チャーミングそばかす模様鹿子百合
1579 ○ 逢引きや笹ずれあやし嵯峨野かな
1580 ○ 笹ずれや竹林の歌里の盆

1581 ○ 古代より蓮の実飛ぶが未だ見ず
1582 ○ 猛暑にも負けじと満開百日紅
1583 ○ 鏡蓋(ガガブタ)や環境変化にめげるなよ
1584 ○ モミジアオイ(紅葉葵)一年でたった一日
1585 ○ もう行くか盆が過ぎたと千切れ雲

1586 ○ 青花という露草摘んで和紙に染め
1587 ○ 遠花火ピューーードンパパパパパ
1588 ○ 古代より蓮の実飛ぶが未だ見ず
1589 ○ 巡り来る庭の四季やきりぎりす
1590 ○ 夏山や猿が日影でグルーミング

1591 ○ 蔓高く猿に採られるアケビかな   21125347_1439473259469666_3818076926650487233_o.jpg
1592 ○ アオサギの生き様からの学びあり
1593 ○ 山ガール秋めく山に魅了され
1594 ○ 打ち上げる花火に乗せて好きなんや
1595 ○ 赤とんぼ追って寄り道帰り道

1596 ○ 秋あかね牛の背に乗り羽根休め
1597 ○ 再読や文庫本待つ秋の昼
1598 ○ お稽古で弁慶草を初活けや
1599 ○ 庭に出て月に見とれて蚊に刺され
1600 ○ いにしえのすすきも団子も無い月見

1601 ○ 満月に思いを込めてぶつぶつと
1602 ○ 満月や胸に秘めたる願掛ける
1603 ○ 旅プラン夜通し考え白露かな
1604 ○ 夜更かしや錦繍読んで白露かな
1605 ○ 青雲の志より天高し

1606 ○ 水に碧錆鮎落ちる四万十よ
1607 ○ 滔々と清き四万十今は秋 
1608 ○ 四万十や訪れたいが今は秋
1609 ○ 四万十や錆鮎追えば空碧し
1610 ○ 四万十や聞きしに勝る鰻かな

1611 ○ 四万十や夏に一度は見たいがや
1612 ○ 敬いて亡き人偲ぶ彼岸花
1613 ○ 折らないでゴンシャンいずこへ曼殊沙華
1614 ○ 行く夏やあっかんべーと恋も去る 2017-09-14 08.19.51.jpg
1615 ○ 鳴く虫や寝床に入りてまた明日

1616 ○ 白秋は知ってか白の曼珠沙華
1617 ○ 仙人草懐メロの歌詞白い花
1618 ○ ごんきつねゆかりの川の彼岸花
1619 ○ ごんぎつね 童話の舞台 彼岸花
1620 ○ 畦道やレッドカーペット彼岸花

1621 ○ 秋来る窓辺の日影庭の木々
1622 ○ 10月や一雨一度富山行き
1623 ○ 山涼しきのこの山の白いチョコ
1624 ○ サンセットしまなみ海道秋の旅
1625 ○ 囲炉裏端煙管叩いて夜なべかな

1626 ○ へこうきと云ってた吾子も早五十
1627 ○ お茶菓子に秋の風情や栗饅頭
1628 ○ 毒を秘め瞋恚の炎曼珠沙華
1629 ○ 猪名川の魚跳ねたか彼岸花
1630 ○ ただ一途はらりはらりと曼珠沙華

1631 ○ 新品のズックで野原飛蝗(バッタ)飛ぶ
1632 ○ 落ち芸の出番近づく銀杏の実 23473232_1507610935989231_8301495702251917890_n.jpg
1633 ○ 運動会クックパッドで栗ごはん
1634 ○ 運動会個性あふれる三歳児
1635 ○ 赤組の孫の応援祖父と祖母

1636 ○ お茶菓子に秋の風情や栗饅頭
1637 ○ 憚りや午前三時に蚯蚓鳴く
1638 ○ 邂逅の城址に立ちて秋めくや
1639 ○ 秋の床会えぬ男をふと思う
1640 ○ 火を恋ふやトロッコ電車窓はなし

1641 ○ まほろばの世のはかなさや秋寒し
1642 ○ まほろばや時の移ろい秋寒し
1643 ○ 鐘の音待たずに沈む暮れの秋
1644 ○ 五時の鐘聞かずに沈む秋の夕
1645 ○ 晩秋や梵鐘の音無常なり IMG_9312.JPG

1646 ○ 綺羅(きら)競い我も我もと秋の色
1647 ○ 天高しもみじやかえで紅の綺羅
1648 ○ 晩秋や梵鐘の音無常なり
1649 ○ 五時の鐘聞かずに沈む秋の夕
1650 ○ 鐘の音待たずに沈む暮れの秋

1651 ○ 晩秋や明日またねと子ら帰る
1652 ○ 座布団が縁で膨らむ秋日差し
1653 ○ 秋の日に命をつなぐ一葉かな
1654 ○ 秋深し最後の一葉デジャブかな
1655 ○ 山行けば冬の気配がカサコソと

1656 ○ 古希過ぎて風情と思う枯れ落ち葉
1657 ○ 羽衣のほどけし錦糸雪迎え
1658 ○ せせらぎの音と紅葉心地良し
1659 ○ 寒紅を拭って隣すべり込む
1660 ○ 再訪の冬の富山の吊るし柿

1661 ○ 煮凝を温め見っけ鯛のタイ
1662 ○ 冬林檎しがむほど増す恋の味
1663 ○ 箏の音につられ咲いたか寒桜
1664 ○ ただ一輪情念かもす寒椿
1665 ○ 忙中閑ぶらり昆陽池冬ぬくし

1666 ○ 潮騒のワンシーン浮かぶ焚き火かな
1667 ○ 冬の陽や至福の時の夢のあと
1668 ○ S生まれあかぎれさえもなつかしや
1669 ○ 雪道と黒いマントと寒月と
1670 ○ ねんねこの温もり知らぬ今の子ら

1671 ○ ねんねこの世話になったな我が時代
1672 ○ ねんねこや孫の愛想に祖母笑う
1673 ○ ねんねこを知らぬ世代が弁口言い
1674 ○ ねんねこで育った子らは高齢者
1675 ○ 冴え冴えと利鎌のような冬の月

1676 ○ 咲ききれよ風に負けるな寒椿
1677 ○ 尽きるとも風で落ちるな寒椿
1678 ○ 尽きてなお紅を誇示する寒椿
1679 ○ 朝霧や壮観下界隠しをり
1680 ○ 天の遣い縁起いい木に冬の鳥

1681 ○ 咲ききれよ風に負けるな寒椿
1682 ○ 尽きてなお紅を誇示する寒椿
1683 ○ 尽きるとも風で落ちるな寒椿
1684 ○ 山茶花や雀のお宿はここかいな
1685 ○ 山茶花の白が際立つ西日かな

1686 ○ 山茶花やお隣さんと垣根越し
1687 ○ さざんかや散るも散らぬも花ゆえに
1688 ○ さざんかよ仇に散らすな恋花を
1689 ○ 山茶花の蕾みふっくらむさんぽ道
1690 ○ 金柑の季語は初冬に改めろ

1691 ○ 腑に落ちぬみかん冬なら金柑も
1692 ○ 金柑や食べ頃なのは年明けか
1693 ○ 金柑の季語は晩秋なぜかしら
1694 ○ 金柑は冬を彩る風物詩
1695 ○ なぜ独り金柑だけが秋なのか
 
1696 ○ 金柑を撮っただけだよ取ってない
1697 ○ 極月や金柑撮って食べてない
1698 ○ 年の暮れ焦って色づく橙(だいだい)哉
1699 ○ みかん食べ金柑食べず鳥にやる
1700 ○ 煮たまごや人事尽くしておせち用

1701 ○ カモ泣くな厳しいけどさ俺も又
1702 ○ カモメ鳴け生きてるあかし我も亦
1703 ○ 生き方を学ぶもよろしカモメから
1704 ○ 綿虫や自転車漕いで口に入り
1705 ○ 戌年かああ戌年か来年は

1706 ○ 人間ってああおもろいな大晦日
1707 ○ 戌年だ決意を胸に初日の出
1708 ○ アンデルセン飛べない白鳥知らぬまい
1709 ○ どうなのよ飼われ飛べないコブハクチョウ
1710 ○ やも知れぬ飛べない白鳥アンデルセン

1711 ○ 水鳥よ北の果てからよくぞ来た
1712 ○ 昆陽池に今年も群れる浮寝鳥
1713 ○ 水鳥に煩悩を問い無駄を知り
1714 ○ 風邪なのか正月ボケか倦怠感
1715 ○ 水鳥やただひたむきに生きてをり

1716 ○ 水鳥やデイトするのも昆陽池か
1717 ○ ああ寒い寒いの嫌やめちゃ寒い
1718 ○ 初夢やどんでん返し上昇運
1719 ○ 暇すぎて笑えないのよ宵えびす
1720 ○ 縁起良しふくら雀が宿る家

1721 ○ 霜柱犬に蹴られて砕け散る
1722 ○ 梅の花たずさえ見舞う母のもと
1723 ○ 鳴き交わし雪中を飛ぶ夫婦鶴
1724 ○ 約束の冬に誰待つまちこ巻き
1725 ○ 風花や地に落ちるまで舞い続け
 
1726 ○ 風花と交響曲と暇人と
1727 ○ 冬空に三年ぶりの赤い月
1728 ○ 冬空に天体ショーや赤い月
1729 ○ なんとなく気持ちやわらぐ春の土
1730 ○ まだ寒い寒いんだけど春立てり

1731 ○ 立春や心ウキウキ弾む声
1732 ○ 春立つや心なしか声弾む
1733 ○ 節分を過ぎて陽のさす強さかな
1734 ○ 陽に透ける色ぞゆかしき猫柳
1735 ○ 水仙やうつむき加減ナルシスト

1736 ○ 梅の香につられほだされねだる愛
1737 ○ 水仙の生け花香る無人駅
1738 ○ 旬が来たほろほろ苦い蕗の薹      27993463_1596567343760256_3027862963795529116_o.jpg
1739 ○ 光浴び裸木背伸び芽吹く枝
1740 ○ 春浅し枝先の空青眩し

1741 ○ 裸木や透けて輝く空に映え
1742 ○ 鼓舞させる富士の輝き春近し
1743 ○ 霊峰のパワースポット冬の富士
1744 ○ ふきのとう君の幸せほろ苦し
1745 ○ 早春や春は名のみの歌ありて

1746 ○ あと五分寝かせてくれよ蛙の目借時
1747 ○ 蛙の目借時ご飯できたと床で聞く
1748 ○ 垂乳根の母とおぼしき枝垂れ梅
1749 ○ 純情で乙女チックな枝垂れ梅
1750 ○ 福寿草ヒカリ集めて黄金色

1751 ○ 日溜りで何を唄うか福寿草
1752 ○ 天気良し一家総出の福寿草
1753 ○ 風光る瞳キラキラ新入生
1754 ○ 富士の裾湖畔の宿や猫柳
1755 ○ 待ち人や橋のたもとに猫柳

1756 ○ 風光る山も海も田も畑も
1757 ○ 自転車を走らす田園風光る
1758 ○ 朝採りの野菜天ぷら春の色
1759 ○ ヒヨドリの嬉しげな声春の午後
1760 ○ 鳴く鳥の嬉しげな声春の午後

1761 ○ 百千鳥鳴く声高し春嬉し
1762 ○ ドアの音来客でなく春一番
1763 ○ ドア揺らすお客の気配春の風
1764 ○ 春の夢トカゲは何処だ出ておいで
1765 ○ 豪華さを競う雛段セレブかな

1766 ○ 100均の造花の桃でひなまつり 
1767 ○ 雛飾り由緒語ってはかどらず
1768 ○ お内裏の木目込み人形母の作
1769 ○ つくし出たあわてなくても明日も晴れ
1770 ○ ミモザ咲き胸膨らませる陽気かな

1771 ○ 春北斗見上げて思うかの君を
1772 ○ 野の春や人生劇場流転かな
1773 ○ 春が来た神話に登場ヤタガラス
1774 ○ 水温む若いカラスの孤独感
1775 ○ 後ろから不意にハグされ花ミモザ
1776 ○ 飛びつけど届かぬ先のミモザかな
1777 ○ 飛びつけど老いて届かぬ花ミモザ
1778 ○ 見るとまた夢よみがえるミモザかな
1779 ○ 花ミモザ夢誘うよなたわみかな
1780 ○ ふわふわり風うけ揺れる花ミモザ

1781 ○ 風抜ける路地の塀越し花ミモザ
1782 ○ 竹林に居たか七賢春の風
1783 ○ 遊歩道竹林揺らし風光る
1784 ○ 風光る竹林詠いし詩人あり
1785 ○ 風光る竹林愛した人ありき

1786 ○ 桜守雨空見上げ舌打ちす
1787 ○ あおられて鳥も進めぬ春疾風
1788 ○ 春日影地に描がかれたタペストリー
1789 ○ 陽がそそぐ日陰日溜まり水温む
1790 ○ お花見や白に桃色一重八重

1791 ○ 雨も止みまだかまだかと開花待つ
1792 ○ 何望む欲得忘れ桜見よ
1793 ○ 何得たい欲得捨てて花を見よ
1794 ○ 今年またさくら見れたとぬし涙
1795 ○ 父植えし桜の樹齢同い年

1796 ○ 来歴を樹齢に秘めた桜かな
1797 ○ 思い出が主と重なる姥桜
1798 ○ 桜好きソメイヨシノと桜餅
1799 ○ たんぽぽや他の花には負けるなよ
1800 ○ たんぽぽを詠めば拙句で選句もれ

1801 ○ たんぽぽや花だと知れど踏まれけり
1802 ○ たんぽぽを例えるならば復興かな
1803 ○ たんぽぽや子供のころから見慣れてる
1804 ○ たんぽぽや花と認めて見つめたよ
1805 ○ たんぽぽや写真に撮って飾るんだ

1806 ○ れんげ田に寝そべり仰ぐ空広し
1807 ○ 波打ち際走る二人に春怒涛
1808 ○ 砂浜ではしゃぐ二人に春怒涛
1809 ○ 春涛や波の背に揺れしらす漁
1810 ○ 能登旅ヤセの断崖春怒涛

1811 ○ ほらあれよ子らに教えた花筏
1812 ○ ゆらゆらり酒宴の名残り花筏
1813 ○ ぶらんこや夕日に向かい足を蹴る
1814 ○ 野の春の偉人伝説ここに在り
1815 ○ 犬ふぐりそんな名前の花だとは

1816 ○ 花なのに何て名前だ犬ふぐり
1817 ○ たづぬれば四月半ばの名残り花
1818 ○ 立ち止まり葉桜眺めまた歩く
1819 ○ 葉桜の影を背に受け老婆ゆく
1820 ○ つくねんと見渡す野辺の風薫る

1821 ○ 新緑に胸は躍るが気は重し
1822 ○ 万緑や装い新たに時が行く
1823 ○ なにゆえに早朝に鳴く春の鳥
1824 ○ GWメモリーカードピクチャーに
1825 ○ 県道の舗装現場でソーダ水

1826 ○ 網戸より今年の風もありがたや
1827 ○ 今年竹皮まだ白くまだ白く
1828 ○ 若竹や節の数だけ天に伸び
1829 ○ 若竹やすくすく伸びた初な青
1830 ○ 若竹や静かな調べワルツかな

1831 ○ 残り鴨いつまでここに明日発てよ
1832 ○ 取水にて仲良きつがい残り鴨
1833 ○ 山並みと空と湖青い初夏
1834 ○ 夏きざすさわると温いランドセル
1835 ○ クスノキや剪定されて夏の空

1836 ○ 枝切られ剥げた楠木夏の空
1837 ○ アジサイの青は男か気にかかる
1838 ○ 紫陽花に見惚れて暫し時忘れ
1839 ○ 紫陽花に見惚れて心奪われし
1840 ○ モリカケのニュースが終わり髪洗う

1841 ○ 梅雨入りを待って畔の普請する
1842 ○ 梅雨に入り雨がジャージャー降ってます
1843 ○ 飛行機よどこへ向かうか梅雨晴れ間 
1844 ○ 梅雨晴や飛び立つジェット西に向く
1845 ○ 梅雨の雨豪雨も疲れ弱い雨

1846 ○ 止む無しか七夕豪雨飾り無し
1847 ○ 孟宗竹七夕飾り如何でしょ
1848 ○ 歩くには遠い遠いと蝉が鳴く
1849 ○ 騒がしや鳴きたきゃ鳴けよ油蝉
1850 ○ 切なくて遣る瀬無いのか蝉時雨

1851 ○ ほらあそこ懸命に鳴く蝉見っけ
1852 ○ 鳴き止んだ求愛中のアブラゼミ
1853 ○ 蓮の花生けて捧げたみほとけに
1854 ○ 打ち水や撒く子年ごろ恥ずかし気
1855 ○ うるさくて暑さこたえる蝉時雨

1856 ○ 猛暑極暑酷暑烈暑もういらん
1857 ○ 虫カゴや一匹だけどまごうれし
1858 ○ クワガタや孫と遊べやまた来てや
1859 ○ クワガタを孫とまたねと逃しをり
1860 ○ 蝉が鳴く六年越しの求愛中 

1861 ○ 朝と夜分かっているのアブラゼミ
1862 ○ 期間中鳴いて生きるかアブラゼミ
1863 ○ 朝ぐもりハツユキカズラ花模様
1864 ○ 打ち水や撒く子年ごろ恥ずかし気
1865 ○ 飛行機よどこへ向かうか梅雨晴れ間

1866 ○ 梅雨晴や飛び立つジェット西へ向く
1867 ○ 猛暑日やゴルフする気も失せてまう
1868 ○ 涼しさや俳句に託し涼をとる
1869 ○ 夏惜しむニュースの訃報巨星墜つ
1870 ○ 便りなし梨の礫さお盆まで

1871 ○ 盆踊り今じゃどれも踊れない
1872 ○ 首筋に暑さしのぎの濡れタオル
1873 ○ 朱の鳥居つんざく蝉の読経かな
1874 ○ 早朝の参拝中に蝉時雨
1875 ○ 遠雷や大嫌いだよ空坊主

1876 ○ 精霊や送り団子を味わいて
1877 ○ 軽井沢帰省ラッシュの車列伸び
1878 ○ 道教え連れて行ってよ黄泉の国
1879 ○ ハンミョウや案内しろよよもつくに
1880 ○ 俳句の日子規を偲んで一句詠む

1881 ○ 赤とんぼふらふら飛ぶな橋の上
1882 ○ どこ行った昨日飛んでたアキアカネ
1883 ○ すさまじい音が怖いよ野分哉
1884 ○ 庭に出て名月見とれ蚊に刺され
1885 ○ 名月やすすきも団子もないけれど

1886 ○ 名月や君を偲んで外に出る
1887 ○ ゴルフ場白球が飛ぶ避暑地かな
1888 ○ 風九月ひらひらひらり白蝶草
1889 ○ 風画伯変わるアートさ秋の雲
1890 ○ 変わりゆく雲の芸術秋の空

1891 ○ 秋天や雲を眺めて飽きもせず
1892 ○ 台風めアンテナ倒し憎らしや
1893 ○ 残暑日のバラにようこそ声かける
1894 ○ 雨ユリや秋雨前線待ち望み
1895 ○ 愛しくて秋雨のあとレインリリー

1896 ○ 竜田姫やうやう出番袖を振る
1897 ○ 慈雨の音秋雨前線読書かな
1898 ○ 名月や願い聞かなきゃ名取るぞ
1899 ○ 昆陽池や今はもう秋のどかだな
1900 ○ 待ってたの待ってないけどコブハクチョウ

1901 ○ 耐え抜いて立ち枯れて行く老紅葉
1902 ○ 逢えないねイロハモミジは役終えた
1903 ○ 公園のシンボルだったモミジの木
1904 ○ せせらぎの浅き流れも秋景色
1905 ○ せせらぎやゆっくりがええ秋の音

1906 ○ 曼珠沙華シャンシャンシャンと巫女が舞う
1907 ○ コスモスや風とたわむれ身を委ね
1908 ○ 曼珠沙華咲いて乱れてただ一途
1909 ○ 曼珠沙華命真っ赤に燃え尽くす
1910 ○ 曼珠沙華赤い襦袢が咲き乱れ

1911 ○ コスモスや風とたわむれ身を委ね
1912 ○ 秋の夜に人恋しくてメールする
1913 ○ 名月やビルの谷間に見え隠れ
1914 ○ 名月や明りの下で戯れる猫
1915 ○ 雨だれや心静める秋の朝

1916 ○ 蓑虫や早く隠れろ軒の下
1917 ○ スイッチョンと鳴くな馬追見つかるぞ
1918 ○ 金木犀ああ胸がキュンこの香り
1919 ○ ここかしこ漂う香り金木犀
1920 ○ 通勤中ほのかに香る金木犀

1921 ○ 稲刈りが終わった稲田稲架主役
1922 ○ 稲架掛けの景色と匂い人心地
1923 ○ 秋深しせせらぐ音や絶えずして
1924 ○ 秋映す川面のうねり揺れる恋
1925 ○ ゆらゆらと秋色映る水面かな

1926 ○ 秋澄むや川は流れる橋の下
1927 ○ うなだれてそこがいいんだ花芒
1928 ○ 月見の宴今が主役と花芒
1929 ○ 花芒光を浴びて白がねに
1930 ○ 道祖神案山子の前でいちゃつくな

1931 ○ らしくあれコスモス畑美山町
1932 ○ スリーピース新調したよ秋らしく
1933 ○ らしくあれ君の装い秋らしく
1934 ○ らしくあれ風も爽やか秋らしく
1935 ○ らしくあれ見るものすべて秋らしく

1936 ○ らしくあれ晴れてくれたか秋らしく
1937 ○ らしくあれ里も山河も秋らしく
1938 ○ 山肌よ真っ赤に染まれ秋らしく
1939 ○ 紅モミジ散って真冬を越す備え
1940 ○ 秋星座ペガスス見っけ四辺形

1941 ○  あすなろう影長くして秋暮るる
1942 ○ 川べりを一人ぶらぶら秋日和
1943 ○ 好きな本夜長夜更かし読みふける
1944 ○ 櫨の木の白い実好きか寒烏
1945 ○ 櫨(ハゼ)の木に孤高な姿寒烏

1946 ○ 北風よ鉄塔くんを鳴かすなよ
1947 ○ 平生となんら変わらぬ師走かな 
1948 ○ 寝て起きていつもと同じ師走かな
1949 ○ 何急ぐ師走の客の気忙しさ
1950 ○ 重なり合い地温を保つ落ち葉かな

1951 ○ 木々を抜け落ち葉蹴散らしはしゃぐ子ら
1952 ○ ガサガサと人驚かす寒ガラス
1953 ○ 寒椿一輪挿しや千利休
1954 ○ 山茶花のひたむきさ知る恋心
1955 ○ 山茶花よ夜半にその身散らすなよ

1956 ○ 防寒着脱いで散策陽気良し
1957 ○ ありがたや冬の日向の暖かさ
1958 ○ 何もせずボーとしている師走かな
1959 ○ 淋しさに慣れてはいるが年の暮れ
1960 ○ 演目は夫婦善哉年の暮れ

1961 ○ 背を丸めこたつにもぐる主と猫
1962 ○ 邪魔だから何処ぞ行ってと煤払い
1963 ○ することもなく寝て過ごす師走かな
1964 ○ 白い花雪とコラボの庭の木々
1965 ○ 冬ざれや寂しいベンチ誰を待つ

1966 ○ 冬麗や誰も座らぬベンチかな
1967 ○ 冬うららベンチで飲んだ缶コーヒー
1968 ○ 冬麗や佇むベンチ散歩道
1969 ○ 冬日差すベンチに座る人気なし
1970 ○ 冬薔薇見とれて思うかの君よ

1971 ○ 冬薔薇青い屋根を背景に
1972 ○ 魅惑的ため息が出る冬の薔薇
1973 ○ 冬薔薇香りをかげばほのかなり
1974 ○ 秘めたるは恋の痛手か冬薔薇
1975 ○ 夢持って気分新たに初出勤

1976 ○ 初春や障子の破れ孫一過     IMG_0366.JPG
1977 ○ のんびりとなにするでなし三ケ日
1978 ○ 衣脱ぎ地上に光冬木立
1979 ○ 遠くまで透かして見える冬木立
1980 ○ 冬枯れや風の音さえピアニッシモ

1981 ○ 冬枯れや音無き音に耳すませ
1982 ○ 冬枯れの木立を抜ける羽音かな
1983 ○ 菜の花のおかずたまらぬほろ苦さ
1984 ○ 菜の花のえぐみ苦みがたまらない
1985 ○ 金柑の甘さ知らずに否定する

1986 ○ 食べごろの金柑寂し露に濡れ
1987 ○ 金柑や食べて欲しいと露に泣く
1988 ○ 鎧駅ベンチのふたり冬の海
1989 ○ 冬の海きらめく波濤日本海
1990 ○ 靴跡をたどって歩く雪の朝

1991 ○ 出掛けにはサドルの雪を払いのけ
1992 ○ 冬本番遅延覚悟でバスを待つ
1993 ○ ほらあれよすぐに見つかるオリオン座
1994 ○ 風呂帰り昭和時代の冬北斗
1995 ○ 母の背にねんねこおんぶ風呂帰り

1996 ○ お見舞いの黄花が部屋に春を呼ぶ
1997 ○ ほだされて割ない仲や久女の忌
1998 ○ 店の番暇持て余し餅を焼く
1999 ○ 暖冬のあおりを受けて狂い咲
2000 ○ 平成の終わり噛み締め春惜しむ

 2000句を作ったお祝いに万歳三唱「\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/」

1 ○ 岩礁に波の花舞い便り待つ
2 ○ 北斎の男波の如し寒怒涛
3 ○ 寒怒涛胸も高まる波飛沫
4 ○ 寒怒涛ひときわ高くどんと来い
5 ○ 冬暮れや沈む陽よりも早仕舞い

6 ○ 犬連れて幾年月や雪の道
7 ○ 水鳥や北の国からいつ来たの
8 ○ 青鷺や水辺にじっと春浅し
9 ○ 春浅き青鷺に遭いデジャブかな
10 ○ 青鷺やどぜう待つ身に浅き春

11 ○ 青鷺や真冬の空に舞い上がれ
12 ○ 青鷺やみじろぎもせず冬の池
13 ○ 安らぎとやる気が起きる福寿草
14 ○ 案ずるな元気な黄色福寿草
15 ○ 祝退院窓辺に忘れたヒヤシンス

16 ○ 春なのに北へ帰らぬつがいカモ
17 ○ 旅立たずとどまる気なの春の鴨
18 ○ 昆陽池にいつまでいるの残り鴨
19 ○ 春愁や鼻歌唄い土手の道
20 ○ 春愁や猫につられて生欠伸

21 ○ 春愁やため息ひとつ又ひとつ
22 ○ 春愁やスキップさえも懐かしい
23 ○ 春愁や思い出の道二人行く
24 ○ 春怒涛岩に砕けて白飛沫
25 ○ 北へ行く体力つける通し鴨

26 ○ 残り鴨都会の池が住み良いの
27 ○ 春の鴨北へ行く日でもめてそう
28 ○ ホーホケキョ初鳴き聞けた通勤時
29 ○ 卒業式ダブダブの服初し孫
30 ○ 春鴨のメス知らんぷりオス必死

31 ○ オスが追う求愛活動春のカモ
32 ○ 楽しげにじゃれる春鴨雄と雌
33 ○ 平成の終わりを告げるホーホケキョ
34 ○ 何となく平成惜しむホーホケキョ
35 ○ どこに居て何で鳴いたかホーホケキョ
36 ○ 春日影令和の恩光輝いて 
37 ○ 春日影令和の恩光そこかしこ
38 ○ 春日影温かいのか寒いのか
39 ○ のどかさや亀ものんびり甲羅干し
40 ○ 子が巣立ち嬉し寂しと亀鳴けり

41 ○ 亀が鳴く長生きしてもボケ知らず
42 ○ 亀鳴くやふにゃららふにゃらふにゃららら
43 ○ 散る桜追えばゆれるランドセル
44 ○ ランドセル嬉しさ弾むラッタラッタラー
45 ○ 学童の群れ見て気付く始業式

46 ○ 花散らし雨雨雨が降りしきる
47 ○ 山肌に霞たなびくヤマザクラ
48 ○ 祝うよに桜舞い散る門出かな
49 ○ 週末が来るまで待って花吹雪
50 ○ はかなさよ凡夫の如く散る桜


51 ○ ああ無常あたら散るなよ姥桜
52 ○ 花守や老木の齢数えをり
53 ○ 時を経て世代交代桜守
54 ○ 里山に知る人ぞ知る桜守
55 ○ 暮れなずむ渡り遅れのコブハクチョウ

56 ○ 暮れなずむ池を優雅にコブハクチョウ57548429_2158823130868005_6519423952014540800_n.jpg
57 ○ はぐれ鴨俺もお前もただひとり
58 ○ 残り鴨おいてけぼりか独り身か
59 ○ 残り鴨間に合ううちに北へ飛べ

60 ○ まだ居たの北は遠いぞ残り鴨
61 ○ 連れはどこ寂しくないか残り鴨
62 ○ おいお前ひとり身なのか春の鴨
63 ○ 役目終え名残りを惜しむ桜蘂
64 ○ 見てあげて桜蘂降る幕引きを
65 ○ 掃除番桜蘂降りひと仕事

66 ○ 地に落ちて掃いて捨てられ桜蘂
67 ○ 残る鴨ここに居たいねねぇあなた
68 ○ なぁおまえそろそろ行こか鴨帰る19620198_1389293424487650_4642512235335721854_o.jpg
69 ○ ひまわりの丈に負けじと撮りました
70 ○ ひまわりを見ればみるほど向日葵だ

71 ○ 梅雨まだかエアコン買うか止めとこか
72 ○ アジサイに癒されたくて上の池
73 ○ やまももの赤い実落ちる歩道行く
74 ○ 現代っ子ヤマモモ食えること知らず
75 ○ ひまわりは見ればみるほど向日葵だ

76 ○ ひまわりの丈に負けじと撮りました
77 ○ 碧空と青と蒼色梅雨晴れ間
78 ○ アジサイを一輪生けて時しのぐ
79 ○ チェリーセージ梅雨の晴れ間に蝶が飛ぶ
80 ○ 雨上がり小さな花壇に蝶が飛ぶ

81 ○ 熱帯夜丑三つ時に蝉が鳴く
82 ○ 日が暮れりゃ蝉も眠って明日を待つ
83 ○ 風蘭や色無き風にそよそよと
84 ○ 風蘭の花と香りの悩ましさ
85 ○ 風蘭はエロティシズムなアーティスト

86 ○ 雨上がり芭蕉も詠んだ合歓の花
87 ○ ねぶの花ファンデーションを塗っとくれ
88 ○ お早うさん昨夜寝れたか合歓の花
89 ○ 絶妙な茗荷の妙味旬の味
90 ○ みそ汁の茗荷一切れえも言えぬ     67771686_2335965093153807_6862481930751836160_o.jpg
91 ○ みそ汁の茗荷一切れ妙味あり
92 ○ ひまわりや仲良しこよし姉妹なの
93 ○ ひまわりに添え木を立てて水をやり
94 ○ ひまわりや見惚れるほどの立ち姿
95 ○ やれやれだ台風一過被害ゼロ

96 ○ 秋雲が人に見えると孫はしゃぐ
97 ○ 雲形や何かに見えて秋高し
98 ○ 秋天の雲の形の面白さ
99 ○ 昆陽池や散歩をすると晩夏かな
100 ○  庭眺め昔を偲ぶ晩夏光」

101 ○ 逝去した義母九十六歳晩夏光
102 ○ 虫の音を聞いているよな蓮華升麻
103 ○ 群れて咲く蓮華升麻に秋の風
104 ○ 秋の日の蓮華升麻や楚々として
105 ○ 避暑地にてレンゲショウマの花見頃

106 ○ 蓮華升麻咲いて別れの避暑地かな
107 ○ 避暑地よりレンゲショウマの花便り
108 ○ 咲いて尚馬鹿馬鹿しいと彼岸花
109 ○ いつ咲くか今日は咲くかと曼珠沙華
110 ○ 為せば成る武田信玄曼珠沙華       
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111 ○ 旅客機は西か東か秋夕焼け      
112 ○ 枯葉さん私ベンチよここに来て
113 ○ 紅葉の落ち葉時雨にベンチ濡れ
114 ○ 寂しそうベンチのまわり濡れ落ち葉
115 ○ 枯れ落ち葉ベンチの上にはらはらと

116 ○ 先客は枯葉時雨か木のベンチ
117 ○ ユリカモメ5〜6匹では池寂し
118 ○ ハックション池に一羽のユリカモメ
119 ○ ポピュラーな鳥なのかしらユリカモメ
120 ○ 年の暮れ指折り数え子でねずみ
   (2019年12月27日でここまで)

121 ○ 境内に焚火が高く燃え盛り
122 ○ 燃え盛る焚き火の炎顔に照り
123 ○ 境内の焚き火を囲む詣客
124 ○ 自主性を重んじ望む四方の春
125 ○ コブハクチョウ仲良きつがい明の春

126 ○ 初春や仲睦まじいコブハクチョウ
127 ○ 冬空に轟音残し旋回す
128 ○ かあかあと実の無い枝に寒鴉
129 ○ 丸まると何を食べたか寒鴉
130 ○ なあおまえ何故にメタボか寒鴉

131 ○ 冬枯れや言うに言われぬ侘しさよ
132 ○ 水上に二羽のアオサギ縁起良し
133 ○ 春近しアオサギが舞う池の上
134 ○ アオサギの縁起担いでスピリチュアル
135 ○ 冬景色動かぬ山の鼓動聞く

136 ○ 冬晴れや静かな鼓動土還る
137 ○ 一人でも生きて行けるさ福寿草
138 ○ 見るだけでリラクゼーション福寿草
139 ○ 夢一つ叶えさせてよ福寿草
140 ○ 一つ咲き今を生きてる福寿草

141 ○ 藍色や愛しき花よ蛍草
142 ○ 花栞路傍に咲いた蛍草
143 ○ 蛍草誰を偲んで夜を待つ
144 ○ 愛しさと青の優しさ蛍草
145 ○ 主は無しひっそりと咲く蛍草

146 ○ 見上げれば口笛も出る木の芽晴れ
147 ○ 木々たちよ何をささやく木の芽風
148 ○ 青空に陽気とやさしさ木の芽時
149 ○ ムスカリやそろそろ春の季語になれ
150 ○ ムクムクとムスカリの群れ春の風

151 ○ ムスカリに目を奪われし今朝の春
152 ○ 
153 ○ 
154 ○ 
155 ○ 

156 ○ 
157 ○ 
158 ○ 
159 ○ 
160 ○ 






posted by てらけん at 20:20| Comment(6) | 俳句を綴っています。 | 更新情報をチェックする

2020年01月07日

てらけんのシンプルゴルフP13!。


  「この動きを真似ろ」

  ゴルフスイングを難しく考えて欲しくないので、

  解りやすい解説と動画をアップしています。

  動画の解説と動きを理解して練習に取り入れて下さい!^^)。

  てらけんのシンプルゴルフP12ではなくてP13でした!。

  

posted by てらけん at 11:46| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

2019年12月23日

「ルームレンタル」五時以降は時間貸しをしています。


「ルームレンタル」

五時以降は時間貸しをしています。

17:00からこの場所を活用してください!。

17:00から1時間当たり1500円でお貸しします。

CIMG2145.JPG





posted by てらけん at 09:41| Comment(0) | ★貸し切り&レンタルルーム | 更新情報をチェックする

2019年12月05日

一次予選にも通らず見事に落選「はんぶんこ」


  短編小説です。気が向いたら読んで見て下さい!。


  『はんぶんこ』タテ書き



     『はんぶんこ』 寺沢憲重

   その日は梅雨入り宣言がされた日で、室内は蒸し暑く、外では
  雨がしとしと降り、庭を見ると青や紫やピンクに色づいたアジサ
  イの花弁が濡れた重みでしなだれていた。
   それを見た智世(ともよ)は、アジサイを切り花にしようと思
  い立ち、傘をさして庭に出た。
  アジサイの青色と紫色と二本を切って戻ると、洗面所で二十p位
  の丈に切り、口の細い花瓶に生けた。
  「フフフフ〜ンフフフフ〜♪フフフフ〜ンフフフフ〜♪フフフフ〜
  ンフ♪フ〜フフフ?フフフ〜フ〜フ〜フ♪フ〜〜〜」
  『人生いろいろ』を鼻歌しながらリビングに戻り、テーブルの上
  にアジサイを飾った。
  「さてと、今日どうしようっかしら、あらっそうだわ! 読みか
  けの小説があったわ」
   本棚から夏目漱石の小説を取り出しソファに腰掛け栞が挟まれ
  たページを開けた。
   二〇〇八年十二月二十二日に発行された『別冊宝島・名作クラ
  シックノベル夏目漱石』『坊ちゃん』『夢十夜』『こころ』『硝
  子戸の中』の四篇が載っている。
  帯には−−もう一度読みたい。−−と書かれていた。
   智世は挟んであった栞を取ってテーブルに置くと『上 先生と
  私』に続く『中 両親と私』の(一)から読み始めた。
  「青年(私)が父親の様子を伺いに実家に帰ったのね、息子が卒
  業した父親の嬉しい気持ちとはそういうことだったのかぁ、なる
  ほど」
  と、胸のうちでつぶやいた。−−
   しばらく読み進めていると、紅茶が飲みたくなり、台所でお湯
  を沸かしていると、着信音のスカボローフェアのメロディーが聞
  こえたので、ガスコンロの火を止めて携帯を見ると、着信の相手
  は夫の雅章(まさあき)だった。
  「−−もしもし、おはよう」
  「あら! あなたどうしたの」−−
  「昨日の研修会は勉強になったよ。今からセミナー会場に行くん
  だけど、せっかくだ田舎に来たんだから、久保順平(くぼじゅん
  ぺい)と連絡を取りたいんだけど、あいつに電話をするときはい
  つも家の固定電話からかけてるから、電話帳を見てかける癖がつ
  いちゃって、携帯に登録してないんだよ、名簿を見て久保順平の
  番号を教えてくれないか」
  「はい、はい、解ったわ」
  〈どうしてこの人は、私に気を使うようなモノの言い方をするの
  かしら? もっと端的に、久保順平の電話番号を教えてくれない
  かって言えばいいのに〉と、智世は思いながら名簿リストをめく
  り、カ行を開け、久保順平の電話番号を見つけて教えた。
  「ありがとう。今夜は何時に帰るか分からないから、晩ご飯は先
  に済ませていいよ」
  「承知しましたわ〜−−ごゆっくりどうぞ」
   智世は不満を口に出さないで、わざとらしくもったいぶった言
  い方で返事をした。
   IT業界セミナー、インターシップ情報、IT業界に挑戦したい
  人のセミナー、IT業界に関する就活セミナー、IT業界への転職
  の際に役立つセミナーなどを調べ、最近はIT業界に関心を持って
  いるようけど、あの人には無理ね。
  「俺はIT業界に進出するゾォ〜」
   て、−−雄叫びをあげていたけど、−−すぐに音を上げるわ、
  −−あのボンクラにはIT業界は無理よ。
  −−台所に戻って、ガスコンロのスイッチを入れ、お湯が沸騰
  するのを待った。
  沸騰したお湯をティーカップに注ぎ、ティーバックを入れ、香
  りを逃さないように受け皿でフタをして蒸らしてから、ティーバ
  ックをゆっくりと半回転させそっと取り出した。紅茶の渋みがき
  つくならないように、お湯の中で揺さぶったりスプーンで押した
  りしないのが、紅茶を入れる時の智世流のこだわりなのだ。
   リビングのテーブルの上にティーカップを置いて、ソファに座
  り伏せていた本を手に取り、紅茶を一口すすり、−−ふ〜と一息吐
  いてから、夏目漱石の『こころ』をまた読み始めた。
   智世は人間心理をテーマにした作品であると評された『こころ』
  と題した青年(私)の手記を何としても読破して、人間心理
  の二面性を解き明かしたいと思っていたのだ。
   だが、−−なのにも関わらず、−−わずか五ページしか進んでい
  ないのに欠伸が何度も出た。「学問をさせると人間がとかく理屈っ
  ぽくなっていけない」(178頁引用)と言った父の言葉を読ん
  で、納得したかのように頷くと、−−ソファの上でそのままうたた
  寝をしてしまった。
   夫がいないことをいいことに、自分だけの時間を好きなように
  過ごすのだと思っていても、−−いつもの生活パターンの炊事洗濯
  清掃などの雑用を主婦は手を抜くわけにはいかない。
   主婦業は朝のうちにちゃんと済ませ一人の時間をゆっくり過ご
  していたのだが…… 
    −−その時!
   玄関のチャイムが鳴り響いた。
  その音で起こされてしまった。もうちょっと寝かしてくれていた
  らよかったのにと、思いながら子機を取って耳に当てると、−−
  「野沢さぁん、−−回覧板です」
  「は〜い、郵便受けに入れといてください」
   なんでこの人ったらいつも、回覧板でいちいちインターホンを
  押すのかしら? 
  郵便受けに差し込んで帰ればそれで済むのにィ。−−
   気持ちよく寝ていたのを起こされた不機嫌さもあって、つい口
  をついて愚痴が出た。
  雅章は飲んで遅く帰っても、温めのシャワーで全身を洗った後、
  「ああ〜腹減った。何か食べるものあるぅ」
   と言うのがクセである。
   「今夜もきっと、言うに違いないわ」−−
   買い物にちょうどいい時間だし、智世は出かけることにした。
  部屋着を脱ぎ外出着に着替えると、三面鏡の前の椅子に座り、手
  のひらにファンデーションを適量とり、指先で頬とひたいにちょ
  こんと着け顔全体にまんべんなくのばすと口紅を塗り、上唇と下
  唇を軽くこすり合わせると、ものの一分ほどで化粧を済ませエコ
  バッグに財布を入れ玄関を出た。
   商店街に入る手前にある駐輪場に自転車を停め、つい最近リニ
  ューアルオープンしたKスーパーのあるアーケード通りに向かっ
  た。
   歩きながらリニューアルオープンしてすぐに買い物に来たと
  き、お客様のレジ待ち時間の短縮を目的に導入したレジのシステ
  ムで、レジ係が商品登録のみを行い、会計はお客様自身が行う
  「セミ セルフレジ」に戸惑いちょっともたついたことを思い出
  した。−−
  「何でも便利になれば良いてもんじゃないわ」 
  とひとり言を言って、なんとなくアーケードの天井を見上げた。
  新装された天井が晴れた日の青空の様にスッキリといい感じにな
  り、透明感のあるアクリルの水色に見とれた。
  「あらまぁ! −−今まで気づかなかったわぁ」
   Kスーパーに入店しカゴを持って売場全体を見渡しながら、夜
  食を何にしようかと考え二、三歩歩き出して閃いた! 
  「今夜はあんかけ卵とじうどんにしよっと」−−
  消化が良いし、冷蔵庫の残り野菜をたっぷり入れて……、
   冷凍うどん五玉、玉子ワンパック、白ネギ、白菜、トースト、
  トマト、その他をカゴに入れレジを済ませ、エコバッグに買った
  物を入れていると、智世の横にレジを済ませた人が立った。ふと
  横顔を見ると昔からの知人だった。相手も顔を向け、お互いに目
  が合い、どちらからともなく、
  「あら! お久し振りね」−− 
  「こんにちは。お元気そうで」−−
   十五、六年前まで母と一緒によく買い物に行っていた果物屋の
  おばちゃんで、お店を辞めた後も、ちょくちょく街中で会う人だ
  った。
  「わたしさ、ここで美味しいと評判のチーズケーキを買ったの
  よ、急いでなかったら、あそこで、いっしょにお茶しながら食べ
  ません」
  「あら! よろしいの」
  「ご遠慮なくどうぞ」
  「じぁ、お言葉に甘えて」
   電子レンジに電気ポット、給茶機にカウンターコーヒーを設置
  し、お買い上げいただいた商品をゆっくりとお召し上がりいただ
  けるという『くつろぎ広場』で二人は休憩した。
  「智世さんでしたよね、智世さんのお母さんには大変お世話にな
  りました。いちじくがお好きで、旬の時期には毎日の様に買って
  もらいましたわ」−−
  「いいえ、こちらこそ、いつもおまけしてもらって、母は果物が
  大好きで果物が無いと生きてはいけないって、果物には生命活動
  に欠かせない栄養分の酵素が含まれていてそれを摂取するのが健
  康維持になるのよって、しょっちゅう言ってました」−−
  「その酵素のことをお客さんに教わったの、お客さんは食後より
  も、食前に果物を食べて酵素を摂った方が効果的だと教えてくれ
  たの、それで、−−果物屋が酵素のことを知らないのではいけない
  と思って、『新谷弘実』先生の本を読んで勉強したのよ、酵素が
  寿命を決める。−−生きた酵素は食事を通じて摂取することが重要
  なんだって書いてあったわ」
  「ミラクル・エンザイムよね、現在は酵素の知識は随分世の中で
  知られているわねっ」
  智世は話をしながら、しげしげと果物屋のおばちゃんの顔を見て
  時の移ろいを感じた。
  「おばちゃん、おばちゃんが店を閉めてから商店街もずいぶん様
  変わりしたわよねぇ」
  「そうだねぇ、隣の花屋に向かいのお菓子屋に、その隣のカシワ
  屋に奥の豆腐屋も鮮魚店も商店街の真ん中にあった肉屋も隣の八
  百屋もその向かいの履物屋に布団屋に洋服店に、−−皆んなおらん
  ようになってしもうた。
   人通りが全盛期の五分の一ほどでは小売店はやっていけない
  よ、大型店舗があっちこっちにぎょうさん進出して来たさかいや
  ねぇ」
  「男はつらいよの渥美清さんそっくりの肉屋のおっちゃん、あの
  肉屋のコロッケはうまかったねぇ、−−威勢のいい魚屋の〈さわら
  が旬でっせぇ〜おいしいさわらが入ってまっせぇ〜新鮮で刺身が
  おいしいでっせぇ〜〉と呼び込む魚屋のおっさんのダミ声、愛想
  のない花屋の兄ちゃんとか懐かしいわよねぇ」
  「お客と商売人といろんな話ができて、対面販売にはそれなりの
  良さがあったわね」
  「そうね、現代人は人間同士の触れ合いが希薄になってしまい、
  どこか寂しいわねぇ」
   新しい時代のニーズに対応して、市場はマンションに建て替え
  られ、医院や保育所ができ、飲食業や各種サービス業が増え、商
  店街は変貌しながら、町と共に歩み続けていた。

   その晩、セミナーに参加した雅章が、−−
  「あぁ疲れた、−−疲れた」
   と言って遅くに帰って来た。
  「セミナーでは、インターネット業界、WEB業界、情報処理サー
  ビス業界、ソフトウェア業界、ハードウェア業界に分類し、それ
  ぞれの内容を説明されたけど、−−俺のスキルを発揮できるような
  感じではなかったから、−−途中で辞めて出た」
  「えぇ! もう諦めたの〜早!」
  「新しいことに挑む時は、やり始める勇気が必要だが、諦める勇
  気も必要なんだよ」
  「諦める勇気ね、あなたの場合は面倒臭いと思ったら、さっさと
  やめちゃうのよねぇ、人生この先まだまだ長いんだよ、−−今後ど
  うするの」
   雅章は着ていたものを脱ぎながら、−−
  「そうやって今日まで生きてこれたんだからいいじゃないか、
  〈捨てる神あれば拾う神あり〉って昔から言うだろう。次に何を
  始めようかと悩み、人生のターニングポイントで葛藤し迷った時
  に、−−前に進むばかりではなく立ち止まって自分と向き合い、諦
  めるのも大事なんだ。−−世間は広い悲観的にならず運気が上がる
  流れを待つのも生きるための占術だよ」−−
   それだけ言うとバスルームにとっとと消えた。−−
  たまたまネットで、雅章の出身地に近い能登島の「島の宿」でセ
  ミナーがあることを知り、能登島で開催されるのなら行って見よ
  うかという気になり、研修会と翌日のIT業界関連のセミナーに参
  加しに行って来たのである。
   雅章はシャワーを浴びてパンツ一丁になり、−−
  「ああ〜腹減った。−−何か食べるものあるぅ」
  「ほうら来た! 」
   と智世は胸のうちで言った。
  「はぁい、パジャマに着替えて待っててね、すぐに作るから」
   そう返事を返し、ガスコンロのスイッチを入れた。熱くなった
  出汁と水溶き片栗粉を混ぜた鍋に、自然解凍で生うどんに戻した
  1玉を入れた。野菜を入れ?が茹で上がるころ、溶き卵を手早く
  混ぜ、三つ葉を散らし、おろし生姜を添えて出来上がり。
  「はいどうぞ、あなたの好きな、あんかけ卵とじうどんですよ
  ぉ〜」
  「いっただきまぁす。−−熱! おいしいねぇ〜」
  「料理のコツはさぁ、片栗粉はだし汁で溶くのよ、生うどんは茹
  でてから入れるんじゃなくて野菜と一緒に入れるの、その方がう
  どんに出汁が沁みて野菜は煮詰め過ぎなくてすむのよ、卵とじは
  沸騰しているうちに高い位置からたらせばふわふわに仕上がるわ
  よ〜」
  「ふ〜ん、おいしいよ、おいしいけどさ全部は食べられないな
  ぁ、半分こしようか」
  「いいわよ、−−食べられる分まで食べて」
  「そう言えばさぁ、−−和倉駅のキヨスクがなくなって自動販売
  機と和倉温泉観光案内所になってしまってた。駅弁もあのおいし
  かった『えんがら饅頭』も買えなくて、横のお土産屋さんで売っ
  ていたサンドイッチとビールを買って、福井県の九頭竜川を渡っ
  たあたりで、−−食べたんだよ」
  「じゃぁ、三時間ほど前に食べてるじゃん」
  「そうだね、消化が早いのか? というよりも、家に帰ると安心
  して智世の作ったものを食べたくなるんだよ、−−パブロフの犬
  の条件反射といっしょだね」
   そう話している二日ぶりの雅章を見て、研修会とセミナーで何
  を勉強し、何に刺激を受け、何を得て来たのか、分からないが、
  
何故か? 男の頼もしさを感じ、久しぶりに胸がキュンとし、疼
  くものを感じた。
   雅章が半分残したあんかけ卵とじうどんを食べ終わり、丼を持
  って台所に立って、
  「あなたまだ寝ないでしょ、−−もっと話を聞かせてね」
   と声をかけ、丼を洗いお風呂に入った。
   智世がお風呂から出る頃には、雅章は寝室で寝息を立てて深い
  眠りについていた。
  「なぁんだ、もう寝ちゃったの」
   期待が外れ、智世はがっかりし、ツインベッドの一つに、そっ
  ともぐった。

   翌日、朝食にハムエッグトーストとりんごの薄切り入りの野菜
  サラダを食べ、マグカップに淹れたコーヒーをすすりながら、雅
  章が昨日のことを思い出し喋り出した。
  「セミナーの午前中の部が終わって、久保順平に電話をしたら、
  セミナー会場まで会いに来てくれたよ。あいつは長男だから実家
  の電気屋を継いだんだ。家庭電化製品の販売は大手販売店に敵わ
  ないから、主な仕事は配線工事とか空調設備の設置なんだ。猛暑
  になると忙しくなるが、梅雨に入ったばかりのこの時期はまだ暇
  なんだって、すぐ近くにいい店があるからお昼をそこで食べない
  かと誘われて、能登島から中島町へ『ツインブリッジのと』を渡
  って、道の駅中島ロマン峠にある『峠茶屋』で和定食を食べたん
  だよ、地元の野菜って聞いただけで美味しく感じたねぇ」 
   雅章は珈琲を飲み『峠茶屋』で食事をしながら久保順平から聞
  いた話を喋り始めた。
  「ひでえもんだよ」−−
  「何よ? 何が酷いの?」−−
  「田舎の現状を聞いたんだけど……、想像を絶するね、限界集落だ
  って嫌な言葉だよ」
  「限界集落、−−そうね聞きたくないわね、過疎化の問題ね、どこ
  も高齢者ばっかりだもの、地域活性化だなんて、−−いくら言って
  も現実的には無理ね」
  「はぁ〜って、−−溜息が出るよ。社会的共同生活の維持が困難な
  集落は消えて行く運命なんだ。この先の日本はどうなるんだろう
  なぁ? 順平が言うにはさ、山間部に行けば、住んでた人が居な
  くなった家屋の屋根や土壁が崩落し、村の奥の山手の大半は廃屋
  同然だって。
   昔はさぁ稲刈りが終わると、脱穀機のある共同米倉庫の横の広
  場で村の住民を六班に別けてチームを作り、景品が出るバレーボ
  ール大会をしてたんだぜ、それが今では年寄りが住んでる家が十
  軒ほど残っているだけで、そのほとんどが一人暮らしなんだっ
  て、−−胸が苦しくなって泣けてくるよ」
  「廃墟とか廃屋を探索して写真を撮っている写真家がいるけど、
  人が消えた家屋が長年の過酷な自然の風雨にさらされ朽ち果て、
  天井は突き抜け、壁が崩れ基礎がむき出しになり、どの建物も、
  
今にも屋根ごと崩れ落ちそう。あんな写真を見ると切なさを感じ
  身につまされるわ、退廃美とか美廃墟とかは、私には解らないけ
  ど、朽ちた建物が何かを訴えている気がするわね」
  「そうだね、そこに生活していた人々の無念さのような思いが伝
  わってくるよね」
  「で、−−あなたの育った町はどうなの?」
  「一見、町並みは変わってないようだけど、商店街の通りは閑散
  として、店じまいをした店が増え、空き地になっている箇所もチ
  ラホラあるそうだよ、僕が高校を卒業した頃までは、あんなに栄
  えていた商店街も、買い物は大型スーパーに車で行ってまとめ買
  いするから、小売店はやっていけなくなったんだって」
  「−−日本全国がそう言う傾向よねぇ」
  「テレビではスローライフの田舎が暮らしがいいように取り上げ
  られているけど、そう甘くはない、過疎化がすすんでいる地域に
  移住したら将来が不安だよ、仕事がなく収入が激減し、お年寄り
  との付き合い方も大変で、田舎暮らしの理想とはかけ離れてい
  て、失敗した例も多いんだってさ、残念な話だけどね」
  「地元の人に溶け込めなかったり、農業で独立するのも簡単では
  ないし、自然が豊かなだけでは食べて行けないものね、……」
  「お年寄りの面倒を見る人が居ないから、介護難民の問題もクロ
  ーズアップして来てるんだ。高齢者の面倒を見てケアする地域密
  着型の介護が必要とされているんだよ。
   久保順平は偉いよ、アルツハイマー型認知症の母親を最後まで
  自宅介護を続けて看取ったんだって、−−その話を聞いて感動し涙
  が出たよ」
  「認知症の親を介護している話をよく耳にするようになったわ、
  介護する方もされる方も、両方ともお気の毒だけど、あなたも私
  もいつ認知症になってお世話になるか? 分からないけど……、い
  ずれは行く道だから覚悟していないと、どっちが看ることになる
  かしら、−−お世話するのもお世話になるのも嫌だわ」
  「誰にも面倒を掛けさせたくないって願ってるけど、こればっか
  りは分からないさ」
   雅章は最後のコーヒーを一口飲んで、−−
  「順平がさ、おいしいものを食べさせてやろうと思って、母親に
  能登牛の柔らかくておいしいのを食べに行こうかと聞いたら、喜
  んで行きたいと言ったんだって、温泉に浸かってから焼肉を食べ
  させてあげようと思い立ち、富来町にあるピラミッドのような形
  の建物で、『シーサイドヴィラ渤海』という宿泊施設の日帰りの
  温泉を利用して湯に浸からせ、その近くの小高い場所にある焼肉
  レストランに連れて行き、サーロインステーキを食べさせたんだ
  って、順平の母親は、サーロインステーキが柔らかくておいしい
  と言って喜んでたってさ。
  レストランの二階から日本海が眺められ時折、潮風に乗って窓か
  ら海の匂いがした。
   海の匂いがすることに気付くと、親父がまだ生きていた頃に、
  海水浴で遊んだ昔のことを思い出し、認知症の母親が話し始め
  た。
  順平の記憶の思い出と重なり、母親の記憶が鮮明に蘇っているこ
  とに驚いたって。
   海の匂いで記憶が呼び起こされたのかも知れない、−−人間って
  不思議だよなぁ、
  アルツハイマー型認知症でも、−−匂いを嗅ぐと記憶が蘇るんだ
  ね」
  「それ! 聞いたことがあるわ、花の匂いを嗅いで以前に行った
  場所を思い出したり、嗅覚を刺激するのは、認知症の脳にいいん
  だって」
  「お肉を食べ終わると、母親は若い頃に見た日本海に沈む夕日を
  見たいと言い出したので、志賀町の『サンセットヒルイン増穂』
  の近くにある『世界一長いベンチ』に母親を案内し、日本海に沈
  む夕日を見ることにした。
   その長いベンチは全長460.9Mあって、日本海に沈む美しい夕
  日を多くの人達に見てもらいたいという強い希望から、地元の多
  くのボランティアの手によって作られた名所なんだ。
  母親は日没までずっと喋り続け、自然現象の絶景のサンセットが
  始まるのを待った。
   その日は運が味方をしてくれたのか、年に一、二度見られるか
  どうかというぐらいの、大きなだるま太陽が現れた。順平の母親
  は夕日で頬を赤くし、胸の前で両手を合わせ小さく叩いて、両手
  を合わせ拝んだ。薄く覆った雲を黄金色と真っ赤に染めた美しい
  夕日がゆっくりと日本海に沈んでいった。
   母親は潤んだ瞳を光らせ、口元には笑みを浮かべ、穏やかな顔
  を順平に向け、−−
  〈私は夕日が沈むように死にたい〉と言った。 
   その時、何故そんなに悲しいことを言うの、何故そんなに暗い
  ことを言うのと思ってしまい、−−さげすむような目で母親を見て
  しまった。
   そして介護を続け最後まで看取った時に、−−〈私は夕日が沈む
  ように死にたい〉と言った母親の声が聞こえた。母親が亡くなっ
  てから、〈私は夕日が沈むように息を引き取りたい〉そう言う安
  らかな心情を伝えたかったのだろうと、あの時の母親が言った言
  葉の意味を理解できた。
   最近では、母親に寄り添い最後まで看取ることができたことの
  幸福感を沸々と味わえるようになってきたんだと、笑顔を僕に見
  せ、今思えば母親の介護を続けてきた五年間の日々は、−−あの夕
  日が沈んだ後の僅かな時間に変化していくブルーのグラデーショ
  ン。−−穏やかで無心になれる時間、−−何とも言えない残照の明
  りの中に居たような気がするんだ。と久保順平は言ったんだ。
   母親の行動や言動にイライラすることがたび重なり、それがスト
  レスになり、自分が心身ともにボロボロになる前に介護サービスを
  受けさせようかとも思ったが、現状から逃げることは母親を見捨て
  るような罪悪感に悩まされ気持ちがふさぎ込んでしまった。
   そんな時に、観音さまが目を開けるでもなく閉じるでもない状態
  の半眼には、半分は外の世界を見て、半分は自分自身を見つめてい
  るという意味があったことを思い出した。
  −−それからというもの半眼というヒントから、なんでも目一杯の
  100%ではなく、−−半分の50%でいいんじゃないのか、−−と悟
  ったんだよ。
   たとえば、母親の行動や言動を半分に受け止め、母親に対する
  イライラを半分に迎え、母親を叱るときの口調も半分は優しさに
  変え、言ったこともしたこともすぐに忘れてしまう認知症に対し
  て、−−悲しまず感情的にならず半分は笑って過ごそうと努めたら
  余裕を持てるようになり、ストレスを感じなくなった。
   そうしていると、母親の体調が良い日は笑顔が多く、〈ありが
  とう。助かるわ〉って、感謝されるようになったんだって、そん
  な話を聞くとさ、介護って厄介なことばかりじゃないんだと思え
  たね、もちろん厳しい現実もあるけどさ、順平の話を聞いて、そ
  んな親子の関係を過ごせた日々に無量の幸福な時間があったのだ
  ろうと思ったよ」

   雅章は定年退職後も働く意欲が充分あるのだが、自分が理想と
  している就職口はなかなか見つからないでいた。
   その日も、ハローワークに出かけた。
  家にいても退屈だから、就職口を探しているんだという気休めに
  来ているようなもので、ここぞと思える就職先が見つかるとは思
  っていない。求人票に目をやり、日本の雇用情勢はどうなってる
  んだ? カラ求人も多いと聞くが? 求人件数は増え仕事はいく
  らでもあるって本当なのか? 採用率が四分の一だなんて実態は
  悪化してるんじゃない? と小言を呟き、職安を出ると昆陽池公
  園に向かった。
   老化は足からという足腰の筋肉が衰えると、ちょっとした段差
  でもつまづきやすくなり転倒し、骨折すると回復するまでのリハ
  ビリが大変だと聞く、だから散歩が健康にいいんだ。一周約2キ
  ロ程の昆陽池公園の散歩を終え、171の歩道橋を超え市役所の西
  側を通り警察署の南側にある喫茶スナック「パープレイ」に寄っ
  た。
   店に入るとチーちゃんだけだった。
  「何飲みますか」
  「コーヒーちょうだい」
  「はい、どうぞ」
  チーちゃんはデンモクとマイクを雅章の前に置くとコーヒーを淹
  れに店の奥に移った。
  デンモクで新沼謙治の「ヘッドライト」を入れた。伴奏が始まる
  とチーちゃんが、
  「うち、この歌好きやねん」
   そう言われて気を良くして歌えた。他に誰も居ないのをいいこ
  とに、続けざまに好きな歌謡曲を五、六曲歌い五時近くになった
  ので、−−
  「よしこれでラスト、チーちゃんデュエットしてくれる。『北空
  港』を入れるから」

  (女)♪夜の札幌 −−−−−−♪
  (男)♪これからは−−−−−−♪
  (男女)♪−−−−−− 北空港♪

   デュエット曲を歌い終わるとチーちゃんにじゃあ又ねと言って、
  帰路に就いた。
   家に帰ると智世はソファの上で仰向けて、夏目漱石の『こころ』
  を読んでいた。
  「おやぁ〜まだその小説を読んでるの」
  「まだやなんて、『下の先生と遺書』を読んでる途中よ、だって
  遺書が長いんだもん」
   智世はこんなに長い遺書がかつてあっただろうか、罪悪感に苛
  まれ自分を追い込んでしまった先生の心は病んでいたのだろうか
  と案じ、重苦しい虚しさを感じていた。
   雅章の悪いクセで知ったかぶりが始まった。
  「人間の心の闇を繊細に表現してるんだろうけど、読んだ人の見
  解が変わるというか? 意見や評価が分かれる作品だね、あんな
  ことで……、自殺する人間のエゴイズムってどうなんだろう? −−
  腑に落ちんなぁ」
  「もう何も言わないでよ、まだ読んでいる途中なんだから、印象
  深い名台詞もあるのよ、−−『精神的に向上心のないやつは馬鹿
  だ』と、−−『恋は罪悪ですよ、よござんすか。そうして神聖なも
  のですよ』この二つがお気に入りなの、−−今のところしっくりし
  ないから、最後まで読んで、−−しっくりした気持ちにさせてよ」
  「しっくりしないよ、−−無駄だと思うな」
  「うるさいわねぇ、ほっといてよ、私は私で、家事の合間の楽しみ
  として読んでいるんだから、−−そんな気持ちを逆なでしないでよ」
  「いや、そんなつもりで言ったんじゃないよ、その小説に対して、
  一家言持っていたもんだから、つい要らんことを言っちゃったね」
  「あなた、私と何年一緒にいるのよ」
   智世は怒るとヒステリックになり、あなたはあの時はこうだっ
  た。この時はこうだったと、昔のことまで蒸し返し、あれこれと
  引っ張り出し、怒りが増幅し、ああだこうだと雅章を甲高い声で
  叱責し罵倒し始める。−−
  「だいたいね、−−あなたには思いやりとか愛情が欠落している
  のよ。自分の都合のいいように生きて来たんだから、−−私に対
  しては、
気持ちには気持で返してよ。心には心で返してよ。
  
−−愛には愛で返してよ。−−笑顔には笑顔で返してよ。
  
−−私に対する思いやりを忘れないでよ」 
  終いには自分が何を言っているのか分からなくなってしまい我に
  帰るパターンなのだ。 
   そうなると雅章は大人しくして、〈さもありなんむべなるかな〉
  といった体で頷きながら、智世の気が収まるまで黙って聞いてい
  るふりをする。 
   嵐が去った頃合いを見計らって、雅章が切り出した。
  「料理だってさ、甘過ぎても辛過ぎてもあんばい悪いだろう。世
  の中の平和も夫婦円満も適当なところで半分こがいいんだよ、言
  いたいことも半分で、怒りも半分こに抑えて我慢する」
  「あなたって、半分こが好きねぇ、それって半分腰が引けてんじ
  ゃないの、−−半分こにするって無責任に感じることもあるわ、
  でも、−−なんでも半分づつ譲り合うと言う意味に於いて、半分
  こはいいわね、−−相手への思いやりにも通じるし、自分自身の
  辛いことや悲しいこと悩みごとなどメンタル面の緩和にもなるわね」
  「久保順平の話を聞いて、気づいたんだよ。夫婦円満の秘訣、持
  ちつ持たれつ無償の愛は、−−見えるものも見えないものも、−−
  分けられないものもわけれるものも、〈人生なんでも半分こ〉に
  分け合う生き方が、良いんじゃないかと悟ったんだ」
  「気づかないままでは悟れないものね、あなたの言わんとするこ
  とは何となく分かるわよ、だから転職先が見つかるまで、お小遣
  いも半分こね、私はお箏を習うからお月謝がいるのよ、だから、
  お小遣いも半分こにしようね」
  「おい、智世それはチョッと待って、話がおかしくなってるよ、
  なぁ解釈を間違えてるよ、智世、小遣い減らすのは勘弁してくれよ」
  「じゃあ、私を〈大きなだるま夕日〉で有名な富来町に連れて行く
   って約束してよ」
  「わ、わかったよ、−−いつか必ず連れてってあげるから」
  「相手の意見を聞いて、譲り合うのも半分こよねぇ」
   智世は即興で節をつけ歌い出した。−− 
   人生なんでも半分こ♫ 楽しみ喜こび半分こ♫
   奪い合わずに半分こ♫ 苦しみ悲しみ半分こ♫ 
   怒りも不満も半分こ♫ 愛し合うのも半分こ♫
   ♫フフフフ?フフフフ?フフフフフ♫♫♫                      
             「完」
 

 
posted by てらけん at 09:17| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

2019年11月29日

てらけんが書いた小説を読んでみてください!。

  
     2019 

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     人は抗うことのできない運命という流れに翻弄され、

    否応なしに生き方を変遷していくものなのであろうか……?


     運命の流れの中で.rtf縦書: 寺沢憲重


     運命の流れの中で.rtf横書: 寺沢憲重





posted by てらけん at 18:12| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

2019年11月27日

てらけんこと「寺沢憲重」の短編小説!『歌碑のある小さな島』


 偶然にも!、読売新聞に七尾市の「机島」の紹介記事が・・・!。

  てらけんが書いた短編小説と重なりご縁を感じました!。

 tukuesima.jpg

   クリックすると拡大し読みやすくなります。



 『歌碑のある小さな島』 

 野中信嗣様の感想文を添えて、野中様ありがとうございました!。


 こちらは縦書きの⇨『歌碑のある小さな島』です。

 
     『歌碑のある小さな島』      寺沢憲重

  石倉和男(いしくらかずお)の仕事はフリーのライターである。
 仕事の内容は記事を書くために必要となる情報をリサーチしたり、
 執筆に必要な取材を行ったり、資料を収集し、書く目的と誰に読
 ませるかを考えた上で、その内容を記事にまとめて執筆する。
 記事が書きあがったら、依頼者のチェックを受け必要に応じて文章
 を修正しOKが出たら仕事の完成である。
  此のごろ、雑誌、書籍、Web、フリーペーパーなどからの仕事の
 依頼がこなくて、その日は、暇潰しにネットサーフィンをしていた。

 ――新元号「令和」の考案者は、文化勲章受章者で国際日本文化研
 究センター名誉教授の中西進氏(八十九)との見方が一日、専門家
 の間で浮上した。中西氏は共同通信の取材に、当初は明言を避けて
 いたが、公表が近づいた三月上旬になって「私は関係していない」
 と否定している。
  中西氏は東大大学院修了。万葉集が専門で大阪女子大学長や京都
 市立芸大学長などを歴任した。二千十三年に文化勲章を受章。
 著書に「万葉集の比較文学的研究」「日本文学と漢詩」などがあり、
 日本古典と中国古典双方に詳しいとして研究者の間で評価が高い
 ―― と書かれている共同通信のページを見た。

  記事に掲載されている顔写真を見て、富山市にある高志の国文学
 館に訪れた時にお見かけした中西進館長! だと直ぐに気づいた。
  そっかぁ! 中西進氏は万葉集の大家だったのか、あの時にツー
 ショット写真を撮って握手でもさせて貰えば良かったと後悔した。
  万葉集は中学の国語の教科書で習ったが、さして興味はなかった
 のに俄然興味が湧き、ネットで〈万葉集〉と検索してみた。
  いくつか表記されたうちの、フリー百科事典『ウィキペディア
 (Wikipedia)』によると、――
  『万葉集』(まんようしゅう、萬葉集)は、奈良時代末期に成立
 したとみられる日本に現存する最古の和歌集である。(省略)全二
 十巻四千五百首以上の和歌が収められており、三つのジャンルに分
 かれる。「雑歌」宴や旅行の歌、「相聞歌」男女の恋の歌、「挽歌」
 人の死に関する歌。と、書かれてあった。
 「全二十巻四千五百首以上もあるのか!」
  今更ながら石倉和男は凄いと思い驚いた。
 スクロールをして下の項目を読んで見ると、――
 『万葉集』の成立に関しては詳しくわかっておらず、(省略)現在
 では家持編纂説が最有力である。ただ、『万葉集』は一人の編者
 によってまとめられたのではなく、巻によって編者が異なるが、家
 持の手によって二十巻に最終的にまとめられたとするのが妥当とさ
 れている。――と、書かれてあった。
 「大伴家持なら聞いたことがあるぞ!」
 と、一瞬思ったものの何も知らないことに気づいた石倉は、Google
 の検索ボックスに、〈万葉集 大伴家持〉と入力した。
  すると、大伴家持と万葉集・高岡市万葉歴史館・大伴家持が来た
 越の国…が表示された。
 クリックしてページを開き、歌人としての大伴家持の来歴を読むこ
 とができた。
 「そう言えば、高岡市に取材に行った時に、高岡駅北口前広場で大
 伴家持の像を見たな」
  と石倉は家持の像のことを思い出した。
 仕事柄リサーチ癖が出て、持ち前の探究心に火がついた。万葉集の
 和歌の数や全巻の構成や歴史や意味などを調べて読みまくった。
  万葉集の中で大伴家持の歌が四百七十三首と最も多いことを知り
 大伴家持のことをもっと知りたくなり経歴をネットで調べた。
  大伴家持は、天平十八年(七百四十六)六月に越中の国守として、
 今の富山県全域と石川県能登地方に約五年間在任していたときに、
 越中万葉歌三百三十首と越中国の歌四首、能登国の歌三首を詠んだ
 ことが解った。

  石倉の探究心がなおも止まらなくなった。
 検索ボックスに〈大伴家持能登〉と入力した。
  ――すると七尾市のホームページが見つかった。
 机島・周囲1.3km、岩盤は3mくらい島上に同じ高さの松が一面に生え
 繁り、あたかも緑の蓋をしたようで、和倉から海上2.2km種ヶ島と共
 に望観される。昔、大友家持が訪れて歌を詠じ、畠山氏が連歌の宗匠
 を招いて遊宴を張ったとの言い伝えあり。島内に硯石という清泉が
 あり、水が絶えないとのことである。

  香島嶺(かしまね)の机の島のしただみをい拾(ひろ)ひ持ち来
 て石もちつつき破り早川(はやかわ)に洗い濯(すす)ぎ辛塩(か
 らしお)にこごと揉み高杯に盛り机に立てて母にまつりつや愛(め)
 づ児の刀児(とじ)父にまつりつやみ愛(め)づ児の刀自

 【口語訳】香島山の近くの机島の海岸からしただみを拾って持って
 きて、石で殻をつつき破り流れの速い川で洗い清めてから辛い塩で
 ごしごしもんで足の高い器に盛り付けそれを机の上に立ててうやう
 やしく供えかあさまに差上げたいかわいいおかみさんとうさまにさ
 しあげたい愛くるしいおかみさん
  ――と、七尾市のホームページに書かれていた。

  次に〈机島のしただみ〉ってなんだろう? 
 と調べていくうちに、――
 「万葉の風土」を始め万葉に関する多くの著書を執筆し「万葉風土
 学」を確立した東大文学博士で万葉集研究に生涯をかけ万葉故地を
 すべて訪れ、日本全国の万葉故地に所縁の万葉歌を揮毫(きごう)
 した「万葉歌碑」を建立し、万葉故地をまもる活動に奔走した犬養
 孝を知った。
  その犬養孝先生と奥様が昭和四十四年に机島に渡り、ゴザを広げ
 てお茶をたて、金沢市の『長生殿』という和菓子を食べ、松の木の
 下で咲きゆれている薄紫のハマダイコンの花をながめ、小鳥の声を
 聴きながら昼寝をした。
 奥様が「あのときはとても楽しかった」と言ったという記述を目に
 した。
  また、昭和四十九年に能登に講演に出かけた折に、奈良薬師寺の
 管長高田好胤さんと、作曲家の黛敏郎さんと犬養孝さんが一緒に加
 賀屋に泊まり、翌日机島に渡り、ここに歌碑を建てましょうという
 話が持ち上がった。
  その話が進み、翌五十年十月十二日、机島に歌碑が建立され、作
 曲家の黛敏郎に薬師寺の管長高田好胤が除幕式に出席していた。
 除幕式のときに、亡き妻と来た時のことを思い出し犬養先生は慟哭
 したという。
  机島に万葉集の歌碑があることを知り、石倉のライター魂が益々
 燃え、七尾湾西に浮かぶ机島に行きたくてたまらなくなった。――

  ――そして翌日のお昼過ぎ頃、
 「もしもし、ナオちゃん」――
 「はいは〜い、カズちゃんどうしたの」
 「仕事はどう今忙しい?」
 「それが暇なのよ、依頼が来なくて」
 「じゃぁ、週末はカラダ空いてる」
 「空いてるわよ、どうするの?」
  石倉和男がナオちゃんと呼んでいる彼女は、仲間を集め親睦を深
 める「コンパ」で知り合った「西本尚美(にしもとなおみ)」で、
 LOVE進行中だった。
  西本尚美も石倉和男と同じような内容の仕事でルポライターをし
 ている。――
 「一泊旅行に付き合って欲しいんだよ」
 「えぇ! 一泊旅行って、どこいくの?」
 「題して『万葉紀行の旅』だよ。うまく行ったら雑誌社に売り込も
 うと思ってるんだ」
 「だからさ、どこへ行くのかを聞いてるの」
 「石川県だよ。能登半島の七尾湾西に浮かぶ小さな島に行くんだ。
 机島という無人島さ」
 「えぇ〜、能登半島に行くの、ぜひ連れてってぇ、一度は能登半島
 に行きたかったのよ、三十六年連続日本一に選ばれた老舗旅館の
 『加賀屋』に泊まってみたいの〜」
  電話の向こうでノリノリの声が聞こえた。
 「じゃ、OKだね! 決まりということで、『加賀屋』にオンライ
 ン予約をしておくよ」
 「はぁ〜い、旅行プランはどうなってるの」
 「東京駅から北陸新幹線(かがやき)に乗って金沢駅へ、金沢駅か
 ら和倉温泉駅行きの直通の特急(かがり火)に乗り換えて和倉温泉
 駅へ、和倉温泉駅に着いたら送迎バスで加賀屋に到着。翌日レンタ
 カーを借りて行動しようと考えてるんだけど、よく考えて、詳しい
 ことが決まったら、金曜日の夜までに伝えるからね、楽しみにして
 待ってて下さい」
 「はい、はぁ〜い、了解でぇ〜す」

  土曜日の朝、目が覚めると石倉和男は前日から支度をしておいた
 リュックを担ぎマンションを出ると、ナオちゃんの携帯に電話を入
 れ、東京駅の待ち合わせ場所に向かった。
  北陸新幹線乗り換え改札口の階段の前に蛍光色が光っていて緑色
 の看板に新幹線のイラストが描かれ、南のりかえ口と書かれた大き
 な案内版の横で西本尚美は立っていた。
 「ナオちゃん、お待たせ〜待ったぁ」
 「うううん、わたしも今ついたとこよ」
 「ホームで買える駅弁もいいけどさ、出発まで時間が十分あるから
 さ、地下にあるグランスタに行ってお弁当を買おうよ」
  二人は、エスカレーターに乗って地下に降りた。あれがいいこれ
 がいいと迷ったが、浅草今半の「重ねすき焼き弁当」を買った。 
  十一時四十八分発のかがやき527号金沢着十四時二十五分に乗
 った。お弁当を食べお茶を飲み、なんだかんだ喋っているうちに金
 沢に着いた。
 石倉は日帰りも当たり前の時代なんだと改めて実感した。
 「わあぁ〜綺麗! 立山連峰! わぁ素敵!あぁ〜トンネルだぁ〜
 またトンネルだぁ〜」
  と西本尚美はトンネルを出るたびに、外の景色を眺め一喜一憂し、
 はしゃいでいた。
  金沢駅から十五時発のかがり火にのり和倉温泉駅に十五時五十八
 分に着いた。マイクロバスの送迎車に乗って加賀屋につきチェック
 インを済ますと部屋に案内された。
  西本尚美は送迎バスがついてからの仲居さんスタッフが並んでの
 お出迎えに感激し、テンションが一気に上がっていた。
  石倉は部屋に案内した仲居さんに尋ねた。
 「仲居さん、僕たち明日、机島に行くんですが、何処へ行けば渡れ
 るか知りませんか?」
 「机島ですか! ちょっと待って下さいね」
  しばらくすると仲居さんがお茶とお菓子をお盆に乗せて部屋に戻
 って来た。
 「あのぉ、聞いて来たんですけども」――
 と言って、二つに折った紙を石倉に渡した。
  二つに折られた紙を広げると、中島町瀬嵐と書かれていた。メモ
 を見ている石倉に、――
 「そこへ行けば、何とかなると言ってました」
  と、明確でないことに恐縮そうに言った。
 「――どうもありがとうございます」
  仲居さんが立ち去ったあと、お茶を飲みお菓子を食べ、そのあと、
 荷物は部屋に置き、海に面したラウンジで珈琲タイムをした。
 尚美はラウンジから海を眺め「いいわぁ〜」
 輪島塗の天女の舞を見て「うわ〜素敵〜」
 館内の装飾や美術品を見て「わぁ凄〜い」
  とテンションが上がりっぱなしだった。
 「ナオちゃん、夕食まで時間があるから、ぶらぶらと歩いて、その
 辺を散策しようか」
 「それがいいわねっ、そうしましょう」
  二人は玄関を出ると手を繋いで歩き出した。門を出ると右に行く
 左に行く、どっちにすると言って、尚美は石倉のひだり腕を抱え石
 倉の肩に頬を寄せじゃれ合うようにし、旅先での高揚感を味わうか
 のような仕草で石倉のひだり腕を引っ張り左手に歩きだした。
  加賀屋を出てわずか1分ほどで、松に囲まれた「弁天崎源泉公園」
 があった。
 「こんな近くに私好みのいい散歩道があるじゃない、あらっ! 説
 明版があるわぁ〜」
  石倉は説明文を読み始めた。なになに、
 ――ある日、ある夫婦が亀岩のそばからブクブクと海が泡だってい
 るのを発見しました。亀岩はお化けガメと呼ばれ、亀岩の近くの海
 に落ちると体が浮かばないと村人たちから恐れられていたため、泡
 はお化けガメの呼吸ではないかと噂されました。
  しかしある時、夫婦が一羽の白鷺が傷ついた足を海に入れ、その
 後元気に飛んでいったのを不思議に思って、海に手を入れ、お湯が
 沸いていることを発見したと伝えられています。と書いてあった。
 「シラサギがここで足の怪我を治したのね、 歴史深い温泉がある
 公園なのねっ」
 「何だかいろいろあるねぇ、ナオちゃん、あそこ、人より背の高い
 句碑が立ってるよ」
 「家持の妻恋舟か春の海」と彫られていた。 
 説明版には俳人高浜虚子が昭和二十四年に和倉に来り、「家持の妻
 恋舟か春の海」と追憶して現実の和倉の海を賞しました。
  と書いてあった。
 「カズちゃん、あそこから、海を見ようよ」
  ふたりは公園を出て右方向のタイルが張ってある道を歩き、海に
 突き出たコンクリートの波止の先に立ち美しい七尾湾を眺めた。
 「カズちゃん、ここは本当に海なの、湖みたい、ほら!綺麗な曲線
 の橋が見えるわぁ」
 「ほんとだ!ネットで見た能登島大橋だと思う。それにしてもこの
 海は波が穏やかだね」
  ふたりは潮の香りを感じながら雄大な景色を眺め、肩を寄せ合い
 積もる話をしていた。
 「ナオちゃん、そろそろ加賀屋に戻ろうか」
 加賀屋の美味しいワインと夕食を食べ、露天風呂からまた海を眺め、
 オーシャンビューの部屋からまた夜の海を眺め、思い出に残る熱い
 一夜を共に過ごし、目覚めてまた心安らぐ静かな七尾湾の海を眺め
 た。
  朝食を済ませ九時にチェックアウトして送迎バスで和倉温泉駅に
 向かった。駅に着くと駅前レンタカー会社の受付に向かった。
 「六時間じゃ短いから、十二時間まで借りて、その料金ですか!
 それにサポートプランをつけると、そうですか、じゃそれで」
  早々と車種を決め、レンタカーの手続きを済ませると、尚美を助
 手席に乗せカーナビに〈中島町瀬嵐〉と入力して出発した。
 「よし、これで机島に行けるだろう」
 「まぁ、アバウトね、わくわくするけど」
  和倉を出るとベタ凪の海を右に見ながら七尾湾西周回道路にレン
 タカーを走らせた。道路は二車線で七尾湾に一番近い海沿いに車を
 走らせた。海沿いには低い松が途切れ途切れに生えていて、反対側
 は青々とした稲田が続き、山裾には黒い屋根の家々が見えた。
 「――熊木川、能登中島大橋だって」
 海の方を見ると、養殖イカダや浮きのような物が無数に見え、その
 先に海に緑の蓋をしたような細長い島と横に小さな島が見えた。
 「あれだよきっと、机島は、ネットで熊木を詠んだ句を見たような
 気がするなぁ」――
  尚美はすぐにスマホでググった。
 「あったわよ、〈香島より熊木を指して漕ぐ船の梶取る間なく都し
 思ほゆ〉だって、何を言ってるのか? ちんぷんかんぷんだわ」
 「あとで調べよう。大伴家持は今でいう大臣の子だな、立派な官人
 に成るように英才教育を受け、二十八歳の頃に今の富山県と石川県
 を守るために赴任して来たんだ。そのときに能登で読んだ句である
 ことは確かだね」
  ――橋を超え、しばらく車を走らせると、
 「カズちゃん、瀬嵐は右の標識があったよ」
 「ここを右だね、もうじき瀬嵐だぁ〜」
 「ほら、左手の民家を見て、民家の屋根瓦は皆んな黒く光って、大
 きな家だねぇ」
 「海が見えて来た! この坂道を下りたら直ぐに瀬嵐だ! 防波堤
 が低いねぇ、ここからだと海面と道路がおなじ高さに見えるよ」
 「瀬嵐集会所だって、あっ! 第一村人発見!」
 「ナオちゃん、テレビの見過ぎじゃない」
 「だって、あれ面白いんだもの、ルポライターとしては、何かと参
 考になるんだってば」
 「ちょっと、あの人に聞いて見ようか」
  机島に渡るには、どこへ行けばいいのか、机島に渡る方法を瀬嵐
 の人に尋ねてみた。
 「町会長さんに机島に渡る理由を説明して、漁師さんを世話しても
 ろたら渡れるがいね」
 「町会長さんに会うには、どこへ行けば?」
 「町会長さんの家はこの道を真っ直ぐ行ったら橋があるさかい、そ
 の手前の左を入ったとこにあるわいね、そこら辺で町会長さんの家
 はどれやって聞いたらすぐにわかるわいね」
 「そうですか、ありがとうございます」
  町会長さんに直ぐ会うことができた。
 「あっりゃまぁ、東京から来たがかいねぇ」
  能登弁の洗礼を受けながら、――これこれこうで机島の歌碑を取
 材しに来ましたと伝えると、こころよく船の手配に応じてくれた。
  その場で漁師さんと連絡を取り、ふたりを机島に連れて行くよう
 にと頼んでくれた。
 橋を渡ってまっすぐ行った突き当たりを右に少し曲がったところに、
 「人麻呂社」という神社がありますから、その前の広場に車を停め
 て待っていれば漁師がすぐに来ますからと、にこやかな笑顔でお世
 話をしてくれた。
  ふたりは町会長さんに丁重にお礼を言って、車を走らせるとすぐ
 に高い鳥居が見えた。階段の上の高台に神社があり、鳥居の直ぐ横
 に『人麻呂社』と彫られた人の二倍の高さはあろうかという立派な
 石碑が建っていた。
 「柿本人麻呂を祀っている神社なのかな?」
 と石倉はつぶやいた。
 「瀬嵐って、歴史的にも興味深いわね」
 レンタカーを草むらに停め、車から降りて沖の海に長く突き出た突
 堤を眺めていると、
 「あんたらかいね」
  不意に声をかけられた。振り向くと、赤いママチャリに股がった
 漁師が立っていた。  
  すぐ岸壁に係留してある船に乗せられ、ライフジャケットを着せ
 られ机島に向かった。
 「昔は島に誰がどう渡ろうと問題無かったんやけど今は海上保安庁
 がうるさいがやちゃ」
 と、気の毒そうな口ぶりで言った。
 「そうなんですか、漁師さんのお陰で今日は渡れるようになって、
 本当に助かります」
 無骨そうだがわりと気さくな漁師さんで、机島に向かう船の上で、
 丸木舟のことや牡蠣の養殖のことや机島に前方後方墳が発見された
 ことなど、色んな話を語ってくれた。
 西本尚美は嬉しさいっぱいの顔で鼻腔を広げ、潮の香りを胸いっぱ
 いに吸い込み、近づく島と海の景色をわくわくしながら見ていた。
 そこだけ石が人工的に積まれた船着き場について、ふたりが船から
 降りると漁師さんは、
 「三時に迎えに来ますんで、それまではゆっくり仲よう楽しんでく
 だい」――
 と、ニンマリ笑い、船をバックさせた。
 「あの年代だと三島由紀夫の『潮騒』の有名なシーンを思い出した
 んじゃないの?」
  石倉は何気に言ったのに、尚美はクククッと含み笑いをし、石倉
 を色目で見た。
  ふたりは手をつなぎ漁師さんに教わった島の西方向を歩くとすぐ
 に歌碑が見つかった。ふたりが歌碑に近づいて行くと、誰が草刈り
 をしたのか雑草は低く、歌碑の表面は磨かれたように御影石が黒光
 りをしていた。
 「これだよ、これが大伴家持の句だよ」
  石倉が歌碑の文字を読もうとしたときに、歌碑の真裏でガサッと
 音がした。
 「ギャアァ〜〜〜!」
  西本尚美が驚いて大声を上げた。
 歌碑の裏で白いサファリハットが動いたかと思うと、無精髭の男が
 立ち上がった。
 「いやぁ、驚かせて悪いねぇ、怪しいものではないです。草むしり
 をしてたんです」
 「そうなんですか、こちらこそどうも」
  石倉と尚美はおじさんを見て会釈をした。
 おじさんも帽子を取って会釈を返した。
 おじさんは帽子を被り直し、ふたりに訊いた。
 「どちらから、――来られたんですか?」
 「――東京からです」――
 と石倉は応えた。
 「そうですか、どうしてこんな島に来たんですか、たまぁに、万葉
 のゆかりの地を巡ってる人が歌碑の写真を撮りに来るけどねぇ」
 「ぼくも、まぁそう言ったところです、フリーのライターをやって
 いまして、万葉の歌碑に惹かれて、現地取材といったところです」
 「そうですかぁ、こちらの方は?」
 「僕の彼女です。ルポライターで同じような仕事をしています」
 「わたしは西本尚美と言います」
 「僕は石倉和男と申します」
 「そうですかぁ、私はね――」
 と言うと、リュックから名刺を取り出し石倉と西本に差し出した。
 石倉も西本もおじさんに名刺を渡し頭を下げ丁寧に応対した。
  名刺には能登郷土史研究会会員・高野猪三郎(こうのいさぶろう)
 と携帯の電話番号が書かれていた。
  無精ヒゲを生やした高野さんが自分の略歴と現在は何をしている
 のかを話してくれた。
  元国鉄からJRに変わった一九八七年四月一日を経験し、六十歳
 定年退職後に郷土の歴史や文化、史跡に関する研究を始め、後世に
 語り継ぎたいと思うようになり、研究した資料を子供達に読み聞か
 せたりするボランティア活動を行っていると言う人物だった。
  高野さんの話を聞き終わると石倉は、――
 「僕たちにも草むしりを手伝わせて下さい」
 「そうですか! 手が荒れますよ」
 「構いませんよ、こう見えても、そんなにヤワじゃありませんから」
  石倉は手でグーを作って、そう言った。
 「ちょっと、――待って下さいよ」
  高野さんはリュックのサイドポケットから
 予備の軍手を取り出しふたりに差し出し、「どうぞ、――これを使
 ってください」
 「うっわ〜、嬉しいわぁ〜こんな格好で畑仕事をするのに憧れてた
 のよぉ」と尚美。
 「高野さん、ありがとうございます。俄然やる気が出て来ました」
 と石倉。
 「この格好で写真を撮りましょうよ」
  ふたりの浮かれた様子を見て高野さんは、
 「何を言うとるがいね、たかが軍手やがいね」
  高野猪三郎は二人の意外な喜び様を見て、嬉しくなり、ついつい
 能登弁が出た。
  三人は草が生えている前で並んでしゃがみ草むしりを始めた。
 石倉は高野さんに机島の話を聞かせてもらえませんかとお願いした。
  高野猪三郎は中学生の社会授業でこの島に渡ったことがあり、白
 っぽい作務衣を着て白い髭を生やした人がガイドをしてくれて、
 「硯石の水は絶えんがやぞ、この水をいじったらダメながや、嵐が
 来て大時化になるんやと昔っから云い伝えられておるがや」
  と話したことと、島の中央付近に深い深い井戸があったことを覚
 えていると言った。
 「その硯石はどの辺にあるんですか? ぜひ見てみたいですね」
  石倉がそういうと、高野さんは、ゆっくりと立ち上がり躰を反ら
 し腰を伸ばしながら、――
 「あぁ〜、草むしりを手伝ってくれてありがとう。もうこれくらい
 でいいでしょう」
 「歌碑の裏がすっきりと開けましたね」
  と言って、石倉は軍手を脱いで返した。
 「力を入れて引っ張り、根っこからすっぽり抜け、気持ちが良くて
 楽しかったです」
  嬉しそうに言って西本尚美も軍手を返した。
 「こっちの方です。ついて来て下さい」
  西本尚美はルポライターが取材やインタビューで対象者の声を録
 音するための必須アイテム、ICレコーダーを鞄から取り出した。
「ナオちゃん、さすが、ぬかりないねぇ」
「これ、今日のために買ったのよ、これさえあればメモを取らなく
 て済むから楽ちんなの、小さいのに優れものなのよ、二時間でフル
 充電ができ、連続して約十八時間録音することができるの、あとで
 聞かせてあげるからね」
「これさえあれば、記憶に頼らなくても、メモをしなくても、いい
 から鬼に金棒だな」
 雑草がぼうぼうの中を分け入って行くと、
「探検しているみたいな気分ね」
 と言って、尚美は肩をすぼめ石倉を見た。
 石倉はおどけた眼差しを尚美に返した。
 誰も手入れをしなくなり、雑草が伸び放題ですっかり荒れてしま
 った松の木の間を分け入り、高野さんの後ろをついて行くと、長い
 年月を感じさせる松の木の下に六十センチ程の高さで平たくて窪み
 のある石が見つかった。
 その石の傍に立って、高野さんは手帳を取り出すと「能登石伝説」
 を読み始めた。
「――昭和になる少し前の事である。
 何人かの石工職人がこの島に渡り、巨石奇岩を切り出していた。硯
 石を見つけ、鑿(のみ)で加えて持ち帰ることにしたその前夜、空
 には一片の雲もなく風もなく、海は凪(なぎ)の状態で鏡の様に静
 かだった。夜半近くになって石工が寝ている小屋が強風で倒れそう
 になるほどガタガタと大きく揺さぶられた。
  石工ら何事かと驚き跳ね起きた。小屋の外へ出てみると海は依然
 として凪いだままで、月が煌々と照り輝いていた。その夜空を見て
 不思議に思い、再び小屋に入り枕に就いた。するとまた、凄まじい
 音を立て小屋が揺れだした。その恐怖に石工らは、小屋で寝るのを
 諦め、松の木陰で身を寄せ恐れながら一夜を明かした。
  ようやく日が昇るのを見て石工たちは、後始末もそこそこに慌て
 ふためいて島から逃げるようにして引き揚げた。――という伝説が
 残っているんです」
「さすが郷土史研究家ですね、そんな伝説があったんですね、あり
 がとうございます」
  と石倉が礼を述べると、――
 高野さんは、まんざらでもない顔をして、
 「いいえそんなぁ、お役に立てて嬉しいです。まだまだ、私が色々
 と調べたことで、この島にまつわる話がいっぱいありますよ」
 「是非ともその話をお聞かせ下さい」
 「では、散策しながらお話ししましょう」
 「私が中学生の時に初めてこの机島に渡ったのですが、島が個人の
 所有地であることに驚き村のものではないのかと疑問に思いました。
 それから五十五年以上経った今になって、当時のことを調べたくな
 ったのです。それで同級生の山田寿一(やまだじゅいち)に聞いてみ
 たんです」と言って、その時の電話のやり取りを話した。

 「机島はむかし個人が管理をしていたやろぅ、中学生の時に島に渡
 った時にガイドを してくれた人の詳しいことを知らんかいね」
 「ありゃ幾地さんゆうてぇ、おらちと同級生のぉ、幾地晴美さんの
 父ちゃんやがいね」
 「そうかそうやったぁ、思い出したわいね」
 「俺に聞くよりも晴美さんに聞いた方が早いちゃ、電話番号教えっ
 さかいまっとけま」
 「高野さん、やまだじゅいちさんは何て言ったんですか」
 「あれはいくじさんといって、ぼくたちと同級生のいくじはるみさ
 んのおとうさんですよ、その晴美さんの電話番号をおしえるからま
 っててね、と言ったんです」
 「そうですか、聞かれたことが面倒くさくて怒ったように言ったの
 ではないんですね」
 「これが普通の会話やわいね、能登はやさしや土までもっていうが
 いねぇ、ハハハハ〜」
  ふたりは小首をかしげた???……。
 「それで晴美さんに電話をしたんですよ、これこれこうで、机島で
 お父さんがどんなことをしていたのかを詳しく知りたいのですが、
 お話を聞かせてくれませんかってね、そしたら晴美さんには姉がい
 て、姉の輝子の方が父親のことに詳しいからと言って、輝子さんの
 電話番号を教えてくれたんです。
 輝子さんに電話をするとお父さんは「幾地秀二(いくじひでじ)」と
 言う名前で話を聞くと、奇想天外波乱万丈でした〜」
 「それは面白そうですね、興味があります。いくじひでじさんの事
 を是非聞かせて下さい」
 「私は、名を馳せてはいないが知られざる郷土の偉人を探ろうとし
 て調べているんです。それをまとめたものを残したいんです」
 「高野さんは素晴らしいライフワークをお持ちですね、『知られざ
 る郷土の偉人』という本ができそうですね」
 「本と言えばですね、ふるさと紀行『能登の家持歌碑めぐり』と言
 う本をご存知ですか」
 「あぁ〜、申し訳ないですが存じてません」
 「そうですか、その本を書いたのは『西仙関(にしせんかん)』とい
 う人で、私が中学生の時の英語の先生で退職後、ふとしたことから
 能登各地に建つ万葉歌碑に関心を持ち調査し本にしたのです」
  と、高野さんは教えてくれた。
 「にしせんかんですか、変わったお名前ですね、出版できたなんて
 ご立派な方ですね」
 「私も郷土史をまとめたモノや功績を残した偉人の話をまとめたモ
 ノを本にして、後世に読み継がれていくように残したいのですが、
 自費出版となると、――これがねぇ……」
  と言って、親指と人差指で丸を作った。 
 「高野さん、いつかきっと、その夢は実現しますよ、頑張って続け
 て下さい」
 「石倉さん、――等伯ご存知ですか、長谷川等伯」
 「あぁ〜、申し訳ない、存じてませんが」
 「そう、松林図屏風で有名なんだけど……」
  高野さんは自慢したかったが話の腰が折れ、七尾駅前にある長谷
 川等伯(はせがわとうはく)の銅像のことを言うのをやめた。
 「いくじひでじさんは机島にいた人ですね」 
 「いたというよりも、父親の後を継いで島を守っていたというか番
 人をしていたんです」
 「いくじさんと机島の変遷を知りたいです」
 「幾地秀二さんの話をお姉さんの輝子さんから直接聞いたとき、瀬
 嵐にそういう人がおったんか、大したもんやぁと思いました」
  高野さんはそう言って、当時の机島と共に生きた幾地秀二さんの
 変遷を語り始めた。
 「父親は幾地宇一朗(いくじういちろう)という人で当時は観光ブー
 ムで和倉からの遊覧船も島に通っていました。秀二さんは県立七尾
 商業高校出身で、スポーツ万能で水泳が得意でした。
  夏場は頭に本を乗せてくくりつけ七尾から瀬嵐まで海を泳いで帰
 ってました。アジア水泳大会で優勝し、前畑秀子さんが日本人女性
 として五輪史上初めてとなる金メダルを獲得した。ベルリンオリン
 ピックに水泳選手として参加してました。
  浅草の劇場の支配人をし、ムーランルージュの劇団員と結婚しそ
 の後離婚。戦争激化で志願兵になり特務中尉になり上海の総領事館
 に勤めていた女性と知り合いました。黄河の濁流を死に物狂いで渡
 り九死に一生を得た。その後、総領事館で知り合った女性と結婚し
 瀬嵐に帰った。栄養失調で目がよく見えなかったが食事と牡蠣の栄
 養成分が効いて目が回復し見えるようになった。
  島に上陸する客から五円〜十円を貰い、観光ガイドをしたり、西
 瓜を売ったり、飲料を売ったり、キャンプ用のテントを貸したり、
 泳ぎを教えたり、島の管理をしていた。
  島に来る人がめっきり減り、牡蠣養殖も漁業も思わしくなく、町
 会議員をしたり石川県水泳協会の会長をしたりした。
 海や川で泳いでいるようではオリンピック水泳には及ばないと学校
 でのプール設置を推進した。完成したプールの竣工式で古式泳法を
 披露。輪島市生まれ元五輪競泳選手で銀メダルを四つ獲得した山中
 毅を教えたこともあった。夏場は小屋で寝泊まりし、裸足で踏むと
 危険な貝の除去など島の環境整備をしていた。
  まだおおざっぱですが、輝子さんが記録を書いて送ってくれるの
 で、それをまとめます」――と高野さんは幾地さんの変遷を語った。
 そろそろお昼にしましょうと、三人は平たい場所にシートを敷いて、
 お弁当を食べた。
  その後も島の散策を続けたが草がぼうぼうで先には行けず諦めて
 元に引き返した。時計回りに海沿いを歩くと、島と島との間が最も
 近くてわずかに砂地が残っている入江に出た。
  静かな島の小さな入江に小波が打ち寄せ、白い波飛沫が岩を撫で、
 寄せては返し、寄せては返し、小さな波音を奏でていた。
 「ここから種ヶ島まで近いでしょ、ほら、海の中をのぞいて見て、
 小さな巻貝が見えるやろう。それが大伴家持が詠んだ〈しただみ〉
 や、塩茹でして待ち針で突いて中身を取り出して食べるがや、まっ
 でぇうまいがやぞぉ」 
 高野さんはまたまた話に熱が帯びてしまい能登弁が口をついて出た。
 「まっでぇ〜? うまいがやぞ〜?」
  石倉は能登弁の発音を真似してみた。
 高野さんはちょっとイントネーションが違うがいねと言って、はに
 かみながら笑った。
 「すごく、うまいんだよって言ったんです」
  ナオちゃんは目を丸くしてうなずき、――
 「そうなの、わたし、この可愛らしい小さな貝を食べてみたいわぁ、
 ねぇカズちゃん」
 「獲ってもいいんだったら、獲りたいね」
 「さざえ、あわびは獲ったらダメやけど、しただみは漁業権に入っ
 とらんから大丈夫なんや、けど……、ちょっこし待ってね」――
  高野さんは携帯を取り出し電話を掛けた。

 「もしもし、寿一(じゅいち)、今、机島におるんやけど、東京から
 歌碑を見に来たカップルと会うてな、さっきまで歌碑の裏側の草む
 しりを手伝うて貰うておったがやけど、話しをしとったら、しただ
 みを食べたいということになったがや、それで寿一に頼みがあるん
 やけど、しただみを何とかして食べさせられんかのぅ」 
 「その人らは、何時ごろ島から帰るんや」
 「ちょっと待ってくだい」
  高野さんは携帯を耳から離すと送話口に手を当て、石倉に何時に
 帰るのかと聞いた。
 「三時に迎えに来ることになっています」
 「三時に迎えの船が来るんやて」
 「三時か、よっしゃぁ、区長さん家で食べれるようにしとくさかい、
 あとは任しときぃ」
 「そうかすまんのぅ、ほんなら頼むわぁ」
 「船を世話してくれた町会長さん家で食べれることになりました。
 楽しみにして下さい」
 「うわぁ〜ありがとうございます」
  石倉と西本は胸の前で手を叩いて喜んだ。
 「この汐越えの入江は三月頃の干潮時に歩いて種ヶ島に渡れること
 で知られてるがや」
 「そうですか、海は澄んで綺麗ですね、波は穏やかだし、泳いで見
 たくなります。とても静かでいい島ですね、住んでみたいなぁ」
 「昔は小学生らがここで泳いだんです。私の知り合いも子供の頃に、
 ご近所の人達と海水浴で渡ったことがあるって言ってました」
  私には夢があるんですと高野さんは言って、
 「島を整備し、机島と種ヶ島に吊り橋を架け、花の咲く木々を種ヶ
 島に植え、どちらかの島に360度見渡せる展望台を設け観光化し、
 泳いだり釣りをしたりキャンプをしたり、島と海の自然を楽しめる
 アウトドアレジャーと大伴家持の歌碑がある島として、昔のように
 大勢の人が遊びに来る島にしたいんです」
 「その夢が叶えば、大勢の人がここを訪れるようになり、ふたつの
 島も喜ぶでしょうね」
 「種ヶ島も机島も、瀬嵐の人たちが開拓したんです。島に渡って畑
 を耕し、雉の飼育もやってたことがありましたが、今じゃ誰も渡ら
 んようになってしもうて荒れてしまいました」
 「せあらしではなくてせらしですか、漁師さんが島に向かう船の上
 で、昔は瀬嵐の在所に舟大工さんいて、丸木舟が沢山あった。それ
 を漕いで島に渡ったって言ってました」
 「昔はろを漕いでましたけど、船外機を付けるようになってから丸
 木舟も減って行きましたねぇ」
 「島に渡り、親が畑仕事をしているうちに、子供たちはしただみを
 バケツにいっぱいになるほど獲っていたって、漁師さんが言ってま
 した。それから、来るときに見えた牡蠣の養殖棚は、今では珍しい
 竹を利用した昔からのやり方で、そのやり方を瀬嵐の海に始めたの
 が、『赤崎茂登安(あかさきもとやす)』という人だと聞きました」
 「そうなんです。牡蠣養殖を広めたという『赤崎茂登安』は私の同
 級生の父親なんです」
 「へぇ! そうなんですかぁ!」――

  高野さんは遠い目を東に向け語りだした。 
 「夜明けが近づき東の空が白み始めたころ、穏やかな朝凪の海を、
 七尾湾の牡蠣棚に向かう舟の引き波が海面に広がりを見せ、朝日が
 昇ると真っ直ぐ這うように黄金色の陽の光が海面を照らす。
 その光が机島の東のかじられたパイのように丸く岸辺がえぐられた
 小さな入江に射し込むと、そこに立つ大きな奇岩が陽の光を反射し
 白く輝いて見える。太古の昔から、その奇岩は神が宿る石として人
 々に崇められてきました。その石の周りの大きさは大人ふたりが両
 手を伸ばし石を抱くようにすれば手を握り会える大きさで、愛し合
 う男女が手を握り合って石を抱くようにして祈願すると、結婚が叶
 い子宝に恵まれ、一生仲良く暮らせるご利益があると言い伝えられ
 てきました。
 人々の体が擦れた部分の岩肌がつるつるになり、そこに陽が当たる
 と、白く輝いて見えるのです」
 「そうですか! その石は今はどうなっていますか? その場所に
 行ってみたいです」
 「今でいうパワースポット的な場所でしたが、誰も行かなくなって
 何十年にもなりますので、草ぼうぼうで松の木や雑木が鬱蒼と生え、
 原生林のようになり、今は行けません」
 「そうですか、それは残念ですね」
 「おふたりは近いうちに結婚するんでしょ」
 「いいえ、まだ決まってないんです」
  石倉がそう答えると、間髪入れずに尚美が、
 「プロポーズもまだしてないだもんねぇ」 
 と言って、ニンマリと笑い、高野さんに助けを求めるような目を向
 けた。
  石倉は眉間に皺を寄せ真剣な表情で、
 「結婚した後もライターの仕事がうまくいくかどうかが心配で、悩
 んでいるんです」
  それを聞いて、高野さんは顎を撫でながら、 
 「この歳になって思うんだけど、人生なんて先のことを悩んでも、
 明日や明後日に答えが出るもんじゃない、生きてりゃどうにかなる
 って思ってないと、人間やってられないよ。 悩みを補う明朗快活
 なパートナーがそこにいるじゃないですか、YOUやっちゃいなよ」
 「えっ何で! そこは関東弁なの?」
 「照れくさくてさ、ジャニー喜多川さんの真似をしたんじゃないの、
 ねぇ――高野さん」
  ふたりの顔色を伺い、高野さんは言った。
 「丁度いい大きさのこの石を挟んで手を握り、ここでプロポーズを
 したらどう! 一生忘れられない、いい思い出になると思うけど」
  尚美はそうして欲しそうに膝を揺らした。
 石倉はこの機会を逃すまいと思った。
  その場の空気に素直に従い、ふたりは石を挟んで手を握り、硬い
 表情で向かい合った。――
 「尚美さん、僕とケッコンシテクダサイ」
 「はい、でもそんなに短いの」
 「えぇと、――愛しています。幸せにします」
 「はい、私を幸せにしてね」
  高野さんは手を叩いて、ふたりを祝福した。

  迎えに来た船に三人は一緒に乗り、瀬嵐に戻り、町会長の家でし
 ただみをうまい、おいしいと言って食べさせてもらった。――
 「ご馳走様でした。またせらしに来たいわ」 
  和倉温泉駅前でレンタカーを返し金沢へ、金沢駅から北陸新幹線
 で東京へ向かった。

 「僕は帰ったら雑誌社に「郷土の偉人伝説」の連載記事を担当させ
 てくれと頼んでみるよ。名を馳せてはいないけど地域に貢献した偉
 人は日本中に沢山いると思うなぁ、一生掛けて調べられるいい仕事
 だと思うよ」――
 「それって、高野さんの受け売りじゃん」
 「まぁそうだけど、ヒントを頂いたということで、結婚したらさ、
 今回のようにふたりで偉人探しの取材旅行をしてさ、編集と監修を
 お互いに兼ね合いながら、ふたりで書いた記事が連載されるのが、
 ――ぼくの理想だね」
 「能登にまた行きたいわねぇ」――
 「能登弁の語尾に、思いやりを感じたねぇ」
 「能登はやさしや土までも、だって」
  北陸新幹線は長い飯山トンネルに入った。
 「富山方面が晴れていれば、立山連峰の雄大な景色が眺められる
 から楽しみね」
 「うん、晴れていると思うよ」
 和男は尚美の手を握り車窓に目を遣った。

              「完」
 
 【野中様からの感想・解説文】

 先ず小説の書き出しがとても素敵ですね。
主役の彼女の登場で先の展開が読み手にわくわくさせます。
二人の愛の行方が気になり、もう読む人の心を摑んでいます。
平成から新たな時代の幕開きの元号「令和」を切り口にして物語って
いくなど憎いですね。

 さて、ご承知のとおり万葉集と旧中島町との縁起は大伴家持が巡行で
香島津(かしまつ・七尾港)から船で熊来(くまき・旧中島町)にこられ
たことであります。

 また、歌碑と言えば実際に詠まれた場所に建立されることが最も
重要である。世の文学青年らがそこに立って、その歌を通して歌人と
対峙し思いに馳せる。それに反して、そうでない場所での建立。
二つの実感の違いはいかがなものか。想像しなくても明白であろう。
推して知るべしである。と遠藤周作は言っています。いい得て妙であります。

それに小説に登場する薬師寺の元管主・高田好胤師は次のお言葉が
あります。
・「親が子をつくるのでなしに子が親をつくる」
  子によって親にさせていただいている我が身かな。
・「かたよらない心、こだわらない心、とらわれない心、
  広い心、もっともっと広い心」
 どれも、私の座右の銘であります。

また机島ですが私も想いでの多き島です。
川で育つたわが少年時代の海水浴と言えば机島でありました。
親父の勤務先での夏期職員家族親睦行事は机島の海水浴が定例です。
初めての海は透きとおっていて怖かった事を想いおこしております。
当時、シーズン中には売店が設けてあったように記憶してます。
潮が引くと隣の種子島まで歩いて行けたことを薄っすらと覚えています。

北陸新幹線の中でのお弁当を愉しむ二人。和倉温泉の旅館「加賀屋」
までの旅路がまるで楽しく読み手をハッピーにしてしまう。
全体をとおして言える事だが情景が手に取れるようで、
まるで映画を観ているように脳裏に映る。

 地元では昔から忘年会など何かに付け加賀屋を利用するのがごく自然で
した。古き良き時代に和倉温泉駅のホームまで仲居さんがお見送りして下
さる。今でも半端でないおもてなしの“加賀屋の流儀"には頭が下がります。
ある忘年会の日でした。ふとお風呂場に置かれた何の変哲も無いごく普通の
ゴミ箱を見て驚きました。そこには筆で「ごみ箱でございます」と書かれて
あったのです。加賀屋の心が隅々まで行き渡っている。日本一に納得です。

 和倉から能登島に架かる能登島大橋の曲線美は浴衣の帯の曲線をモチーフに
したとか。ロマンのある話ですね。
 レンタカーで走ったコースは偶然にも「能登和倉万葉の里マラソン」のコー
スです。それとは別に熊木川周回コースの「なかじま万葉の里マラソン」が
あります。どれも万葉集の歌人大伴家持を讃え偲ぶマラソンです。

いよいよ目的の机島に上陸。島での予期せぬドラマの展開が実に面白く想像を
掻き立てる。ここにこそこの小説のタイトルの真髄を垣間見る。

「能登石伝説」怖いですね。石には昔から神霊が宿ると言いますから。
私はこのような伝説、初めて知りました。

「知られざる郷土の偉人」の本製作。高野さんの夢が叶うといいですね。
また、西仙関先生の家持探求の情熱には尋常ならんものがあります。
名著「シュリーマンの古代への情熱」に匹敵します。
なお、「長谷川等伯」については「狩野永徳」と対比しての考察が面白く
お薦めしたい。

現在、NHKの大河ドラマに五輪の前畑秀子さんが登場しています。
それに輪島の山中選手のことなど、作者による来年の東京オリンピックを
意識してのことからか。そうでなしにこれも偶然であろう。

机島と種子島の壮大な”アウトドアレジャーの夢ランド”計画。
そこでのサンセットライブなどはバリ島に居るようであろう。
テント村や流行のテントサウナー。サウナーの後はそのまま海に。
また、家持にちなんでの短歌大会。カヌーや昔の丸木舟の貸し出しなど。
アイディアが沸き上がって止まらない。

高野さんは遠い目を東に向け語りだした。
その語りがなんとも言いがたくつい聞き入ってしまう。
いよいよ当小説のクランクアップか。

この小説は「令和」をきっかけに「万葉の旅」と二人の「ラブストーリ」
が織りなす。まさに”万葉恋歌”ですね。

"能登はやさしや土までも"と結ぶ「完」はさすがです。


 <終わり>

posted by てらけん at 09:17| Comment(6) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

2019年11月20日

 『デカメロンより話の数は少ない』と言う題名の小説!。


 『デカメロンより話の数は少ない』

 私小説ですが、よろしかったら読んで見てください!。



   「デカメロンより話の数は少ない.rtf 縦書きです。


   デカメロンより話の数は少ない.rtf 横書きです。


  面白いと思った方は、感想をお気軽にコメント欄でお願い致します!。


  短編「野良猫のサプライズ」


    野良猫のサプライズ.rtf 横書きです。


    『野良猫のサプライズ』.rtf 縦書きです。


   『野良猫のサプライズ』 寺沢憲重

   秋の日の夕暮れ間近、西日が低く屋根や道路を照らし
  てた。帰宅途中の男が真っ直ぐな陽射しが眩しくてひた
  いに手をかざし西日を遮りながら自転車を漕いでいた。
   その男の前方に猫が姿を現し、男の自転車の横に近寄
  って来ると、下から男を見上げて、一際高い声で鳴い
  た。初対面なのに何て人懐っこい可愛い猫なんだと男は
  思い、自転車に股がったまま猫の額に手を伸ばした。
  するとその手をかわし、今度は自転車の前に廻り、また
  高い声で何度も鳴いた。男が自転車を進めると水路に沿
  って並走しながら追ってきた。
   男は、餌が欲しいと鳴いているのか? それとも愛想
  のいい猫なのか? と思いつつ、
  「あげる物は何にも無いんだよ、ゴメンね」
   と猫に話しかけ、去り難い思いに駆られた。猫はふれ
  あいセンターの前までついてきた。そこまでついて来て
  止まるとお座りをした。男はサヨナラのバイバーイを言
  った。――
   その日の晩、――食事をしながら妻に話した。
  「今日さ、帰り道に人懐っこい猫がいたんだよ、学校の
  門の前を通り過ぎて直ぐの十字路を渡って二軒目の家の
  辺から飛び出して来て、自転車に乗っている僕の足元に
  近づきニャーニャー鳴くんだよ、触ろうとすると触らせ
  てくれなかったけど、『ふれあいセンター』まで鳴きな
  がら尻尾を高く上げついてきたよ」
  「飼い猫なの? 野良猫なの?」
  「首輪が無かったから、きっと野良猫だよ、いつどこか
  らきたか? 家に連れて帰ろうかと思ったけど、生まれ
  て何ヶ月なのか? かなり大きくなっていたから、もう
  躾けるのは無理だと思って、連れて帰るのを諦めたよ」
  「猫はもういいわ、私たちの先に死なれても、後に死な
  れても、どっちにしても辛いもの」
  「そうか、――そうだよね」
   男は、妻が〈猫はもういいわ〉と言ったのを聞いて、
  ペットロスと言われる喪失体験の影響は根深いものがあ
  るんだなぁと思った。
  「このカツオのたたきを残して、あの猫に食べさせてあ
  げたいんだけど、いいかな?」
  「いいわよ、野良猫に餌付けをするのは良くないって言
  うけど、あなたの好きにすれば」
   翌朝、ナイロン袋に入れたカツオのたたきを自転車の
  前かごに入れて家を出た。
  ふれあいセンターを過ぎたあたりから、舌を鳴らして呼
  んでみると、左手の家の車の下から飛び出して来た。
  鳴きながら自転車の前を横切り用水路の柵の間から下に
  飛び降り、溝の一段高くなったところを自転車と並走し
  ながらついて来た。男は誰もいないことを確かめると、
  用水路に向かってビニール袋を逆さにしてカツオのたた
  きを振り落とした。
   猫は一切れをくわえると水路の南側の家の入り口の橋
  の下に逃げ隠れ、かぶりついた。
  「やっぱり、野生なんだなぁ」と思った。
   男の頭の上にバサッバサッと言う音がしたかと思うと
  直ぐ傍の柵の上にカラスが止まった。わっと驚いて身を
  屈めた一瞬の隙に! カラスは下に舞い降り、あっとい
  う間に溝に落としたカツオのたたきをくわえ飛び去っ
  た。
   庭の植木の隙間から警戒心の強そうな三毛猫が現れ、
  食べているカツオのたたきに近づこうとした。先の野良
  猫が睨んで唸り声をあげ威嚇した。三毛猫は怖れて後ず
  さりした。
  「そっか、他にもまだ猫が居たのかぁ」
   三毛猫を見て可哀想に思い、人間の勝手な気まぐれ
  で、野良猫に餌をあげるのは人間のエゴ以外のなにもの
  でもないと男は思った。
   男は次の日から、駅に向かう時も家に帰る時も、違う
  道を通ることにした。 
   そして、一週間が過ぎたころの帰り道で、帰巣本能の
  習性のせいか? うっかりと学校の前を通り過ぎ、十字
  路に差し掛かかったところでハッと気付いた。〈あの猫
  はどうしているかなぁ?〉見たいけど、見ると辛いよう
  な……、そんな気持ちになった。
   十字路を過ぎて五メートルほどの場所に立っている左
  側の電柱の手前に高校生の男女ら五、六人がたむろをし
  ていた。
  「ミーちゃん、ミーちゃん」と言いながら、電柱の下で
  高校生二人がしゃがんで電柱と水路の柵の間に手を伸ば
  し、電柱の反対側にいる猫を撫でようとしていた。手を
  差し出している先にあの野良猫がいた。その場からは逃
  げようとはしないんだが、触ろうとすると身をかわし触
  らせようとはしなかった。
   野良猫は自転車に股がったまま、その様子を見ている
  男に気づくと「ミャア〜〜〜」と一際高い声で鳴いた。
  高校生らもこのおっちゃんと猫は知り合いか?! みた
  いな顔で男を見た。
   男は自転車のペダルを漕いでその場から去ろうとし
  た。野良猫は「ミャア〜ミャア〜」と鳴きながら男の後
  を追って来た。
  「ミーちゃんミーちゃん」
   高校生らが呼んだ。
  野良猫が自転車の横で男を見上げて鳴いた。高校生たち
  は男について行く猫を見ていた。
   ふれあいセンターに近くなる頃、――
  「ただいまぁ、待ってたの、ありがとう」と、野良猫に
  話かけた。
  野良猫は柵に頭を擦り、甘えた仕草で「ミャア〜ミャア
  〜」と鳴いた。ふれあいセンターの前で野良猫は止まっ
  た。ここまでがこの猫のテリトリーなのかな? と思い
  ながら野良猫に、
  「ミーちゃん、またねぇ、バイバ〜イ」と言ってさよな
  らをした。
  野良猫は去って行く男をずっと見ていた。

   その夜、晩ご飯を食べながら男は言った。
  今日の帰りに、久しぶりにあそこを通ったらあの野良猫
  がいたよ、高校生らがちょっかいを出していた。人間を
  怖がらない猫なんだね、でもかまおうとするとかまわし
  てくれない、あの野良猫は媚を売って鳴いてるんじゃな
  いような気がする。どことなく高貴な感じがするんだよ
  なぁ、食事が済んだらこのイワシの煮付けを持ってお前
  も一緒に行ってみない」
  「その煮付けは辛いわよ、塩気の多い物を猫に食べさせ
  るのはよくないのよ」
  「じゃぁ、湯通しをして塩分を減らそうよ」
  「そうしましょうか、ボールにお湯を入れて、そこにし
  ばらく浸して塩抜きしたらいいわ」
   食事中なのに、妻はすぐに立って、瞬間湯沸かし器で
  熱めのお湯を出しボールに貯めるとイワシの煮付け二匹
  をお湯に浸けた。
  食事を済ませ、シンクにある食器類の洗い物を済ませ、
  水で冷ましたイワシをナイロン袋に入れて夫婦ふたりは
  玄関を出た。
  「どうする、自転車で行く? 歩いて行く?」
  「散歩がてらに歩いて行こうか」
   夫婦ふたりは、月夜の明るさと街路灯に照らされた道
  を、ときおり影を重ねて歩いた。
  「いつからか?あの野良猫にミーちゃんって高校生らが
  呼んでいたから、ミーちゃんって名前に決めちゃった。
  学校を通り過ぎた十字路から、ふれあいセンターの横の
  公園の十字路まで『ミーちゃん通り』ってことにする
  よ」
  「うふっ『ミーちゃん通り』ね、面白いわね」
  「ミーちゃんは、果たして出て来るかなぁ」
   ふたりは、ふれあいセンターを過ぎた辺りから、前方
  に目を凝らしながら歩いた。男は〈ツッツッツッツッ〉
  と舌を鳴らしミーちゃんと小声で呼んだ。
   男の妻も小声でミーちゃんと呼んだ。
  ふたりはゆっくりと歩き、辺りに注意を払いながら、小
  さな声でミーちゃんを呼んだ。
   すると! 十字路の手前二軒目の駐車場の白いライト
  バンの下から猫が飛び出して来た。
   尻尾を立てて鳴きながら近づいて来た。
  しゃがんで手を出しても、手が届く範囲には近寄っては
  来ない。ミーちゃんは柵の間から水のない側溝へ飛び降
  り、川底から一段高いところで鳴いている。男の妻は、
  ――「ミーちゃん、はいどうぞ」――と、言って、
  持って来たイワシを溝に落とした。
  ミーちゃんはイワシをくわえると、水路に架かっている
  小さな橋の下に隠れて食べ始めた。
  「毛色と柄から見て、キジトラだね」
  「違うわ、キジ白よ、顔の下やおなか、足先が白いでし
  ょ」――と、男の妻が言った。
  「可愛い猫やろう」――と、男が言った。
  「うん、可愛いわね、でも、ちっとも痩せてないわね、
  誰かが餌を与えてるんじゃない」
  「そうだねっ、ご近所の人で猫好きな人がこっそり与え
  てるのかもしれないなぁ」
   ふたりはその場を離れ、月明かりを左の肩に受けなが
  ら家に帰った。
 
   ――そして数日後――
   男は週に一度行う運動不足解消の散歩に出掛けた。そ
  の日は、市が整備管理している『せせらぎの道』を散歩
  コースに選んだ。散歩コースの中間地点辺りで、ミント
  グリーンのペンキの色が所どころ禿げたベンチの真後ろ
  から、か細い仔猫の鳴き声がした。
   ベンチに上がり、剪定されたツツジの上から覗くと、
  直径一メートルはあろうかという赤松の巨木の根元の窪
  んたところで母猫がすっぽりと横たわり、三匹の子猫に
  お乳を飲ませていた。
   男と母猫と目が合ったが、母猫は動じることもなく、
  横たわったまま男を見ていた。
   巨木の下にはわずかな地表があり周りには低木が生え
  ていた。仔猫の鳴き声がする方を見ると、三メートルほ
  ど離れた低木の間に毛色の違う仔猫がいた。
   また違う方向から鳴き声がした。母親の居場所から五
  メートルほど離れたツツジの木の隙間をおぼつかない足
  取りでどこへ行くのか仔猫が鳴きながら、よちよちと歩
  いていた。 
   巨木の裏側からも、可愛い顔を覗かせ、口を開け泣い
  ている仔猫がもう一匹いた。その光景を見た男は、仔猫
  の離乳期に遭遇したのだなと思った。
   そのうちの一匹を連れて帰りたいと思ったが、完全に
  親離れをしたのかどうか確認できないし、妻は猫を飼う
  ことを望んでいないことをこの前知ったところなので、
  連れて帰ることを断念した。
   母親から離れた仔猫はどうなるんだろう? 
  男は気になりベンチの上から静視していた。
  ひとしきり母親の乳を飲んでいた三匹に対し、母猫はも
  ういいでしょと言った感じでお腹から仔猫を離そうとす
  るような動きを見せた。それでも仔猫は離れようとしな
  い、すると、いきなり牙をむいて威嚇し、ついに仔猫に
  猫パンチが炸裂した。攻撃を受けた仔猫のうちの二匹は
  鳴きながら親猫から離れた。
   初めて親離れの瞬間を目の当たりにした男は、猫が野
  生で生きることの厳しさを突きつけられ、猫の世界の容
  赦のない厳しさにたじろぎ、残酷に思えて胸が締め付け
  られた。
   過酷な野生の世界で生きる宿命とは言え、わが子との
  別れを母猫はどんな気持ちで辛さや悲しさを乗り越えて
  いるのだろう。
   仔猫はこれから野生の掟や本能に従って生きていかな
  ければならない、生まれたこと、生きていくこと、死ん
  でいくこと、猫は人間のように、うだうだ考えたり、問
  うたりしないのか? 
   男は自分と猫とを置き換え、生ききること、死にきる
  こと、寿命を全うすること、それを考えたが、煩わしい
  だけだった。
   猫はある日、突然姿を消すが、それも自然の摂理の中
  の一つの出来事にしかないのだ。
   男はその場から離れるとき、試練とは言え親猫も仔猫
  もエライなぁと思い……、親離れとか子離れがうまくい
  かない人間に、この猫の現実を見せてやりたいものだと
  思った。
  「いい縄張りを見つけて元気に暮らせよぅ」
   男は心のうちでそう呟きベンチを降りた。

   ――数日経って、
   男は出がけにデジカメをポケットに入れて、仕事先に
  向った。〈今日は帰りにミーちゃんの動画を撮るんだ〉
  と、楽しみにしていた。
   その日の仕事が終わり、県道から学校の門の前を通る
  一方通行の道に自転車を走らせた。
  学校の門の前を過ぎたあたりで自転車を停め、上着のポ
  ケットからデジカメを取り出し、撮影モードをオートに
  して電源のスイッチを入れた。
   あとは、被写体の範囲に入ったら動画の赤いボタンを
  押せば撮影がOKなのだ。
   十字路に向かって自転車をゆっくり漕ぎながら近づい
  ていき、〈よし、ここから撮影しよう〉と思って、ミー
  ちゃん通りの十字路の前で赤いビデオボタンを押した。
   すると、撮影の合図を待っていたかのように、十字路
  の右の角辺りから、ミーちゃんが飛び出し、尻尾を立て
  て鳴きながら道路を斜めに跳ねるように走り、自転車の
  前を横切り、男の左足の近くに寄って来た。
  十字路を渡り、一方通行のミーちゃん通りをゆっくりと
  自転車を進めると、ミーちゃんは男の顔を何度も見上げ
  ながら、声高に鳴いてついて来た。
  「ミーちゃん、ありがとう待っててくれたん」
   ――と、男は猫に話しかけた。
  「ミヤァ〜、ミヤァ〜」――と、
   それに答えるかのように猫は鳴いた。

   家に帰るとすぐに、撮った動画をパソコンに移し、そ
  の映像を確かめると、ディスクトップに保存した。
   その日のお夕飯を済ませ、シンクの中の物を片付け、
  妻がゆっくりする時を見計らって、
  「これ見てぇ、今日帰りに撮ったんやでぇ」 ――と言
  って、動画を保存したディスクトップのアイコンをクリ
  ックした。
  「まぁ! 可愛い! 上手に撮れてるじゃない、いい動
  画ね! 感動しちゃったわぁ〜」
  「一分十三秒のドラマだね……、猫の言葉が分からない
  から、切なくて、やるせないね」
   ――その晩、男は夢を見た。
   生後半年ほど経った六匹の仔猫に、母猫がお乳を飲ま
  せていた。母猫が仔猫を前足でなぐり牙をむいて”シャ
  ー”と、威嚇した。三匹は鳴きながら母猫から離れ、巨
  木の根っこに身を寄せうずくまっていた。母猫のお腹か
  ら離れようとしない三匹に対して、尚も威嚇し容赦のな
  い攻撃を加えた。二匹は辛そうにしながらも、しぶしぶ
  離れた。
   残った一匹に対して、母猫は、仲良くなれる善良な人
  間と、危険な人間の見分け方と、人間との付き合い方を
  教えた。
  「あなたは、食べることには困らないでしょう。あなた
  は、人間に可愛がられ、人間の役に立つように、自尊心
  を持って生きなさい」
   そう伝えると母親はその場から消えた。
  「あっ! 子猫がいるわよ」
   学校帰りの女子児童のふたりが見つけて、ひとりが仔
  猫を上着に包んで持ち帰った。ご近所なのか?通りすが
  りのオバさんが、仔猫のうちの一匹を拾って持ち帰った。
   あとの猫はどうなったのか分からないが、最後に親離
  れをした仔猫は、西に傾く夕陽に照らされ、南の方へ南
  の方へと向かっていた。
   「あっ、ミーちゃんだ」――と、
   声を発しようとしたらハッと目が覚めた。

   学校を過ぎて十字路を渡って右の角から、文房具と菓
  子パンを売っている伊藤商店さん、二軒目がサラリーマ
  ンの弘田さん、三軒目が中田さんで、ご夫婦ともに教職
  員で定年退職している。四軒目がカーディーラーのセー
  ルスマンの岡田さん、佐野さん宅は高齢者のお二人がお
  住まいで平屋一戸建てである。あとの四軒は平田さん、
  木戸さん、北村さん、吉竹さんで表札で名前を知った程
  度である。
  ミーちゃん通りの右側に九軒が並んでいた。
   十字路の左側の角から、大きな屋敷の長尾さん、長崎
  さん、山川さん、柴田さん、ふれあいセンターと公園ま
  でがミーちゃん通りだ。ミーちゃん通りと勝手に名付け
  た男は、その道を通って帰るのがいつもの楽しみだっ
  た。


   ――そんなある日、
  十字路の左側角の生垣に囲まれた大きな屋敷の長尾さん
  のお爺さんが、「俺はネコが嫌いなんや」と庭箒と袋ら
  しきものを持って猫を捕まえようとしていた。
  猫は素早く側溝の暗渠(あんきょ)の下へ素早く逃げ
  た。
  「どこにでもクソして、臭いんじゃ」――と、
   お爺さんは怒っていた。
  男が少し先に行って、振り向くと、猫は遠くから男が去
  って行くのを見送っていた。
  「あの猫は、ミーちゃんだったのかな?」
   男は、お爺さんに捕まって、保健所に連れていかなけ
  ればいいがと心配した。
   翌日、そこを通ると、長尾さんの北側の用水路の柵に
  〈猫にエサをやるな〉と書かれた張り紙が吊り下げられ
  ていた。
   可哀想だからと言って野良猫に餌を与える人がいる一
  方で、近隣住民が野良猫の糞害や悪臭などで困ってい
  る。餌やりで飼い主のいない野良猫を増やしてしまうと、
  野良猫にとっても人間にとっても不幸なことで、無責任
  な餌やりは有害であり、慈悲の心は、むしろ身勝手な
  虐待行為と言えるのではないか? 
  人間の生活圏で共存している野良猫は野生動物と言え
  ないかもしれないが、人間から自立して、戸外を自由に
  行動し餌を獲得することのできる野良猫の生態に、人間
  はむやみに関与してはいけないのだと男は改めて思った。
 
   生ごみ収集日に、三軒目の中田さんと四軒目の岡田さ
  んが、ゴミ出しに来て、ゴミ置場で立ち話を始めた。
  「お早うさん、可哀想だからってノラ猫にエサを与える
  のは迷惑よねぇ、増えても困るし、ゴミをあさるし、ろ
  くなことがない」
  「公園の砂場や家庭菜園が糞尿で困っているのに、エサ
  やりは自己満足で偽善で無責任よね、飼って世話をする
  気もないくせにねぇ」
  「あの人懐っこい猫は太っているよね、伊藤さんか弘田
  さんとこで、キャットフードをあげてるんじゃない?……」
  「あの猫、伊藤さんとこの店の入り口で高校生らが通る
  と、ミャーミャー鳴くんだって」
  「愛想がいいから、猫好きの高校生らがいつの頃からか
  ミーちゃんて呼んでるんだって」
  「ミーちゃんね、可愛い猫だけど、どこから来たのかし
  ら? 何となく他のノラとは違うわね、向かいの長崎さ
  んのお宅辺りから出没する三毛猫は、私を見るといつも
  おどおどして警戒心が強いから、好きになれないわ」
  「あの人懐っこいキジ柄の猫は、あいさつをするかのよ
  うに鳴いて寄ってくるから、ほだされて飼おうかと思っ
  たことがあったけど、大きくなり過ぎてるから、懐かな
  いだろうし、しつけも難しいだろうと思い飼うの諦めたの」
  「顔の下半分が白いから白キジ猫ね、顔に気品みたいな
  ものを感じるわよねぇ」
  「高校生らがミーちゃんって呼んでるの、! そう言え
  ば、五時頃になるとその猫は、弘田さんとこの白いブロ
  ック塀の上から、誰かを待っている様子で、自転車に乗
  った男の人が通りかかると、塀から飛び降り鳴きながら
  自転車に駆け寄ったの、男の人は〈ミーちゃん待ってた
  んか、ありがとう。ただいま〉って言ってた。
   あの男の人もミーちゃんって呼んでた。あの男の人も
  エサをあげたことがあるんじゃない、猫がすごい懐いて
  いたわ……」
  「あの猫はエサには不自由していないってことね、それ
  で丸々と太っているのね」
  「いやぁ、猫は生後六ヶ月位で妊娠が可能になると言う
  から、赤ちゃんがいるのかもよ」
  「あらぁ! ノラ猫が増えるのは困るわぁ」
   とご近所の奥様同士が猫の話をしていた。

   世に招き猫の由来の伝説が数々あるように、繁盛する
  お店には看板猫がいたりする。
   御多分に洩れず伊藤商店もミーちゃんが入り口付近で
  居つくようになってから、ミーちゃんは店の看板猫にな
  り、店の前を通る学生たちが「可愛いと言って」ミーち
  ゃんに招かれたように店内に入り何かしら買い求めるよ
  うになり、ミーちゃんは売り上げに貢献していた。
   伊藤さんご夫婦はいつの頃からか、首輪を着けずに、
  野良猫のまま外飼いをしていた。
  というのも、奥様はそんなに猫が好きではなくて、保護
  してあげたいけど家の中では飼えない、何度も店の裏の
  勝手口に来ては鳴く野良猫の可愛いらしさに、人間なら
  誰しも備わっている慈悲の心が引き出されてしまった。
   最初は、勝手口のドアを開け、モルタルのステップの
  ところで餌を与えていたが、奥様の方も野良猫に懐いた
  ころ、ドアを開け中に入れ、勝手口の中に入れ、土間の
  コンクリートのところで餌を与えるようになった。
   食べ終わると、外に出してと鳴くのでドアを開けてや
  ると、お礼を言って出て行き、店の入り口に周り、ドア
  の端っこで毛づくろいをしながら、看板猫をするように
  なった。 
   子供が独立して二人きりになった夫婦は会話も少なく
  なり、夫婦関係が冷めきっている感じだったが、ミーち
  ゃんを通して会話をするようになり、夫婦が気付かない
  うちに、優しさ、気づかい、思いやり、心に温もりが自
  然と戻り、会話も増え笑いも増えた。
   野良猫を飼う場合、動物病院へ連れて行き、感染症に
  かかっていないかノミやダニがついていないか、異常繁
  殖を防ぐために不妊手術もしなければなりません、しか
  し、伊藤さん夫婦はそこまでの知識も無く、考えが及ば
  ないまま、ミーちゃんを外飼いしていたのです。
   男がミーちゃん通りと称した地域猫としても皆さんか
  ら可愛がられるようになった。

   ――男が仕事帰りにミーちゃんに会いたいなぁと思っ
  て通っても見かけなくなった。「ミーちゃん、ミーちゃ
  ん」と小声で呼び続けても、どこからも現れることはな
  かった。ひょっとして保健所にでも連れて行かれたのか
  なと心配をしていた。
   野良猫の生態を調べてみると、過酷で毎日がサバイバ
  ルである。ペットして飼われている猫は十五歳前後まで
  生きるが野良猫は五歳までにほとんどが亡くなってしま
  う。子猫が成猫になれるまでの生存率が五十%以下でと
  ても低いことが分かった。
   テレビで犬や猫の殺処分ゼロを目指す自治体の収容施
  設や民間の動物愛護団体や行政が抱えている問題が取り
  上げられていた。地域の住環境が悪くならないように、
  猫と人が幸せに優しく共存できる社会を目指す活動を、
  自治体と民間の動物愛護団体とが協力し合って、野良猫
  の繁殖を抑制し、殺処分ゼロをめざし「TNR」活動を
  していると言う。 
   野良猫を捕獲して不妊と去勢手術を施し手術後は目印
  になるよう耳を少しカットする活動に取り組んでいる。
  そう言った活動支援の予算は民間からの寄付による『ど
  うぶつ基金』ですべてをまかなっているという。
   ある地域では、動物愛護管理センターを設け、獣医師
  を常駐させ、犬猫の救命や飼養管理の強化を図っている
  と言う。 
   男は、殺処分ゼロを目指している行政や、取り組んで
  いる自治体や民間団体が増えて来ていることを知り。
   ――胸を撫で下ろした。

   ――そんな頃に、
   伊藤さんの勝手口の通路の少し奥の軒下の、エアコン
  の室外機やビールの空き箱の並びに、屋根付きのペット
  ハウスが作られていた。
   猫がまたいで入れる箱の中には小さな座布団が敷かれ
  た段ボール箱がすっぽりと入れられ、人目につかないよ
  うに母猫が安心できる出産場所がこしらえてあった。
  その箱の中でミーちゃんは六匹の子猫を産んでいた。

   男がミーちゃんのことを忘れたころ、二軒目の弘田さ
  ん家の白い塀の上にミーちゃんが現れ、男が近づくと塀
  から飛び降りて、自転車に近寄って来て鳴いたり、柵に
  体をこすって、甘えるような仕草を見せた。
   男はミーちゃんに会えて嬉しかった。
  「久しぶりだね、どうしていたの、元気だったかい」
   ――と、話しかけた。
   久しぶりに見たミーちゃんの左耳の先が、ちょん切ら
  れたようになっていた。
   家に帰って男がその話をすると、男の妻は、
  「それは避妊手術をしてある印で、桜の花びらに形が似
  ていることから『さくらねこ』と呼ばれているわよ」
   ――と、教えてくれた。
  「そうなんだ、何だか痛そうだなっ」
  「これ以上不幸な猫を増やさない、不妊と去勢手術が何
  よりも大切なんだってさ」
  「不妊と去勢手術か、自然の生態系に反した人間のエゴ
  かも知れないけど……野良猫が増えるのもその地域にと
  っては問題だよねぇ」
   メスの出産後の手術は、出産後四十五日以降が目安
  で、仔猫が親と同じ食事ができるようになり哺乳が終
  われば可能だと言う。
   伊藤さんご夫妻は、仔猫が乳首を吸うのを親猫が嫌が
  り離乳を促し、哺乳を完全にしなくなるのを待って避妊
  手術を済ませていた。
   ――そして、里親探しを始めた。
  段ボール箱に入っている子猫を店の入り口に置いて、
  〈誰かもらって下さい、可愛い猫ちゃんたちです〉と書
  いて張り紙をした。
   自治会長さんに回覧板で猫の里親探しができませんか
  と相談したが回して貰えなかった。
   それで、伊藤商店です。《誰かもらって下さい、可愛
  い猫ちゃんたちです》と書いて、子猫たちの写真を載
  せ、ノラ猫の餌やりの問題や、地域猫の不妊去勢手術
  (TNR)について書いたリーフレットをご近所の十三軒
  の各家にポスティングした。

   六匹の子猫のうちの二匹は店の入り口に置いたその日
  の夕方に、高校生の男の子と女の子のふたりに貰われて
  行った。
   ――数日のうちに残りの四匹も里親が決まった。
  そのうちの一軒の里親は伊藤さんも予想外の驚きだっ
  た。猫が大嫌いだと薄々知っていた大きな屋敷の長尾家
  のお爺さんが小学一年の孫娘と一緒に伊藤商店にやって
  きた。
  「孫が写真で見た子猫が可愛いから欲しいといって駄々
  をこねて困ってるんですわ、その猫はまだおりますか? 
  ちょっと見せてくれませんか、見たい言うてきかないん
  ですわ」
   伊藤さんは店の片隅から子猫が入っている段ボール箱
  を抱えて来て入り口付近に置いた。
  長尾のお爺さんはしゃがんでどの猫かいなと孫娘に聞い
  た。
  すると孫娘は指を差して、
  「じいちゃん、写真で見たのは! この子や頭と背中と
  尻尾が黒い、この子や!」
   この子かとお爺さんが手を出すと、鼻をこすりつけて
  きた。お爺さんが両手を出したらその子猫は足を載せて
  きたのだ。子猫の下にそっと両手を入れるとお爺さんの
  手のひらに乗ってきた。子猫を両手で包み込むように持
  ち上げると、嬉しそうにミャァミャァと鳴いた。子猫の
  可愛さにお爺さんはイチコロで、お爺さんの猫嫌いはど
  こかへ行ってしまった。
   孫娘と話し合って家飼いすることにした。
  孫娘と一緒に可愛がりしつけをしているうちに猫への気
  持ちはがらりと変わっていった。

   あとの三匹は母猫がミーちゃんであることをあらかじ
  め知っていたご近所の会社勤めの弘田さんと三軒目の教
  職員をしていた中田さんのお家へ、もう一匹は平屋一戸
  建てにお住いの佐野さん宅にもらわれて行った。高齢者
  のお二人がお住まいの佐野さんの奥様が腰が思わしくな
  く、バリヤフリーにリフォームされたお家の中で車椅子
  生活をしていた。
   猫を飼えば幸せなことが多くあります。飼い主と猫が
  癒し癒され、寂しいときや嫌なことがあったとき、猫を
  撫でたり、猫に甘えられたり、ゴロゴロとノドを鳴らさ
  れたりすると落ち着きを取り戻します。

   里親に貰われていった子猫ちゃんたちは、どの家も外
  で飼わない室内飼いをしていた。
  室内飼いにした理由は、どの家もほとんど同じで、外で
  汚れた足で家にあがられのが汚い感じがして嫌だから、
  野良猫とのケンカや車による事故に遭う危険性を避けた
  い。ご近所のお庭や花壇で排泄し、ご近所に迷惑をかけ
  トラブルの原因になるから、他には外飼いは病気や寄生
  虫に感染するリスクが高いから、などが理由に挙げられ
  ていた。
   猫にとっては外に出られないストレスや運動不足で肥
  満になりやすいなどがあると言われていますが、室内外
  には事故や様々な病気から猫を守り、長生きするという
  メリットがあります。猫が運動不足にならないように遊
  べる環境を積極的に作りましょう。
 
   イギリス王立協会の専門誌が、健康の観点から、猫は
  室内飼いを推奨するとの研究結果を発表したという。
   その一方では、家の中でネコを飼うのは嫌だという意
  見もあります。
   柱や戸のさんや家具などで爪をとぎキズだらけにした
  り、物を倒したり壊したり、外に出せと夜鳴きをした
  り、噛みついたり、引っ掻いたり、走り回ったり、ニヤ
  ァ〜ニヤァ〜うるさく鳴いたり、排泄の粗相をしたり、
  毛玉を嘔吐をしたりして、家が汚れ臭い匂いがして、毛
  が抜け落ち不潔なのでとても飼えないという。
   何はともあれ、命あるものを飼うのですから、猫が本
  当に好きなら家族の一員として愛情を注ぎ、生涯お世話
  ができるか真剣に考えて、室内飼いの覚悟をすることが
  大切です。
   猫を飼えば大変に思うこともあります。猫の習性だか
  ら、動物だから仕方ないと寛容になれる人でないと生涯
  の面倒は見れません、飼った以上は、ご近所迷惑になら
  ないよう、マナーを守って飼わなければいけません。

   ――子猫が里親さんに貰われて行ってから、一ヶ月経
  ち、二ヶ月経ち、三ヶ月が過ぎた。

   長尾家のお爺さんは、孫娘とどんな名前をつけようか
  と相談した結果!「チロ」と名付け、お爺さんはすっか
  り子猫に懐かれ膝の上で甘えるから可愛くてしょうがな
  い、孫娘が学校から帰るまで、何かと世話をやいたり相
  手をするのが楽しみになっていた。

   バリヤフリーの佐野さん宅では、メイちゃんと名付
  け、ご夫婦は可愛がっていた。
   腰の具合悪くて車椅子生活だったご高齢の奥様に奇跡
  が起き初めていた。
  「あなた、この子ったら、私の足の甲の上に乗って来る
  のよ、ですからね、こうやってかかとをつけたままだけ
  ど、動かしてやるの、そしたらメイちゃんが喜ぶのよ、
  そのうち落っこちるでしょ、そしたら今度は左足に乗っ
  て来るの、足の上に乗って遊んでってせがむのよ、
  だから、こうやって動かしてやるの」
  「ふうん、お前のことがよっぽど好きなんだね、メイち
  ゃんの方がお前の遊び相手になってくれてるんじゃない
  の! 可愛いねぇ」
   と嬉しそうなご主人日に何度も猫にせがまれ足で遊び
  相手をしていた。
   ――猫が少し大きくなり、足首にしがみつくようにな
  った。
  「あら! メイちゃん重いわよ、こうしてほしいの、ぶ
  らーん、ぶらーん、ぶらーん」
   車椅子に乗ったまま、膝から下をゆらしながらメイち
  ゃんと遊んだ。しんどくなって休むと、今度は左足に抱
  きついてきて動かせと顔を見ながらミヤァ〜ミヤァ〜と
  鳴いた。
  「あら! ダッコちゃん見たいね、今度はこっち、ぶら
  ーん、ぶらーん、ぶらーん」
   膝から下を揺らしたり、太ももの上に乗ってきたのを
  あやしたり、そうこうしているうちに、猫を相手に足を
  動かしていたことが軽いリハビリ運動になり効果が現れ
  た。
   奥様が車椅子から立ち上がるとベッドに手をつき体を
  支えながらも歩くことができた。それから積極的に車椅
  子に座ったまま、足を上げたり伸ばしたりして膝から下
  を上げ下げし、軽い運動をしながらメイちゃんと遊ん
  だ。
   そしてついに、車椅子生活をしていた奥様が歩行器を
  使って立って歩けるようになり、気分や体調が良くな
  り、天気の良い日は歩行補助杖をついてバランスを保ち
  ながら、庭を歩けるようにまでなった。

   伊藤商店から二軒目の弘田さんのお家では、子猫の室
  内飼いに必要なものを揃えたり、トイレのしつけなど全
  般を一人息子の克也くん『カッちゃん』がすべてやって
  いた。
   弘田さんご夫妻が里親にならせて下さいと、伊藤商店
  に子猫をもらいに行ったのは、弘田さんのご主人が会社
  の休憩時間にパソコンを触っていて、『猫は発達障害に
  も効果がある』と言う記事を目にしたからだった。
   発達障害を持った人は、対人コミュニケーションが上
  手に取れず悩んでいるケースが多く孤立してしまいま
  す。そんなときに猫は発達障害の言葉の壁も関係なく信
  頼関係を築いてくれます。と言う記事を読んで、弘田さ
  んは、猫を飼おうと決心したのだった。
   そのためには、何よりもカッちゃんが猫に愛情を持っ
  て接することができるかが一番の心配事でした。
   もらって来た日の朝はカッちゃんが登校した後だった
  ので、子猫が家にいることなど知りません、弘田さんご
  夫妻は、子猫をリビングに置こうか、廊下に置こうか、
  カッちゃんの部屋の前におこうか外が見える窓辺はどう
  かと、作戦をいろいろと考えた。
   その結果、さりげない作戦でいこうと言うことにな
  り、カッちゃんが下校する時間に合わせ段ボール箱にタ
  オルを敷いて玄関の上がりがまちの上に置いた。
   弘田さんご夫婦は妙な期待感が溢れ、胸がドキドキす
  るのを抑えながら、今か今かとリビングで耳を凝らして
  待っていた。
   ――ガチャと玄関の方で音がした。子猫が、
  「ミヤァ〜ミヤー」――と鳴いた!
  「おおおおおお母さ〜ん」
   驚いてカッちゃんはお母さんを呼んだ!
  ご夫婦はリビングから飛び出し玄関へ! 
   カッちゃんは、玄関で立ったまま、子猫をそっと両手
  で抱え胸に抱いていた。
  「このネコ……どうしたの?」
   と言っているカッちゃんの顔が、幼児期に欲しがるも
  のを与えた時に嬉しそうに喜んだときと同じ、あの顔に
  なっていた。
  「その子猫なぁ、《誰かもらって下さい、可愛い猫ちゃ
  んたちです》
  と書いてあったチラシの子やねん、ウチで飼ってもいい
  かなぁ」
  「ぼぼぼぼボクが飼う」
  「えっ! カッちゃんが世話してくれるのん」
  「ボクが飼い方を調べて、チャンとする」
  「じぁ、全面的にカッちゃんがお世話をするのよ、カッ
  ちゃんが学校に行っている間は、お母さんが面倒を見て
  あげるからね」
  「うん、分かった」
   すぐに、お父さんが運転する車でホームセンターに行
  き、猫を室内飼いするための必須アイテムを店員に聴き
  ながら買い揃えた。
   ホームセンターの帰り、猫を室内飼いをするための知
  識を勉強するために本も買った。
  「お父さん、おカネがずいぶんかかったね」
  「そんなことはないよ、これから何年間か、家族の一員
  として、カッちゃんとお父さんとお母さんの三人の癒し
  相手になってくれるんだから、お金がかかったうちに入
  らないよ、お金に換算できない福が来るかもな」
  「そっかぁ! ……福か! お父さん、ネコの名前『フ
  ク』にしようよ。フクがいいなぁ」
  「フクか! いいね! カッちゃんが名付け親だ! お
  母さんもいいと言うよきっと!」
   家に帰りつき、購入したものを玄関に運び終わると、
  段ボール箱に入っている子猫を大事そうに抱え上げ胸に
  抱きすくめると、
  「お母さん、ネコの名前『フク』にしたよ」
  「ふく、……幸福の福ね、いいじゃない」
  「フクくん、フクちゃん、どっちがいい?」
  「まだ小さいから、フクちゃんがいいんじゃないの、福
  を呼ぶアメージングキャットね」
   お母さんのジョークが分かってか? カッちゃんは珍
  しく声を出して笑った。
  「フクちゃん、可愛いなぁ、ヨチヨチ」
   と言ってフクちゃんの頭をそっと撫でているカッちゃ
  んの顔に生気がみなぎっていた。
   そんなカッちゃんの顔を見てお母さんは、フクちゃん
  にうちの子になってくれてありがとうねと呟くように心
  のうちで感謝をした。
   カッちゃんが小学校入学後に、発達障害の自閉症『ア
  スペルガー症候群』が発見された。
  知的発達に明らかな遅れはなく、言語も知能も特に遅れ
  ているとは思わなかった。
   自閉症の特徴を有しているという点に於いても、手が
  かからず一人遊びを飽きずに続けるおとなしい子やなぁ
  と思って居たくらいで、顕著な問題は感じられなかった
  ため、幼児期にご両親は自閉症とは気づきませんでし
  た。
   だが小学生になって、友人関係が上手くいかない、会
  話が出来ない、他の子に興味がない、団体行動ができな
  い、皆んなと一緒に遊ばないなどの特徴が見られるよう
  になった。
   自閉症の傾向がありますと診断された後に、幼児期に
  みられた自閉症の傾向がわかった。人といっしょに遊ば
  ない。同じ遊びばかりしていた。公園に連れて言っても
  砂場でごっこ遊びをしなかった。他の子に興味を示さな
  かったなど……、思い当たる兆候があった。
   発達障害といっても、一人ひとりの症状は多様で、そ
  の子の個性や状態像は多様。また、同じ診断名でも、子
  どもの個性や人格があり、知的障害を持たない高機能の
  子も多く、障害という一般的なイメージとは異なり、発
  達障害がという言葉でひとくくりにするのは間違いで、
  一人ひとりの知能や個性をちゃんと理解して支援するこ
  とが大切である。

   ――「日本自閉症協会」のパンフレット、自閉症を知
  っていますか? 望むのはあなたの「心のバリアフリー」
  からの引用だが、―― 
  1.自閉症って何だろう
 自閉症のある人は自ら閉じこ
  もっているのではありません。
  また、乳幼児期に適切な養育がなされなかったために、
  心を閉ざしてしまったというような状態でもありませ
  ん。
 自閉症の原因は、まだ確定されていません。
  「親の養育態度が一次的な原因ではない」ことは明らか
  になってきました。
 
   現在のところ、「先天的に中枢神経系の働き(主とし
  て認知の機能)に問題があり、そのために情報伝達がス
  ムーズにいかないことによる社会的・対人的な認知やコ
  ミュニケーション能力など広汎な領域における発達の偏
  りや遅れ」と考えられています。
  「いくつかの遺伝子の配列異常と、何らかの他の原因が
  複雑に絡み合って、中枢神経系の働きに障害が起きてい
  るのではないか」と考えられています。
 近年、自閉症
  の特徴の表れ方は多様であることがわかってきました。
  知的障害のない自閉症は「高機能自閉症」と呼ばれます。
  言葉の遅れがないタイプは、「アスペルガー症候群」と
  呼ばれます。……と書かれてあり、
  日本自閉症協会監修『自閉症とともに』自閉症の理解と
  支援に役立つDVDが作られている。――

   自閉症の原因は、まだ確定されていないとしながら
  も、親の育て方が原因ではないことが明らかにされたこ
  とが、カッちゃんのご両親にとって嬉しいことで胸を撫
  でおろした。

   カッちゃんはフクちゃんが待っているのが嬉しくて、
  学校から走って帰って来ると、「ただいまぁ〜」と元気
  に言うようになった。 
   また、フクちゃんのエサが切れそうになるとボクが買
  って来るといい、フクちゃんに話しかけていた。
   ――そんなある日、奇跡が起こった! 
   カッちゃんがフクちゃんを見せたいからと、級友をふ
  たり家に連れて来たのだ! フクちゃんは級友のふたり
  に対しても怖がらず、ニャァ〜ニヤァ〜と愛想良く鳴い
  た。
  「可愛いなぁ〜、フクちゃん、フクちゃん」
   もう一人も可愛い可愛いと言って嬉んだ。それを見て
  いたカッちゃんは、フクちゃんが褒められたことが嬉し
  くて大はしゃぎをした。
  そして、級友と喋り合い大笑いをしていた。
   自閉症の傾向があると診断されたカッちゃんのライフ
  スタイルがフクちゃんによって、心が開き障害の進展が
  見られるようになった。
  「フクちゃんが来てから大きく変わったのよ」
   とおかあさんは目を潤ませた。
  「カッちゃんの不安な気持ちを無くし、日々の活力を生
  み会話も多くなり明るくなった。自分の気持ちを表現出
  来るようになり、他人とのコミュニケーション能力も向
  上して来たのは、他でもないフクちゃんのおかげです。
   将来はカッちゃんの才能を活かして生きて行って欲し
  いと願うばかりです」
   ――とお父さんは涙ながらに言った。

   三軒目のご夫婦ともに教職員をしていた中田さんのお
  家では、子供ふたりは独立し、お婆ちゃんがアルツハイ
  マー型認知症を発症して三年目になり家庭介護をしてい
  た。
   子猫の里親になった動機は『アニマルセラピー』とい
  って、介護施設などで動物による介護療法の効果を知っ
  たからだった。
   中田さんのお家では、レイちゃんと呼んで、可愛がっ
  ていた。認知症のお婆ちゃんのケアやあらゆる面でお婆
  ちゃんを癒してくれるセラピーキャットだと言って喜ん
  でいた。
   人間の表情や体を撫でたりさすったりする触れ合いか
  ら猫は人間の愛情を感じている。
   お婆ちゃんがベッドで横になっていると、お布団の上
  でゴロゴロ音を鳴らしてくれる。お婆ちゃんが椅子に座
  っていると膝に上がり、甘えたりかまって欲しそうに鳴
  いたり、ゴロゴロとノドを鳴らして癒される。
   レイちゃんと一緒に過ごすようになってから、中田さ
  んご夫妻は可愛い孫を得たようにレイちゃんを可愛が
  り、ご夫婦の円満度も上がった。レイちゃんの世話をし
  たり話しかけたり遊び相手になったり、自発的な行動を
  するようになり、レイちゃんによって、お婆さんはリラ
  ックスし癒し効果を得られ、認知症の自然治癒力が高ま
  り、良い変化が現れた。それまでは暗い顔になりがちだ
  ったお婆ちゃんがにこやかな表情で穏やかな時間を過ご
  せるようになった。
   そこには、アニマルセラピーと言われる人間と動物の
  関わりを超えた愛情を感じた。

   男は仕事帰りにミーちゃんをあまり見かけなくなっ
  た。初めて出会った日から丸々一年が過ぎて、あの日と
  同じように、西日が低く屋根や道路を照らしている秋の
  日の夕暮れ間近、学校を通り過ぎて十字路を渡った前方
  の右側二軒目の弘田さん家の白い塀に向かって高校生の
  男女が二人立っていた。
   よく見ると塀の上にミーちゃんが箱座りをしていた。
  男の自転車が近づくと同時に高校生たち二人はゆっくり
  とその場から離れた。ミーちゃんは塀から飛び降りニャ
  ーニャー鳴きながら斜めに駆け寄り男の自転車の前や横
  にすり寄って来た。
   男はかまって欲しいと鳴いているミーちゃんの顔に左
  手を伸ばし指先で撫でようとすると、その指先に鼻を近
  づけ体をすりすりと寄せてきた。
  「ミーちゃん、ただいまぁ、待っててくれたん、ありが
  とう。何も持ってないねん、ごめんね、またね、元気で
  ね、ばいば〜い」
   と言いながら、男は初めて少し太り気味のミーちゃん
  の体に触れることができた。――
   ミーちゃんはミヤァ〜ミヤァ〜言いながらゆっくりと
  動く自転車に束の間ついてきたが、ふれあいセンターの
  手前で前足を揃えて止まりお座りをして男を見送っていた。
   六甲山系に沈む夕日が空と雲を赤く染め、家に帰る男の
  顔を真正面から照らしていた。

                     「完」











  
posted by てらけん at 11:18| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

てらけんのメールに届いた。小説『けっ!くだらん』を読み終えて…。

 
 小説『けっ!くだらん』を読み終えて

  けんちゃん今晩は!
 感想文、〜小説『けっ!くだらん』を読み終えて〜
 をお届けさせていただきます。

  小説『けっ!くだらん』を読み終えて

 誠に読み応えのある小説です。
 持病のめまいのため読み終えるのに三日もかかりましたが、
 不思議なことに読み終えた後、気持ちが爽やかになりました。

 読了日が令和元年11月11日。
 当小説の183p、「最後に」の日付が平成29年11月11日でした。
 「けっ!くだらん」ようですが、どちらも同じ日付に不思議な「縁」を感じております。

  第一章 『青』

 ふるさとの母なる我が"熊木川"。童謡・唱歌「ふるさと」の歌詞そのものですね。
 幼い頃の夏休みのおもな遊びは川遊びでした。当時、男の子は水泳パンツなど珍しく
 殆ど“黒猫ふんどし”。
 小説に描かれた内容はどれもこれも身に覚えのあるものばかりです。
 私は鮎釣りが得意でした。毛ばりにはそれぞれ名前がついています。
 水の色と時間によって針を替え、川辺の淀みに釣るのが秘訣です。
 それに、お袋のレシピだが、鮎は焼いて酢味噌に付けて食べるのが一番美味しい。
 誰が言った言葉か忘れたが、「味の記憶は永遠である」と言う。

 かつての"熊木川"は清流で多様な魚類や生物が棲む宝庫であり、子どもたちが生きた
 自然に触れる貴重な川でありました。
 なお、旧中島町の象徴として指定された<鳥>は"熊木川"に棲む「カワセミ」ですし、
 ちなみに<花>は「ササユリ」であります。
 現在のその川は水害対策の護岸工事が原因で昔の面影がなくなりました。
 「カワセミ」の姿もなかなか見られない状況です。
 トンボや蛍が飛び交うかつての姿は今どこに行ってしまったのでしょうか。
 ドブ川であろうが清流であろうがどの川も必ずその源流の一滴がある。
 それをたどり尋ねればおのずと答えがそこにあります。

  なお、昔の清流を取り戻し、保存するには川の生態系を破壊しないことです。
 まず、微生物が清流をつくる。そこでは植物プランクトンが育ちます。水生昆虫などを
 魚類が食べ、野生動植物へと命を繋ぐ。
 それに、土手をコンクリートで吹き付けるなどの工法は川の命を奪います。
 川は息をしており生命体そのものなんです。
 その生命体は他の生命にも恩恵を与え「永遠の命のリレー」を織り成して循環している。
 自然の摂理であります。
 それは自然界のいろいろな生き物たちが織り成す生態系の法則であります。

  私は現在の河川土木工事はどのようになっているのかと、調べてみました。すると、
 『多自然川づくり』と言う概念が確立されていました。
 国土交通省による『多自然川づくり』とは“自然環境の喪失を懸念する住民から、
 各種開発の差し止め請求が起こるようになり河川も例外ではなく、ダムやコンクリート
 護岸も問題視されるようになったことを踏まえ1993年(平成5年)に成立した環境基本法では、
 公害対策基本法で規定されていた生活環境の保護に加えて、環境の保全が規定されている。
  そして1997年(平成9年)には、河川法も改正され、従来までの「治水」、「利水」に加え、
 「河川環境の整備と保全」が盛り込まれた。
 『多自然川づくり』に基づいた河川改修では、極力、改修前の自然環境のしくみを維持する
 ことを意識している。そのため、施工箇所に存在する植物や木、石などの素材を利用したり、
 自然の生み出す流速や川幅、水深、植生の変化等を残したりするよう努めていてコンクリート
 護岸による直線水路ではなく、河川の自然環境を活かした、水際の変化に富んだ河川構造と
 なっている。
  また、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮
 することが重要となるとなっている。(”国立環境研究所ホームページより引用。)

 熊木川の護岸工事はいつ頃行われたか存ぜぬが河川法が改正されてからであればときっと
 違っていたかも知れぬ。

  第二章 『赤』

  羽咋市滝町の別荘界隈では今、赤とんぼの乱舞の季節。複数の種類が飛び交っています。
 興味を持ってネットで調べて見るとなんと種類の多いことか。
 なお、去年ここでオニヤンマを見た。また、少年時代に故郷でみたギンヤンマはそれ以来、
 出会っていない。
 オニヤンマは同じところを往復して飛ぶので大きなタモがあれば比較的に捕りやすい。
 また、故郷ですっかり見ることのできないシオカラトンボをこで見ることができて喜んでいる。
 なお、将来、庭に小さなWビオトープWを設けたいと思っている。楽しいことになると思う。

  第三章 『黒』

  基本的に、シマミミズが釣り餌に良い。特にフナ釣りには当ミミズである。
 ナマズは大きい泥ミミズでハエナワ漁である。
 そして、鯉はふかしたジャガイモをタンゴ状にして釣る。
 また、干潮になるとススキやサヨリが遡上してくる。
 夜、懐中電灯の光で集まる浅瀬の鮎をタモですくう。
 当時誰もやっていない捕り方だと自負している。
  ある日、石亀を捕まえたら、お袋がお酒を飲まして逃がしてあげなさいと言われ川に帰した。
 それに、フナが目当てなのにキンチョウ(ゴリ)やへチャ(タナゴ)がよく釣れた。
 直ぐにそれを川に放す。
 ボラを投網で捕る人もいた。モガニを竹で編んだザルに餌を付けて捕る名人もいた。
 また。春に遡上するイサザは金網と竹でできた舟形網を浅瀬に沈めて静かに待つ。

 なお、私は海から遡上する鮎とイサザしか食べなかった。

  第四章 『橙』

  親父の先祖が釶打の古江です。今W古江焼きWと言う焼き物を時々目にします。
 これは七尾の地域資源であるケイソウ土を、花器・植木鉢に加工し、中島地区古江の
 特産品「古江焼き」として市の育成支援を受けています。
  また、定かではありませんが、西谷啓治(”日本の哲学者。京都学派に属する。
 京都大学文学部名誉教授、文化功労者。(” ウィキペディアより引用。)の姓の西谷は
 西谷内から来ているとか、何かの本で読んだ気がするのだが思い出せません。

 ご先祖さんが西谷内の出身なのか、著名な方なので調べてみるのも面白いかも知れませんね。
 なお、霊水「座主の水」の近くで当水を使った蕎麦屋がありました。
 随分昔に一度寄りましたが今はどうなっているかわかりません。
 流行っているといいのですが。

  第五章 『茶』  第六章 『緑』

  加賀先生の『私の人生抄』を読んでみたいものです。と、思ってネット検索した
 ところ出て来ました。なんと、けんちゃんのブログの中でした。
  読んで感動いたしました。ここではその感想等を述べさせていただきます。
 その前に、先生の書の冒頭に出てくる「貧富禍福一如」のW一如¨で紹介させていた
 だきたい話があります。それは、あるお坊さんのお通夜でのお話であります。

 「生死一如」とは、生も死も離れていません。紙の「表裏」の関係です。"表裏一体”です。
 「裏」である嫌いな「死」を無くすように削って、削っていたら「表」の「生」が
 台無しになったと言う面白い話です。「言い得て妙」ですね。

  また、数え年と言うのは仏法の教えからきており元々の意味は生まれた時に一つの
 「命をいただく」のでそこを一歳とする。
 そして、一月一日に新たに「命ををいたく」それで数え二歳となる。
 この話よって、これは時の流れの時間ではなく「いただく命」のことであったかと、
 気づかされました。
 私達はそのように「命をいただいき」ながら「生かさせてもらっている」のです。
 他力ですね。

  (一) 貧苦の妙薬に生かされて

  先生は信仰深く慈悲に満ち溢れた母の影響があって、生活の中に仏法が生きていたのですね。
 偉大な方の伝記を読むと最後の結びには必ずと言っていい、母の事が書かれています。
 いかに人は母の影響が大きいか、物語っています。

 「十億の人に十億の母あらむも 我が母にまさる母ありなむや」
 ”宗教家・哲学者の暁鳥敏(あけがらす・はや、1877−1954)の歌である。
 彼の母親が亡くなったときに作られた『母を憶う歌』370首のうちの1つであります。
 現代語訳:世の中のすべての人には母親がいる(いた)。しかし、自分の母親よりも素晴らしく、
 そして尊く有り難い存在は、この世のどこを探してもいない。となります。
  この歌の凄いところは、自らのことを語っていながら、十億人のすべての人に該当して
 しまうことであります。「うちの母親は世界一だ」「いや、うちの母親のほうが上だ」と
 いったランキング争いではありません。(”犯罪被害者の法哲学のブログより引用。)

  そうなんです。皆さん一人一人もこの歌のように、そうですよ。と歌っているのです。
 そして、彼は母の死に接し何ヶ月も泣いていたそうです。
 ついでに、もう一つ暁鳥敏の歌を紹介しましよう。
 「とにかくに われに尊き われを産みし母なりければ われにいみじき」「いみじき」とは
 善と悪に対してもいうことばですが、この場合は「素晴らしい」「最高だ」という意味です。

   母という字を書いてごらんなさい
   母という字を書いてごらんなさい
   やさしいように見えてむずかしい字です
   格好のとれない字です
   やせすぎたり 太りすぎたり ゆがんだり
   泣きくずれたり 笑ってしまったり
   お母さんにはないしょですがほんとうです 
    ー サトウ ハチロウ ー

  『父母恩重経(ふぼおんじゅうきょう)』(父母の恩をわかり易く説いたお経)に、
 「父母の恩重きこと天の極り無きが如し」また、「己れ生ある間は、子の身に代らんことを
 念(おも)い、己れ死に去りて後には、子の身を護らんことを願う」とあります。
  自分が生きている間は、子供のためには自分の身の危険をも顧みない、この世を去って
 から後も子供を護りたいと願うという、正に、命をかけた無償の愛、それが親心なんですね。

  (二) 小・中・高教師を遍歴して

  ここでも母の慈愛の心、恩愛がでできます。
 求道の精神や参禅、先に述べた暁鳥敏師のこと、桜井鎔俊和上について述べられていますね。
 「称ふれば我も仏もなかりけり南無阿弥陀仏の声のみぞして」これは一遍上人の歌です。
 先生の念仏三昧を伺い知ることができます。

  「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候死ぬ時節には
   死ぬがよく候これはこれ災難をのがるる妙法にて候」
  ”江戸時代の曹洞宗の僧侶である良寛の言葉です。
 一八二八年の冬、良寛が七一歳の時、住んでいた新潟の三条に一五〇〇人以上の死者が
 出る大地震が起こりました。幸いにして、良寛自身には被害はなかったのですが、子供を
 亡くした山田杜(と)皐(こう)に送った見舞い状にこの一文が出てきます。
  災難に逢うときは災難に遭い、死ぬときには死ぬしかない。私たちがどんなに手を
 尽くしてもそれは変えられません。だとしたら、それらを受け入れて生きるしかないという
 意味の言葉です。
 どんなに不運が続き、大災害に逢おうとも、それは紛れもない命の現実の姿でしかなく、
 そのことを「災難」としてしか捉えることができないならば、どこまでもその不運を嘆いて
 生きて行くしかありません。
 子供を亡くし悲嘆にくれる友人に対しそのことに一切触れることなく、
 「人として生まれたからには生老病死からは逃れることはできず、あるがままを
  受け入れ、その時自分ができることを一生懸命やるしかない」という仏教の教えを
 語ることで励ました、心のこもった言葉ではないでしょうか。
 そこには良寛さんの温かい人間味が感じられます。”
 (学校法人 光華女子学園 今月のことば「平成23年1月のことば」より引用。)

  ここで、「視線教育」という言葉を始めて知りました。
 おそらく加賀先生独自の言葉ではなかろうかと存じます。
 生徒一人一人に視線を向ける。特に問題生徒に視線を投げかける。
 また指名をよくする。生徒は認められていることを知ると、必ずよくなってくるものである。
 など、加賀先生の教育への情熱はただならぬものがあります。

  (三) こころの健康づくり

  ここでは、鹿島町の教育長時代の夢として図書館を設けることが述べられていらっしゃいます。
 現在、中能登町立鹿島図書館(公立図書館)が設置されており、先生の夢が実現されています。
 また、当図書館に中能登町生涯学習センターラピア鹿島(コミュニティ センター)が隣接されて
 おり芝生の広場もあります。
  それに、子供の憩いの場、公園も整備され、町の文化ゾーンとなっています。
 先生がご存命であるならばどんなに喜ばれたことでしょう。
 先生が種を蒔かれ、それが現在実っていると言うことであります。
 先生の「命の花」が見事に咲き誇ったと言うことであります。

  (四) 健康法の実践について

  食については昔から腹八分といいますね。
 また、複式呼吸は座禅からきています。
 なお、先生の実践された健康法は現代に通じ氏の「先見の明」に頭が下がります。

  (五) 諸事感謝と心の奉仕

  人生で経験することに無駄はない。「塞翁が馬」という言葉の通りです。
 また、「沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり」人生を川の瀬の浮き沈みに見立てて、不運があっても、
 そればかりではないから落ち込まないことだ、という意味のことわざです。
 「禍福は糾える縄の如し」「かふくはあざなえるなわのごとし」と読み、交差する縄の表裏を
 たとえて、幸福と不幸は表裏一体となってやってくるものだという意味のことわざですね。

  「今日もよし、明日もまたよし、明後日も、よしよしよしと生きる一日」  
 平沢興(京都大学第16代総長)この歌は私の大好きな歌の一つです。

  加賀良雄先生の「私の人生抄」<菊の巻>を拝読させていただき、自分の人生に重なる
 とこともあってか、共感だけでなく救われることが多くありました。
 誠に有り難く嬉しく思います。書を通じて先生にお会いできたことに感謝申し上げ、
 この五・六章を終えたいと思います。
 そして、会せていただいたけんちゃんに有難うであります。

  第七章 『黄』

  この章ではけんちゃんのご両親のご人徳がにじみ出ています。
 唐突ですが買い物先の店は「アンニャ」だと思います。

  幼い頃の小学校での遊びの思い出にはきりがありませんね。
 校舎屋根に上がってスズメの巣をとったり、校内でのかくれんぼ。肝試し。校庭での
 トンボ、蝉捕り。運動場では草野球、陣取りゲーム、ケンケンパー、缶けり、模型飛行機等々。
 また、講堂でピンポン。巡回映画。敬老会での演芸大会。
 なお、大きくなってからはピアノの練習、フォークダンス、青年団、町内の運動会、
 盆踊り、列挙に糸目がなくきりがない。

  私も小学時代に校庭の桜の木から落ちて息ができず気絶寸前のことがありました。
 なお、けんちゃんは小さい頃、火傷にあったことをこの章を読んで知りました。
 それに、別所に火傷の妙薬があったのですね。
 良くなってよかったですね。

  第八章 『金』

  法事には亡き人の思い出話が一番の供養になると思います。
 お父さんは色々と立派な功績のあるお方であられたのですね。

  ここで私の大好きな歌を紹介させていただきます。
 「父は照り母は涙の露となり同じ慧みに育つ撫子」(詠み人知らず)
 父の大智(光)と母の大悲(水)の慧みを頂いて育つ我が子(なでしこ)
 親の智慧と慈悲によって子は育つ。これを撫子に掛けられて歌っているのですね。

 鈴木大拙は文化勲章を授与されたときに昭和両陛下に御進講された名著「仏教の大意」大智と
 大悲(智慧と慈悲)についてご講話されました。この本を再度読み返したいと思います。。

  お父さんの倒られた現場の岡田家の前の喫茶店「雅」は偶然にも私の妻の実家です。
 なお、お父さんは死の直前まで人々の為に尽くされていたのですね。
 お父さんのお言葉、「楽したらダメやぁ、楽したら錆びたノミと一緒で、
 使い物にならんようになるがやぁ」は、肝に銘じたい素晴らしいお言葉ですね。
  また、加賀先生の何事にせよ、絶対こうしなくてはならぬのならぬ(拘り)をすてることである。
 これこそ我が座右の銘にしたいものです。
 と言うのも、私は何事にも完璧で完全主義なところがあって、そのことで苦しんでまいりました。
 この言葉は私にとって救いの言葉です。
 「人はほんの一言で救われる」とはこのことです。
 ストンと腑に落ちました。誠にありがたいことであります。

  「かくあるべし」という理想は必ず現実の自分との矛盾(=ギャップ)を生みます。
 これは誤った考え方ですね。
 また、「あるがまま」とは、気分や感情にとらわれず、今自分がやるべき事を実行していく、
 目的本意の姿勢を示し、積極・能動的な「あるがまま」と解釈し、頂いております。

 「晴れてよし 曇りてもよし 富士の山 もとの姿は 変わらざりけり」
 山岡鉄舟が残した名言ですね。
  
  凶福の凶は、対する吉で成り立ち、吉は凶によって成り立つ。
 吉がなければ凶とも言えず、その反対もしかりである。
 福と禍も同様であって従って「一如」という。明も暗があればこその明である。
 明があっての暗ですね。

  なお、
 ”一如とは、絶対的に同一である真実の姿、という意味の仏教用語である。
 「一」は絶対唯一、「如」は真如・如同の意で、一異の差別なく平等であることをいう。
 世間における一切の事物・現象には実相があり、普遍的に不二同一であることをいう。
 平たく読めば「一つの如し」となる。(” ウィキペディアより引用。)

  人は瀬戸際の「死」に直面し、立ち止まったとき、真の「生」に引っくり変える。
 瞬時に逆転して生に生まれ変わるとき、その生は強靭な生になるであろう。そう思います。

 また、重度の吃音症と人を二度と恨まない話についても目が止まり感嘆致しました。

  ここからは引用文です。
 “ 信仰をする人としない人の、一番大きな違いは、人生の問題の解決を「内」に求めるか、
 「外」に求めるかの考え方の違いではないかと思うようになりました。(略)

  例えば、こうです。どうしても赦せない憎い人がいるとします。
 ある人は、憎む対象となっている存在、すなわち「外」なるものを亡き者にして、
 自分の憎しみという「内」なる問題を解決するかもしれません。
  しかし、別の人は、憎しみという心、すなわち「内」なる心を問題として、
 なぜ憎いという感情が起きるのかを内省するのです。
  そして、憎しみの心をもつ自分を深く恥じるのです。
 憎い人、すなわち、「外」なるものは、内なる問題に比べて大きな問題にはなりません。
  外に問題の解決があると考えたがる人は、外に希望を感ずる人です。外、すなわち
 憎む人間がいなくなれば、憎しみはなくなると考える、世間の圧倒的多数の人です。
  これは人生に対する、人のとる姿勢の大きく分かれるところだと思います。(略)

 「弥陀の五劫思惟の願をよくよく案ずれば、ひとえに親鸞一人がためなりけり」と
 言い切った親鸞聖人は、またさに内、仏との対面だけを内省して生きていた人でしょう。(略)
 つまり、外なるものに価値を与えているのは、内の執着です。
 空腹時の握り飯と、満腹時のビフテキ、どちらが魅力的か、価値があるのか、
 内なる食欲が決めているのです。
 にもかかわらず、ほとんどの人は、物自体に価値があると誤解しています。

  人生は楽しいことがいっぱいあるのに、なにも深刻な顔をして、問題を難しくする
 必要などないじゃないか、死ぬときはみな死ぬんだから。・・・
 「外」を大切にする人は、そう言います。
 それでも「内」に眼を向ける人は、ものごとを正しく見る眼をもっている人だと思います。(略)

 桜井鎔俊師いわく「悪人とは如来に対面して自己を根元から否定した者を意味するのである」と。
 社会生活がいろいろの意味で豊かになっていくことに生き甲斐を感じている人は、
 (本人は自覚していないと思いますが)決して、信仰を求めていませんので、如来と
 対面する喜びを体験することはできないと思います。

  「他力をたのむこころかけたる」善人は、仏ではなく、自分の心を命綱として人生という
 崖登りをしていますので、もし、その命綱から手など離してしまったら、自分が長い人生で
 築いてきた「生きる意味」を失い、奈落の底に転落してしまいます。

 《手を離せ、我が、底で受けとめるぞ》と、耳の底で仏が語りかけても、善人は人生を捨て、
 生き甲斐を失う恐怖には勝てないのです。
 仏ではなく、どこまでも自分を頼りにする習慣から脱することができないのです。悲しきかな。
 (略)とあります。

  仰せの通り 外の解決にばかり心を配っていることに気づかされます。
 お念仏は 南無阿弥陀仏は 如来と対面させる働きがあるのです。
 南無阿弥陀仏は 生きる意味を 示してくれる働きがあるのです。”
 (妙念寺・電話法話原稿一覧「平成16年 第589回 内か外か」より引用。)

  <註>この引用文の文中に登場する桜井鎔俊師について
 加賀先生は師の教えにより根本的に心の救いを得ることができたと
 「私の人生抄」<菊の巻>で告白しております。

  第九章 『桃』

  宗次郎や喜多郎の音楽は癒されますね。時々座禅や瞑想に使っています。
 我が家の正月のカウントダウンは喜多郎の曲、シルクロードで乾杯してます。

  第十章 『紫』

  この章では146pの漬物とご飯で大きくなったようなものだ。
 で、クッスと笑ってしまいました。
 また、150pでは弔問客たちが、寝ている父に向かって正座し、数珠を出して手を合わせ・・・
 (ここでも笑ってはいけないのに、つい笑ってしまいました。)

 なを、心停止、呼吸停止であっても耳は聞こえていると言いますね。耳が最後に死ぬらしいです。
 (このことからご臨終の会話には配慮しなければなりませんね。)

  やさしいお母さんの死に目頭が熱くなりました。

 小学生の頃です。久六にいたおばあちゃんがいつも西に沈む夕日に手を合わせて拝んでいました。
 確か、信仰深い高橋のおばさんだと思います。
 そのおばあちゃんから二個のボールをいただきました。
 善い行いをしたら赤い糸を、悪い行いは黒い糸を巻く。
 赤い糸巻きのボールが大きくなるようにといただきました。
 いろいろと近所の大人に育てられて大きくなったと思っています。

  それに、綺麗なおかみさんの民話が実におもしろい。
 また、けんちゃんの憲は憲法の憲ですね。
 私達の結婚記念日は憲法記念日です。
 これもまた不思議な縁ですね。

  第十一章 『白』

  蜻蛉の守護神の物語はよくできていて実におもしろい。
 小説のラストはスタンディングオベーションです。
 見事な小説に敬服致します。

  徹底的にリサーチした研究によれば、運は魔法の力でも、神様からの贈り物でもなく、
 「考え方」や「心の持ちよう」が大きく影響すると述べており、松下幸之助さんが面接の
 最後に必ず「あなたは運がいいですか?」と質問し、「運が悪いです」と答えた人は、
 どれだけ学歴や面接結果が良くても不採用にしたという話はあまりにも有名です。

  178pの「無明煩悩」「往生一定」のところで仏法の"三毒"が浮かびました。
 "三毒とは、仏教において克服すべきものとされる最も根本的な三つの煩悩、すなわち
 貪・瞋・癡を指し、煩悩を毒に例えたものである。 三毒は人間の諸悪・苦しみの根源と
 されている。ブッダの説いた根本仏教、大乗仏教を通じて広く知られている概念である。
 (" ウィキペディアより引用。)

  あとがき

  私の人生と重ね合わせて読まさせていただきました。
 私は幼児の頃「膿胸」という病にかかりました。手の施しがないと言ったその医者の前で
 母が私の口の中に手を指し込み、さらに口で膿を吸い出して私の命を助けた話です。
  それに、自転車に乗っていて、車との交通事故に2度遭いました。いずれも無傷。
 それから肺炎で入院、直近では重度の熱中症で救急搬送。
 けんちゃんと同じように運がいいのかも知れません。

  虹は七色ですがけんちゃんの虹は11色ですね。
 どの色も眩しく時には重く輝いていました。
 読み応えのある11色の深い深い小説でした。
 読み終えた後、さわやかな風がよぎります。
 主人公に同化して、いま不思議な感覚になっています。これがカタルシス効果なのでしょうか。
 とにかく高次元に昇華され、かつ、精神が浄化されました。

  「最後に」

  ここではこの小説の終わりに添えてふさわしくまとめるかのようにけんちゃんの人生論、
 エキスが凝縮しています。「生死観」即「死生観」、「死生観」即「生死観」ですね。
 すなわち「生死一如」です。
 けんちゃんの「いかにして生きるか」はそのまま「いかにして死ぬか」と言うことです。
 けんちゃんは自分が何者であるか、アイデンティティの旅に出かけたのかも知れません。
 この先も物語が続くことでしょう。まるで、ネバーエンディング・ストーリーのようです。

 読み終えた後、私にとって、ためになる話しが山積みであることに気づき感謝しています。

 「けんちゃんの大河ドラマ」にありがとう。そして、けんちゃんにありがとう。

  <終わり>

 〜追記〜 

  けんちゃんの壮絶な人生。よくもここまで調べて書かれたなぁ〜と思います。
 驚きです。小説の中の皆さんに出会ったことに感謝しています。
 更に言えば、NHKのテレビ番組あなたのファミリーヒストリー〜ルーツにまつわる
 「謎」や代々伝えられてきた「伝説」!〜を観ているようでした。

 令和元年11月19日
 けんちゃんへ
 ノッチより


 もしよかったら、あなたもこの自伝的小説 『けっ!くだらん』を読んで見て下さい!。

 読後の感想はコメントでお気軽によろしくです!!!てらけんより^^)。










posted by てらけん at 09:11| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする

2019年10月08日

青い屋根のマスター(てらけん)が暇つぶしに書いた小説!。


 応募作品『のっちゃん」

 「青い屋根」をご存知の皆様へ、一人でも読んで頂ければ嬉しいです。

  『のっちゃん』の物語はほとんどがノンフィクションです。

  気が向いたら縦書き横書きの読みやすい方で読んでね!。


        縦書きの⇨ 「のっちゃん」.rtf
 


       横書きの⇨ 『のっちゃん』  寺沢憲重(てらさわのりしげ)
 
          第一章 「ステレオ」

 能登半島の付け根にある「宝達山(ほうだつざん)」が637mで最高峰である。
七尾市の南に位置する「石動山(せきどうざん)」が564m、輪島市の「鉢伏山
(はちぶせやま)」が544m、珠洲市(すずし)の「宝立山(ほうりゅうざん)」
が471mである。
石動山をよく知る地元民や森林管理局の人達は真冬の石動山を登ると遭難する。 
「雪が積もっている厳冬期に石動山に登るようなダラはおらんぞ、死にに行くよ
うなものだ! 自殺行為に等しい! 凍傷にかかって凍死するぞ、低体温症にな
り睡魔に襲われて寝てしまったら死ぬぞ!」と地元の人々は口々に言う……。
 雪山の怖さは「八甲田雪中行軍遭難事件」で知られている。
「八甲田(はっこうださん)」は軍事訓練中に最も多くの死者を出した世界最大
級の雪山遭難事故だった。
厳冬期で積雪量の多い冬山登山は過酷で生と死が隣り合わせで、遭難事故が発生
するリスクが非常に高いことを今も伝えている。
 その年は大雪が降り、積雪が4Mから5M、そんな雪山の登山に単独で挑んだ
男がいた。
極寒の山から無事生還できたのか? 無謀な決断の要因は? 何があったのか? 
突き動かしたものは? 駆り立てたものは? ただの冒険心からだったのか?……

  −−日曜日のお昼過ぎ、
 廣田兼也(ひろたけんや)はそそくさとお昼ご飯を済ませると、
「母ちゃん、チョッと行ってくるわぁ〜」
「けん、どこへ行くがやぁ〜」
「のっちゃんちぃ」
「夕飯までにはちゃんと帰りまっしねぇ」
 どこの家も同じで母親は心配性で口うるさく家では小言を云う役目なのだ……。

 石川県七尾市中島町上町を通る県道23号線はまだ舗装されておらず砂利道だっ
た。大型車が通る度にすごい土埃りが舞い上がる。
「ごめんくだぁい、−−のっちゃんおりますか」
 のっちゃんのお母さんが奥から出てきて。
「あらっ! 廣田のけんちゃん、ノブは二階におるわいね、上がりまっし」
 廣田兼也の家から歩いて三分三十秒で、電気店の次男坊「中野信次(なかのの
ぶつぐ)」 学年が二つ上のスラッとした格好いい憧れの先輩がいた。
「廣田兼也」が高校三年生になったころから、のっちゃんとの親友(マブダチ)
の関係が深まった。−−
 学校が休みの日は頻繁にのっちゃんの部屋に上がり込んで遊ぶようになった。
「廣田兼也」と「中野信次」は、もともと、子供の頃からの知り合いで、のっち
ゃんの、お兄さんもお姉さんも、顔見知りだった。
 −−で、部屋に行くようになったきっかけは。
「けんちゃん、いっぺん遊びに来まっしね」
 −−とのっちゃんに、誘われてからだった。
 のっちゃんの部屋には! (さすが電気屋さんと思ったが)−−
安月給の中から月賦で買ったという。ビクターの真空管ステレオ・セパレート型
が、部屋の真ん中にドーン! と置かれていた。
のっちゃんはステレオの音を廣田兼也に聞かせたくてしょうがなかったのかも?
……、兼也は初めて、グレン・ミラー楽団のレコードをステレオで聴くことが出
来た!
「のっちゃん、凄いな! 凄いな! 」
 スピーカーからの重低音が下っ腹に響いた。
六十年代当時、レコードに「 STEREO 」と表示されたステレオ盤が普及し始めて
いたが、ステレオレコードプレーヤーなんて代物は、まだまだ、一般家庭では高
嶺の花だった。

 高校三年の兼也は、姉におねだりして買ってもらったプレーヤーに、廃車から
外したカーラジオのスピーカーを上下に取り付けた箱にスピーカーらしく見える
布を張ったお手製のスピーカーボックスを繋ぎ、なけなしの小遣いで買ったレコ
ードを聴いて楽しんでいた。
 観た映画のサントラ盤は映画を観た帰りに、必ず買うことにしていた。
七尾駅前のオリオン劇場で観た「ティファニーで朝食を」は、オードリー・ヘッ
プバーンと雨に濡れている猫のラストシーンしか覚えていないが、アンディ・ウ
ィリアムスが歌う『ムーン・リバー』は大好きだった。
 当時は、洋画を見るのが大好きで『大脱走』『エデンの東』『ウエスト・サイ
ド物語』『禁じられた恋の島』『鉄道員』『ベン・ハー』など60年代は数々の映
画を鑑賞した。007/危機一発の『007/ロシアより愛をこめて』この映画は、
のっちゃんに誘われて金沢市の香林坊の映画館まで観に行った。
『ウエスト・サイド物語』は、どこの映画館で上映するのかをのっちゃんが知る
と誘ってくれて、女の子達も一緒に、金沢市、七尾市、穴水町の計三箇所の映画
館を観て廻った。
初めて観たミュージカル映画の魅力に惹かれた。歌って踊るだけの映画ではなか
った。音楽もダンスも脚本も良かった。印象に残るシーンが随所にあり、とにか
く、ダンスシーンの格好の良さにただただ憧れた!。
 のっちゃんは映画を観たその日の夜など、学校の体育館で「I liketo be in
America Ok by me in America ララララララ〜アメリカ〜」と、
歌って踊って、ひとりで楽しんでいた。−−
 のっちゃんは、当時としては身長が高い方で、ウエスト・サイド物語のジョー
ジ・チャキリスや洋画の影響で、ヘヤースタイルはソフトなリーゼントで、カル
ダン、テッドラピドスが好みで、濃紺のビロードのジャケットに黒のタック入り
ドスキンのスラックスを着こなしていたのが印象的だった。
「−−あんた、ひょっとして洋行帰りかいね」
 なんて、時には見間違われたこともあったという。   
 昔は「電気蓄音機」(電蓄)と言っていた。レコードプレーヤーと言うように
なってから78回転のSP盤の売り上げが激減し、SP盤の製造は中止になり、45回転
EP(ドーナツ)盤の売り上げが順調に伸びていった。
 圧倒的な人気を高めたシングル盤は主に流行歌であり、33回転LP盤はクラシッ
ク、ジャズ、オーケストラなどの音楽だった。
 はじめてステレオで聴いたクラシック音楽は、ドヴォルザークの交響曲第9番
「新世界より」第4楽章と、ベートーベン作曲の交響曲第6番「田園」だった。
 一週間後、−−兼也は、同級生の友人二人にもステレオ音楽を聞かせてやりた
くて、のっちゃんの部屋に突然! 友人二人を連れて行った。
「今日は友達を連れて来たわいね!こっちが『高松』そっちが『和倉』」
 のっちゃんは、かしこまって正座している二人に、こっちそっちと指をさして。
「−−高松くんと−−和倉くんか−−初めましてよろしく」
 初対面だから致し方ない。−−
 お互いが自意識過剰で肩苦しい挨拶だった。−−
「のっちゃん苗字で呼ぶのは何や? 肩苦しいがいねあだ名を付けてや」
「そうやな、たった今から ター坊とワケンって、呼んでもいいかいね」
 兼也の意見に賛同して、のっちゃんは人当たりの良い気さくで媚びない一面を
見せ、いつものように、にこやかな顔で接した。
 この瞬間から、ター坊(建築科)とワケン(機械科)と兼也(機械科)と、
のっちゃん(地方公務員)の友人関係が始まった。
二人は十分もしないうちに、昔からの知り合いのように打ち解けて喋っていた。
 ター坊は教職員の家で育ち品行方正な感じでワケンは食料品店の長男で大人
びていた。七尾駅から七尾線に乗り能登中島駅で下車し、のっちゃん家まで徒歩で
来た。のっちゃんは、七尾から来た二人を気に入ったようで、いろんな話をした。
 −−そんな話の流れの中で。
「けんちゃんの好きなというか、自分の励ましや戒めにしてる言葉は何かいね?」
「うそつきは泥棒のはじまりと、親の意見と茄子の花は千に一つも無駄はないっ
て、母ちゃんがしょっちゅう言うてるやつや」
 それを聞いてのっちゃんは、のけ反って笑った! 
 つづいてワケンが、−−
「遠くて近きは恋の道、近くて遠きは田舎道、ああ〜男女の仲はなんと遠いもの
かのぅ〜、近くて遠いは男女の仲よ、あぁままならん」
 とふざけて言った。
「ワケンは好きな人でもおるがかいねぇ」−−
 と、のっちゃんにツッコまれ、三人は大笑い。
 ター坊は、しばらく、考えて……! 
「大山鳴動して鼠一匹、聞くは一時の恥聞かぬは末代の恥、魚心あれば水心、
馬鹿とハサミは使い様、棚から牡丹餅、青は藍より出でて藍より青し、坊主憎け
りゃ袈裟まで憎い、君子豹変す。以上!」−−
「まあ! つらつらとようけ出たがいね!」
「これみんな母親が近所のおっちゃん、おばちゃんとマージャンをしているとき
にダジャレで使うことわざやねん、出たらでかいぞぉ〜でかいぞ〜と、国士無双
のテンパイが流局し、ノーテン罰符だけになると、すかさずだれかが、大山鳴動
して鼠一匹かいねぇと言うんや、リーチを掛けると、誰かがマチは何やろうねと
呟くと、聞くは一時の恥聞かぬは末代の恥やけどマージャンではご法度やわいね、
すると誰かが魚心あれば水心って言うやないのっていった調子や、数学教師だっ
た同じ町内のおじいちゃんがオーラス(最終局)で、跳満(大きな役で高得点)
に打ち込んで逆転負けし『クッソ〜だちゃかんだらぶちが〜』と言うと、すかさ
ず『君子豹変す』と母親が言うんや、おもしろいやろマージャンは呆け防止やな」
「さすがに元教職員の遊び方はウイットに富んでるね、ことわざが飛び交うとは」
 −−と言って、のっちゃんは頷いた。
「ぼくの座右の銘は! 親父から聞かされていた『人間は平等である』やねん、
親父は寡黙な人なので母から聞いた話やが、親父は職業軍人で海軍大尉やった。
『利根』という重巡洋艦に搭乗してたときに瀬戸内海で空襲に遭い被弾し損傷し
ながら座礁してしまった。機関室にいた親父は部下がパニックになり、燃え上が
る甲板にわれ先にと飛び出し、命を落とすことを止めるために、当時配下だった
喜劇俳優の堺駿二(堺正章の父)さんに、−−なんとか隊員を落ち着かせるよう
にと命じたんや、コメィデアンだった堺駿二さんの歌やお笑いの芸で部下たちが
落ち着きを取り戻した。それで部下全員が助かったんやて、そんな目に遭うた親
父も無事に生還できて運が良かったんやなぁ」−−
のっちゃんのお父上様は『学問のすゝめ』の冒頭に、「天は人の上に人を造らず、
人の下に人を造らずと云えり」の名言を用い、人間の自由・平等・権利の尊さを
説いた「福沢諭吉」が創立者の慶應義塾大学を出た人だった。
「いかなる職業であろうと、あるいは身分や階級に違いがあろうと、人間は平等
である」と説いてのっちゃんに教えたという。−−
 何年か後にのっちゃんは、人間は平等であると言う前に、人間一人ひとりに違
いがあることを互いに認め合い尊重することで、真の平等が生まれるのではない
かという悟りに気付いたと言う。
「人は時として戒(いまし)めの言葉に救われるがやね、先人の教えのことわざ
には、教訓や格言など叡智(えいち)が詰まっていて、人生の処世術が学べるさ
かい、知ると知らぬでは大違いやわいね!」
 ためになる話の後も、のっちゃんの機知(きち)に富んだお喋りが楽しくて、
愉快で、面白くて、太ももを叩いて笑い合って過ごしていた。−−

 グレン・ミラー楽団、パーシーフェイス楽団、ビリー・ヴォーン楽団のLP盤や、
まさに今から流行らんとする。アストロノウツの「太陽の彼方に」ビートルズな
どをステレオで聴かせてもらい、至福の時を過ごした。
 一年後の1964年の夏に「太陽の彼方」が大ヒットし、エレキギターが流行し、
ビートルズはヒットチャートの1位から5位までを独占し人気が爆発した。
 のっちゃんがタバコと灰皿を持って立ち上がり、窓の敷居に腰掛け一服吸った。
三人はのっちゃんのタバコを吸う格好を見て、裕次郎、宍戸錠、小林旭など銀幕
のスターを見ているような羨望の眼差しを向けた。
 タバコを吸い終わると、−−
「次は、クラシック音楽をかけるから、目を瞑って聴いて、浮かんだ情景、曲の
感想、思ったことを言うのをやってみんかいね! 」−−
 三人は顔を見合わせ、首をすくめるようにして照れた様子を見せしながらも、
面白そうな感じに興味津々、やる気満々になった。
「−−やる! やる! ちょっと緊張するな……」
 のっちゃんがターンテーブルにLP盤を乗せカートリッジ(ピックアップ)を、
人差し指に乗せ、レコード面の音溝の始まりの部分にレコード針を慎重にゆっく
りと下ろした。−−
 ター坊、ワケン、兼也の三人は、窓辺に背を凭れて神妙な面持ちで目を閉じた。
のっちゃんは、先入観にとらわれないようにするために、音楽の題名は言わなか
った。しかし、三人とも、ジャケットのドヴォルザークの文字がチラッと見えて
しまった! ||十二分チョットの音楽を聴き終わって……。  
 −−ター坊が「はい」と挙手をして感想を言った。
「大地を走るSLに乗り、車輪の軋むリズムに合わせて、過ぎ去る車窓の景色を見
ているような情景が浮かびました。ラストは夕日に向かって突っ走って行くよう
な感じがしました……」
 −−次に、ワケンが手を上げて……。
「リズムの進行、メロディーの変化が雄大なアメリカ大陸へと誘(いざな)うよ
うに聞こえました。壮大な故郷への切なる想いを知らしめる絶大な効果を感じま
した。ヴァイオリンが加わり盛り上がっていくクライマックスは交響音楽の醍醐
味を感じて魂が震えました」
 二人が言っているほとんどは、ジャケットの裏の解説文に書かれてあったこと
だった。
 −−最後になった兼也は……。
 先に思っていたことを言われてしまい、切羽詰まり思いつきで言った。
「最初の方は躍動感に溢れ、騎兵隊が大草原を駆けて行くイメージが浮かびまし
た。目を瞑って聴いていると、演奏者がそこに居るようで、音楽が立体的に聴こ
えました。シンバルが1回だけ鳴りましたが、ずっとその時を待つ演奏者の気持
ちはどうなのかな? と、チョッと気になりました」
 三人の感想を聞き終わり、−−のっちゃんは。−−
「はじめての体験やと思うけど、多少は高尚な感じがしたやろね……、そもそも、
100人の人間がいたら100様の嗜好があって当然やわいね、三者三様の自由な捉
え方でいいがやちゃ」−−
 ター坊とワケンの感想が想定以上に真面目なのに感心したなぁ。けんちゃんは、
ほんとうに思ったことを言ったので、価値観の多様性を感じて面白かった。
クラシックを聴き感想を述べるには、それなりの知識や教養が必要になって来る
ものだと語った。
 −−何ともはや真面目な遊びなのでしょう。
「のっちゃん、来週の土曜日も来ていいかな」
「−−あぁ〜いいよ」−−の返事を聞いて、その日は帰った。

 −−翌週の土曜日。
 当時はまだ公立学校の土曜日は半ドンであった。その後に週休二日制が導入さ
れ、今日では「半ドン」は死語になりつつある。
 羽咋工業高等学校は羽咋駅から二級河川の羽咋川沿いを歩いて、国道249号線
に出て、大橋南詰を右に曲がり、かなりの坂道をずっと登りきったところにある。
羽咋駅から学校まで約1.8q徒歩で25分位。その通学路を土曜日は。国道249号
線の坂道を駆け下り川沿いを走り駅まで必死に走って列車に間に合うと、次の列
車に乗るよりも1時間早く家に帰れる。
 かつては半日行われていた土曜の授業、学校ごとの方針で土曜日の休みを段階
的に取り入れ、多くの学校は週休2日制になった。
かつての教育方針は詰め込み教育で知識をたくさん覚えることを目的としていた。
それによって熾烈(しれつ)な受験戦争が起きた。既存の教育方針が問題視され
是正を計った。
 授業内容を検討し時間割を見直し、これまでの土曜授業を廃止し、有意義に時
間を使うよう促す「ゆとり教育」に転換された。ところが、これまで世界で高か
った日本の教育水準がみるみる低下したのだ。
「ゆとり教育」の是非はどうなのか? 何をかいわんや、−−言わずもがだ。

 −−土曜日、授業が終わると三人は、いち目散に羽咋駅まで走った。
どうにか間に合った。七尾駅に降りてター坊もワケンも家に戻って私服に着替え
た。ワケンは紙袋にLPレコードを入れて来た。
ター坊は、母親が持って行きなさいとすすめた菓子折りを持って来た。? 
七尾駅で穴水方面行きのホームに待っているとNA校の普通科へ通っている女子
生徒と出会った。二人とも兼也と中学の同級生である。
「こんちわぁ〜、うたちゃん、やっちゃん」
 兼也は中三の夏休みに、やっちゃんと、うたちゃんの家で遊んだことがあった。
うたちゃんは、日活の「芦川いずみ」さん似で、保母さんになるのが夢だった。
やっちゃんは、松原智恵子さん似で、ええとこの子という雰囲気で可愛らしくて、
社長さんの奥さんになりたいわぁと言っていた。
久しぶりに会った二人はまだまだ純情そうでNA校のセーラー服姿が新鮮だった。
「うたちゃん、やっちゃん、久しぶりやなぁ、一緒に帰ろう。紹介するは、−−
こっちがター坊で、そっちがワケン」 
 兼也はいきなりニックネームで二人を紹介した。
ター坊です! ワケンです! と屈託のない挨拶の仕方が可笑しかったのか? 
うたちゃんと、やっちゃんは、忌憚なくクスリと笑った……。 
「女子に対する免疫がない男子校のオレらは、女子との会話に慣れてないさかい、
何を喋ったらいいのか分からん? がやちゃ」
 とワケンがおどけると……!
「免疫力が無いがやちゃ〜」−−
 とター坊がすかさず言ったので、みんなが笑った。
 初対面同士なのに、かしこまることもなく、緊張感もなく、すぐに和み、列車
に乗っている間も、能登中島駅から中島町の商店街に向かって歩いてる時も、
たわいない話のキャッチボールが途切れることなく続いた。
 兼也がNA校の普通科へ行っとけばよかった。たくさんの女子に囲まれて、
モテたかもと男女共学の環境を羨ましがると……。
ワケンが男子校の華の無い寂寥感を嘆き、バンカラと言えども寂しいと言った。
 −−ター坊は照れ隠しに、目を細め笑っていた。 
「今から三人で、どこへ行くの?」
「先輩の、のっちゃんち」
「何かあるの?」
「ステレオ音楽のミニコンサートすんねん」
 ||二人は目を輝かせ興味津々だ……! 
「何だか! 楽しそう! 」
「二人とも、このあと用事ある」−−
「別にこれといった用事はないけど……」
「だったらさ、よかったら、聴きにお出でよ」
「いきなり行ってもいいのかしら」−−
「いいよ、いいよ、大丈夫やちゃ」
 のっちゃんの、人柄の良さを話して聞かせ、ステレオで室内楽の調べを一緒に
聞こうよと二人を誘い、遠慮しないでのっちゃんちに、お出でよと約束をした。
稼業が荒物屋さんのうたちゃんを見送り、商店街を通り過ぎ、神社の前を通り橋
詰を右に曲がる手前で、やっちゃんを見送った。
上町橋を渡って右に行けば五分ほどでのっちゃんちだ。否応なく高揚感が高まる。
「こんにちは〜のっちゃん」−−
「おぅ〜来たか、上がりまっしねぇ」
 二階に上がると、ほうきとチリトリを持って立っていた。−−
「部屋の掃除をして、ちょっと模様替えをしてみたくなったがやちゃ」
「のっちゃん、ぼくらも手伝うわいね」
「どうすんの? ステレオを動かすの?」
 畳の上にカーペットを敷き、ステレオを部屋のど真ん中に置き、窓には音を遮
り、残響音を吸収するように、分厚いカーテンを吊し、壁には七尾市のM楽器店
から貰ってきたA1サイズの音楽ポスターを二枚貼り、コンセントに差し込むだ
けのムードランプと、キャンドルも買って来ていた。
「のっちゃん、こんな感じでいいがかいね」
「これでいい、||こうしたかったがや〜」 
 −−模様替えが済み、一段落して。
ター坊が、これ! どうぞと手土産を渡した。
ワケンはニヤけた顔で紙袋を開け、LPレコードを取り出した……。
ジャズのクラリネット奏者のエドモンド・ホール(Edmond Hall)とベ
ニー・グッドマン(Benny Goodman)のレコードだった! −−
「えっ! ワケン! −−それ? どうしたの」
「親父が七尾でバンドをやってて、クラリネットを吹いてんねん、それで家には
ずっと前から、このレコードが置いてあってん」
「へぇ! そんながかいねぇ!」−−
 のっちゃんは、驚きを隠せず素直に喜んだ! その時! −−
「ごめんくださ〜い、ごめんくださ〜い」
 下の方から黄色い声が聞こえた。
「来た〜! 来た〜!」
 ワケンとター坊が色めき立った。
女性の声に! 首を傾げ、誰が? 来たのだろう? と怪訝そうな顔で立ち上が
ろうとしているのっちゃんを制して、兼也が階下に降りた。
「ようこそ、どうぞ、上がって、上がって」
「こんにちは〜おじゃましま〜す」−−
「のっちゃん、本日のサプライズやでェ! 」
 兼也がこれこれこうで二人を誘ったのだと、ことの成り行きを説明した。
「ほんながかいね、−−ハハハハハ〜」
 −−のっちゃんは高笑いをした。
 部屋の模様替えが済んで、いい雰囲気になった丁度いいところに、女子二人が
来てくれた僥倖に、ご満悦の様だった……。
 兼也は私服に着替えて来た二人を見て、大人の秘めた部分を隠し持った。−−
芽生えたばかりの女性のエロティシズムを感じていた。
 ワケンもター坊も、スケベな好奇の眼差しを見透かされないように作り笑いで
ごまかしながらも、獲物を見つけたライオンのような大きな目で二人を見た。
「コンニチハ〜」−−と、改めて挨拶を交わした。
 のっちゃんは、階下から座布団を二枚持って来て、二人に座るようにすすめた。
緊張し、かしこまって正座している二人に、−−
「ここでは、同じ仲間だと思って、気楽に足を崩して楽にしてくだいね」
 スカートを気にしながら、横坐りをするエレガントな仕草に目が奪われ…、 
素足の膝小僧を出して、脚を曲げたふくらはぎの曲線美に女性らしい、セクシー
さを感じ男性陣は、−−うかつにもゴックンと生唾を飲んだ。
「ようこそ、さてと、音楽はどんな? ジャンルが好きながかいね?」
「勉強するときにラジオから流れてくる洋楽を聴いている程度で特に……」
当時のラジオ番組は「S盤アワー」「L盤アワー」「ユア・ヒット・パレード」
で、映画音楽に限らず流行の外国音楽をどこよりも先に聴けたラジオ番組だった。
「しいていえばS盤アワーで聴く、ポップスのヒット曲が好きです」−−
「S盤アワーかいね。−−解ったぞいね! 」
 のっちゃんは先ず、サンレモ音楽祭の大賞を受賞した曲を聴かせてあげた。
・ルチアーノ・タヨーリ(Luciano Tajoli) の『アルディラ』
・エミリオ・ペリコーリ(Emilio Pericoli)の『ぼくの選ぶ人』
・ジリオラ・チンクェッティ(Gigliola Cinquetti)の『夢見る思い』
 −−うたちゃんも、やっちゃんも、エミリオ・ペリコーリの甘いソフトな歌声
にノックダウン! ター坊とワケンと兼也は、ジリオラ・チンクェッティの
「夢見る想い」のピアノの音と「ノノレタ〜ノノレタ〜」の歌声と歌詞に心を
グッとわし?みにされた! −−
 
 Non ho l'et?   私はまだ 大人じゃない
 Non ho l'et?   私はまだ 大人じゃないの
 Per amarti    あなたを愛するには
 Non ho l'et?   私はまだ 大人じゃないの
 Per uscire    出かけるには
 Solo con te   あなたと二人だけで
 Se tu vorrai   もし あなたが望むなら
 Se tu vorrai   もし あなたが望むなら
 Aspettarmi   私を待っていて
 Quel giorno avrai その日にあなたは手に入れるでしょう
 Tutto il mio amore  私の愛のすべてを
 Per te     あなたに

 兼也がサンレモ音楽祭のことを知ったのも、イタリアで開催され、カンツォー
ネ・ブームが起きたのもこの頃だった……。
いよいよ、ワケンが紙袋を抱えて持参したエドモンド・ホールとベニー・グッド
マンのクラリネット演奏のLPレコードをかけた! −− −− −−
 何とも言えない大人の世界観を堪能した。−−
のっちゃんはもともと、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、ビル・エ
ヴァンス、チャーリーパーカー、トランペットの演奏と歌も歌ったルイ・アーム
ストロングや、ジャズ・ヴォーカルではビリー・ホリディ、サラ・ボーン、カー
メン・マクレエなどの、レコードを聞いていたが……、
 ワケンが持って来てくれたレコードを聴いて、クラリネットの軽快なスイング
と美しい音色に魅了され、−−スウィング・ジャズの代表的な音楽を聴いて、
 −−ますますスイングジャズの虜になってしまった! 。 
 そのころは漠然としているとしながらも、−−
「音楽ディレクターになって、自分の好きな音楽の世界を求め、−−素晴らしい
音楽のレコードを製作して、音楽の力を人々に伝えるのが夢なんや」−−
 とのっちゃんは自分の夢を語った。−−
 −−生徒たちの卒業アルバムの寄せ書きに、……
 ・ 音楽のあるところにのっちゃんあり。
 ・ のっちゃんがいるところに音楽あり。
 と書いた女子がいた。その子は凄く頭が良くて美人で際立っていて、学校のマ
ドンナで生徒みんなから憧れの存在だった。
「ぼくは音楽好きの音楽バカだよね」−−
 そう言って、照れ臭そうに頭を掻いた。
「その女の子はうまいこと書いたなァ〜」
「その子はのっちゃんに憧れてたんじゃないがけぇ、きっとそうやぁ」
 うたちゃんとやっちゃんは目を合わせ、おどけたような仕草で笑って頷きあっ
ていた。
 のっちゃんがレコードボックスから、いち枚のレコードを取り出し、−−
「Nini.Rosso(ニニ・ロッソ)の澄みきった音色が好きなんや、なんべん聴いて
も癒されるがや、心の芯まで染み入るがやわいねェ、ニニ・ロッソのこの曲に魅
了されてNS校の吹奏楽部に入部した生徒がおるがやわいね、日本中の学校の吹
奏楽部にトランペットを吹きたいと吹奏楽部に入部した子がどれだけいたことか」 
 −−と言って、−−
『夜空のトランペット/夕焼けのトランペット』の二曲をかけた。
 −−素晴らしいトランペットの音色が流れた! 
 ワケンが興に乗り、左手の親指を唇に当て、右手の三本指で器用にピストンを
押して動かす真似をして、音楽に合わせてトランペットを吹いている格好を披露
した。それが! 大ウケで、みんなが手を叩いて喜んだ。
 −−ワケンはそれが嬉しくて喜んだ。
 −−そしてその後も、いろんな話が飛び交い話が弾んだ。
 話がいち段落して部屋に静けさが戻った時。−−
The Solo Sessions, Vol.1 - Bill Evans(ソロセッションVol. 1ビル・
エヴァンス)のジャズピアノの繊細で美しい旋律が静かに始まり、部屋の隅々ま
で鮮明な音が流れた。−−
 のっちゃんはBGMにもってこいだと言って、珍しく学校の話を始めた。
「ぼくは先生でもない、学校の事務職員やのに、生徒達が何やかやと相談に来る
がやちゃ、学校が嫌いになってきたとか、自分の性格が嫌いになったとか、親は
進学をすすめるが就職したいとか、好きな人がいるんやけど告白のしかたが分か
らんとか、恋愛問題、進路問題、友人問題、家族問題など様々な問題を抱え、両
親にも友人にも担任にも言えん悩みを、僕んところへ持って来るがやちゃ。どの
生徒も相談事を、ちゃんと親身になって聞いて上げるだけで、悩み事が緩和する
みたいや。
 言葉に出して、ひとりで抱え込まないことやね、誰もが、いろいろな悲しい思
い、辛い思いをしてるがやね、自分に起きたことは自分で背負って行かなければ
ならん、誰かに代わってもらうわけにはいかんがやさかい、どう解決するかは本
人の気持ち次第やね。
 悩みごとには、答えが見つからない、見つけられないことが多い、だから悩む
がやねェ、どうしたらええのか?……この世に100%それが正解やという答えは
ないが……、それは良くない、それは間違っている、それはこうした方がいいん
ではないかと……、言えることはある。……それに気付かせることやねぇ。気付
きがあれば学びがあり、成長に繋がるんやねぇ」
「−−ぼく、将来が不安でどうしていいのか分からんようになってんねん」
 −−と相談に来た生徒がいた。
「将来のことを考えると不安だと悩んでる子も多いんやね、そんな時もいっしょ
になって考えてあげる、先のことは僕もわからん、明日のこともわからん、分か
らんことを悩んでもしょうがないさかい、今何ができるか? 何をすべきか?
好きなことは何や? それを考えた方がいいのと違う。−−先のことは先になっ
て考えたらいいんとちがう? そのときがきたら必ず君にとっていい答えが出て
くると思うよって、言うと安心するみたいやったなぁ」−−
「−−ふーん! なるほど、そうやなぁ〜」
「十二、三歳から芽生えた思想感とか、高校生にもなると自我と観念が、一人ひ
とりに確立してくるがやねぇ、||本人は気づかないうちに、誰もが自分の考え方
を持つようになる。
 そうなると、コミュニケーションがとり辛くなるがやね。相手が悪いようなこ
とばっかり言って、その時の自分はどうだったのかは言わない、−−いつでも自
分は悪くない悪いのは皆な相手という自分本位で考えるんやね。
 それは誰でも自分が可愛いから当然ながや、−−だから、そういうところを否
定したらダメながやちゃ、認めてあげた上で、−−でもなぁそれはどうかなと? 
その子の言葉を聞いて、いろんな考え方があることを話し、思慮深くすり合わせ
てゆくんやね、−−すると、かたくなだった思考が柔軟性と多様性を持つように
変化するんやねェ」−−
 −−のっちゃんの話を聞いていたやっちゃんが、−− 
「言った方は何の気なしに言ったことでも、言われた方はとても傷つき、凹む場
合ってありますよね、そんな場合は、どうしたらいいのかしら?」
「人付き合いでそのケースが一番多い悩みやね、発する言葉には、心からでる言
葉と、気持ちから出る言葉と、頭から出る言葉があるんやね、−−しかも頭で考
えて出る言葉には。心も気持ちも関係してくるんやね、……。
言うた方は覚えてなくても、たったひと言で友だちを失くすのは寂しいよねぇ、
悪気がなくても、たったひと言で相手のこころを傷つけてしまうことがあるがい
ね、社会通念上許されないと、−−ああだこうだと裁判じゃあるまいし、論議し
ても詮無いこっちゃ、大事なのは常識を知ることやね、無知ではだちゃかんのや
ね、でも、何も知らなくても『心』が美しければ、それが一番なんやけどね」
 のっちゃんは、決して人を貶さない、相手あっての自分だから、言った方も言
われた方も苦手とか嫌いとか、うまくゆかなくなる感情が蠢(うごめ)く原因は、
少なからず自分にもあると考えた方がいい、−−自分を見つめ直す大切さやね、
「仇も情けも我が身から」って言うことわざがあるがいねと、言った。−−

 ピアノの音が消え、レコード盤の最後の溝で、レコード針がくり返し回り、針
が擦(こす)れる音だけがかすかに聞こえている森の中のような静寂……。
 熊木川の浅瀬をせせらぐ心地いい水音が聴こえ、−−窓の外の景色は暮色蒼然
(ぼしょくそうぜん)としていた。
山々は薄っすらと鼠色した尾根の形を暮れ行く空の下に浮かべていた。
 −−うたちゃんとやっちゃんが、
「今日初めてのっちゃんの部屋に訪れて、ステレオ音楽を聴かせていただき感激
しました。楽しい時間をありがとうございました」−−
 と気持ちを伝え、深々とお辞儀をした。
 「また、来てくだいね」−−とのっちゃんは言葉を返した。 
 帰り際になって、二人から提案が出た。−−
「ステレオコンサートができる場所があったらいいのにねぇ!」
「ひとりでも多くの人といっしょにステレオコンサート音楽を聴く楽しみを共有
できたら素敵でしょうねぇ!」−−
「それはいい考えだね! 考えて見るか」 
 のっちゃんは二人の気持ちを汲み取った。
「今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
「もう帰るの〜まだ居ればいいのに〜」−−
 男連中は名残り惜しそうに言いながら見送った。
女子が帰ったとたん、何だか急にお腹が空いて来た三人は、パンでも食べるかぁ、
 −−のっちゃんパン買いに行って来るわぁ〜と言うや否や、二階を降りて外へ
出ていった。
 パン屋に向かっている途中! すっかり日が暮れた街中を学ラン姿で、肩をい
からせ、見たことがある。男が前方から歩いて来た。
「松井でないがけ?」
「−−おぅ!」
 学校で松井に、のっちゃんちに行くことを伝え、お前も来ないかと誘い、能登
中島駅からのっちゃんちまでの手書きの地図を渡した。部活で遅くなりながらも、
初めて訪ねるのっちゃんちに向かって歩いていた! 。
「−−よう来たなぁ〜」
カバンと帽子を家に置き、家の者に行き先を告げて、直ぐに出て来たのだと言っ
た。あらためて新鮮な友情を感じて三人は喜んで迎えた。
「家におっても何もすることが無いがや」−−
 と照れ臭そうに言って松井はニヤリと笑った。
一見キザそうなんだけど、都会的センスがあり格好良くて、ドラムは叩けるし、
ギターは弾けるし、歌も上手くて喧嘩も強い、精神年齢も他の三人よりも一歩も
二歩も上を行く男だった。
喧嘩は強いと噂で聞いていたが、中学の反抗期に相当なやんちゃ者だったのか?
兼也は知らないが、喧嘩をしたということを聞いたことがない、虚勢を張ったり
威張ったり弱いものいじめをするところも見たことがなかった。
 学校の文化祭で松井がギターを弾きながら歌った「ラ・ノビア」は上手かった。
心打たれるほど最高だった。
 パンを買ってのっちゃんの部屋に戻るとコーヒーを用意をしてくれていた。
 「のっちゃん、友達連れて来た。七尾のマツイ理髪店の松井くんや」
「始めまして、−−松井ですよろしく」−−
「えっ! マツイ理髪店! 一本杉通りをちょっと入ったところの散髪屋さん、
いっぺんだけやけど行ったことがあるわいね、−−奇遇やねぇ」
 −−例の如く、松井くんにも、のっちゃんがあだ名をつけた。
付いたあだ名が「ホープ」だった……!
「のっちゃんは、あだ名を付ける天才や〜」
 ター坊が言うと、−−
「名は体を表すと言えども、あだ名も体を表す」−−
 とワケンが言って大笑いした。
 魔法瓶のお湯をインスタントコーヒーの粉末が入ったコーヒーカップに注ぐと
部屋中に香ばしいコーヒーの香りが漂った。
 部屋の照明を喫茶店のようなムーディーな雰囲気にするために暗くして、ムー
ドランプを点け、キャンドルにローソクを灯した。
「ディナー・タイムに合った音楽は、どれがいいかなぁ? これだ!これがいい」 
 ピアノ演奏が素晴らしい! ショパンの「エチュード」のレコードを選んだ。
 いつも、ムードメーカーに徹してくれる、のっちゃんのお陰で、パンだけのデ
ィナータイムだが、皆んな一緒に食べているだけで、いい雰囲気だった。

のっちゃんは時にはオーケストラの指揮者になりきってタクトを振って見せたり、
ビリー・ヴォーン楽団の「峠の幌馬車」を聴きながら演奏に合わせて上手にマラ
カスを振って見せたり、パホーマーの才覚も見せた。
 高音の小さいほうは右手、左手は低音を握り、親指で柄の根元を押さえ、しっ
かり固定して持って、こうやって振るんやと、切れのある短音を出す方法を教わ
ったけど、−−ワケンとホープは見よう見まねですぐに出来たのに、ター坊と兼
也はリズムがメチャクチャで雑音にしかならずマラカスはぜんぜんダメだった。
 しばらく遊んでいると、コーヒーの利尿作用か小便がしたくなった。−−
トイレを今まで借りたことがなかったので、階下の便所に行くのが面倒くせえと
思っていると、小ならどうぞと言って、のっちゃんがいち番端っこの窓を開けた。
 敷居の高さは座って背中を凭せ掛けると、首から上が窓に出るぐらいの高さな
ので、立ってオシッコをすると敷居の上から屋根瓦に向かって飛ばし樋に流すこ
とができた。横の窓も開け、通る人に見られないように、誰も通っていないこと
を確かめてから、高校生四人がいっせいに放尿した! 
「ミミズもカエルも皆ごめん、ジョンジョロリン♪ジョンジョロリン♪ジョンジ
ョロリンの♪パッパ♪」 
 何ともはや下品極まりない、窓を開け破廉恥(はれんち)な連れションだった。
こんなこともあった! ある日のこと、のっちゃんの部屋でタバコを吸っていた。
そのことを知った。のっちゃんのお母さんが、石川県知事から委嘱されていた
「青少年育成指導員」のプレートを私には資格がないと言って熊木川に投げ捨て
ようとした。−−のっちゃんは、お母さんに泣きついて謝り阻止したという。
 −−何十年経っても消えない過去の大失態だった。
 ネイビーブルーの遮光カーテンを閉め、ムードたっぷりの雰囲気の灯りの中で、
「スクリーンミュージックの宴」と題して、のっちゃんは次から次とレコードを
かけてくれた。『タラのテーマ』『エデンの東』『第三の男』『鉄道員』
『007/危機一発』『禁じられた遊び』『大脱走のテーマ』『ムーン・リバー』
『太陽がいっぱい』『シャレード』『シェルブールの雨傘』『皆殺しの歌』
『遥かなるアラモ』etc……。 
 夜遅くまで遊びすぎて、帰る列車もなくなって、みんなで雑魚寝をした。
 −−翌朝。家の者が心配してるかも知れないからと、七尾の連中は早々に能登
中島駅に向かった。
 兼也が家に帰ると、−−!?  
「昨夜は、−−どこへいっとったがやぁ〜」
「いつものとこやん、−−のっちゃんち」
「歩いてすぐ帰れるのに、−−何で帰らんのや? 心配するがいね、−−
だらぶちがぁ〜」−−と母親にこっぴどく叱られた。

 −−翌々週の日曜日の午後。
 のっちゃんちに、うたちゃんとやっちゃんと兼也に、のっちゃんのいとこだと
いうニューフェイスの「井上優(いのうえまさる)」くんが集まった。
 のっちゃんがステレオコンサート会場をどこにしようかと、あれから、小中高
の学校、図書室、体育館、保育所のお遊戯室など、あっちこっちを当たって歩い
た。これこれこういうことに使いたいと、趣旨を話すと理解し、賛同を得ること
ができて、−−「空いている時間ならどうぞ結構ですよ」
と、どこも言ってくれるのだが、音響としての広さや高さと、座席のことなどを
考慮すると、どこも、帯に短し襷に長しで、しっくりしなかった。
 −−そこで思いついたのが映画館だった! 
映画館なら人も集まりやすい、舞台があり座席もある。音響装置も備わっている。
さっそく、映画館の経営者のもとへ行った……。
 映画館を経営する家の娘さんは。のっちゃんと同級生だったので、経営者に会
う前に娘さんに事の経緯を話した……。
「そう、のっちゃんは相変わらず音楽好きなのねぇ、ステレオコンサートがした
いの?」−−
「頼むさかい、社長に、ィャお父さんにお願いしてもらえんかなぁ、−−なぁ頼
むわァ〜」
「う〜ん、コンサートねぇ、−−いいんじゃない!」−−
 −−コンサートで人が集まるようになれば、この映画館の宣伝にもなって、
映画も観に来てくれる人が増えるか知れないわ、この映画館はコンサートもやっ
ているんやということが広まれば、うちにとってもええことやと思うし。
 −−どうぞ! 休館日に無料で使ってください。−−
 というご理解と賛同を得て、コンサートの使用許可の話はとんとん拍子に決ま
った!。コンサート会場が決まった先週から、仲間を集めて実現に向けての具体
的な段取りを話し合った。
 友人から友人への口コミと、のっちゃんが学校の仕事の合間に作成した。
ステレオコンサートの告知とプログラムが書かれた。ガリ版印刷のチラシを知人
から知人へと手渡しで配る作戦で、穴水町や七尾市など、ほかの高等学校へ通っ
ている生徒たちにも配布した。
 中島劇場コンサート・ホールの案内は、ありがたいことに無償で新聞に掲載さ
れた。コンサート当日。みんなで手分けして、ステレオとレコードを自転車の荷
台に乗せて映画館まで運んだ。
 入口の前に受付用の机を置き、七尾のM楽器店から宣伝するという名目で分け
てもらったレコード関係や音楽関係のパンフレットと、ミントの風味のグリーン
ガムを用意した。
 果たして第一回目は何人の人が聴きに来てくれるか? 皆目見当もつかず不安
だった。
「何人ぐらい来てくれるかな?」−−見当もつかなかった。
 −−コンサートの開演時間が近づくと……!
 一人またひとりと視聴者がやって来た! 最終的には二十数人の視聴者が集ま
った! 「嬉しいなぁ〜」−−第1回目としては上々の入館人数だ!……。
 顔見知りもいれば、知らない人も会場に次々と現れた。入り口で百円頂いて、
ガムとパンフレットとプログラムを渡し入場してもらう。
 映写室と舞台との間で、曲紹介や解説が終わると同時に音楽が流れるように、
レコードをかけるタイミングを合わせるための手段に、あの頃、電気屋さんであ
るがゆえに買えたのであろうトランシーバーを使った。
 トランシーバーは想定外だったので驚いた!  
「只今より、第1回ステレオコンサートを開催いたします。本日ご来場いただい
た皆さま、−−まことにありがとうございます」
 のっちゃんのあいさつから始まった!
「では、まず始めに! 1956年代から、今日まで、ラジオ番組に流れて大ヒット
をした。ビリー・ヴォーン楽団の『峠の幌馬車』『波路はるかに』『真珠貝の唄』
など、皆様よくご存知の中から、ヴィブラフォンの音色が印象的な『真珠貝の唄』
をお聴きください」−−のっちゃんのナレーションは完璧だった! だが、ちょ
っとだけ、音楽が始まるのが遅すぎた。
 −−トランシーバーで、のっちゃんから指示が来た。
「お聴きくださいのあとに、1・2・3と間を作ってから「どうぞ」って言うから、
お聴きくださいって言うたら、そのタイミングで針を下ろして」
「オーケー! ラジャー! 」−−
「続きまして本日の二曲目。1960年全米ヒットチャートで9週連続1位を記録し、
グラミー賞を受賞した。皆様もおなじみの、パーシー・フェイス楽団の「夏の日
の恋」をお聴きください(1・2・3)どうぞ」
 今度はうまく行った! バッチリ決まった快感! 静かに小さく手を叩いて喜
んだ。プログラムを確認して、次のレコードを準備する。
 −−予定通り進行し、全てをかけ終わると……、
トランシーバーからのっちゃんの指令が聞こえた。
「入り口で書いてもらったアンケート『私の好きな一曲』の中から、五曲を選ら
んどいて、シングル盤はあいうえお順に並んでるから、そこから選んでぇ」
 「オーケー! ラジャー」−−
四人は『私の好きな一曲』の中から、ポップス系ばかり五曲選んだ!
「本日、聴きに来ていただいた皆さまありがとうございます。予想以上のご来場
でビックリしました。コンサートはお客さまと一体となって共有するのはとても
楽しいですね、||まだ時間がありますので、今から皆さまのリクエストにお応え
したいと思います。プログラムの一番下のアンケート『私の好きな一曲』に書か
れた中から、五曲を手持ちのレコードから選んで、ご要望にお応えしたいと思い
ます」−−
「○○さんの好きな一曲。レイ・チャールズの『What'd I Say』をお聴き下さい」
「何々さんの私の好きな一曲。ビートルズの『Twist and Shou』をお聴き下さい」
 −−リクエスト者の名前を紹介しながらかけた! 
のっちゃんのナレーションが功を奏して盛り上がった。名前を呼ばれてから好きな
曲名を言ったのが良かったみたいで、共感した人が手を叩くのでコンサート会場は
一体になった。

 コンサートが終わり、ステージの上で車座になり、ジュースで乾杯をして、打
ち上げがてらと、反省会を兼ねて談笑をしていると、小中とコーラス部だった。
やっちゃんとうたちゃんがマイクの前に立って『埴生の宿(はにゅうのやど)』
を唄いだした。
 のっちゃんも真ん中に混じって唄いだした。劇場に美しい混声の歌声が壁や天
井に響き渡り素晴らしい合唱が流れ、||気持ちよさそうだ。
「わ〜ずるい、のっちゃんもいっしょに唄って、ぼくらも混ぜてよ」
 のっちゃんは七尾市で社会人のコーラスグループに所属していたのだ。
「じゃ! さっそくコーラス仲間を結成だ」 
 井上優はゆうちゃん、うたちゃん、やっちゃん、けんちゃん、そして、リーダ
ーのぶちゃんの五人だけのコーラスグループを結成した。
うたちゃんは(ソプラノ)で、やっちゃんは(メゾ・ソプラノ)で、ゆうちゃん
は(テノール)で兼也は(バリトン)でのっちゃんが(バス)という編成に決ま
った。
ステレオコンサートが終わると舞台で『峠の我が家』『故郷』『カチューシャ』
などを練習曲に選んで歌っていた。
 のっちゃんのアイデアで、モスグリーンのベレー帽を七尾の街まで出かけて購
入し、音符記号をモチーフにしたバッジを付け、お揃いの格好で混声コーラスを
楽しんだ。

  −−二回目のコンサートの時! 
 ゆうちゃんが大きな筒の中から筒状に巻いた紙を取り出し、−−
「けんちゃん、そっち持ってくだいね」
 紙の端を持って、ゆっくりと後ずさりしながらステージの上で広げた。すると、
ステレオコンサートの文字がパノラマの様に描かれていた! 
「ベンハーのポスターの字体みたいやな!」
 レタリングのクオリティの高さに、兼也ものっちゃんも大感心し驚いた!
ステージの背景の中央になる位置にセロテープで貼った。
「ゆうちゃんはセンスがいいね、頭もいいし男前で背も高いし、運動神経もいい、
コンプレックスなんてどこにも無いし、けなるいなぁ」
「けんちゃん、そんなことは無いって、人には言われんけど、……ぼくにもコン
プレックスはあるがいね」 
 ゆうちゃんは、田舎臭さを感じさせない、都会的センスの持ち主で、背も高く
ハンサムで銀幕のスターになれそうな雰囲気の男子だった。
 ステレオコンサートは月一ペースで第十一回まで続いた。百円からミントガム
代を差し引いた残りのお金を電気使用量として、館主に収めようとしたが受け取
ってくれなかった。
 コンサートを視聴しに、七尾市の高等学校へ通うてた子、穴水町の高等学校の
子、近隣の子、一般の方々もちらほら会場に足を運んでくれた。
 映画館を最初にのっちゃんが借りたことで、その後、いろいろな団体に波及し、
地区の弁論大会や、演芸大会などが行われるようになった。




     第二章 「ダンス」

 知り合いや友達や仲間との繋がりで、一緒に遊ぶ人数が増えてくると、のっち
ゃんはいろんなことを教えてくれ楽しませてくれた。
 フォークダンスを教えてくれたこともあった。
オクラホマ・ミキサー、マイム・マイム、ジェンカ、キンダー・ポルカ、コロブチ
カ。小学校の講堂や、保育所のお遊戯室を借りてフォークダンスを踊った。
シングル盤でヴィレッジ・ストンパーズの『ワシントン広場の夜はふけて』で踊っ
たフォークダンスはみんなのお気に入りで最高だった! 。
 オクラホマ・ミキサーやコロブチカで踊るとき、相手が変わり、目当ての子が
回ってくるのが男女ともに楽しみで、好みのタイプだと顔を赤らめてしまう子も
いた。キンダー・ポルカは振り付けが照れ臭過ぎて、練習を一回しただけで、二
度とは踊らなかった。 
 クリスマスパーティで『聖しこの夜』を合唱し、その後、フォークダンスを踊
った。各人が持ち寄った千円以内のプレゼントを足元に置き、レコードをかけダ
ンスを踊り始める。のっちゃんが笛を吹いたら動きを止める。止まった足元に近
い箱や紙袋が、その人へのプレント品だ! 。 
指名された人から順に箱や袋を開け、中の品物を全員に見せてから、
「プレゼントありがとう」とお礼を言うと、みんなが拍手を送る。
 こんなクリスマスイブの趣向を考えたのものっちゃんだった。

 フォークダンスが仲間内で流行っていた頃、大きな家の座敷で踊った。
うたちゃんもやっちゃんもゆきちゃんも知り合った子たちも、みんな楽しそうに
踊っていた。
 七尾市のお寺の息子と知り合い、お寺の本堂の畳敷きの広間で、二十人ほどが
集まってフォークダンスを踊った時、騒がしい音を聞きつけ、ご近所の檀家さん
が、怖い顔をして怒鳴り込んで来た!
「わっちゃダラか〜何やっとるがやぁ〜不謹慎な、場所をわきまえんかぁ〜」
 お寺の息子が、バツ悪そうに、檀家さんに謝った。−−
今夜だけお願いします。二度としませんとお許しを請うて踊った。

 −−小学校の体育館で社交ダンスを教えてくれたこともあった。
体育館の床にステップを踏む足の位置をチョークで書いて、ワン、ツー、スリー、
フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイトと、足の動きを覚える。
「ブルースやジルバは『スロー・スロー・クイック・クイック』そして、ワルツ
やマンボ、それにルンバなどは『スロー・クイック・クイック』ひとつの拍子を
クイック、二つの拍子をスロー。なお、ステップで説明すると片足に二つの拍子
時間体重を乗せているのがスローであり、ひとつ分乗せているのがクイックです」
と教えてくれた。
 思春期真っ只中がペアになって音楽をかけ練習をするとき。−−心がワクワク
ときめいた。リズムがズレたり、相手の足を踏んだりして、上手には踊れなくて
も、恥じらいを覚えながらもみんな楽しんでいた。
 覚えたダンスは、ワルツ、トロット、ブルース、ジルバ、マンボ、ぐらいで、
チャチャチャ、タンゴ、サンバ、ルンバ、は少しかじったがモノにはならなかっ
た。

 −−のっちゃんは、ダンスパーティーの催しものも企画した。社交ダンスが流
行りムードが高まると、青年団員も町の若い人たちも「ダンスの夕べ」に参加す
るようになった。
 レコード演奏で踊ったり、生バンドを七尾市から呼んで踊ったりした。
 −−その頃は、ダンスホールなど無かった。
 小中高の体育館や保育所の遊戯室の使用許可をのっちゃんの顔で手配していた。
兼也と仲間たちは会場の飾りつけを手伝った。
 社交ダンスを踊る場所で男女の出会いもあり、良いご縁のきっかけになり、
お似合いのカップルも誕生した! −−
 クリスマスのダンスパーティーではワルツとブルースと、ジルバにツイスト、
モンキーダンスを踊るのが当時の流行りだった。荒木一郎『今夜は踊ろう』では、
来場者は全員ノリノリでジルバやツイストを踊っていた。
 兼也たちと、たった二つ違いなのに、社会人の女性がすごく艶っぽい大人に見
えた。暗い照明の下で動く腰や躰にエロチックさを感じ、−−凄く大人の女性に
思えた。
 のっちゃんの影響で社交ダンスに興味を持ち、社交ダンスを本格的に習いたく
なった熱心な女子が何人かいた。中でも、かずちゃんとちーちゃんは目を輝かせ
真剣になってダンスに取り組んでいた。  
 のっちゃんからダンスの手ほどきを受けて、二十数年が経ったころに、ひとり
は金沢で、もうひとりは大阪で、ダンス教室の先生をしているという話を風の便
りで聞いた。

 のっちゃんを慕うように、自然発生的に知人友人の繋がりの輪が広がり。青春
の1ページをみんながいっしょに楽しんで遊んでいた。
 −−そんな時代の邂逅……。
 のっちゃんが呼びやすいようにあだ名を付けた。その愛称が仲間意識を高めた。
ター坊、ワケン、ホープ、ゆうちゃん、うたちゃん、やっちゃん、かずちゃん、
ちーちゃん、けんちゃん、ゆきちゃん、カナちゃん、タカちゃん……その他。
 −−いつのまにか人と友が繋がった! 。
 大人数のグループは、友人?友達?親友?マブダチ?『何友』と表現すれば、
一番ピッタリくるのか?……。
 誰かといっしょに過ごしすことが嬉しくて、何かにつけいっしょに遊ぶことが
楽しかった。友達の友達がのっちゃんと繋がり、自分と違ういち面を持つ人と知
り合うことで刺激的な時間を過ごせることが興味深くて楽しくて面白かった! 
それぞれがどう思っていたかは、今となっては解らないが、今思えば、思春期か
ら青年期へと彷徨うとき、誰かと寄り添うことで青年期特有の虚無感から逃れて
いたのではないかと思えてならない。
 思春期の経過と共に自立心が高まり、精神的成熟を向かえる過程で人と人の交
わりから何かを学び、その後の人生に大きな役割と影響をもたらしたことは確か
だろう……。過ぎ去った時の流れの中で青春時代を共に過ごした「友」は特別な
存在なのかも知れない。友と友との思い出はいかほどだろうか?……、 やはり、
のっちゃんと過ごした多様な時間はかけがえのない青春の1ページだ。




     第三章 「ベニー・グッドマン」

 −−兼也が家を出たのは二時過ぎだった。
 襟ぐりと袖口が黒で縁取りされた白のTシャツを着て、のっちゃんの家に向か
った。その途中! のっちゃんが見知らぬ女性と家の前に立って、お話をしてい
るのが見えた。−−のっちゃんが兼也に気づいて歩き出した。
見知らぬ女性は、のっちゃんの後ろから着いてきた。
「けんちゃん、今日はお客さんや、七尾から来てくれてん」
 兼也はのっちゃんの彼女なのかな? と思った。
「こんにちは! はじめまして」−−
「純喫茶『オスカー』に居てる磨美(まみ)さんや」
「オスカー! ミルクセーキが美味しいよね、飲んだことありますよ」
「えぇ! オスカーに来たことがあるの」
「はい、たったの二回ですが」−−
「磨美さんは流行りのポップスやロックよりも、ジャズが大好きなんだって」
「ふーん、ジャズですか! カッコいいね」
 兼也は、磨美さんの頭から足元までいち瞥し、大人の色気にシビれてしまった。
「ぼく、今夜宿直当番やねん、学校には五時までに行けばいいんやし、せっかく
上町に来てくれたんや、どっかいいとこないかなぁ」−−
 とのっちゃんはぼくにそれとなく言った。
おそらく二人っきりでレコードを聴いていても、会話が途切れがちで間が持てず、
気まずい雰囲気で落ち着かなくて、目のやり場に困り果て、外に連れ出したのだ
ろう。−−と兼也は勝手な想像を膨らましていた。
 三人は、ぶらぶらと歩き、「熊木川」に分厚い大きな杉板三枚を架けただけの
「貝田橋」の真ん中で立ち止まり川の流れに目をやった。
 ゆったりと流れる川面に、青空と白い雲が映り、水深によって薄緑から深緑色
に変わる川の水を分厚い杉板の橋の上から見ていた。
「あっ光ったわ! また光った。ずいぶん大きいわねぇ、何ていう魚なの?」
「ウグイだよ、食パンの耳を小さくちぎって、針につけて釣ればすぐに釣れるよ」
 −−と兼也は言った。
「そうなの! 釣って見たいわぁ〜」
「今すぐ! それは無理だよ、釣竿が無いし」−−
「じゃ、今度来た時に釣らせてね」
「あっ、いいよ、前もって分かっていたら用意しておくよ」
「けんちゃんは、魚釣りが好きやもんなぁ」−−
「中学まではここでしょっちゅう釣りをしてた。フナやヘチャコが釣れるよ。
アユを釣ってるのに、毛バリに大きなウグイが食いつき、毛バリが切れてしまう
のは腹が立つよなぁ、ウグイは釣れてもぜんぜん嬉しくないし」
「ウグイは小骨が多くて『ネコマタギ』と呼ばれるくらいマズイと言われ、天然
のウグイを生で食べるとボツリヌス菌という寄生虫がいて食中毒を起こす危険性
があんねん、塩焼き、天ぷら、唐揚げ、南蛮漬け、みそ煮、甘露煮など、いろい
ろな料理に使うけど、それは養殖のウグイやね、この川で獲れたウグイを食べる
人はおらんわぁ」
「さすが! のっちゃんは博識家やなぁ〜」
 磨美さんは、感心を示すかのようにうなずいたものの、さほど興味があるよう
な表情ではなかった。
 それを察して、のっちゃんは、城山に登って海を眺めようかと言い出した。
「城山か! いいね! 久しぶりや登ろうよ!」
 −−城山とは、上杉謙信によって落城された。
難攻不落と言われた能登畠山氏の『七尾城』の跡で、現在、国指定史跡の七尾市
古城町の『山城の山』のことではなくて、合戦の時に『七尾城』の見張台があっ
た山だと語り継がれ、地元では通称『城山』と呼ばれていた。
 標高わずか八十メートルほどの山で、なだらかな天辺には大きな木々がなく、
七尾湾の島々が見渡せる眺めのいい高台だった。

 橋から少し先に行って左に曲がると、北陸特有の黒い屋根瓦と焼杉の黒い板壁
の古民家が五、六軒並んでいる。そこを抜けると、小川に丸太を三本並べワラ縄
でくくっただけの小さな橋があり、その橋を渡ると直ぐに城山に登る入口の山道
にさしかかった。 
 細い道は手入れをされているわけではなく、人が歩いた跡が残り、そこだけ笹
が生えてなくて、獣道よりも少しマシなだけで、人が登る度に踏まれて出来た細
い道である……。
「キャー! イヤァーン! コケるゥ〜」
 兼也の前で、磨美さんが斜面に足を取られ奇声をあげ登っていく、目線が否応
なくちょうどお尻のあたりに行くから、適度な脂肪がつき弾力性のある大人の下
半身の動きに目を奪われ、好色的な妄想が兼也の頭の中を支配した。
「磨美さん、−−コレにつかまって」
 のっちゃんがズボンのベルトを外し、磨美さんにしっかり握るように促がし、
右腕を後ろ手にしてベルトで引っ張りながら登った。
「磨美さんがジャズが好きになった訳は?」
 のっちゃんが、息を弾ませながら訊いた。
「ドラムの音から始まる。ベニー・グッドマンの『シング・シング・シング』を
聴いて、いっぺんに、スイングジャズに魅了されたの」と磨美さんは即答した。
「ジャズが好きになるきっかけは大概!そういうとこだよね、そして次に、ドー
ンとドラムが鳴って列車が走る感じから、−−デューク・エリントンのピアノ演
奏が始まり、続いてサックス四重奏、トランペット、トロンボーンと各楽器から
音が出てくるにつれて、指を鳴らし出し、スイングジャズの虜になるがやちゃ、
ジャズが好きになって、グレン・ミラー楽団の『イン・ザ・ムード』を聴くと、
終わりそうで終わらない、ノリのいいスイングのリズムにつられて頭を振るよう
になるがやちゃ、ハハハハハ〜」−−と言ってのっちゃんは大笑いをした。
 ジャズの話を熱く語り、頭を振るのっちゃんの格好の滑稽さに、−−
「そう、そう、そうなのよ〜」−−と、同調し磨美さんは手を叩いて笑った。
話しているうちに、城山の比較的になだらかな天辺に着いた。
 七尾湾の青い海に緑の島々が浮び、山並みが重なり合って海と一体化していた。
美しい絶景を一望しながら、三人は腕を空に向かって大きく伸ばし深呼吸をした。

 −−この『城山』は「父なる山」です。
 山遊びからいろんな「知恵」が付きました。
逆に言うと、この山から「知恵」を授かった教わったと言ってもいい。
小枝を集めて骨組みとし、杉の葉を敷き杉の葉を重ねて屋根にして、山にある自
然のモノを何でも利用して作った『秘密基地』そこを隠れ家にして山の中を探検
した。切り株の年輪を見て、南北の方位を知るなど、『忍者の本』を手に入れ、
その気になったり、チャンバラごっこや、藤つるにぶら下がって、ターザンごっ
こをして遊んだ。竹で弓を作り矢はすすき、これが良く飛んだ。四季折々に咲く
山野草も素朴でいい。
 春はワラビなどの山菜採り。
 夏はホウバの葉で風車作りや杉玉鉄砲作り。
 秋はキノコ、アケビ、栗などを採る。
 冬の山道は竹スキーに手作りソリで滑る自然のゲレンデである。

 −−先ほど見た熊木川は「母なる川」です。
 熊木川は、ぼくの家のすぐ前を流れている。浅瀬のせせらぎの音は母の子守唄
でした。川底から水面に隆起している凹凸の激しい岩盤は浮き島のようで、まだ
泳げない子供らが窪みにいる小魚をつかまえたり、窪みの水が太陽に照らされ温
泉のように温かくなると、子供らがそこに浸かって、はしゃぎまくっていた。
 フナ、ウグイ、鯉、ナマズ、川えび、モガニ、ヨシノボリ、ハゼ、タナゴ、う
なぎ、雷魚、亀、など。季節の魚では鮎、イサザ、それに、満潮時には海から、
ボラ、サヨリ、スズキ、カレイ、などが遡上する。
「城山という名の父」と「熊木川という名の母」に育まれて大きくなった。
 −−とのっちゃんは感慨深げに切々と語った。
 兼也はのっちゃんの思い出話を聞きながら、隠れ家を作ったなぁ、チャンバラ
ごっこもしたなぁ、刀や弓、杉玉鉄砲、青玉鉄砲も作ったなぁと、大昔のことを
懐かしそうに思い出していた。

「磨美さん、けんちゃん、−−今の気分を色で現したら何色ですか?」
 と、のっちゃんが、−−面白いことを言いいだした?……。
 −−兼也は「オレンジ色」が浮かんだと言った。
 −−磨美さんは、やっぱり「ピンク色」かなと言った。
 −−のっちゃんは、「青色」と言った。
 その時々の気分によって無意識に浮かぶ色で、その時の真理状態を読み解くこ
とができるんです。色でわかる心理学で実験でも立証され、真理状態やその人の
性格がよく当たるんです。と言って、のっちゃんが各色の解説を始めた。
「けんちゃんが言ったオレンジ色はね」−− 
 オレンジ色は、太陽や炎のような陽気であたたかい高揚感を表す色です。
オレンジ色が好きな人は、陽気で人付き合いがよく社交的なタイプが多いです。
さびしがり屋やお人好しが多いのもオレンジ色の特徴です。
 仲間意識が強い。計算して行動する。人の気持ちを察することができる。
空気が読める。オレンジのやさしくてあたたかい光は、心の不安を取り除く効果
があります。不安な時は、オレンジ色の光を見れば、心身のバランスを整えるこ
とができます。
「次に磨美さんが言ったピンク色はね」−−
 ピンク色は、恋愛・しあわせ・思いやりなどのやさしいイメージをもつ色です。
ピンク色は気配り上手で人好きで、世話好きで人の役に立ちたい人です。
愛情と生命力に溢れています。自分も誰かに甘えたい欲求を持っています。
恋に夢中になった時、愛を欲している時などに、ピンク色が浮かびます。
「−−で、ぼくが言った青色は」−−
 青色は、心身の興奮を鎮め、感情を抑える色です。
感情にとらわれず冷静に物事を判断できるようになります。気持ちがうまく伝え
られない時、アピール不足を感じている時、気遣いで疲れている時に浮かぶ色で
す。青色は、クールで爽やかで信頼できるイメージがあります。誠実さを感じさ
せる色なので、人とのコミュニケーションをスムーズにする効果があります。
「のっちゃん、ほんまや! 色の心理学はよう当たるんやね、まいったなぁ、
ピンク色は愛を欲しているって、バッチリやん! 特に気遣いで疲れていると浮
かぶのが青色って、まさしく、今の、のっちゃんやねぇ」−−
 と兼也が言ったので、−−磨美さんがのっちゃんを指差しながら、お腹を抱え
て笑った。
 数分後、城山を下り始め、そのまま学校へ向かった。学校はもと中学校の旧校
舎で、先生方が出入りする玄関は建物のど真ん中にあり、正面玄関から入って左
右に廊下があり、生徒たちの玄関は東西の両端にあった。
両端のどちらからも二階に続く階段があり、1階はTの字を逆にしたような廊下
があった。
 入口から正面に広めの廊下があり講堂(体育館)へと続き、講堂の右手前に、
学校給食を作っていた調理室があり、その斜め向かいに中庭の出入り口があり、
その左横に八畳ほどの押入れ付きの当直室があった。
「ちょうどいい時間に戻ってこれたがいね、ちょっと待って、お湯を沸かして
くるさかいに」−−と言って、のっちゃんは調理室へ行った。
 しばらくして、ヤカンとどんぶり三つを持って戻り、即席ラーメンを作ってく
れた。−−三人で食べた即席ラーメンは美味かった。
「宿直当番って怖くない、懐中電灯を持って、夜中に学校の中を巡回するんやろ、
若山先公が言うてたけどな、自分が履いてるスリッパの音が誰かが後ろにいるよ
うな気配がして怖いんやて、廊下の角に来たら、誰かと不意に出くわすのが怖い
から、スリッパを脱いで廊下に向かって投げるんやて、懐中電灯で先を照らしな
がら、今から行くでぇ、今から行くでぇ、というて見回りするんやて、若山先公
はひどい怖がりやろ」−−
「怖がってたら、宿直当番は出来んわいね、けんちゃんも恐がりかね?この学校
に伝わる、怖い七つの怪談、知らんやろう。教えたろか」
「−−いい、いいわぁ、怖い、−−怖いもぉん」
「私、−−オカルトとかホラーとか怪談とか、心霊現象とかが好きやねん、聞き
たいわぁ〜」−−
「怪談と言えば、四谷怪談、番町皿屋敷、牡丹灯籠が有名やねぇ、−−う〜ら〜
め〜し〜や〜」
「のっちゃんもうやめてぇ、何でそんな言い方すんのそれだけでも怖いやんかぁ」
「兼也さんは、−−弱虫や〜、−−根性なしの怖がりやぁ〜」
 磨美さんにからかわれ、兼也はカラ元気を出した。
「根性はあるでぇ〜−−ほんなら、聞かせもらおうやないか」
「その前に、ボーイスカウトでよくやる肝試しをやってみる。懐中電灯なしで右
回りで二階を回って、二階の廊下の真ん中に、このハンカチを置いて戻ってくる。
そのハンカチをぼくが拾って戻ってくる肝試しやけど」−−
「のっちゃん、そんな肝試しはエエから、−−話を聞かせて」

 七つの怪談のその一、−−調理室の裏口を出た右手にある古い井戸は何年か前
から使われなくなり板で蓋をされたままになっていた。 
 雨が降る夜、白装束で髪の長い女が廊下をさまよい歩いたあと、井戸の中へ消
えて行ったのを巡回中の先生が見てしまった。
翌朝になって確認すると、廊下が濡れていて井戸の蓋が半分ずれたままになって
いた。他の先生が見たときは髪の毛が腰のあたりまであったと証言している。
 雨の日に、足元が滑って井戸に落ちた子がいたのに、誰も気がつかなくて溺れ
死んだ。成仏できず未だにうろうろしてるんやね……。
 −−兼也は、怖くて身体にサブイボが立った。

 七つの怪談のその二、−−便所に行くと戸が閉まる時のようなギーバタンとい
う音がする。誰かいますか、誰ですかと、懐中電灯を照らしながら声をかけても
誰もいないのです。かんぬきを全部の扉にかけ直し、風で動かないようにしても、
夜中に便所に行くと戸が開くような音がする。幽霊のいたずらか? ポルスター
ガイスト現象か? 未だ謎のままです。「ギギー バタン」−−
「ギャ〜のっちゃん、脅かさんといてえや〜」
 
 七つの怪談その三、−−渡り廊下を下りる時に石の階段があります。
九月九日重陽の節句の十二時に石の階段の三段目を踏むとゴトっと動くのです。
その石はどうも……菊の文字が入った墓石だったようです。
いつも動くわけではなくて、九月九日の十二時だけです。
「わ〜た〜し〜の〜墓〜石〜を〜返〜せぇ〜」−−
 −−兼也は、サブイボが立つ両腕をさすった。

 七つの怪談その四、−−雨がしとしとと降る夜に音楽室に行くのが怖いんです。
ぼくも経験しています。こんな遅い時間にピアノを弾いている人はいないはずな
のに、悲しそうなピアノの旋律が聞こえてくるのです。
 音楽室のドアを開けると音は消えます。
 あのピアノは、音楽室を建て替えた時に、中島町の名士から寄贈してもらった
ピアノで、亡くなられたお嬢さんの形見でした。
 そのお嬢さんは『雨音はショパンの調べ』が好きだったようで、最後まで弾け
るようになりたい、弾けるようになりたいと言って亡くなったそうです。 

 七つの怪談その五、−−昔、三年三組だった教室に、いじめを苦にして中庭に
飛び降りて死んでしまった子がいました。その子の命日にその教室を見回りに行
くと、二階の窓にしがみつくようにして、外から教室の中を覗いているんです。
その子の命日の宿直当番は三年三組の教室は素通りするようになったのですぅ〜。

 七つの怪談その六、−−真夜中の二時ごろに体育館でバスケットボールをドリ
ブルする音がするのです。見回りに行った先生が懐中電灯の光を向けると、人が
見えない、目を凝らしてもボールだけが弾んでいる。
 不思議な現象に身を震わせながら見ていると、ゴール下でバウンドしたボール
がフッと消えた。勇気を出してゴール下を見にいったが床には何の痕跡も変化も
なかった。その先生が、ゴールの真下に立った瞬間に、全身が固まって動けなく
なった。「ダレカタスケテクレ〜」と言おうとしても声が出ない、その先生は金
縛りにあったように体が動かないまま足が震えた。
「オレのシュートを邪魔するなぁ〜」という低い声が聞こえた。
必死になって頭を動かしうなずいたら、身体の固まりが溶けた。その先生の話を
聞いてから、バスケットボールをドリブルする音が聞こえても夜中の体育館に誰
も行かなくなった。  
「のっちゃん、寒気が止まらんねん、他の話をしよう。おもろい話に変えてぇ〜」
「そんなこと言わんと、最後の七つ目の怪談を聞いてくだいね……」

 怪談その七、−−最後やからちゃぁんと聞いてやぁ、真夜中に中庭を動く黒い
影は何だろう? 亡霊かと思い確かめる為に中庭に出るドアを開け階段を一段づ
つ下りた。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、ギャ〜
七つの階段、−−チャンチャン」
「チャンチャンって、ななつの階段の落ちかぁ〜い」−−
 最後のオチで、いっぺんに兼也の身体の力が抜けた。磨美さんは可笑しくって
しょうがないと言って笑い転げ、−−のっちゃんも肩をゆすって笑った。
 兼也は、磨美さんが帰りそうもないと察し二人に気を利かして……。
「ぼくは、人の気持ちを察することができる。空気が読める。人間やからお先に
失礼させてもらいます。−−磨美さんまたね、−−のっちゃんありがとう。
−−お先に帰ります」
「何を言うとるがいね、−−寝るには早いがいね」
 とのっちゃんは言って止めてくれたが、兼也は宿直室を出た。
学校の門を出て、ひとりで夜中の町を抜け街灯の少ない夜道を家まで帰るとき、
怪談話の怖さがぶり返してきた。

 −−それから数日後、
 のっちゃんに会った時、−−宿直当番のあの夜のことを訊いた。
「のっちゃん、あの夜なんにもなかったん?」
「えっ! どういうこと?」
「どういうことって、大人の関係というか、男と女の……みなまで言わせるの」
「あっ! そういうこと、何もなかったよ、男も女もフレンドやから」
「えっ! ほんと? −−信じられんなぁ」
「ちゃんと、夜中に見回りしたよ、宿直日誌に異常なしと書いといた」
「ほんなら、二人っきりで、何? してたん」−−
「どうやって生きるのが人間にとって良い生き方か? というのを話したり、
出会いの哲学とか恋愛論とか人生論を語っていたら、そのうち磨美さんは寝てし
もうてたよ」
「顔が紅潮し耳が赤く染まり、のっちゃんを見つめる瞳は潤んでいたのに」
「けんちゃん、エロ小説の読みすぎじゃないの、けんちゃんが、穴が開くほど
見つめるから、磨美さんは恥ずかしかったんじゃないがけェ」−−
「魅力的やったのに、−−何にもなかったなんて、期待はずれやなぁ」
「そうかぁ、けんちゃんて、面白いねぇ」−−
 ずいぶん経ってからの話だが、その頃はまだおおらかというか、セキュリティ
ーに無頓着で、NN高校の玄関とか各所の入り口の鍵などはかけてなかった。
数年後、のっちゃんが事務局長に出世してNS分校に戻った時は、あっちこっち
の出入り口が施錠され鍵だらけになっていて、鍵の点検が大変だったと言った。
 −−兼也が土曜日の学校帰り、七尾駅前のオリオン劇場の左手を入った路地裏
に並ぶ、いかがわしい飲食店の中の一軒、ホルモン焼きの店へワケンに連れて行
ってもらった。
 食欲をそそるタレの匂いと肉が焼ける匂い、ホルモン焼きなんて初体験でタレ
で食べる肉、キムチやキャベツも美味しかった。いっぺんにホルモン焼きの虜に
なった。土曜日は七尾駅に降りて、ワケンとちょくちょくホルモン焼きを食べに
行った。
 −−そんなある日−−
 ホルモンを食べた後、ホープも誘ってター坊の家に遊びに行こうと言うことに
なった。
「こんにちは〜」−−
 ター坊の家に上がると、居間のテーブルで、ター坊のお母さんと、ご近所の、
おじいちゃん、おばあちゃんが麻雀をやって遊んでいた。
 ター坊の部屋は平屋のいち番奥にあった。
しばらくは喋っていたが、ター坊が麻雀を知っていると言うので、教えてもらう
ことになった。ワケンとホープとター坊と兼也の四人で雀卓を囲んだ。
兼也は麻雀牌を見るのも初めてだった。次から次とター坊の口から出る。ポン、
チー、リーチ、ロンなど麻雀用語が新鮮で! ピンフ、タンヤオ、三色など上が
り方や役も教わりながら、上がった時の点棒のやりとりだけでも面白くて麻雀に
ハマってしまった。
 麻雀が楽しくて徹夜麻雀もした。目が覚めるとドカ雪で辺りいち面が真っ白だ
ったこともあった。そんな時はター坊の家から七尾駅まで歩くのが遠かった。

 春休みにホープが七尾市の馬出町に新しくできた喫茶店でアルバイトをしてい
た。兼也とのっちゃんがお茶をしにその喫茶店に寄ったとき、ホープがギターを
弾きながら歌っていた。
 いろいろな話をしていて、のっちゃんが、−−実は職場替えがあって羽咋の方
の土木事務所に移ることになった。みんなといっしょに遊ぶ機会が減ってしまう
かも知れんと、何気に事後報告をした。
 すると! ホープが何で替わるの、今のままでええやん、いつでも会える今の
職場に居てくれと食い下がった。−−
 のっっちゃんは、困り果てた表情で、人事異動は職場の規程やねん、それは、
ぼくにはどうしようもできないんやと弁明した。
それでも、ホープは職場を替えることを思いとどまる様にと懇願しながら泣いた。
−−のっちゃんも異動の弊害や寂しさを感じていたのか?……いっしょに涙を流
した。−−兼也はのっちゃんも辛いだろうなぁと思って見ていた。
 −−地方公務員の職場は、役所に勤務している人、公立の学校、病院、図書館、
福祉施設の職員、上下水道、清掃、ごみ処理などに携わる人、警察官、消防官な
どがあり、様々な職種が存在し転勤や人事異動が余儀なくあり、勤務先や所属場
所が替わるという規程を、ホープも兼也もその頃は何も解っていなかった。−−
 地方公務員の人事について、何も知らず、のっちゃんに詰め寄ったその時のこ
とをホープは自責の念に駆られ、ずっと後悔していた。
 のっちゃんから色んな刺激を受け、いっしょになって遊んで来た皆んなは高校
を卒業し、進学、就職、関東や関西に行く者、地元に残る者などなど、てんでん
ばらばらの道を歩き出し、離れ離れになってしまった。のっちゃんを慕って、い
つもいっしょに遊んでいた友人達はそれぞれの人生に向かって旅立った。

    第四章 「キャンプ」   

 のっちゃんは、村の青年団に所属していて、自発的に数々の地域活動をしてい
た。ボランティア活動という言葉がまだ無い時代だった。
お盆やお祭り、スポーツの大会や恒例行事など、人の世話や設営の準備を率先し
てやっていた。青年団で何かをしようといった集会や、企画立案の場で話し合い
をしようにも集まりが悪くいつもの五人だけ、他の団員はほとんど参加しなくな
った。−−そんなとき団長が怒った。
「こんなんではだちゃかんわやくそや、集会に参加せん奴は青年団を辞めてしま
え」
 −−そんなとき! のっちゃんは、……
「花が咲けば道ができそこに自然と人が集まる。『集めると集まるとは違う』よ」
 −−と団長に言った。
 それから、団員が自主的に参加するように、楽しく生きるをモットーに、地域
社会に目を向け、若者の交流や地域活性化のイベントを企画した。
奉仕の精神で活動した時の達成感と感動、そして、みんなで成し得た協働の喜び
を体験することで青年団員の活動が活発になり、団員がこぞって集まるようにな
っていった。
 のっちゃんは団員からアイデアマンと言われ、いろんな奉仕活動を企画した。
山登り愛好家のグループも立ち上げた!
 −−あるとき、のっちゃんから、
「けんちゃん、−−立山登山に参加せんかいね」
 兼也も町内の青年団員といっしょに立山連峰の登山に誘われたことがあったが、
山登りに必要な登山靴、ザックなど装備を揃えるお金が無くてしぶしぶ断念した。
 のっちゃんは山登りも好きで、黒部アルペンルートを訪れたこともあり、標高
3003mの立山の主峰「雄山」と「劔岳」を登っている。
「日本百名山に数えられてるんや、右に浄土山を眺めながら登ると、チングルマ
やハクサンイチゲの群生が咲いていて美しいがや」−−と山の話もしてくれた。
のっちゃんの部屋に立山連峰のペナントが飾られていた。

 青年団の活動の一環で、団長以下五名の団員を連れて、青年団活動に伴う美化
運動の一環として列車内の清掃を計画した。
 目立つように、中島町熊木青年団の頭文字を取った「NKS」の腕章をしたと
ころ、乗客に「日本国鉄清掃隊ですか?」と言われた。
 輪島駅から金沢駅間の車内清掃をしたのだ。
能登中島駅から七尾駅まで車内清掃をしたとき職員との写真が新聞に載った。
その後、今では考えられないことだが、新聞記者がのっちゃんの家に来て……。
「これ使って活動ぶりを撮影してください。ご連絡いただいたら、お話を原稿に
して、掲載させてもらいますから」−−
 と言って、貴重なカメラを置いて行ったという!
輪島駅から金沢駅まで往復して全車両内の清掃の活動を定期的に行った結果。
石川県の青年団活動で珠洲市青年団に次いでとても優秀であると新聞に讃えられ、
NKS青年団員の活躍が新聞に掲載され、世間の知るところとなりNKSの腕章
はのっちゃんら青年団員のシンボルマークとなった。

 −−ある日のこと−−
「けんちゃん、キャンプの予行演習に付き合ってくれんかな」
「付き合ってもいいけど、どこへ行くの」
「近くの山でキャンプして、ひと晩過ごそうかと考えてるんやけど、飯盒炊爨で
カレーを作って、寝袋に入って、テントの中で、ひと晩寝るだけやけど、ゆうち
ゃんも誘ってんねん」
 こんどはロマンとスペクタクルが溢れるアドベンチャーを企画したという。
 当日の午後三時過ぎ頃にゆうちゃんもやって来た。
「−−あのへんの山に登ろうか」
 のっちゃんが家の前から右方向の山を指した。
「あのへんて? −−場所は決めてないがけぇ?」
「大昔に行ったことがある場所に行って見たいがや、登って行って、キャンプが
できそうな平坦な場所が見つかったらそこでしようと思ってる」
「行ってどうなるか? ドキドキ感とワクワク感がのっちゃんは好きながやね」
 とゆうちゃんが言った。
「そんな、冒険心をあおったらダメやちゃ」−−
「ハハハハハ〜けんちゃん、大丈夫やちゃ」−−
 近くの山でするからと、いい加減だった。
 のっちゃん、ゆうちゃん、兼也の三人はキャンプの必需品を手分けして、担い
だり持ったりしてあのへんの山を目指した。
 用意したものは、テント、地面に張るシート、寝袋、ランタン代わりの懐中電
灯、飯盒、鍋、皿、スプーン、水筒、大きなヤカンぐらいで、のっちゃんは何を
用意して持って行くのかは聞きもせず知らなかった。
 上町橋を渡り、白山神社の前を通り、大黒屋が角にある手前の四叉路を左に曲
がると、上町ト部の〈だらだら坂〉が待ちうけていた。
 坂道を少し登って行くと村田医院がありその向かいに、こんこんと湧き水が溢
れ出る水汲み場がある。その湧き水を杓で汲んで大きなヤカンに水をいっぱい入
れて山に向かった。−−この水を運ぶのが大変な負担でエライ目にあった。
 だらだら坂を登り切ると民家が無くなり、山道が二股に分かれていた。
荷車が通った轍がある右側の道をさらに登って行った。
道の右手に高さ五メートル、幅十メートルほどに渡って普通の赤土の色ではなく、
土が黄色く染まったような崖があった。
 その崖の土が糞色(ばばいろ)なのは、上杉軍と畠山氏の能登七尾城の戦いで、
敵兵が下を通るのを熊木城の兵士が崖の上で待ち構えていて、煮え繰り返った熱
い人糞を敵兵めがけ、上からぶっ掛けたから糞色なのだと言い伝えられていた。
「もうダメや〜ヤカンが重くて腕がちぎれそうやぁ〜代わってくれぇ〜」
 ヤカンを持つのがしんどいと兼也が音を上げた。
「ゆうちゃん、けんちゃんと代わってやって」
 兼也に代わってゆうちゃんが持った。ヤカンを左右に持ち替え持ち替えしなが
ら頑張っていたが、しばらく登ったところで、
「腕がパンパンや〜けんちゃん代わって〜」
「ほんならここで、ちょっと休もうかぁ」
 そう言って、のっちゃんは雑木林の草むらの中へ入って行った。
「ええのがあったぞぉ〜」−−
 のっちゃんは天秤棒代わりになる丁度いい長さの木の枝を拾ってきた。
真ん中にコブがあるからヤカンがずり落ちる心配もない、木の枝をヤカンの取っ
手に通し、兼也が前を歩き、背が高いゆうちゃんが後ろで担いだ。
「よっこらせ、よっこらせ、おいっちに、おいっちに」
 ヤカンが左右に揺れる度に水がこぼれた。
「けんちゃん、揺さぶらんと歩かにゃ水が溢れるがいね、ゆっくり歩きまっし」  
 ぶらぶらとヤカンが揺れないように、ヤカンの取っ手をロープでくくりつけた。
棒を肩に掛け、駕籠(かご)担ぎの要領で、えっちら、おっちら、ヤカンの水を
運んだ。
 ここら辺までは、まだ体力的に余裕があって楽しそうに、三人は山道を登って
いたが、だんだん道幅が狭くなり、農道のようになっている道を歩いて行くと、
引く人と押す人の二人掛かりで、やっと荷車が上がって行ける急な坂道があった。
その坂道を登りきったところが急に開け開墾された畑が現れた。柿の木が点在し、
お茶の木で畑の周辺を囲い、農作物は、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、大
豆、小豆、菜っ葉などが植えられていた。……
「のっちゃん、この辺でキャンプは無理やぁ、畑ばっかりで原っぱがないもん」 
「もう少し行けば畑が途切れ、左り方向の山あたりに適当な場所があると思うが
やけどなぁ」
「思うがやけどって、ここに来たことがあるがかいね?」
「小学校の遠足でこの山を登ったことがあるがや、もう少し行った先やと思うん
やけど、弁慶の足跡と言われている大きな黒い石があって、その石が目印やねん、
道が二手に別れていて、左の道を行くとなだらかな傾斜地があって、そこを登り
きると上町が見渡せる場所があるんや、そこらへんで、笹があんまり生えてない
平地ならキャンプが張れると思うてるんやけど、遠い遠い昔の記憶やさかいね」
「ほんとかいね頼んないなぁ、−−のっちゃん、だんないか、たいそいがやで」
 兼也はのっちゃんに、凄く疲れてるんだけど、と、ひたすら哀願した。
「だんない、だんない、−−任しときって」
 開墾畑がなくなり、赤松やら雑木林の細い山道の中へと入って行った。
人一人が通れるほどの細い山道を進んで行くと、道が二股に別れていた。
左の道に少し行った所の右側に、山道を半分ほど塞ぐ大きな黒い石があった。
「のっちゃん石があるでぇ、弁慶の足跡と言われている石は、これかなぁ?」
「そうや! 石の上が凹んでるやろう」
「ちょっこし、凹んでるようには見えるけど弁慶の足跡やろか? 石川県内のあ
っちこっちに義経と弁慶の伝説があるがいね、あれはぜんぶ本当やろか?」
「義経一刀岩とか弁慶二刀岩、勧進帳の安宅の関所や尼御前もあるがいね」
「ゆうちゃんは賢いなぁ何でも知っとるね、尼御前って、知らんがやけど?」
「義経一行が都落ちの際に岬を通ったんや、その時に、一行の足手まといになる
のを憂いた尼御前が海岸から身を投げたという伝説があるんや、それがその地名
の由来なんや」
「へぇ〜そうなんか、ありがとう、ゆうちゃん」
「もう少し行くと傾斜地があって、そこを登ったら前が開けてくるはずや」
「もう少しって、どれくらいかなぁ、まだかなぁ、たいそいなぁ」
 ヤカンの重さが肩に食い込んで痛いのと歩き疲れて、クタクタだった。

 低木のクヌギ、アカマツ、コナラ、ドングリ、ブナの雑木林を抜けると低い笹
が生えている小高くなったゆるやかな傾斜地が現れた! 
「のっちゃん、−−遠足に来たんはここかいね!」
「この上やったと思うんやけど、禿山(はげやま)やったと記憶してたんやけど、
変わっとるがいね、笹がいっぱい生えとるね、木も生えとるし」
 「のっちゃん、こっちからは、前が開けて上町が見下ろせるがいね、のっちゃ
んちも見えてるでぇ、ここやね! ここで間違いないね」
「間違いない、−−ここや、ここや、よかったぁ」
 傾斜地を登りきった左側を少し下ったところに、笹が低く生えている平地があ
った。ここにしようとキャンプをする場所を決めた。
「テントを張る前に、笹を踏んづけて、同じ方向にベタッと寝かすでぇ」
「えっ! 何で? 刈り取らないの? 」
「刈ると尖った切り口がシートを突き破り、ケツに突き刺さる恐れがあるがいね」
「なるほど! ベタッとさせて畳代わりやね」 
 三人並んで、おいっちに、おいっちに、おいっちにと、笹を踏んづけた。
テントを張る広さだけが平べったくなった。
 笹の絨毯の上にシートを敷いてテントを張った。
日暮れが始まり、周りがだんだんと薄暗くなって来た。
日が沈みだすと山が暗くなるのは早い、兼也は不安な気持ちになった。
テントを張り終わるとキャンプらしい雰囲気になり、小躍りしたくなるほど気分
が乗って来た。テントに入って、中であぐらをかいたり寝転んだりして、居心地
を確かめた。
「けんちゃん、ゆうちゃん、そこら辺で薪を見つけて、拾ってきてくだいね」
「−−イエッサー 隊長」
 雑木林の中へ入って行き、二手に分かれて折れた枝を探し周った。しばらく経
つと二人でひと抱えになるほどの枝を拾って戻って来た。
 のっちゃんは、ヤカンの水で飯盒の中のお米を研いで、ヤカンを担いで来た木
の枝に、飯盒を通して待っていた。
 焚き火をする上に飯盒を吊し、焚き火をまたいだ両端にY字型の棒を地面に差
し込んで棒をまたがして、飯盒を炊くからと言った。
「−−イエッサー 隊長」
 ゆうちゃんも珍しくハイテンションだ! 
「ゆうちゃん、Yの形の枝がないがやちゃ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、−−任しときぃ」
 どうするんだろうと思って見ていると、ゆうちゃんは、拾って来た枝を四本選
んで、二本づつをペケの形に組み合わせてくくりつけ、組んだ枝を焚火の両端の
地面に突き刺した。
「頭は生きてるうちに使えっていうやつやがいねぇ」  
 ゆうちゃんはボーイスカウトで習ったんだと言った。
「なるほどね! これに棒をまたがせば飯盒を焚火の上に吊るせるね!」
 のっちゃんが薪に火をつけた。飯盒炊爨が始まった。
カレーはインスタントを袋ごと鍋のお湯で温めればオーケーだ。
「のっちゃん、こんな時にギターかウクレレかハーモニカがあったらいいのにね」
「うん、−−トランジスターラジオを用意しとるがや」
 さすが電気屋の息子、−−テントの中のリュックからトランジスターラジオを
取り出し音楽番組を流し、焚火を囲みながらご飯が炊けるのを待った。
「ぼく、キャンプをするなんて始めてやぁ、カレーライスおいしいやろうなぁ、
あっ!鍋は直火でいいんちがう。火に近づけて水の中にレトルト入れといたら、
お湯で温まるがいね」
「鍋吊るしたら枝が折れるかと思って。ご飯が炊けるのを待っていたけど、けん
ちゃんイイこと言うがいね、鍋を火もとに近づけて置いたらお湯が沸くもんね、
その方が早いわぁ」
 −−にわかに雲行きが怪しくなって来た。
「うまいなぁ〜、うっまいなぁ〜」
 カレーライスを食べ終わるころ、稲光がした。
ポツリ、ポツリと雨が降って来た。
 この地方では「弁当忘れても傘忘れるな」と言うことわざがあるが、それほど
天気が変わりやすくて、雨がよく降るところなのだ!
「ちゃっちゃとせんと、−−雨が降って来たでぇ」
 焚火の燃え残りが雨に打たれくすぶり出し、ほの白い煙が夜の暗闇に吸い込ま
れていった。
「嫌やなぁ、−−こんな時に降らんでもいいがに、−−なんか? 不吉な予感が
して、−−怖いなぁ」
「けんちゃん、何を怖がっとるがいね、冒険ほどでもないけど、こういう経験も、
人生といっしょで何が起こるか、何があるかわからんから面白いがやちゃ、すん
なりと、−−なぁんも無い人生はつまらんのやないかと思うけどなぁ」
 三人は懐中電灯を真ん中に吊るしたテントの中で、膝を抱え車座になって座り、
雨が止むのを待った。
 偶然にもラジオからはザ・カスケーズのヒット曲『悲しき雨音』が流れた。
「Falling rain(フォーリンレイン)て言うな」
「ラジオに当たってどうすんの」
 雨は止むどころか、大粒の雨が降り出した。 
山の雨は雑木や笹や雑草の葉を激しく打ち凄まじい雨音が滴と重なり合った。
「雨が奏でるジャズだぁ、雨のソロ演奏や、時に激しく、時に優しく、そして、
切なく やがて、−−雨は大地に沁み入り音は消えるのだ」
 のっちゃんは、ミュージカルの演者の真似をしておどけて見せた。−−
「のっちゃん、何をのんきなことを」
「のっちゃんは、ぼくとけんちゃんを付き合わせた手前、気分を暗くさせたら悪
い思うて、気分をなごませようと気い使って、ピエロになってくれとるがやちゃ」
 ゆうちゃんは、場の空気をそう読んだが、兼也もそう感じていた。……

「学校の事務職員をしていると、ぼくに悩みごとを相談に来る生徒が居るんやけ
ど、この間、−−相談しにきた男子生徒の話がおかしくって! 笑うたがいね」
「男子生徒の話が面白いって言うても、興味がちぃとも湧かんなぁ、ドクトル・
チエコの『性の悩み相談コーナー』じゃないけど、||思春期の女の子は心も体も
複雑でミステリアスやぁ、−−そっちの方の話なら興味があるけど」
「その子にとっては由々しき問題で、真顔で相談しに来たからオモロイねん」
「なぬっ! −−由々しき?−−問題?」
「その男子生徒は「デッカ」と言うあだ名で呼ばれている生徒で、西岸駅か
ら列車通学している生徒なんやけど、列車の中で一緒に通っている友達に、
「お前はデッカと呼ばれているけどチビやなぁ、お前は奥手なんかなぁ〜」
 って言われたんやて、−−おくてって何やと聞いたら、早生の反対やと言われ、
わせって何やと聞いたら、早熟のことやと言われ、早熟の反対はって聞いたら、
それは晩熟やって言われ。
 デッカは解ったようなふりをしてうなずき、どうしたら背が伸びるんか教えて
やぁって、聞いたら、解った解った教えたるって、その子がデッカの耳もとで、
ちっちゃいコソコソ声で、
「へんずりかいたら伸びるんやぁ」−−と言うたんやて。
「へんずり! −−へ、へんずりってなんやぁ?」
 ダラか大きな声で聞くな、あいつに聞けと隣の子に、聞かれた子は、黙ったま
ま手を振って知らん、知らんと笑って、次の隣の子を指差しその子に聞けという。
列車の中で指を差された子は聞かれる前から笑いを堪えるのに必死だった。
 デッカの口を押さえて、小声で、ここでは教えられんから、学校に着いてから
国語辞典で調べたら解ると言ったそうや。
 国語辞典を調べたけど解らんかったと言って、−−
「おくてなのかなぁ、身長がもうあと10pか15p伸びたらええんやけど」
 −−とデッカが嘆いて言うのよ。
身長は中学生になると伸びる子が多いけど、高校生になってから伸びる子もおる
からね、デッカが奥手ならこれから伸びるやろうねぇ。
 思春期から大人になるまで、一人ひとりの身体の成長や性に関する知識がまち
まちなのは当然やからね。
『へんずりかいたら伸びるんやぁ』って、からかわれたんやねぇ、へんずりで身
長が伸びたりするかいな、へんずりとはマスターベーションのことで性欲を解消
する方法のひとつや、性的な欲求を感じるのは当たり前のことや、自分で自分の
欲求を満たすことは、性に関して大人になる大切なことなんやとデッカに教えて
やったよ」
「そうかぁ〜、知らなんだか、デッカは奥手や〜」
 と言って、−−三人で大笑いをした。
「ゆうちゃんは早熟で、ぼくは奥手や〜」 
 −−雨が止み急に静かになった。
雨雲が去り月のあかりで外はうす明るくなっていた。
三人は、ほっとし、談笑に耽(ふけ)った。
「ゆうちゃんは、うたちゃんが好きなんやろう」
「ダンスの好きなタカちゃんは、のっちゃんのことが好きなん違う」
「けんちゃんは、やっちゃんが好きやねんなぁ」
 などと楽しい恋愛話をしていた。
  −−会話が途切れた。−−その時! 
 「シーー」−−とのっちゃんが口に、人差し指を押し当てた!
  ガサッ、ゴソッ、ガサッ、ゴソッ? 人が近づいてくる足音が聞こえた。
身をすくませ音のする方に、耳をそばだてると、確かに人の歩く音がした! 
「のっちゃんのっちゃん、おかしいで上からではなく下の方から聞こえるで」
「そうやね、それも一人ではないね、何しにきたんやろう? おっ止まったぞ」
 静寂をついて、ボソッ、ボスッ、ゴソッ、テントにモノが落ちる音がした。
のっちゃんが、ぶら下げてある懐中電灯を外すと、三人はテントから飛び出し上
の方へ逃げた。テントから離れたところで姿勢を低くして、月の明かりを頼りに、
テントの向こう側に目を凝らすと、十メートルほど離れた場所から、男二人がポ
ケットから小石を取り出しては、テントに向かって投げていた。
 −−三人は身をかがめて小石が尽きるのをじっと待った。
 小石を投げ終わると、−−相手は大きな声で怒鳴った!
「わっちゃどこのもんやぁ、だれの許しをもろうてそんなことしとるがや〜」
「あんたらこそ、だれやぁ〜」
 のっちゃんが懐中電灯の明かりを相手に向けた!
「わしらわなぁ、−−やまんたのもんやぁ〜」
「わしわぁ〜、NKS青年団員の中野やぁ〜」
「中野! なかの言うたら上町の、−−のっちゃんけぇ」
「そうやぁ〜−−怪しいもんやないでぇ」
 −−お互いに相手が誰なのかが分かった。
「この山で焚き火をするには、前もって許可をもらわないといけないんや」
 −−と注意をされた。
「キャンプの予行演習の目的で来たがや、焚火はもうしない、あとはこのテント
で寝て朝が来たら下りるだけや、−−ほんと申し訳ない」
「−−分かった。−−驚かせてすまんかったのォ」
 それで帰ればいいものを……。怖がらせようと、−−たくらみやがった。
ここを下りると深いため池があるんや、農業用のかんがい用水源の池なんやけど
なぁ、その池に病弱な体を苦にして入水自殺をした女性がおった。
 その女性の霊に寝ている間に、足元から池に引きずり込まれ、溺れて死なない
ように気をつけてお休みください、−−と言って帰った。
「いらんことを言わんでもええがに、−−クソッ」
「今夜のキャンプは、−−ハプニングとホラーや」
「なんぼなんでも、−−この高さまで引きずり込みにこんやろう」
 強がってはみたものの、怖がりの兼也は背筋がゾクゾクっとして身震いがして
来た。雨が降ったせいもあり、寒くなってきた。
 下界を見下ろせば、家々の灯りが蛍火のごとく、ぽつりぽつりと灯っていた。

 −−兼也は、イヤな話を思い出してしまった。
 入水自殺があったその日、捜索のいち員として加わった親戚の叔父さんから、
直接その出来事のいち部始終を聞かされていたのだ。 
「のっちゃんも知ってると思うけど、湧き水の出る水汲み場の左手にある家の母
ちゃんが、あのため池で入水自殺をしたやろう」
「もちろん知ってるよ、町中が大騒ぎになっていたもんな、物心がついた二人の
女の子を残して死んでしもうた。−−よっぽど病弱な体を苦にしてたんやろね」
 叔父さんの口から直接に聞いた話を兼也が語りだした。
「その日、お夕飯をすませた後、娘二人を家に残し、ふらりと母親が外へ出た。
最初は銭湯にでも行ったのかな? と思っていた。
父ちゃんが仕事から帰って、晩酌を始めようとしても、母親が戻って来ない、
待っても待っても、母ちゃんは帰ってこない、不審に思い、外へ出て町の方へ
向かった。心あたりを探したが誰も見ていないと言う。 
いったん家に戻り、帰ってないか確かめたが、子供たちは帰っとらんと言う。
今度はだらだら坂を上って行き、一軒一軒の家に目撃してないかと訊ねた。
「おれんとこの母ちゃんを見なんだかいね」−−
「見んかったわいねぇ、どうしたがいね」
「家におらんがやちゃ、どこへ行ったもんか、子供に夕飯食べさせてから、
ふらっと出て行ったきりで、帰ってこんがやちゃ」 
 その隣も、次の隣の家も訊いてみたが、どの家からも、何の手掛かりも
つかめず、いよいよ、だらだら坂が二股に別れる手前の最後の一軒になった。
「夜分に、ごめん、−−ごめんくだいね」
「あらぁ! 父ちゃん、どうしたがいね」
 これこれこうで母ちゃんがおらんがや、おれんとこの母ちゃん見んかった
かいねぇと訊くと、その家の母ちゃんが、−−
「台所で夕飯の支度をしていたときに、外が暗くて誰か分からんかったけど、
着物姿の人がそこを上って行くのを見たがいね! こんな時間に? 
この先に何の用に行くんやろう? ||とふと思ったけど気にも留めなんだ」
 −−それを聞いて、父ちゃんは急に胸騒ぎがした。
坂道を転がるように走って家に戻り、あっちこっちに捜索願いの電話をかけまく
った。派出所の警察官、消防団員、父ちゃんの仕事の関係者、ご近所の人達それ
ぞれが懐中電灯を持って、だらだら坂の二股の道に集まった。

 −−母ちゃんを探す山狩りが始まった。
 道が二手に分かれる度に、人数を手分けして山道を声を掛け合いながら探し回
った。叔父さんらが、−−かんがい用水の池(潟)に差し掛かった。
 道は上の池に向かう道と下の池の土手を真っ直ぐ横切る道と分かれていた。
池は上(かみ)と下(しも)とに分かれ堤防の土手で二段になっていた。
「そっち、行っても、−−行き止まりやがいね」
 上の池に行っても堤防の土手は行き止まりでその先には行けないと言った。
叔父さんらは、上の池に向かって歩いて行った。池の堤防の上に着くと、
池は雑木林を背景に漆黒の水をたたえていた。
 懐中電灯の明かりを頼りに、遠く近く左右に、そして足元を照らしながら一歩
また一歩と叔父さんが堤防の突き当たりに向かって慎重に足を運んでいた。
 −−とその時! 懐中電灯に照らされた赤いものが草むらの中から目に飛び込
んで来た! −−叔父さんは震える声で、
「父ちゃん、父ちゃん、赤い鼻緒があそこに、母ちゃんの下駄でないがけ」 
 池に向かって下駄が揃ったまま見つかった。父ちゃんの顔は血の気が引き膝が
がくがくと震えた。池に入って死ぬとは予想していなかった。
「見んなぁ〜、−−こっちへ来てくれ〜」
 土手の上から池に入るまでの斜面に足跡はないか探したら、痕跡があった。
ここから入水したと警察も判断し、翌朝から池の中を捜索することになったが
潜水士がいる訳ではなく、長い竹竿の先にトビ口や古い鎌や曲げた太い針金など
で、引っ掛けるモノをくくりつけて、池の底を探ることになった。
警察官や消防団員や関係者が、池を取り囲むようにして並び、長い竹竿で、
すり鉢状になった池の底をさらうように捜索した。
 みんなそれぞれ、おれの竿に掛からんといてくれぇ〜と、祈るような気持ちで
捜索を続け何度も何度も、竹竿の先を池にブチ込んだ。
 たまたま、叔父さんの竹竿に手応えがあった。
誰か手伝ってくれ〜、横の人が同じような方向を探ったら引っ掛かった。
二人いっしょになって、恐る恐る、ゆっくりと引き上げた。徐々に浮き上がって
来て着物姿が現れた。竹竿の先がうまいこと腰紐のあたりに引っ掛かっていた。
二人で竹竿をたぐりながら岸に引き寄せると、ゆっくりと着物姿の女性が俯せで
浮いて来た。引っ掛けた叔父は母ちゃんをよく知っているので、死に顔を見るの
が怖くて足が震え腰が抜け、その場にへたり込み、引き上げていた手を離してし
まった! −−すると、腰の方がゆっくり沈み、顔が浮き髪を垂らし両手を合わ
せている姿が水面に現れた! −−それを見た叔父さんは、その晩、酒を飲んで
も飲んでも酔うことができず、とうとう朝まで寝付けなかったという。
 あとで聞いた話では、手首を腰紐でぐるぐる巻きにしていたそうや。
死体を家まで運び終えた後で、叔父さんが警察官から取り調べを受けた。
「あんた、亡くなった人のご主人の仕事仲間でっしゃろ、入水自殺となんぞ関係
してるんと違いまっか、あの土手で下駄を見つけ、沈んでいる場所まで見当がつ
いていた。おかしいなぁと疑われてもしょうない。疑って見るのがわしらの仕事
やねん、気い悪うせんと、昨日の六時過ぎから八時ごろの時間帯はどこで何をし
てたか? −−よう思い出して言うてください」
 叔父さんは疑われてアリバイを訊かれた。
「−−家で中日対巨人戦を見てましたけど」
「ふーん、そうですか、どんな試合内容だったか、お聞かせください」
「河村投手の調子が良くて、巨人打線はヒット二本だけで、中日が5対1で圧勝
してました」
「あんたは中日フアンかいね、−−本官はラジオで聞いとった。間違いないアリ
バイ成立やね、−−ご苦労さん」
「ご苦労さんで終わって、疑いは晴れたんやけど、おれの竹竿に引っ掛かってし
まったばっかりに、濡れ衣を着せられて、心外なこっちゃと、叔父さんは怒って
たわいね」−−と兼也が一部始終を恐々喋り終わると、
「入水自殺だけに、濡れ衣か」−−
「ゆうちゃん、−−怖い話にダジャレは要らんて」
「キャンプ地によくある。心霊現象や恐怖体験の話は、霊は水辺に漂っていて、
水の中へ引きずり込まれるぞって怖がらせておいて、夜中にトイレに立って池や
川に近づくと危ないから気を付けろって、警告してくれているがやちゃ」
 −−と、のっちゃんは教えてくれた。
「今夜は寝れんな、寝たら足を引きずり込まれるさかい、−−こんな時はお酒が
欲しいなぁ」  
「酒ならウイスキーをスキットルに入れて、持って来てるけど、−−未成年者に
は飲ませられんがやちゃぁ〜ダメ、ダメ」
「あ!カウボーイが持ってる格好いいヤツや、−−この際、そんな固いことは言
いこなしやぁ、−−ちょっとだけ、ねぇ、お願いちょっとだけ飲ませて」 
 のっちゃんが飲んでから、はいどうぞと回してくれた。
映画のジョン・ウェインのワンシーンを思い浮かべながら、兼也もグビッとひと
口飲んでゆうちゃんに回した。ゆうちゃんもグビッと飲んで、のっちゃんに回し
た。−−西部劇の野宿のムードだ。
 たったの二回目でアルコールに弱い兼也は、度数の強いウイスキーを飲んで、
顔が真っ赤になり、すぐに酔いが回り寝てしまった。

−−昨夜はいつの間にやら寝てしまい、−−朝を向かえた。
寝袋をたたみテントを片付け、リュックを担いで空のヤカンを持ってキャンプは
終了。山の空気は冷んやりとして気持ち良かった。昨日来たやまんたの二人が上
がってきた道を辿り辿り下へ下へと下りたらため池があった。
 池に向かって合掌し、堤防の土手を下り、左手の道をさらに下っていくとすぐ
にだらだら坂を上がって来る二股の道と合流した。
「なんだ! こんなに近いのかぁ、開墾畑から登った昨日は遠く感じたのになあ」
 −−キャンプの予行演習は終わった。

 のっちゃんが企画した壮大な冒険とは。……
青年団員の中から有志を募り、男女十名が力を合わせて困難を乗り越え、達成感
と感動を共有することで絆を深めようという壮大な冒険だった。! 
 −−その計画とは? 大きな丸太ん棒で作った筏(いかだ)を熊木川に浮かべ、
艪(ろ)と櫂(かい)を漕いで七尾西湾に浮かぶ「机島」に上陸してキャンプを
しようというがわくさい(大袈裟な)計画だった。
 机島は七尾西湾に浮かぶ「種ヶ島」と干潮になるとつながる小さな島で、大伴
家持がこの地を訪れて「筆染の沖に浮かべたる机島」と詠んでいる。
  
 −−香島嶺(かしまね)の机の島のしただみをい拾ひ持ち来て石もちつつき破
り早川(はやかわ)に洗い濯(すす)ぎ辛塩(からしお)にこごと揉み高杯に盛
り机に立てて母にまつりつや愛(め)づ児の刀児(とじ)父にまつりつやみ愛
(め)づ児の刀自−−と、現在、犬養孝揮毫(きごう)の歌碑がある。
 口語に訳すと、
 −−香島山の近くの机島の海岸からしただみを拾って持ってきて、石で殻をつ
つき破り、流れの速い川で洗い清めてから辛い塩でごしごしもんで、足の高い器
に盛り付けそれを机の上に立ててうやうやしく供え、かあさまに差上げたい、か
わいいおかみさんとうさまにさしあげたい、愛くるしいおかみさん−−と詠われ
ているように「しただみ」という小さな巻貝が、机島の周りによく採れる海であ
る。
 大きな丸太ん棒の筏で七尾西湾を漕いで机島に渡り、キャンプを張り、
カレーライスをつくり、音楽を聴き、歴史を語り、談笑し、楽しい時間を
過ごし、明日からの生きる糧にしようとした計画は……? 
筏を作る丸太ん棒を確保する段階で頓挫したのだった。


     第五章  「石動山」

 のっちゃんは、NN高校のNS分校の事務職員をしていた頃、先生方がいるの
にもかかわらず、のっちゃんに、いろんな悩み事を相談しに来る生徒が多かった。
若き生徒らには対応によって人生が左右される。ほんのひと言で救われ、ほんの
ひと言で傷つく。ことばの危うさ。−−言葉は諸刃の剣である。
 どのような相談にも『傾聴』するには自分自身がとことん勉強しなければなら
ない。のっちゃんは子供たちから相談を受けているうちに、教えることは学ぶこ
とと、心理学、人生論、哲学等の書物を読みあさるようになった。
 人生とは? 生きるとは? 人生哲学の書物を読めば読むほど「魑魅魍魎(ち
みもうりょう)」とした底なし沼へと引きずり込まれていった。
挙げ句に「これからどう生きていくのか」 石川県生まれの二人。
鈴木大拙の『即非の倫理』や、西田幾多郎の『絶対矛盾的自己同一』などの書物
に救いを求めた。
 『西田幾多郎随筆集』より
 −−今まで愛らしく話したり、歌ったり、遊んだりした者が、忽ち消えて壷中
の白骨になると云うのは如何なる訳であろうか。もし人生はこれまでのものであ
るというならば、人生ほどつまらぬものはない、此処には深き意味がなくてはな
らぬ、人間の霊的生命はかくも無意識のものではない。
 死の問題を解決するというのが人生のいち大事である。死の事実の前には生は
泡沫の如くである。−−
 死の問題を解決し得て、始めて真に生の意義を悟ることができる。
 −−といった西田幾多郎の名文や、……。
「哲学の動機は深い人生の悲哀でなければならない」
 −−といった名言や。
「愛宕山入る日の如くあかあかと燃し尽さん残れる命」
 −−と詠んだ短歌や、いろんな書物を読み学んでいるうちに、老子の「道」
あるいは仏法の「無」の思想に通じるものだと感じていた。 
 −−老子が説いた言葉の「道」には。
「道の道とすべきは、恒(ひさし)の道にあらず。名の名とすべきは、恒の名に
あらず。無名は万物の始めなり。有名は万物の母なり」
 −−と名言が教えてくれてはいるが、何のことか? 「知識ありの知識知らず」
と自分で自分を皮肉る自虐的な言葉が浮かんだ。
 人生哲学の書物を読みあさり、共感しても、なるほどと噛み砕いても、自身の
血にも肉にもなっていない、哲学を学んだような気になっているだけで、哲学は
自分で実践できていないと意味がないんだ。−−と思った。
 −−いかなる教えも所詮は人が考えたもの。
そうした人為の自己規範が絶対的に正しいものと信じ洗脳され縛られて、自分自
身で苦しむのは実にくだらないことだ。
 先人の教えを否定はしないが固執するのは愚かなことだ。
書物は全て所詮は人が書いたものだ。それを読んで鵜呑みにして、分かったよう
な気になり、理想を描いても『机上の空論』の域を出ない。
 −−借り物の世界に溺れ惑わされ翻弄されてどうする。本など捨てちゃえ燃や
してしまえとまで深刻に思い至る始末だった。−−

 山で死ぬ者がいれば海で死ぬ者もいる。病気で死ぬ者もいれば事故で死ぬ者も
いる。ニュースを見て腑が煮え返る凶悪な犯罪!『むしゃくしゃしてやった誰で
もよかった』この不条理極まりない現実を人生哲学でどう論じてくれるのか確か
めて見たい。−−でもそんなことも無意味だ。−−学びは実践してこそだ。 
 書物で得た知識に溺れ、賢ぶってひけらかし論じられたところで、それが何に
なると言うのだ。日常生活には何の役にも立っていない。
 自分らしい生き方とはどういうことか? 知りたかっただけなのだと、辛辣
(しんらつ)だった。−−自分とは何か? 自分にとっての幸福とは何か? 
内面を覗いても何もわからい? 自分の価値がわからない? 自分が求めるもの
は何か? 「苦渋に満ち」「苦悶」のあまり、ついに、教職員を退職後にご住職
になられた恩師のご自宅がある西谷内の『覚永寺』を訪ねた。
 −−その日は大雪で降り積もった深い雪道を思索しながら、お寺まで何キロも
トボトボとひたすら歩いた。
「ようこそ、ようこそ、雪が積もっている中をこんな遠い処まで、よく歩いて来
てくれましたねぇ! どうぞ上がってくだいね」
 庫裡(くり)の居間へと上がらせてもらい、ご住職自ら、お茶を淹れてくれた。
 −−のっちゃんは、お茶をひと口すすり、神妙な面持ちで話し始めた。
住職は、坐禅をするときのように、両手を法界定印の形で組んで下っ腹に置き、
ときおり目を半眼に閉じたりしながら、のっちゃんの話を聞いてくれていた。
 のっちゃんは今まで学んだことを論じ、我がこころを「千切り、万切り」にし
ても終わりなき果てしない道のりのようで、何も分からないのです。
 −−と言った。−−
 −−そして「真理の探究」の意味をたずねた。  
 ご住職は、のっちゃんの話をすべて聞き終わると、−−
「千切り、万切りとは、実に面白いですねぇ。−−信次さん、真理の探究は、
『求道心』と言って、信次さんは悟りを求めて修行したくなったがやねぇ、信次
さんが、真理を悟り開眼したら、僧侶になり、私と住職を代わってくだいね」
 と冗談交じりに言って、恩師はのっちゃんの心をほぐしてくれた。
 
 −−そして、数日経ち、−−
 読んだ書物から多分に影響を受けた結果! 極限状態に身を置いて、生きる糧
となる答えを見つけたかったのか? 何かを掴もうとしたのか? 何を確かめた
かったのか? 何を探ろうとしたのか? のっちゃんは三十歳を迎えていた。
 その時、ノイローゼでもなければ不安神経症でもない、世をはかなんだ訳でも
ない。自分と対峙して生きるとはどう言うことか追求したい、職場の環境や息が
詰まるような世の中にも判然としない嫌気を感じていた。
何か目に見えないものに導かれたのか? 溜まりに溜まった訳の分からない鬱屈
した気持ちを解消したい、そうせずにはおれなくなって『石動山』に登る決意を
した。
 石動山は「石、動く山」と恐れられ、山岳修験道の霊山として崇められていた。
石動山には県の植林があり、のっちゃんは森林管理事務所の役職で月に、一度は
公務で事務所に通っていた。
 冠雪の石動山を見上げる度に、自分自身を極限状態に追い込み、何かを見つけ
たい。一度は雪山に登ってみたいと冒険心をくすぐられていた。

  のっちゃんは積雪が四メートルを超す極寒の石動山に登り、遭難しそうに
なりながらも、九死に一生を得た体験談を語り出した。

 ――決行当日。
「行ってくるよ」――と、のっちゃんが言うと、
「……」
 ――妻は黙って頷き、のっちゃんの背中を見送ったという。
早朝に家を出て、一番電車に乗り七尾駅から石動山へ向かった。
登山口にあるお寺は報恩講のようで門徒が集まっていた。のっちゃんも人々に混
じってお参りし、ご住職の法話も拝聴した。寺を出発したのは七時過ぎだった。
登りだすとすぐ、カンジキを履かないといっ歩も前に進めない雪の深さだった。
山頂に登る林道はおよそ4、5mの積雪に覆われ、どこが道なのか検討もつかず、
勘をたよりに高いところへ高い方へと登るしかなかった。
 しばらく登ると、木々が開け広々とした深い谷間が見渡せる所に辿り着いた。
そこは水墨画を見ているような白黒の世界で、しんしんと降りそそぐ雪が谷の底
まで吸い込まれるかのように静かに落ちてゆく、その幻想的な光景に目を奪われ
ながら暫く沈思黙考して見入っていると、…… 
 思索の呟きの文字のひと文字ひと文字が雪に姿を変え絶望の谷間へとゆらゆら
と揺らぎながら落ちてゆくかのようで、暗澹(あんたん)とした気持ちになった。
 ふと我に帰り、暗くならないうちに一夜を凌(しの)ごうと計画している頂上
のお堂に到着しなければと意識を立て直し歩きだした。
 強い風雪に視界を遮られ進むのに難行した。カンジキで踏んだ足場が、踏んで
も踏んでも、−−すぐに崩れてしまい、なかなか前に進まない。
カンジキの足は重く、膝近くまで足が埋もれ、足を上げるのも辛く、積もった雪
の上をもがくようにしながら斜面を少しづつ登った。
 場所によってはわずか10メートルほど登るのに一時間以上を要したが、それ
でも引き返そうという考えは一度も浮かばなかった。
 吹雪がやむと一面シーンとした静寂で包まれ、五感すべてが研ぎ澄まされる不
思議な感覚を味わった。
 吐く息とカンジキの音が周りの静けさの中に吸い込まれて消えていった。
大自然に身をゆだねカンジキを、いっ歩いっ歩踏みしめて足を運んでいると、
それは山伏の修行のようで、冷え切った心の筈なのに、身体中の血が激しく燃え
滾(たぎ)っていた。
 冬山の夕暮れは早く、まだ中腹辺りなのに薄暗くなって来た。
のっちゃんは重大なことに気づいた! もしかして、お堂が積雪で埋もれてしま
っていたらどうしよう。いっ瞬、不安が襲い心が折れそうになった。だが、山を
下りようとはいっさい思わなかった。厳しい寒さに体力が奪われてゆく、何も考
えられない「無」だ。−−「無」の境地だ。
   −−すると−−!
「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」−−! 山伏が修行をするときの掛け念
仏が脳裏を過ぎった! これだ! のっちゃんの身体に気力がみなぎり修験者
(しゅげんじゃ)のごとく! 称(とな)えた。
「六根清浄……六根清浄……六根清浄……六根清浄……六根清浄……」−−と、
 称えながら黙々と歩いた。−−やがて行く手にお堂の屋根が見えた。
原生林の間から富山湾の海上に浮かぶ、イカ釣り船の、いくつもの漁り火が揺ら
ぎ、煌めく美しさが遠く望むことができ、−−癒しのひと時をいただいた。
「大御前」といわれる頂上に着くやいなや、お堂の様子はどうなのかを探り、
両開きの扉が開いたので、胸を撫でおろした。−−
 お堂は「そちの心配はご無用であったな」と言わんばかりに天に向かって、、
威風凛然(いふうりんぜん)と建っていた。
 古来より伝わる宮大工の匠な造形の破風、軒先を長く反り出し彎曲した屋根に
よって、お堂の外周りは、見事に雪のない空間があり赤茶けた土まで覗かせてい
た。−−時計の針はすでに夜の八時を回っていた。
 山登りに最適なシーズンであれば、子供でも二十五分ほどで着く「大御前」に、
十三時間以上もかけてやっと辿り着いたのである。4、5mの雪が積もった冬山
の登山は、如何に厳しくて、過酷で怖いかを身をもって知ったのだった。
 夜もすっかり更けているのに、辺りは白い雪のせいなのか? それとも漁火の
明かりが雲に反射して、ここまで届いているのか? 月夜でもないのに周囲が薄
明るく、あたりの静けさはまるで時間が止まっているようだった。
 しかし、そう思ったのも束の間だった。
お堂に入る前に拝礼し慎みて手を合わせ、−−
「どうか、この救いのない哀れな私をひと晩、泊めさせてくださいませ」
 のっちゃんは、おもむろにかしこみて、−−お堂の両開きの戸を開けた。
新緑や紅葉の季節に度々訪れて見ていたお堂は、正面に両開きの戸があり、畳み
六畳ほどの室には床の間のような台上が設(しつら)えてあり大日如来像が鎮座
していた。ところが、な、なんと! 開けてびっくり! 大日如来像のお姿が、
忽然と消えていたのだ。いったいどこにお出ましになったのか? 
−−これはきっと如来様のご慈悲に違いない。のっちゃんは固唾を飲んだ。
「−−どうか、−−この罰当たりをお許しください」
 のっちゃんは合掌し、人ひとり横たわれるぐらいの空間に身を寄せ扉を閉めた。
真っ暗になり密閉された暗闇の世界だが、これで少しは寒さを防げるだろうと思
った。ところが状況は一変した。
 お堂の中に身を置くと、板の隙間や板の節穴から吹き込む風の冷たさは半端で
はなく、予想外の寒さに身体が冷やされ震えだした。
 登山中にかいた汗が、肌着に染み込んでいたせいで、急激に冷えて来た。 
体温を奪われ身体が冷え続けると、低体温症で死ぬかもしれない恐怖が、襲って
来た。お堂の中で焚き火をすれば危ないし、外にすれば、あの火は何事だと、下
界は大騒ぎするだろう。異常な極限下における精神行動がとんでもないことを連
想させ、できるはずもないことだと、知りつつも頭を過(よ)ぎった。
 何か着るものがないかと、リュックの中の物を取り出すと、−−一番底から毛
布が出て来た! 毛布だ! 妻がいつの間に入れたのか? ありがたやあ〜 
これで助かるう〜! のっちゃんの目から大粒の涙が、とめどなく溢れた。
 −−毛布を頭から足元までスッポリと覆い、まるでミイラのようにロープで、
ぐるぐる巻きにした。少しでも空いていると、そこだけが冷たくて痛くて、触る
と痒くなった。−−何かを食べないといけない! 胃袋に何かを入れれば体温が
少しでも上がるのではないかと思い、妻が早起きして握ってくれたおにぎりを口
にしようとすると、カチンカチンに凍りついていた。缶ジュースも同様に固まり、
唯いつチョコレートだけが食べられ、少しだけ空腹を満たした。
「寝たら死ぬぞ、−−寝たらダメやぞ、ここで寝てしまったら凍死するぞ〜」
 −−と何度も何度も自分に言い聞かせた。

 −−睡魔に襲われる中−−
 今ごろ、家族はどうしているだろう。……
炬燵で夕飯を済ませ、妻は子供達の遊び相手をしているだろうか……? 
 −−ひとりずつの顔が、溢れ出る涙の眼に浮かんだ。
「どうしてここにいるのか? いったい何があったのか? 早く家族のもとに還
りたい。ごめんね、ごめんね、バカなお父さんを許してくれ〜、許してくれ〜」  
 −−まさに、まさに、断末魔の叫びだった。
 死に直面した極限状態の中で、家族のことを想い、友人知人のことを想い、
自分はいったい何をしているんだ? と思考を巡らせた。 
 「生きる意味とは?」 
 「自分の幸せとは?」 
 「家族の幸せとは?」 
 「自分の使命とは?」
 「生きる力とは?」
 「真の自由とは?」
 「自分自身とは?」
 自問自答を繰り返した……。答えが見えない……。手がかりも無い……。    
朦朧とする頭の中をあの頃の数々の思い出が次から次と蘇り、現れては消えて
行った。−−一瞬、−−睡魔に襲われ、うとうとと寝てしまった。
フッと目が覚めた時! −−板塀の節穴から光が真っ直ぐ差し込んでいた! 
 朝日だァ〜〜〜、−−のっちゃんは扉を開け外に出て叫んだ!
「助かったぁ〜、助かったぞぉ〜」
 朝日が辺りを照らし白一色の風景は幻想的で音の無い世界だった!
「ありがとう、ほんとうにありがとう」
ありとあらゆるものに手を合わせ、命あることに歓喜し号泣した。
 −−そして、少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと辺りを見渡した。
 山々の尾根を背景にして空に雲がたなびき、雪がふわふわと風に舞い、雪の
華の趣きの美しさは神の化身を観ているような感覚にさせてくれた。
 眼と心に映るすべてのモノの存在に、ただただ歓喜し、しばらくその場に立
ちすくんだまま一歩も動けなかった。
「−−ぼくは助かったのだ!」−−
 きのうの雪と、どこも変わりがないのに、今、異なって見えるのは、自分の内
から生じた心の変化によるものではないのか?……。朝の光が刻々と山肌を照ら
して行く光景は、自然界における神の栄光であり神秘的だった。

 −−リュックから出て来た毛布のおかげで助かった。
妻は出がけにどんな思いで、毛布を詰めたのだろう?…………。
猛反対しても、冒険好きな人だから止めても無駄だと知って、だまって送り出し
てくれた。そのけなげさを思うと、−−感謝の涙が溢れ出た。
 山に登れば何かが変わると思った。何も変わらなかった。何も無かった。
 のっちゃんの胸に去来するものは、生きていることへの感謝しかなかった。
「春に必ずお礼にまいります」
 お堂に手を合わせ拝礼し感謝を述べ、ゆっくりと雪山を下り始めた。
 −−それにしても『如来像』はどこへ行ってしまったのか?……。
石動山資料館に文化財として指定され保護されていたことを後で知った。 
 カンジキで雪を崩し、お尻で滑るようにして降りて行くと、下の方から、大型
機械のエンジン音が聞こえて来た。それもそのはず除雪車の音だった。
 −−のっちゃんはありがたいと安堵し、足取りも軽く除雪車に近づくと、除雪
車の後ろから現れた人が、大雪の中で立っている男を見て驚いた。! 
「−−中野さんじゃないがけぇ! −−一体どうしたがいねぇ!」 
 石動山の保安林の職員で、のっちゃんの部下が日曜日なのに、除雪する為に、
特別出勤をしていたのだった。
「なんで? −−こんな大雪の山に登ったがかいねぇ」
「−−前から、−−雪山に登って見たかったがやちゃ」
「ずいぶん昔からやが、こんな積雪量の多い時に、この山を登ったのは自殺した
若い女性と、−−あんただけやがいね、−−よう無事に還れたのォ」
 のっちゃんの肩をたたき、お昼のお弁当のおにぎりを一個分けてくれた。
「ありがとう、ほんとにありがとう」
 −−人の情けに胸がいっぱいになった。
 しばらく歩いていると、自殺した女性のことが無性に気になりだした。
この同じ山で、方や死のうとして、方や生きようとして、生死の境目を彷徨
(さまよ)ったのだ。彼女を自殺に至らしめたのは何ゆえか?……、彼女の死を
悲しむ人はいたのだろうか?……きっといたに違いない、だとしたら、その人は
悲しみと、どう向かい合いどう折り合ったのだろうか? そのような死別の悲し
みを愁(うれ)いつつ、一歩また一歩と雪を踏みしめ山を下りた。

 ついに、ふもとに辿り着き、昨日バスから降りた付近までやっと戻った。 
バス停の前に、マフラーで顔を覆い、目だけ出して立っている男を見て驚いた! 
 のっちゃんは、その男に向かって、−−ありったけの声で呼んだ。
「なあちゃん、−−なあちゃんじゃないがけ〜〜〜」  
 親友が迎えに来てくれていたのだ! 嬉しくて泣きたくないのに涙が溢れた。
ここで待っていれば必ず遭えると見当を付け、二宮のバス停付近で寒いのもかか
わらず、車中で一夜を明かして待っていてくれたのだ。たまたま、のっちゃんの
家に尋ね、奥様から事の成り行きを聞かされ、心配のあまり居ても立っても居ら
れず車を走らせて来たのだ。のっちゃんを見て駆け寄り、……
「よう死なんかったな〜、よう戻ってきたなぁ〜、だらぶちが〜」
 −−二人はきつく肩を抱きしめ合った。……
「命を落としてもしょうがない、帰らん人となっても悔いたりせんと、前の晩か
ら覚悟を決めたがや、いち度決めたら、何を言うても聞かん人やさかい、私は止
めんかったがやわいねぇと、奥さんはそう言うて、泣いとったがやぞォ」−−
 涙ながらに妻が訴えたという話を友人のなあちゃんの口から聞かされた。
のっちゃんの胸はつまり、何の言葉も出ず、暖房の効いた車内で、妻への感謝と
百倍も千倍もの妻への孝行を誓った。
 愛する家族のもとへ還れ、お前は自分だけのことしか考えてない、家族や親し
い人への思いやりはどこへやった。お前はまだまだだぞ、のっちゃんの胸の内に
如来様のお言葉が次から次と啓示のように聴こえていた。
 公衆電話から、無事を告げると気丈な妻が安堵し、電話口で泣いていた。
なあちゃんがとりあえずいっ服しようかと言い、駅前の喫茶店に入った。
 席に着くと、なあちゃんが怒りの感情を抑えてのっちゃんを問い詰めた。
「何で豪雪の山に登ったんや、何でそんな無茶したんや俺に言うてくれ」
「う〜ん、ぼくの冒険心もあったけど……映画や書物に感化されたのか?
『聖なる生き方』に特別な思いが生じて来て『聖人』の憧れを捨てきれず、
そうありたいと願ったのが動機かなぁ、心の探求をしたいという『求道心』が
厳冬の石動山を登らせたんかなァ〜……よう解らんねん」
「えっ! 他人の事のように小難しいことを言うて、今の言い方では、何で雪
山に登ったんか? 俺にはさっぱり分からん?」
 店員さんが水の入ったコップをトレイに乗せて来て、テーブルの上に置いた。
 −−「かたじけない」と感謝の気持ちが自然と口から出た! 
 当たり前に飲んでいた水がとってもうまくて、一杯のコーヒーで疲れが一気に
吹っ飛んだ。生きているのではなく、生かされていることに思いを募らせ、人様
の支えと、繋がりの中で我が身があるのだと気付かされた。−−
 妻が用意してくれた一枚の毛布! あれで私の命が助かったのだ。
のっちゃんは妻の無償の愛に救われたと思った。
 極寒の雪山で一夜を過ごし、極限状態の中で自分は何を得ようとしたのか? 
生きるとは? 生きる意味は? 自分の幸せとは? 家族の幸せとは? 自分の
使命とは? 何も答えらしいものは掴めなかったじゃないか、ただ寒さに耐え、
寝たらダメや、寝たらダメやと、自分に言い聞かせ、生きようとしていただけじ
ゃないか? 助かった時、『人生とは生きることが全てだ』あるがままの自分を
信じ、ありのままの自分を愛することが大切なんだと悟った。
 遭難し死んでしまっていたかもしれない過酷な雪山で、お堂の中で極寒に耐え、
朝の光を見て外に出て、白一色の景色を見ながら立ちすくんだ時、心に感じるも
のは何も無かった。しかし、登頂を成し得た達成感は後から後から、じわじわと
確実に効いて来た。−−
 何ごとも最後まで諦めない強靭なこころ根を植え付けてくれた。
 その後、この体験が自信につながり、困難を乗り越える力になった。

  −−その後−− 
 夫婦の会話の中で妻がのっちゃんに……。
「あんた、昔っから、人を疑うということをせんかった。そこがあんたの一番
ええとこやがいね、−−わては、あんたのそう言うところが好きながやぁ〜」
 と言われ、−−のっちゃんは益々、寄り添う妻のありがたみが骨身に沁みた。
ぼくは、あの山で一度死んでるんや、−−睡魔に負けて寝てしまった時に死んだ
んや、−−目が覚めて生きてたと思って外に出た時は、何も感じなかったが、今
ならわかる! 生まれ変わってたんや、石動山の「大霊山」のお導きによって、
 −−生まれ変わることが出来たんや!
 生きる使命と生きる術を授かっていたのだ。
 何かしらの意味を持って生まれて来たのだ。
 置かれた環境で誠実に仕事を全うするのだ。
 好きなことに情熱を傾け自己実現するのだ。
 そのような「矜持(きょうじ)」を得たのだ。と話した。
 話を聞いた兼也は驚愕し、体が熱くこわばった! 

   第六章 「タバコ」

 −−月日が流れ。平成三年。
 兼也が帰省したついでにワケンに会って見たいと思い立ち、七尾市の一本杉通
りのワケンの実家を尋ねるために、松本町に向かってトヨタマークUを走らせて
いた。一本杉通りに向かっていて、十字路に差しかかった寸前! スッと車の前
を通る黒い人影が? −−
「あれ!!!」 のっちゃんじゃないの?……
 渡り切った角のタバコの自動販売機の前に立ち止まった男の顔が自動販売機の
明かりに照らされた瞬間! のっちゃんだと判った。
 車の窓を開けクラクションを鳴らし、
「のっちゃ〜ん」−−と声をかけた!
「あれぇ! けんちゃんかいね!」
 タバコを買うために道路を横切ったのっちゃんと出会った。! 思いがけない
偶然だった。時間差が一秒違えば出くわすことも出来なかった十字路……! 
お互いに顔を見合わせ、−−驚愕の表情で懐かしさを迎えた。
 家に寄ってゆかないかということになり、のっちゃんを車に乗せ「小丸山城址
公園」に向かう、ゆるやかな坂道に車を走らせた。
 向かう車中で、ご子息を亡くされ葬儀を済ませたところだと、のっちゃんから
沈痛な胸の内を明かされた。ちょっとした隙に、息子が急逝したのだと云う。
のっちゃんは深い悲しみで打ちひしがれていた。−− 
 思い掛けない突然の悲報に接し、何て言えばいいのか、 
「−−……」 兼也は言葉が出なかった。
 これを何の試練だというのか? 運命の悪戯にしてもほどがあるやろうと大声
で叫びたい衝動を堪えた。
 兼也は、||どうして? なんで? と、のっちゃんに何も聞けず。
親より先に子供が亡くなる逆縁の、辛い悲しみをどう慰めていいものか?…… 
言葉を失くし、のっちゃんの目を見てただ静かに頷くだけだった。
 三階建ての職員公舎の前に車を停め、最上階の十二号室に入った。
「さぁ、上がりまっしね」
「けんちゃん、−−ようこそ、ようこそ」
 のっちゃんの奥さんが突然の訪問にもかかわらず快く迎えてくれた。
リビングを通り、奥の部屋へ招かれて中に入ると、お線香の香りがした……。 
葬儀を終え遺骨を持ち帰り、位牌や遺影を祭壇に設置する後飾りが、しつらえて
あった。急なことなので香典袋も数珠も持ち合わせておらず、失礼の段をお詫び
申し上げ、お金をお供えし、手を合わせて祭壇に深々と一礼し、お線香を上げ、
お焼香をさせてもらった。
 空気が重く沈痛な面持ちでかしこまっている兼也を見かねたのっちゃん、……
「−−けんちゃん、−−ありがとうコーヒーでも飲む」
 のっちゃんが奥様にコーヒーを淹れるようにと言って、隣の部屋へと促した。
 −−その部屋には。あの懐かしいビクターのセパレート型ステレオが置いてあ
った。そして、ステレオの横には兼也が作ったレコードボックスが、当時のまま
置かれていた。
「大事に使ってくれているんやねぇ」
 大人が両手を広げて抱えるほどの幅があるレコードボックスに、昔のままシン
グル盤がびっしりと並んでいた。
「これを聴くと懐かしいんやちゃ、けんちゃんがよう真似して歌ったさかい」
 と言って勝彩也の『恋あざみ』をかけた。
 ♪愛し合っても どうにもならぬ♪……
  ……♪あたしは 酒場の 恋あざみ♪
 針がかすかに擦れる音とともに、懐かしいかすれた歌声が流れた……。
コーヒーを飲みながら暫くの間、懐かしい話を喋って過ごした後、その場を辞し
た。ワケンの家に向かう途中。−−あの十字路で、のっちゃんと出会ったのは、
決して偶然ではない、亡き息子さんが引き合わせてくれた。−−必然なのだと兼
也は思った。
 ワケンは家には居なかった。お盆の後片付けが終わった打ち上げで、町内会の
世話役が集会所に集まりいっ杯飲んでいると言うことで、残念ながらワケンには
会えなかった。


     第七章  「いのち」

  −−月日は無情に過ぎ−−
  −−ある日、期せずして! 
 のっちゃんの恩師である。ご住職から手紙と一冊の本が届いた。
            
          中野信次様
  前略
 突然、このような本をお届けします。
去年の暮れ、七尾市の本屋で思いもかけず、このような本と出会いました。
本のほうから私の目に飛び込んで来た! というような出会いでした。
これぞ、欲しかった本です。知らなかったけど、静かにロングセラーをつづけて
いる本のようです。
「悲しみ」の本は世にあふれています。が、どれもいまひとつ、しっくりきませ
ん。この本は、ちがいます。ひと様の「悲しみ」をとりあつかうときの姿勢がい
い。悲しむ人の心理やホンネを、抑制の効いた表現で代弁してくれています。
なにより、著者の人柄がいい。悲しみは悲しみとして、この一冊があることでど
れほど癒される人がいることか。 
 書店でこの本を手にした瞬間! ぜひ届けたいと思う人が何人か、すぐ頭に浮
かびました。あなたが、その一人です。
(ですからお礼など要りません、念のため。)
 というわけで、いまごろになっての、いわば「新たな涙」の共有、いや、押し
付けです。一口に「子の死」といっても、その年齢やその時の事情・状況は、家
によってみな違います。しかし、「親の悲しみ」という、世間一般の人たちと決
定的に異なる一点において、私たちは同類なのです。
いわゆる「話が合う」ところの〈悲しい同士〉なのですから。
 (少なくとも私は歳を超えて勝手にそう思っています。)

「悲しみ」は、それとむきになって闘ったり、それを無理に消そうとしたり、
そこから必死に逃げようとしたりするものではありません。
また、できるものではありません。もとより、だれも、悲しい出来事など初めか
ら無いに越したことはないのですが……、
こうなってしまった以上、愚痴といわれようと、未練といわれようと、その「悲」
に真正面から関わりとおすしかないのです。
つまり、むしろ不運を〈力〉とし、悲しみを〈いのち〉として、悲しみと共に生
きる。それが、悲しみを「超える」ということではないでしょうか。
それを「救い」とまで言うか言わないかは別として。
「子の死」という〈人生の原点〉。その一点を深め、磨き、鍛えて、子とともに
生きる力に限りなく転化させていく−−。
 私たちに与えられた生き方は、もう、それしかないのです。
涙を新たにすることで、たえずその原点に立ち返りながら……。
その意味から、もうひとつ、心ひかれた短歌を別紙に添えさせていただきました。
  (別紙の短歌の写しを省略)
 これらの歌は、どれも名の通った歌人のものです。
みな、亡き子への追慕・悲嘆に身をよじり、うめき声をあげています。
 何年たっても「なんでわが子が」という、恨みと無念と後悔と孤独の苦悩の中
をはいまわっています。
 歌人は、こうしてうまく自己表現ができるから、まだいい、それのできな我々
は、かれらの歌によりかかることで、おのれの悲しみを歌い、苦悩の胸の内をは
きだすのです。
 解ってくれるはずもない世間に向けて……、いや、なにより、このかわいそう
なおのれに向けて……。
 5・7・5・7・7の日本文化の節に乗せて、繰り返し、繰り返し、声に出し
て読む(歌う)のです。たちまちにして、またもや涙があふれ、読む声はおえつ
に変わるでしょう。それでいいのです。
なにか、押し付けがましく、失礼な次第ですが、〈悲の伝道師〉のよけいなお世
話ということで、お許しを……。
          
   のっちゃんから恩師へお礼の手紙。
  謹啓
「死別の悲しみを超えて」 若林一美著を読み終えて……。
 なんと素晴らしいご本でしょう。
 このような本が世にあるとは知りませんでした。
先生がこの本に添えられたお手紙の中で仰るように著者は人の「悲しみ」をとり
あつかう姿勢がよく、とても控え目で謙虚なお方であることがわかりました。
子どもを亡くした体験者でない者のこの類の著書は得てして何かしら? 無難に
あしらった内容のものが多い。それだけならまだましだが妙に慰め、元気づける
などは傲慢臭くおしつけがましい。この本はそれと、はるかに違い読み終えたあ
と「悲しみの混沌」が静かに昇華されていくのを感ずるのです。
なぜだろうと不思議にさえ思うのです。偶然にもこの本が先生から届いたのは亡
き我が子の命日、三月十八日(お彼岸)でした。
 こうなってしまった以上、愚痴といわれようと、未練といわれようと、その
「悲」に真正面から関わりとおすしかないのです。
 これは、先生のお手紙の「おことば」です。
「そうか!」と、そのお言葉に救われました。
 この本を読み終えて、大変重要なことに気づかせていただきました。
なんと情けないことでしょう。
私は、いかに自己中心的なものの見方をしてきたことか……。
 私は苦悶する親の悲しみばかりを思ってまいりましたが、兄を亡くした妹と、
息子の恋人の「深い悲しみ」は、いかほどであったことか……。
 今からでも決して遅くない「新たな涙」を共有しつつ先生がお手紙で仰るよう
に悲しみを「いのち」として生きる。そのことを伝えなければならない、そして、
この本を直ぐに読ませたいと、こころがたかぶるのでした。
 息子の彼女は、とてもやさしく、清らかな人ゆえにとても悲しくなります。恋
する人の死は、子を失った親の深い悲しみに等しく「悶絶・悲慟」の極みなので
す。この本により、亡き息子の祖母、妹、恋人の「深い慟哭の悲しみ」に気付か
されました。この本との「縁」に深く感謝致しております。 
 話が横道にそれますが、こうして書いていると、十八歳から二十歳までの短い
期間ではありましたが、先生と過ごさせていただいた、あの、古き良き時代が懐
かしく偲ばれます。私にとっては、まさに青春のど真ん中でした。
社会人として、一年生になる「旅立ち」の職場での出会いでした。なにもかもが
感受性に揺れ動いた時期だけに、何でも疑問に思うことを尋ねた気がします。
 そのときの、先生のお言葉が「こころの池」に浮かび上がってまいります。
「愛とは他人の運命に責任を持つことである」
「夫婦は永遠の恋人同士であれ」
「よこ軸は時間、たて軸は経験、人の存在はその接点の座標である」
「何がいいやら、悪いやら」 
 先生から教えられたおことばです。
 そんなこと言ったかなァ……とご謙遜され笑みをこぼされるお姿が目に浮かび
ます。そして、我がこころを「千切り、万切り」にしても何も分からず悩みに悩
んで、真冬にお尋ねさせていただいた時です。一方的に喋る、私の話を、ただ黙
って聴いて下さいました。
探求していることを「求道心」と教えてくださり「開眼したら、解脱(げだつ)
して僧侶となって、私に代わって住職をして下さいね」と言って、笑いを失って
いた私を笑わせてくれました。未だにそのことは忘れません。
 それに、先生は一心不乱で頑張っている人に、「ガンバレ」と励ますことは決
してしませんでした。今になってそのことを思うと、それは先生の「智慧」と
「慈悲」のように思えるのです。「悲しみは悲しむことで超えられる」これには
「悩む力」が暗示されているのです。すなわち、「自らを拠り所とせよ」との尊
い「無言の仰せ」だったのです。つまり、最後は「自らの気づき!」です。
「そうであったか!」と、自ら気づくことです。気づかないままでは悟れないの
です。だが、それも頭の中で、あれやこれやと考えた末のことではなく、体でそ
のことを「感ずる」ということだと思います。
「はからいを捨てた」ところに「エゴの枠」が剥がれ落ち、本当の意味での「あ
るがままを生きる」という意味を悟ったようです。
 息子が亡くなってからというもの、時だけが虚しく流れてゆきました。
そんななか、連れ添いといっしょに先生に逢いにゆきました。 
 帰り際に額に入れて飾ってあった大切なご自身の書で「孤」という字をいただ
きました。きっと何か深いわけがあるに違いない、一人で去(い)んでしまった
子をとおし、人の存在とは何か……そう思ったのです。
 ある日、妻は生まれる時も死ぬときも独り「孤」だと「死生観」のようなこと
を言いました。産まれる赤ちゃんは「孤」で始まり、子の死も「孤」だと悲しそ
うにいうのです。
 いろいろと「孤」の字を思い巡らせてまいりました。熟語でない一文字が、な
んとなく抽象的で味わい深くて、正確に表現できないだけに、かえって魅力的に
思えるのです。
 最初のうちは淋しげに映った「孤」でありましたが、「孤」はいくつもの側面
があることにも気づきました。今は、自らが望む積極的な「孤」、自分を見つめ
るための「孤」として、肚(はら)をすえさせていただいております。
 西田幾多郎は四十九歳に妻を、翌年に長男を亡くしています。重なる人生の悲
哀の現実を直視することによって、ますます無常観が熟成されたのかも知れませ
ん。しかし、その中にでも人間はそれぞれに静かな楽しみがあると述べ、独自の
世界を求めたようです。
  「我がこころ深き底あり喜びも憂いの波もとどかじと思う」
 この歌に深い孤独を感じます。

 もうひとつは、詩人、金子みすずの詩です。 

  「わたしと小鳥と鈴と」
  わたしが両手をひろげても、
  お空はちっとも飛べないが、
  飛べる小鳥はわたしのように、
  地面(じべた)をはやくは走れない。 
  わたしがからだをゆすっても、
  きれいな音は出ないけど、
  あの鳴る鈴はわたしのように、
  たくさんなうたは知らないよ。  
  鈴と、小鳥と、それからわたし、
  みんなちがって、みんないい。

 この詩の、みんなちがって、みんないいが、
「バラバラでいっしょ、差異(ちがい)を認める世界の発見!」
このことばに通じ、学校の中で、職場の中で、男と女の中で、地域の中で、老い
の中で、家庭の中で、世界中で、私たちが求めているのは、みんな一人ひとりが
ちがっていても、その差異を認め、そのままつながりあえる豊かな生き方です。
あらためて「孤」の字をじっと観ていると、躍動していて明るいのです。
決して孤立の孤ではない、孤は遊び楽しんでいるのです。観る側のこころの変化
でしょうか……?
添えていただいた、どの歌も「喪失の悲しみ」を癒し与えてくれました。
  かなしみの矢こそいずくに放たんか
  みずから的となるほかはなく  三枝浩樹(さえぐさひろき)

 数ある中で、先生と同じ歌を選びました。
改めて先生の一声『それでいいのです』に、迷いが断ち切られ、歓喜のあまり、
部屋の中をぐるぐる、ぐるぐる、回っております。
このたびは本当にありがとうございました。
妻と、ともに、先生の「一言芳恩(いちごんほうおん)」に喜んでおります。
なにとぞ奥様にもよろしくお伝えくださるようお願い申し上げます。
                                     
                          敬具

  数日後、恩師からの返信文が届いた。
                   中野信次様
 前略、お手紙を読ませていただきびっくりしました。?
すぐにでも何か返事をと思いましたが、ちょうど今の時期は、二十日過ぎから、
年中行事の「おしっちゃ」(報恩講)で、どこの寺もとり混んでおります。
わたしのところでは、それがきのう二十三日で終わりましたので、やっと今日、
返事を書いた次第です。あの、NS分校の職員室で一緒だった「未成年者」が、
もう「退職者」とは……。
時間は人の都合などおかまいなしに押しかけて来て、年月は情け容赦なく人から
立ち去ってゆく。人の一代とは、ただそれだけのこと。
問題は、その中身だけど……。
 このたびのお手紙で、あなたの一代の中身が、はじめて少し分かったような気
がしました。あまりの悲しさ・つらさに、あっちへぶつかり、こっちへぶつかり、
あっちへつっかかり、こっちへつっかかりしているうちに、自身の「立脚点」が、
しだいに深く掘り下げられてきた、という感じがします。
 悩むには「悩む方向」が大事だといいますが、実にいい見当へ来ていると思い
ます。私も、その場その場で、よく「思いつき」を口にする人間だということが、
今回のお手紙で、改めてよく分かりました。
そんなこと言ったかなぁ、というような言葉が、あなたの心に大きくインプット
されているのを知り、言葉ってコワいもんだと思うと同時に、言葉とはどこまで
も「受けて」の問題だとも思い知った次第です。
 私は生来、涙もろい人間ですので、年を取って来た近年、それがますます重症
化しております。自分の法話の最中にも、悲しい話題になると突然こみ上げてき
て声がうわずり、しばし立往生する場面が多々あるのです。
その瞬間、住職というより、ただの「老いぼれジジイ」のみっともない姿をさら
しているだけなのです。困ったもんです。
 若いころ「お涙ちょうだい」だと、ばかにしていた浪花節やド演歌が、いまや
何にもまして大好きになってしまいました。
 その筋回し、そのメロディーと小節−−。これぞ!「悲しみの原点」と確信し、
もう、涙なしには歌うことも聞くこともできません。
 そんな人間になってしまっているのです。めんどうなもんです。
 かつての高橋和巳の小説『悲の器』のとおり、まことに、私たち人間は
「悲しみを容れるための器」にちがいありません。それは、大きな悲しみを容れ
るには、あまりにも小さな器であるにしても……。
「かなしみの矢こそいずくに放たんかみずから的となるほかはなく」
 この短歌、ほんとにいいなぁ。なんか、理屈抜きの楽しいことって、ある? 
なにはともあれ、おたがい、からだをお大事に。
いつでもまた、ふらっとおいでください。
                          早々
〈住職から本と一緒に届いた手紙の一文に〉
 このかわいそうなおのれに向けて、……と書かれてあったのは、ご住職には男
の子二人と女の子一人がいました。境内の裏山には渓流があり、山から清らかな
水が流れ年中せせらぎの音が聞こえます。その年は、大雨が降り渓流が大洪水で
濁流と化していた。谷川に架かった丸太ん棒の橋の上から、ご長男が足を滑らせ
濁流に流され帰らぬ人となってしまったのです。
    
   
       第八章 「コテージ」

「はい! もしもし」
「もしもし、けんちゃん、中野です」
「えっ! のっちゃん! 懐かしいなあ〜」
「懐かしいねぇ、けんちゃんはどうしてるんかなぁと思って電話したんや」
兼也の五つ年上の兄と、のっちゃんのお姉さんとは中学の同級生で東京に住んで
いる。毎年恒例のNS中学校卒業生の同窓会で、この間いっしょになり、兼也の
話が出て、兼也がノブの部屋によく遊びにきていたのをお姉さんが思い出し、
今どうしているのかと訊いたら、伊丹市で喫茶店をしていると言って店の電話番
号を教えてもらった。お姉さんがそれをのっちゃんに伝えた。それで、のっちゃ
んが兼也の店に電話をしたのだ。 
「東京での同窓会は、ぼくの同級生も出席してるって聞いていたから知ってたよ、
のっちゃんから電話がかかってくるなんて、本日のサプライズや〜、のっちゃん
ちでステレオ音楽を聴いて遊ばせてもろうて、友達の友達が集って来るようにな
って、コンサートしたり、ダンスを教えてもろたり、いろんなことをして一緒に
遊んだね、楽しかった。高校を卒業して、みんなと離れ離れになって、早、五十
年以上過ぎてしもうたんやねぇ」−−
「けんちゃん、今、喋っててだいじょうぶ」
「のっちゃん大丈夫やでぇ〜お客は来ないから、日本一暇な喫茶店やねん」
「ハハハハ〜、けんちゃんは変わってないねぇ、いい悪いは別にして、どんな時
でも自分の生き方を貫き通している自由人やねぇ」
「そんな『賢い生き方』みたいに言われると、嬉しいがいね、ターニングポイン
トが今なのかなんて、全く自覚はないけど、今できることに手を出して来ただけ
で、計画性はゼロやがいねぇ」
「今、羽咋の滝町というとこに建てたコテージから、携帯で喋ってるんやけど、
この間やけど、ええ事あってんちゃ〜聞いて〜」−−
「はい、何があったの?」
「コテージが建っている裏は日本海でええ眺めやねん−−コテージのすぐ近くの
滝崎の丘の家で「小さいおうち」のロケがあってん−−山田洋次監督と松竹ロケ
隊が大勢来て泊まり込みで撮影してたんや、柴垣海岸もロケ地なんやで、撮影の
合間の休憩場所としてどうぞお使い下さいとロケ隊にコテージに休んでもらった
ら、山田洋次監督とスタッフといっしょに記念写真を撮ってもらったんや、嬉し
かったわぁ」
「凄い! それはいい記念写真やね、のっちゃんはエキストラで出たの」
「エキストラはやってないけど、監督と写った記念の写真は額に入れて飾ってあ
るがやわいね」
「コテージかええなあ〜いっぺん行ってみたいなぁ、そこで音楽を聞いているの」
「うん、音楽は聴いてるよ。つい最近まであのビクターのステレオで聴いていた
がやけど、とうとう壊れてしもうた。当時ビクターで一番高いセパレートステレ
オで価格は十二万円。10ワットの出力で30センチの低音スピーカーは大ホール用
で一般家庭向きではなかった。
 初任給は手取り七千円で四十回の月賦払いだったが、残りの何万円かは恥ずか
しいことにお袋が払ってくれた。五十二年間も働いてきた電気製品はギネスブッ
ク並みやねぇ! 三年前に、スピーカーとビクターのプレートを外して形見とし
て遺し天国に召されました。時々、七尾の家から、俗世界から離れたくなったら
ココに来てます。(笑) この小さな小屋には、新聞なし、電話なし、時計なし、
テレビなし、見ざる聞かざる言わざるの中で大自然の声に耳を傾けるがやちゃ」
「何かいい感じやねぇ、のっちゃん、コテージに行って、ノスタルジーに浸って、
楽しかった思い出を語り合いたいなあ、そや! あの頃、いっしょに遊んでいた
誰かを誘って行こうかな、誰か一緒に行かへんかなぁ」−−
「けんちゃん、お盆にでも、遊びにお出でよ」
「分かった! ワケンを誘って遊びに行くわ」
「約束やでぇ、ほんなら、待ってるよ〜」
 −−約束の八月十五日のお盆の日。
 当日、懐かしい羽咋駅からタクシーに乗って滝町に向かった。市街地を抜け国
道249号線を走り、羽咋川に架かる橋を渡り、高校時代に苦しめられた坂道を上
って行く、全校生徒による校内マラソンで10Kmを走ったときの、折り返し地点だ
った峠の「猫の目」を過ぎ、時折、左手に日本海が望める。一ノ宮町に入り、気
多大社前の信号を左に折れ、滝港口へ向かう。海沿いに近い県道129号線をさら
に北の方角へ向かった。
 滝港マリーナを左に見て、アートギャラリー、イベントホールの「スペース滝」
の前を通り、突き当たりの喫茶店の手前を右に曲がり、坂道を上って行くとすぐ
に道路が二股に分かれていた。
 左の細い道を進んで行くとネットで見た「小さいおうち」のロケ現場があった。
一本道のゆるいカーブを進み、少し行ったところに、のっちゃんのコテージがあ
った。コテージを過ぎた先は舗装道路が途切れ農道のままだった。
 エントランスの前で停まったタクシーの音に気づいたのだろう、……
 −−白髪で白髭を蓄えたのっちゃんがコテージの玄関から出て来た。
「ようこそ、ようこそ、よう来たねぇ」
「のっちゃん、ええとこやねぇ、丘の上に建っているんやね、すぐ真下が日本海
や!」
 日本海に白波が立ち潮風の匂いが届いていた。
「枕木を並べたエントランスがいいな、右側にある空間は不思議な感じがするな
ぁ、モニメントのようにも見えるなぁ」
「ようこそ、ようこそ、上がりまっし」
 コテージの中に入るとログハウスの木の香りが「ぷーん」と鼻をついた。
兼也は鼻孔を広げ何度も部屋の空気を吸った。
「のっちゃん木の香りっていいね、何かアロマの香りも漂っているけど、……」
「瞑想をするときにアロマを焚くからやね」−−
「アロマの香りで気分が落ち着きますねぇ」−−
 窓が額縁で日本海が望め、まるで絵画を見ているようだ。
「海を背にすると、右手から朝日が昇り、左手はどこまでも水田が広がる地平線
で、水平線と地平線が同時に望めるのは天地の極みで、自然における神への栄光
だよねぇ、それと日によって運がよければ名峰「白山」と「立山」も同時に眺め
ることができ、これもまた贅の極みを尽くしているやろう」 
 −−ワケンと兼也は顔を見合わせ頷いて、……
「−−ほんまや〜、いいとこやなぁ〜」
「−−いよいよ、神秘なる世界へ誘(いざな)おう」
「なんや昔の、のっちゃんみたいやなぁ」                   
 神々しい稀有な自然現象を語ってくれた。 
夕陽が途切れ始めた雲を不思議な色あいに変え、その照り返しが部屋の中を同じ
色に染め、燃えるような夕陽が海の果てに沈んで行く。
 夜更けには波が月の光を受けて輝き、海面のさざ波が、割れて散ったガラスの
ように神秘的にキラキラと光る美しさ。  
 また、満月の夜に月が干潮の波を照らし、その照らしだされた光がまさに月へ
の階段を創りあげるという幻想的な現象が現れる。
穏やかな海面を這うように現れる光の帯は、月へいざなう道しるべなのだ。 
周りに街灯がないから満天の夜空には遠く青白く流れるような天の川が、鮮明に
観え、ルビーのような赤い宵の明星が輝いて観える。 
もう一度観られるかどうか? 水平線に月が沈んで行く光景は息を飲む美しさだ。
そして、運がよければ、風のない日本海は鏡のようになり、海面に空が映し出さ
れる。それは数年に一度あるかないかの現象だ。
 また、達磨(だるま)のような日本海の夕日は太陽が大きくて日本一の綺麗な
夕日で有名です。ともあれ、ここで観る大自然の景観はふたつと同じでは無い、
一つの一度限りの刹那の世界です。
 −−と得意満面の顔で、のっちゃんはつらつらと語った。  
「けなるいなあ〜(うらやましいな〜)」
 ワケンの口から懐かしい昔の田舎弁が出た!兼也は膝を叩いて笑った。
「のっちゃんここはいい! 素晴らしいなぁ、この大自然の中の暮らしに憧れる
わ〜」          
 コテージを建てたのは定年退職後で、この地を選んだのは、海の見えるところ
に住みたいと言っていた息子の「遺志」を継ぐためだった。
 建物と庭の空間は「モニュメント」で、そこに息子の「御影」を置き、息子と
ともに暮らしている。この先の人生を「彼のいのちのなかで、ともに生きよう」
という遺族の思いなのだと、……のっちゃんは静穏に語った。
「ぼくが実家に帰省していて、ワケンに逢いに行こうとして、七尾の松本町にさ
しかかったとき、タバコを買いに来たのっちゃんとばったり会った。あの時のこ
とを思い出すわぁ」
「あの時の出会いは不思議やったねぇ」
「車のスピードが、ほんの少し早くて、あの十字路を一秒前に通過していたら、
ばったり出くわすこともなかった。あとで、これは偶然ではない必然なんだと思
ったねぇ」
「へぇ〜そんなことがあったの! それは息子さんが引き合わせたんだろうなぁ」
 −−とワケンが大きく頷きながら言った。
「お前の家に行ったんやけど、お前はおらんかった」
「そうや! お盆の打ち上げで飲んでたんや、家の者がお前が来たと言うとった」
「そう言えばさぁ、何年も後で聞いたんやけど、ター坊は四十二歳で建築現場の
足場から落ちて死んだし、ホープは四十六歳のときに肺癌で死んでしもうた。
信じられんかった。人が死ぬって、何や、あっけないなあと思った。
 −−もっと逢いたかった。もっと喋りたかったなぁ、二人は今ごろ空の上から
今の僕らを見ているかな?」
 兼也が物故した友のことを思い出していた。
「まさかと、信じられんかったなぁ、運がいいのか? 悪いのかも分からんなぁ」
 −−とワケンがしみじみと、言った。
「夭逝(ようせい)した人の運に、いい悪いは言えんけど、自分は運がいいなぁ
と思う人と、運が悪いなぁと、思う人がいることは確かやねぇ、人生のいい悪い
なんて誰も分からない、自分の人生だって『何がいいやら、悪いやら』この歳に
なっても、分からないんだから」−−この『何がいいやら、悪いやら』は、僕に
とって、恩師から頂いた大切な言葉なんです。
 −−ぼくはこの言葉の持つ意味を次のように、自覚するまでに長い年月がかか
りました。
 −−善悪の超越とは。無分別のあるがままを生きる。
 −−善と悪は表裏一対で『一如の世界』なのだ。
片一方の成立は対峙するもう片一方があるから成立するのではなかろうか? 
未だ二つに分かれないところの無心の自覚。
『かたよらない、こだわらない、とらわれない広い心、もっともっと広い心』
心を楽にしなさいですね。
過去、現在、未来、過去も未来もない。あるのは、瞬時の唯今のみである。
 道元禅師の「柔軟心」に通じるのではないかと思う。
一人ひとりに天命や使命があるなんて言われても、未だに見つからないしね。
死を前にした時に何も悔やまず、よかったなぁと思えたら、幸せな人生だよね」
「死ぬ時は何も恐れることは無いらしいよ、それまでにさ、痛いやら苦しいやら
辛いやら、さんざん、どエライ目に合っているからねぇ」
 とワケンが悟りきったようなことを言った。 
 −−人の死に関してどう論じようと、遺された者が納得できる「死の意味」な
どない、悲しみから少しでも逃れるためのこじつけだったり、一時の慰めの言葉
でしかない。決して、忘れ去ることのできない肉親の死、その悲しみをどう受け
入れるか? 答えは亡くなった「命」をたずさえて己がしっかり生き抜くことだ。
うつ病で自ら命を絶った弟の死を体験している兼也はそう思った。−−
 兼也は、重い話はしないで、その場の雰囲気を変えようと思った。
「のっちゃん、レコードをかけてよ」 
「あいよ〜、何かリクエストある」
「何でもいいけど、−−選曲はのっちゃんに任すわぁ」
 懐かしい音楽を聞きながら、三人は、各々の恋愛トークに花を咲かせた。
ワケンは年上の美人ホステスとアパートで半同棲生活をした体験を喋った。
セックスのテクニックをいろいろ教わったと、年上女との卑猥でイヤらしい性の
エピソードをジェスチャー混じりで、面白おかしく語ってくれた。 
「のっちゃんは、モテたんちがうの」
「私は、生徒を平等に見て来たからか、男も女もフレンドリーで、つかず離れず
やねぇ、−−『不即不離(ふそくふり)』と言う感じの愛し方やねぇ……。
 人との付き合い方を汽車の線路で例えるならば、片一方がぼくで、もう一方は
相手で、二本の線路は永遠に平行で同じ間隔で、付かず離れず、言い争うことも
ない、それが私の付き合い方というか愛し方なんやねぇ」
「始めっからそういう付き合い方だと、相手とぶつかることも無いわねぇ」
「のっちゃんは、言い争ったことは一度もない、口喧嘩も見たことがない」
「人間関係で、もっと強く生きなさい、人間強く生きにゃダメやぞっていうけど、
なんも強く生きんでもええがや、弱くてもええんや、柳に枝折れ無しのごとしで、
負けるが勝ちというがいね、強くなけりゃダメやということはない、賢く負けた
ふりをするがやぁ、そしたら楽に生きられるがや、こころ穏やかにね、……。
 戦国時代からの歴史を紐解いてみると、強い武将どんな生き方であったか? 
弱くて負けて逃げた方がどんな生き方をしたか? 生きて世に何を残したか? 
先人たちの『死に様』『生き様』が教えてくれとるがいね」
「勝てば官軍負ければ二軍やねぇ」
「それ! 勝てば官軍負ければ賊軍やぞォ」
「野球にたとえたジョークやんか」−−とワケンは言った。
「ワケンは冗談がうまかったなぁ、いつもそうやって、雰囲気をなごませてくれ
てたよね」
「のっちゃんは、けなるいと思ったことがないし、金儲けをしたいなどと微塵も
考えたことがないもんねぇ、−−出来た人がいたもんだ」
「けんちゃん、それって、褒めてくれてるのかいね」
「のっちゃんの周りには、いつも友人知人が取り巻いてたような気がするわ」
「そうやねぇ、いろんな人が寄っては離れ去って行く、そんな経験から好きなこ
とわざで『来る人に安らぎを 去り行く人に幸せを住まう人に祝福を』というの
が好きや。これは、独ローテンブルグの城壁に刻まれているメッセージで、いっ
つもそう思ってるんや」
 のっちゃんの『慈悲喜捨(じひきしゃ)』の変わらぬ精神。
他者に対しての接し方や、行いや心のあり方は、昔のまんまで、少しもブレては
いなかった。のっちゃんと遊んでいたあの頃。いろんな刺激を受け、大人に近づ
こうとしていた。青春時代の楽しかった思い出を胸に、−−ノスタルジックな雰
囲気で語り合っていた。
「楽しく生きる心の在り方。人生を豊かにする感性。それが大事なんだよね。
 それが音楽の持つ力だと思う…」−−とのっちゃんは、ぽつりと言った。
「音楽の力を伝えたかったなぁ〜」−−と兼也が、−−遠い目で言った。
「格好いい音楽ディレクターに成ってね〜」−−とワケンも言った。 
「私の体の中にある音楽は、ポピュラーが原点なんだけど、モダンジャズの世界
をもっともっと日本人の生活に馴染ませたかった」
「ぼくらも、のっちゃんの部屋で聞かせてもらった。あのステレオ音楽からすべ
てが始まり、いろんな影響を受けているのは確かだね」
 のっちゃんは「あるがままに生きる」ということは難しいことですと前置きし。
あるがままとは「自分を否定せず肯定する」ことだと、つまり、「いのちの肯定」
である。肯定は、「いのちの本質」だと思え。−−本来の命ちの姿は否定を望む
はずもなく、自己を否定する赤ちゃんなど見たことがないと、のっちゃんならで
はの人生論を語った。
「自己否定は美徳でも何でもない、自己肯定することが大切なんですね」
「あの頃の、のっちゃんは、レクレーション企画のアイデアマンだった。仲間を
作って、人生を豊かに楽しくする名人でしたね」 
「居心地のいい場所を作る天才や、そこに人が寄る。のっちゃん依存症だねっ」
「でもなぁ、けんちゃん、人はその時々が楽しかったらええねん、人は自分にと
って都合のいいときだけ寄って来るもんや、いずれは去っていく、いろんな事情
で離れて行くんやねぇ、−−それは致し方のない人の世の道理なんや、そりゃぁ
寂しいことやけどねぇ」−−「都合のいいときだけかも知れないけど、ぼくらに
は無いものをのっちゃんから教えてもらい、人生のプラスになるいい影響を受け
たから、−−今でも感謝しています」
 ワケンが席を立つと上着を持って来て、「ええもん、見したろかぁ〜」アルバ
ムからはがしてきたという写真を胸の内ポケットから取り出した。
「写真か! 見して、、うっわ! 懐かしい写真や白黒がまたええなぁ」
ター坊、ワケン、ホープ、兼也の真ん中でのっちゃんが肩を組み笑ってた。
「この写真!何度見ても心が癒されるんやぁ」
 とワケンが写真をまじまじと見ながら言った。……
「つい昨日のことのように思い出されるなぁ、出来るものならこの時代に戻りた
い」と、兼也が言った。……
「あの頃に戻りたいとかよく言うけど、私は戻りたいとは思わない。今ようやく
落ち着いてゆったりと過ごせているのに、あの苦しかった。辛かった。悲しかっ
た。−−経験や嫌なことを再び繰り返したくはないです」
 と言ってのっちゃんは笑った……。
「そりゃそうだ! 色んなことがあって今がある。人生経験豊富な考え方ですよ
ね」−−と兼也が言うと、−−ワケンも頷いた。
「五十年以上経ったんやね、−−人生って先が分からん? 先が見えん? だか
ら不安もあるが分からんからええんやね『恬淡虚無(てんたんきょむ)』の境地
に立って、明日は何があるか期待して、−−いつもワクワクして過ごしていたい
ねぇ、−−ワッハハハハハ……」 
 のっちゃんの高笑いに、−−二人もつられていっしょに笑った。
それぞれが、それぞれの生活の場へと、帰らなければならない時間が来てしまっ
た。コテージを出て、丘の上から三人は肩を並べ日本海を眺めた。
 空と海を赤く染めた大きな夕日が、−−平成時代の終わりを象徴するかの
ように輝いて見えた。−−
「夕日が沈むのは、地球が明日に向かって自転しているからなんだよねぇ」 
「のっちゃん、−−まさに今! それを実感しているよ」
 三人は名残り惜しそうに、夕日に染まる美しい日本海を眺めていた。
                              
                          「完」

       あとがき

  何十年振りかに再会し、話を聞いていると「出来た人がいたもんだ!」
 そう感じてしまい、のっちゃんの人生の一端に触れることで、のっちゃんがどの
 ような人生を歩み、どのように生きて来たのか、生きるよすがとなる手掛りがな
 いか、もっと深く知りたい衝動に突き動かされるままに綴りました。
  かけがえのない無二の親友と関わったのはわずか一年間ほどであったが、仲間
 と遊んだ数々の思い出が次から次と想起された。
 思い出は時系列を無視してランダムに蘇った。
  千九六四年の春夏秋冬を駆け足で走り抜けたようだった。
 何故そんなに急いだのか? 何を求めたのか? そんな理屈は必要ない、ただ楽
 しい時間を友といっしょに過ごせればそれだけで良かったのだ。
  みんなといっしょに笑っていれば幸せだった! ――あの時の笑いはタダで得
 られる幸せだった。青春は短い、短くて混沌としているが、刺激的な出会いがあ
 り、人生でいち番色濃く深く色んな事を体験し、精神力が磨かれ、感性が豊かに
 なり、――大人の世界へと近づき成長して行く……。
 青春の思い出なんて、所詮ノスタルジイでしかないのだろうか?…… だが、
 甘酸っぱくて美しい。?
 登場人物の「のっちゃん」はご存命の方です。当時の記憶を探るために電話で
 取材し、昔話を語り合いながら、曖昧な事項を確かめるために協力をしてもらい
 ました。書き終えた原稿を先ずはのっちゃんに読んでもらい、校閲をしてもらう
 と思いまして、PDFファイルにしてメールで送信しました。

  そして、何日か経って茶封筒が届いた。
 小説を読み終えて「CharlesLamb(チャールズ・ラム)」の詩と繋がったよ
「The Old Familiar Faces(古くて親しい顔)」が浮かんだよ。
 とインターネットから引用し、コピーされた詩が添付されていた。

    私にはかつて 遊び友達がいた 仲間もいた
    幼子の頃 楽しい学校時代の頃 
    皆が、皆が消えてしまった あの古く親しい顔が。

    笑いもした 大騒ぎもした 遅くまで飲み 
    遅くまで起きていた あの仲間達と
    皆が、皆が消えてしまった あの古く親しい顔が。

                   (ネットより引用)


 【追記】

 小説「のっちゃん」の主人公からのメール文をコピペしました。

 なお、小説を読んでふっと映画「小さいおうち」を思い出しました。
 当映画の撮影関係者から頂いた映画のリーフレットです。
 おもむろにそれを引き出しから取り出しました。
 そこに書かれていた文書を紹介します。

  数々の名作を世に送り出して来た山田洋次が、監督作82本目にして全く新しい
 世界へと踏み出しした。ことの始まりは2010年に第143回直木賞を受賞した、
 中島京子のベストセラー「小さいおうち」読了後、「自分の手で映画化したい」
 と熱望した山田監督は、すぐに作者に手紙を書いた。50年以上に渡って、
 "家族の絆′′を描いてきた山田監督が、今作で初めて、"家族の秘密"に迫る。
  家族の温かさを見つめ続けたその目で、今回は更に深く、人間の心の奥深くに
 分け入り、その隠された裏側まで描きだそうとする一。そんな、監督の情熱から
 生まれたかってない意欲作が、ついに完成した。
 日本映画界を担う実力派と、次世代を担う若手俳優・豪華キャストの競演が実現!
 と書かれていました。


  【コメントではなくメールで届いた感想文】

  拝啓
 けんちゃん、今晩は!
 小さなコミュニティ・・・のブログから縦書き『のっちゃん』を再び
 読ませていただきました。
 前も涙がでましたが、今回も同様です。
 自分のことなのに涙が出るのはどうしてでしょうか。
 いや、自分のことだからでしょうか。
 この感動は「事実は小説よりも奇なり」、ノンフィクションからでし
 ょうか。でも、時間が経って原因がわかりました。
 それは、けんちゃんの人の人生の「喜・怒・哀・楽」がエキスのよう
 に卓越された小説文によるからでしょう。

  第一楽章は厳かに謹みて、第二、第三楽章は苦悩から歓喜に至り第
 四楽章はあるとあらゆるものへの感謝とその喜び。
 ベートーヴェンの第九を彷彿とさせます。
 小説の「第8章」と最後の「あとがき」がコンサート終了の余韻のよ
 うに家路まで漂っています。

 「この小説に寄せる言葉」として。
 " 真の肯定は、否定の網をとおり抜けてこなければならぬ " ・・・
  ( 鈴木大拙 )
 " 蝋燭の灯りが消えぬうちに現世を楽しみ、薔薇の花がしぼまぬう
  ちに摘み取ろうではないか "・・・ ( ドイツ学生歌より)

  敬具

posted by てらけん at 16:01| Comment(0) | 青い屋根だより | 更新情報をチェックする